竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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評価・感想ありがとうございます。
シグルドさんのスペックを確認する意味も含めて改めて北欧異聞帯とか蒼銀とか読み返してましたが、この竜殺しチートが過ぎるな?
そして今更ながらシグルドさんTSUEEEEEな作品ではないのでご注意を。いやシグルドさんご本人(の戦闘力)が降臨したら一瞬で凡そあらゆる事件が解決してしまうのでな! 決してシグルドさんを『所詮この程度』とかって嘗めているわけではない、ヨ? ……聞かれてないことを主張するのってなんかすごく墓穴掘ってる感覚あるな……。


12.お出かけ旅行

「あー、リィエルがうちのクラスに入ってから一週間近く経過したわけだが……もうそろそろ『遠征学修』の時期だ」

 

 そんなグレン先生の一言と共に、教室内のざわめきがささやき声に変わる。

 遠征学修───それは二年次生の必修単位の一つであり、クラスごとに各地の魔導研究所を訪問し、その最新技術や研究内容を学ぼうという講義であり───

 

「しっかし、なーにが『遠征学修』だよ? それっぽく言っちゃあいるが、こんなんクラスの皆で遊びに行く『お出かけ旅行』───」

「ちょっと先生! 『遠征学修』はれっきとした学院の開設講座で───」

「わかったわかった、俺が悪うございましたー。いいから座れ、白猫。説明聞かねーんならお前だけ置いてくぞ」

「んなっ」

 

 おーぼーだあ、と力なくつぶやいてフィーベルが大人しく席につく。

 そして、いかにもやる気なさげなグレン先生……これはいつもの光景だが、がぺらぺらと授業の要項が書いているのであろう紙の束をめくり、一つ一つ大雑把に説明をしていく。

 

「───とまあ、こんなとこだ。なんか質問は?」

「ない……けど、白金魔導研究所かあ」

 

 カッシュのちょっと不本意そうな声。どうも別の場所を希望していたらしく、それを皮切りにちらほらと『自分も別の場所がよかった』、という声がそこかしこから上がる。

 しかしここでグレン先生、キラリと目を光らせていつぞやの選手決めのようにダァン! と教壇に足を乗せた。それ後でちゃんと拭いてくださいね。

 

「ククク……甘いなお前ら。白金魔導研究所があるサイネリア島はなにで有名だったか……覚えているか?」

「───はっ!? サイネリア島は、リゾート地と名高い観光スポット……ッ!?」

「そう! さらにサイネリア島は霊脈(レイライン)の影響で一年を通して温暖な気候……つまり、今でも十分海水浴は可能ッ!!」

 

 ここまでくると、クラスの男連中もグレン先生がなにを言わんとしているのかを理解したらしい。

 不満が徐々に期待の眼差しに変わり、グレン先生を中心に熱気が高まっていく。

 

「そしてうちのクラスの女子は……総じて、レベルが高い……! あとはわかるな、野郎ども!!」

「グレン先生……あんたって人は……!」

「漢だ……あんた、マジモンの漢だよ……!」

「ふっ……止せよ。本番はこれからなんだからよ……」

 

 なんかよくわからん求心力を遺憾なく発揮して、一瞬で男子生徒の中心となったグレン先生。それを呆れた顔でしら~っと眺める女子一同。

 

「……海。海かあ」

 

 なんとなく乗り損ねた俺はぽつんとつぶやく。

 海でなにかをしたような思い出はあまりないが、これを機に思いっきり遊んでみるのも良いかもしれないな……。

 

 ……。そういえば俺、水着持ってたっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そんなこんなでやって参りました遠征学修。見渡す限りの海でございます。

 

「そりゃ海の上だもんなあ」

 

 誰にともなくツッコミを入れて、持ってきていた水を飲む。

 

 ここは船の甲板、サイネリア島へ向かう海路の真っ最中。

 馬車に押し込められながら港町のシーホークへ向かったのが一日半前。シーホークに到着したのが二時間前。フィーベルとティンジェルがナンパ師に絡まれるというハプニングに巻き込まれながらも出発したのが一時間前。

 そして現在、先のナンパ師から見事に二人を救ったグレン先生は、船のへりで盛大に船に酔っていた。

 

