竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

14 / 63
UA20000超えててオラびっくりしただよ……感想・評価ありがとうございます。


14.正直、本来の目的を忘れてたよね

 グレン先生曰く、昨日あの三人が夜に抜け出した後にレイフォードと話す機会があり、そこで色々と話していたら見事にレイフォードの地雷を踏み抜いたのだとか。あんたなにやってんだ。

 

 という話を、俺は鬱蒼と木々が生い茂る原生林を進みながら聞いていた。

 前の方では、バランスを崩したレイフォードに手を貸そうとしたティンジェルが拒絶され、フィーベルが昨日までのレイフォードとのギャップにぎゃんぎゃんと騒いでいた。こんな歩きにくいことこの上ない獣道で元気なことだ。

 気に入らないことがあったからって半ば仕事を放り出してるレイフォードもレイフォードだが。

 

「……まあ、そう言わないでやってくれ。この一週間ちょいでわかってると思うが、リィエルはお前たちと同じくらいに見えても心はもっと子どもなんだ。今回の件は、不安定なリィエルを突っついちまった俺のミスだ」

「ふうん……ワケありってやつですか」

「ああ。あいつは……その、心の拠り所にしていた兄貴を亡くしていてな」

 

 そういえば、機密事項大暴露大会の後、編入生が来たときの定番こと質問タイムで兄がいたが亡くなっているという話を聞いた気がする。

 

「あいつは、俺を亡くなった兄貴の代わりにしようとしてるんだ。……けど、俺はリィエルにはもっと幸せになってもらいたい。俺に依存したままじゃ、いつかあいつの幸せが掴めなくなっちまう」

「それでフィーベルたちと仲良くしてる今がチャンスだと思って説得を試みた、と?」

 

 こくりとグレン先生が頷く。フィーベルを泣かせた事件といい、この人いざってとき以外は余計なことしかしねえなと思っていたが、そういう事情があるなら致し方ないと言えよう。たぶん。

 ままならないもんだよなあ、と二人揃ってため息をついた。昨日までの仲の良さはどこへやら、前を歩くレイフォードとフィーベルたちの雰囲気は最悪だった。

 

「……大丈夫か、これ?」

 

 今まで幾度となく覚えた不安が蘇るのを感じながら、俺は粛々と山道を踏破するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白金魔導研究所。白魔術と錬金術を組み合わせ、生命に干渉する白金術を研究する施設だ。

 

 なんか豊富なマナがうんぬんかんぬんってんで自然豊かなサイネリア島に建てられたらしく、施設内にも草木や湧水がそこかしこに見える。研究施設というよりもはや水の神殿といった風情で、観光地にあるものは見目麗しいものになる法則でもあるのかと疑ったほどだ。そこかしこに乱立する黒い石柱の表面には無数の文字が煌めいていて、浮世離れした雰囲気をさらに強めている。

 

 で、実際の研究内容は前世でいうところの遺伝子工学っぽかった。あっちこっちに標本のように水槽に浮いている、色んな動物の要素を掛け合わせたような生き物がその研究成果……俗に言うキメラだろう。

 

「ね、ねえリィエル……」

「こっちこないで。いらいらする」

 

 ティンジェルが健気にもレイフォードへアプローチしているが、対するレイフォードはやはり素っ気ない。

 ここ最近、グレン先生を入れた五人組で集まることが多かったとはいえ、レイフォードの世話を焼いていたのは主に女子二人だ。俺の出る幕はないだろう。

 

 邪魔をしないようフィーベルたちから距離を置きつつ、研究所の中を見学していく。

 真理を求める魔術師にとって、生命の神秘という極上の謎は強い関心の対象なのだろう。二組のクラスメイトはこぞって水槽や装置に群がっていた。

 

 俺はといえば白金術にはさして興味がなかったのでほとんど適当にしか見ていない。好き勝手に生き物をいじくることに対する嫌悪感もあるし、なにやってんだかまるでわからないからだ。まあ、植物の品種改良は大助かりな技術だとは思うけども。

 そしてフルメタルなアルケミストよろしくこういう研究をしているところはロクなことが起きないと相場が決まっているのだ。

 ……こいつら、動き出したりしないよね?