「おぼぼぼぼ……」

「あーあー……大丈夫ですか、先生」

「リンゴ、持ってきましたよ。船酔いに効くそうですけど……どうですか、先生?」

「……食欲、ねえなあ……おぼぼぼぼ……」

 

 と、さっきからこの調子だ。

 仕方なく、グレン先生はティンジェルに任せて渋い顔をしているフィーベルのもとへ。最近はなんでかこの四人……レイフォードも入れて五人で固まることが多かったから、今回もつい合流してしまったのであった。

 

「サイネリア島ねえ……フィーベルは行ったことはあるのか?」

「ううん、話には聞いてたけど……実際に行ったことはないの。船に乗ったことなら何回かあるんだけど。アッシュは?」

「俺はどっちもないな。滝にぶち込まれたことならあるけど」

「……比較対象としてどうなの、それ?」

「だよなあ」

 

 フィーベルの指摘はごもっともだ。第一に広さが違う。危険度も海の方が数倍高い。

 

「そうじゃないんだけど……じゃあ、フェジテの外に出たことってあるの?」

「フェジテの外もなにも、フェジテに来る前は帝都に住んでたぞ?」

「えっ……そうなの?」

 

 言ってなかったっけ、と聞くと知らなかった、と返ってくる。そのまま会話が途切れ、なんとも気まずい雰囲気が降りる。

 

「えーと……フェジテに来たのって、いつ?」

 

 すぐ近くから断続的に聞こえるグロッキーなグレン先生の断末魔を聞いているのが嫌なのか、途切れたはずの会話を拾ってフィーベル。

 俺も野郎のキラキラ放出音を聞いているのは趣味ではないので(野郎でなくても願い下げだが)、どうだったかなと記憶を探るように顎に手を当てた。

 

 確か……フェジテに来たのは四年前だっけ?

 

「結構最近なのね……」

「おう。色々あって帝都から引っ越してきたんだけど、生活費稼ぐのにバイトしないといけなくってさ」

 

 そして今の店の店長に拉致紛いの勢いで連れ込まれ、『君、うちで働かない?』と言われて、そのままなし崩し的に採用されて今に至る。

 曰く、『運動してて体力がありそうだったから』とのことだが、もう少し方法はなかったんだろうかと今でも思う。

 

「それじゃ、出身は帝都?」

「いや? 帝都の生まれってわけでもないな。七歳ぐらいかな、帝都に住み始めたのは」

 

 バーナードの爺さんの根回しだかなんだかで死んだ両親の遺産を継いで、適当な家に住んで、暇つぶしにと爺さんにしごかれながらも適当に暮らしていた。

 近所……ではなかったのだろうが、どっかから爺さんが連れて来た女の子とも仲良くなったっけ。俺が割といい加減な性格してるから、何度も叱られた記憶がある。

 

「ああ、フィーベルに似てるかもな」

「え……私が? 誰に?」

「幼馴染……って言っていいのかわかんねーけど、昔仲良くしてた女の子。細かくて口うるさいところとか、そっくりだ」

「ちょ、アッシュまでグレン先生みたいなこと言うの!?」

 

 フィーベルが口うるさいのは事実だから仕方ないよね。

 俺も、昔はやれ『レディに対する礼儀がなってない』だの『あんたはお気楽でいいわよね。身だしなみにも気を遣わないなんて』だの、『デリカシーもなければ甲斐性もないのね』だの……あれ? これ叱られてたっていうか純粋な罵倒じゃない?

 

 ……そんでまあ、俺が怒られてもへらへらしてるもんだからその子はさらに怒って、一緒に来てたお姉さんがなだめる……というのが昔の俺の日常だった、気がする。こっちのお姉さんはどっちかっていうとティンジェルに似てたな。なんていうか、包容力が。

 

「……うわ。すっごい想像ついた」

「まあそんな感じで、引っ越すまでは仲良くしてたんだよ」

 

 それも五年前までというか、引っ越すちょっと前くらいから目に見えてストレス溜め込んでたみたいだけど。

 お姉さんも病気なのかなんなのか、その辺りからぱったり姿を見せなくなったし……なにかあったんだろうかとは思うものの、当時十二歳かそこらの俺に二つ上の女の子を慰める器量も度量もあるはずがなく。

 

「今は元気だといいんだけどなあ……」

 

 心なしかしんみりした気分になってしまう。

 思い出話はこれだからいけない。帰れない場所への郷愁は募るばかりで、心が軽くなることはない。

 

 あ、いや、帝都には行けるかな。バイト代も貯まってきたし、長期休みの間になら一回くらい帝都に日帰り旅行もできるかもしれない。

 

「ふうん……でも、出身は帝都じゃないんでしょ?」

「そうだな。ちっさい村でさ、そこで……」

 

 ……はて、なにがあったんだったか。

 なにかがあって、バーナードの爺さんと知り合ったような気がするんだが……記憶にもやがかかったように思い出せない。

 なにか。なにかがあって、師匠と知り合ったことは確実なんだけど。

 

「アッシュ?」

「……や、なんでもない。俺も、少し酔ったかな」

 

 思えば慣れない船旅だ。疲れが出たんだろう、鈍い痛みが頭を襲っている。

 幸い、しばらくじっとしていたら酔いは治まった。本当に、少し酔っただけのようだ。

 

「で、なんの話だったっけ───」

『ご乗船の皆様に連絡致します。当客船は無事サイネリア島へと到着しました。繰り返します、当客船は───』

 

 痛む頭を抑えるように額に手を当て、退屈な船旅の肴を改めて提供しようと思ったところで鳴り響くアナウンス。どうやら人生初めての航海はここまでのようだ。少々名残惜しいが、仕方がない。どうせ帰りにも乗っていくのだ、そのときを楽しみにしていよう。

 

 それよりも、今は。

 

「うおおえ……くそ、誰だ船なんてけったいなモン作りやがった馬鹿野郎は……あらゆる生命は土より生まれ土に還るんだよ、魚以外の生命が母なる大地を離れて板切れだけで大海原に飛び出そうなど愚の骨頂なんだよ……」

「猪なんかは自力で海を渡りますけど、そこんとこどう思います?」

「うっせ」

 

 この、船酔いで完璧にダウンしている魔術講師をどうするかを考えるべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 船酔いに苦しむ講師をほとんどほったらかして生徒がさっさと旅籠に向かう、なんてこともあったが、概ね問題なく宿泊施設への入場は完了した。

 南国風、と言えば良いのだろうか。フェジテとはまた違う趣の建造物に、いつもとは違うことを実感してついついテンションが上がる。

 

「俺……この遠征学修のために、たくさんボードゲーム買ってきたんだ……」

「お前、それ生活費とか大丈夫か? かなりの量だぞ」

「バッカお前、女の子と夜通し遊ぶんだぞ!? こんなシチュエーション滅多にないだろうが! ここで出し惜しみしてどうするんだよッ!!」

「男女は別室だろーがよ」

 

 そして俺とは違う方向にテンションがアゲアゲのカッシュ=ウィンガー。あるいはカッシュ=ゲンジツミエテナイ=ウィンガー。男女別室な上に、夜間にはグレン先生が『悪い子はいねがあ』となまはげよろしく巡回をする予定なのだ。当然巡回ルートなどは俺たち生徒には知らされていない。

 つまり、カッシュは叶わぬ夢のために早まった散財をしたと言えないこともないのである。少なくとも今週中にこいつが買い揃えたゲームたちが日の目を見ることはないだろう。

 

「ふっ……それはどうかな」

「あん?」

「まあ待ってろ。夜になれば、お前にも話してやるからよ」

 

 思わせぶりなことを言い残して、さっさとチェックインを済ませるカッシュ。

 カッシュを含めた三人……ギイブル、セシルとは同室なので、話を聞くチャンスはいくらでもあるのだが……わざわざ夜? なんか企んでるなこいつ。

 

 がしかし、そんなもん俺は関係ない。いや、確かにね? 俺も健全な男子学生、女の子と夜までキャッキャウフフとボードゲームで遊び倒す……みたいな展開はね? 普通に気になる。

 気になるがしかし、俺が親しい女子といえばフィーベルやティンジェル、ギリギリでレイフォードぐらいなもの。それ以外のやつとはまったく話をしないわけではないものの、なんらかの手段で夜に会えたとしても『じゃあ遊びましょう』と言って『イエス』と返事をもらえる可能性はごく低い。

 

 かといってフィーベルたちの部屋を訪ねたところで、生真面目代表のフィーベルに説教され、追い返され、ついでにグレン先生にチクられて終わりだろう。最悪、侵入してきた刺客と勘違いしたレイフォードとガチンコ勝負も有り得る。