 

「死者蘇生の研究、『Project:Revive Life』……通称『Re()───」

「『Proiject:Revive Life』ってのは───」

 

 ぼんやりと辺りをうろついていたところ、なんか頭良さそうな話が向かいの曲がり角から聞こえたけどこれ誰だ。いや、片方はわかる。これはグレン先生と……ああ、そうだ。ここの所長さんか。

 さっきのアルケミストな例えでいくと『君のような勘の良いガキは』ポジションの人。もちろんすべての研究者がそうって決めつけるわけじゃないんだけど、なんとな~く嫌な予感というか、その記憶があるからかあまりお近付きになりたくないというか。

 

 なのでここは素直に退散するに限る。

 

 そそくさとその場から離れつつ、俺は先ほど漏れ聞こえた会話について思案した。

 

『コピーとコピーとコピーを掛け合わせてコピー人間を作る』

 

 グレン先生が言うには、そういう計画であったしい。

 結局魔術に使うルーン言語のスペック不足でこの計画は頓挫したらしいが、どっちみち本人を復活させているとは言い難いものであったり、そもそも材料を用意するのに無関係の人間が数人死ななければならないといった倫理的な理由がもとで封印されたようだ。

 人を生まれ変わらせる……とかそういう話ではなかった。まあ、蘇生と転生は違うよな。

 

 本来、肉体が滅びると魂はふわ~っと輪廻転生の円環へと還り、それ()に記録されていた精神……アストラル体というらしい、は意識の海とやらに溶けるのだそうだ。

 なので、本来俺のように精神データである生前の記憶を持ったまま生まれる生き物はいないはずなのだが……まあ、ここは考えても仕方ないことだしどうでもいい。ウン千年繰り返してるんだ、一回くらいバグが発生することもあるだろう。

 

 しかし……コピーを掛け合わせて作ったコピー人間は果たして本人と言えるのか? か。

 なにをもって本人とすべきか、というのは正直、どんな世界、どんな文化でもついてくる話ではある。前世で言うならテセウスの船、か。

 

 『船のパーツを少しずつ新しいものに入れ替えていったとき、果たして全てのパーツを新しくした船はかつての船と同じものだと呼べるのか』───だっけかな。あるいは、『置き換えられた古いパーツを集めて船を作った場合、新しいものと古いもの、どちらが本物なのか』なんて話もあるらしい。いずれにせよ、難しい話だ。

 なにをもってしてその存在を定義するのか。構成要素か、魂か。肉体であるのか記憶(精神)であるのか。他者を再現したものであるとするならば、それは別人と呼ぶべきか本人と呼ぶべきか。

 

 ……うん、ここから先は哲学に片足突っ込んでしまいそうなので思考を放棄しよう。そんな哲学的なことを考えてもどうしようもないしね。

 

 やがて話が終わったのだろう、グレン先生が施設内に散らばっていた生徒を集めて集合をかける。いつの間にか撤収の時間になっていた。

 

「いやあ、今日はありがとうございました、バークスさん。ヒヨッコどもがぞろぞろとお邪魔しちまった上に、わざわざ案内までしてもらっちゃって」

「いえいえ。若き魔術師たちをこの目で見られるのは、実に良い刺激になりますから」

 

 ほんとかなあー、と疑ってしまう俺はもしかしたら心が汚いのかもしれない。ちょっと悲しい。

 

 とまあ、俺のそんな内心はさておいて、見学を終えた二組はバークスさんに見送られながら来た道を戻って仲良くお世話になっている宿へと戻ることになった。見学が終わったのは夕方を回った頃だったので、クラスの連中にも疲れが見える……と思ったのだが、予想に反して道中は割と賑やかだった。

 どうやら今日の見学は良い刺激になったようで、道すがらカッシュとかが披露してくる魔術談義に適当な相槌を打っていたらいつの間にか着いていた。勉強熱心で大変よろしい。

 