 ……自分で言っておいてなんだけど、嫌だなそれ。もう相手したくないぞ、俺。

 

「おーい、お前らなにやってんだー? 早く部屋行けよー」

「あ、はーい」

 

 まあ、いいか。どうせ夜にはわかるっていうし。

 

 大した興味もないまま、俺はひとまず荷物を片付けるべく自分の部屋へと向かった。

 ひゃっほーい、とふかふかのベッドに寝そべり、年甲斐もなくはしゃぐなどしてギイブルに呆れられ、セシルにたしなめられる。こういうのも悪くない。というか、実に良い。楽しい。

 

「なあ、ギイブル。この後の予定ってどうなってたっけ?」

「……事前に配布された日程帳は?」

「家に忘れた」

「君ってやつは……」

 

 そんな会話を聞き流し、荷物をそこそこにまとめて改めて安物ではない綺麗に用意されたベッドを堪能する。

 

 夕食をサボったカッシュがなにを企んでいるのかを知ったのは、そのさらに後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───リィエルとアシュリー=ヴィルセルトには気を付けろ。

 

 昼間、ナンパ師に変装して接触してきたアルベルトに告げられた言葉を思い返して、グレンは夜風を肺に吸い込んだ。

 

「……護衛の本命としてアルベルトがいるんなら、なにも心配することはねえ……リィエルだって、今は俺たちの仲間なんだ。そのはずだ……気を付けることなんか、どこにだってあるわけねえ」

 

 そう思い込みたいだけではないのか───アルベルトにも告げた言葉に対する切り返しまでもが蘇り、グレンは胸中に苦いものが広がるのを感じていた。

 

 大丈夫だ。だってリィエルはもう特務分室の仲間で、何度も何度も外道魔術師を撃破してきた帝国の味方だ。決して、古巣───天の智慧研究会になんてたぶらかされたりしない。

 その確信がある、と言い切りたいのに、その根拠が根拠なだけにグレンは思い切って断言できなかった。

 

 そう、リィエルは帝国を敵に回すことはない。亡き兄の面影をグレンに重ねて、今度こそ守るのだと依存しているから。

 それがグレンには、少し悲しい。

 グレンがリィエルを託されたのは、そんなことのためではないというのに。

 

「くそっ……」

 

 それに、苛立たしいのはアルベルトが注意すべきだと名指ししたもう一人の生徒だ。

 

「アッシュが天の智慧研究会の外道どもと通じてる可能性……? あるわけねえだろ、クソッ」

 

 だん、と近くの樹に苛立ちのままに拳を打ち付ける。

 

『アシュリー=ヴィルセルトは、先の魔術競技祭で女王陛下に呪殺具を仕掛け、ルミア=ティンジェルの暗殺を試みたエレノア=シャーレットと比較的頻繫に接触している』

 

 それがアルベルトが、警戒すべきだと言った理由。

 あのエレノアが、特定個人にわざわざ数回に渡って接触し、固執していた。それだけでも、警戒する理由としては十分だ。

 

『なにも裏切る等とは言わん。だが、目を光らせておけ』

 

 必要ない、あいつは味方だ───そう反論するグレンを鷹の瞳で射抜き。

 

『なにかあってからでは遅い。彼の組織は手段を選ばない。仮令(たとえ)()()アシュリー=ヴィルセルトが味方のように見えたとしても、いつあの組織の求心力に呑まれて敵に回るか判らないのだから』

 

 アルベルトはそう締めくくると、ナンパ師の変装を再開してグレンから離れた。

 

「……クソ」

 

 心底、反吐が出る。

 ルミアを囲い込んで撒き餌にしようとする軍上層部も、味方を疑わなくてはならない状況も。そして何より───誰かの人生をなんとも思わない、下衆で外道な天の智慧研究会にも。

 

「……リィエルもアッシュも、俺の生徒だ」

 

 この二ヶ月で芽生えた自覚。

 かつて、何度も血に濡れた両手を握り締める。

 

「裏切ったりするはずがねえ。狙われてるってんなら守ってやる。……だから、心配することなんてなにもないんだ」

 

 誰にともなくつぶやき、切り替えるように頭を振る。

 

 自分の計算が正しければ、そろそろ来るはずだ。軍の陰謀なんて知らない、青い欲をみなぎらせた若者たちが。

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

 最後にそれだけ言って、グレンはアルベルトの忠告を頭の片隅に追いやった。

 

 それが、自分に言い聞かせるためのものだとは、最後まで自覚しないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「カッシュさあ。お前やっぱバカだろ」

「うるせー……バカって言うな、バカアッシュ……」

 

 カッシュの企み───その名も『楽園(エデン)計画』。

 仰々しい名前が付いちゃいるが、要するに『女の子の部屋に行って夜通し遊ぼうぜ』という計画だ。

 

 まあ、基本的にお年頃の男子学生とあんま変わんない思考回路してるっぽいグレン先生のことだ。どうせ『俺だったらこうする』とかそういう理由でこのアホウどもの進路を予測し、阻み、叩き伏せたに違いない。

 

「くそぅ……先生さえ乗り越えれば俺たちの楽園(エデン)はすぐそこにあったのに……口惜しや……」

「───なんだよ、お前も俺を越えて行こうってか? アッシュ……」

「せ、先生……!」

 

 と、生い茂る木々の影から姿を現したのはグレン先生。

 総員七名の男子生徒諸君を捌ききったはずのその姿はなんというか、相変わらずカッコいいんだかカッコ悪いんだかわからない有様だった。具体的にはぐでっと幹に寄りかかっていた。

 

「一対一で俺を乗り越えようなど十年早い。隊伍を組んでの魔術掃射ならともかくな!」

「やられたんですね」

「正直非殺傷系の魔術なのに死ぬかと思った」

 

 そりゃ基礎の【ショック・ボルト】も威力を制限しても電撃は電撃だからね。

 あと俺はこのおバカどもの末路を見物するついでに回収に来たのであって、参加するつもりはないんですよ。

 

「そうなのか?」

「心惹かれるものがないって言うと嘘になりますけどね。なんてーか……覗きみたいでちょっと気が乗らないっていうか」

「……お前、意外と初心なんだな」

「だだだ誰が初心じゃい」

 

 ちげーし。ごく一般的かつ良識的な忌憚のない意見だし。

 ……あーくそ、楽しそうな顔しやがって。こりゃなに言ってもオモチャにされるな……仕方ない。

 

「じゃ、そーゆーわけなんでこの愉快な馬鹿野郎は持ち帰ります」

「おう。他のも連れてってやってくれよ?」

「えっ面倒くさ……先生も手伝ってくださいよ」

「俺はほら、青い欲を阻むのに必死で疲れたから」

「働け講師」

「慈悲がねえ……ちっ、しゃーねえか」

 

 カイとロッドを米俵よろしく肩に担ぐと、グレン先生は一足先に男子の部屋へと歩いていった。二人同時とは恐れ入る。俺も筋力的には持てないこともないが、なんていうか持ち方が下手くそなのかうまくバランスが取れなくて落っことしそうだ。

 

「……ま、いっか」

「ちくしょう……裏切り者めぇ……この恨み晴らさでおくべきか……」

「はいはい。負け惜しみは部屋でいくらでも聞いてやるよ、負け犬」

「くそーッ!」

 

 とりあえずカッシュを担ぎ、部屋に持ち帰ってベッドに転がす。ギイブルとセシルはもう寝る支度を整えていた。

 少しして、復帰したカッシュがヤケクソのようにカードゲームとボードゲームを並べてギイブルに挑み、なぜか俺とセシルも巻き込んだゲーム大会が始まったりもしたが、結果は悲惨なもので、頭を使うゲームは片っ端からギイブルが勝ちをかっさらっていった。運が絡むババ抜きにしてやるとそこそこ苦戦していたが、今度は俺が勝てないという。やっぱ幸運ステータス低いだろ俺。

 

 結局消灯時間いっぱいまで大会は続き、カッシュは疲れもあったのだろう、明日の支度もそこそこに寝落ちした。

 こんなんで大丈夫か遠征学修、と若干不安に思いながら、二日目の夜は静かに更けていった。




次回、水着回。

読み直していた北欧異聞帯の「ぴょーん!」で涙腺が死にかけたのは内緒だ。
というかよくよく考えると主人公の人脈が割とヤバいな……。
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