「そんじゃ、お前ら。こっからはまた自由行動だ。好きに動いていいが、メシ済ませたらちゃんと旅籠に戻って来いよー」

 

 と言っていたグレン先生は、結局終始態度を改めなかったレイフォードに堪忍袋の緒がプッチンプ○ンしたらしく、いい加減にしないとお尻ぺんぺんだぞと脅したところ逃げられていた。……いや、今のはあんたが悪いよ。こっちみんな。

 しかしここでまたしても分け隔てなく優しさを振りまく(ノーと言うときはキッパリ言う)ティンジェルの助け舟が入る。

 

「先生はリィエルを追いかけてあげてください。私は大丈夫ですから……」

「……悪いな。そうするわ」

 

 レイフォードさんや。あんた曲がりなりにも護衛じゃなかったんですか。

 そしてグレン先生はティンジェルから戦力を離していいんですか。と言いたいところでもあるのだが、あそこまでメンタルブレイクしてるっぽいレイフォードなんか放置してティンジェルを守りましょう! って言うのも気が引けるし。というか人間的にどうかと思う。

 

 ああいや、そういう視点で考えるなら、むしろさっさと仲直りしてもらった方が良いのか。

 つまり、ティンジェルの安全とレイフォードのメンタルはグレン先生の双肩にかかっているということになるのだが───

 

(なんでだろう。まったくどうにかなる気がしない)

 

 むしろ悪い意味でレイフォードがどうにかなってしまう気がしてきた。どうしてだろう。これもグレン先生の人徳の為せる業だろうか。そんな人徳なら一生いらないが。

 

「……俺はどうしようかね」

 

 レイフォードを追いかけるのでも良いだろうが、その役割はたった今グレン先生が請け負ったしなあ。

 なにより俺じゃ説得できる気がしねえ。というか、今の不安定なレイフォード相手だと最悪逆ギレされてなます切りの可能性がある。

 つまり結論から言って、俺の出番はないということだ。せいぜいいざというときにティンジェルを守る壁になれるくらいだろうか。まさかこんな観光地で仕掛けてくることはないと思いたいが……。

 

「お前も手伝ってくれ、アッシュ」

「え、ここまで役立たずアピールしたのに結果がそれ?」

「あいつすばしっこいからな。探すのに時間かかるんだよ」

「なるほ……ど?」

 

 よーするにそれはレイフォードを見つけたら捕獲しとけということでせうか。

 

「……名指しじゃ断れないですね。説得とかは期待しないでくださいよ?」

「おう。まあ、話し相手くらいにはなってやってくれ」

「それくらいなら……」

 

 説得は無理だが、『へえ』『ほう』『そうか』くらいしか言わない相槌botに徹しろという話なら俺でもできる。全肯定アシュ太郎の出来上がりである。

 捕獲手段がないので逃げられてしまう可能性も大きいが、ご指名とあらば動かないわけにもいかない。……なんか社畜のような発言だ。社畜じゃないよ。というより、グレン先生には特訓をつけてもらっているので手伝うのもやぶさかではないというか。

 

 そんなわけで俺は北の方、グレン先生は南の方を探すことにしたのだった。

 ティンジェルをぼっちにしておくのは不安だが、なんかグレン先生が大丈夫だって言ってたし大丈夫かな。

 

「根拠はまったくわからんが……あっ」

 

 昨日遊びに行ったみたいだし、海に近い場所から探してみようと思った矢先、波止場に座り込む青色を見つけてしまった。早いよ。あまりにも早いよ。

 ここはもう少し引っ張って散々走り回ってようやく俺はレイフォードを見付けた……とかってモノローグが流れるところじゃないの? そうじゃなかったらグレン先生が見付けてカウンセリングするところじゃないの?

 

 というか、その隣にいるお兄さん誰よ。ナンパか? またナンパ師なのか? フィーベルとティンジェルのコンビに引き続きレイフォードまでもがナンパされているのか?

 

「さすがにほっとけないよなあ……」

 

 仮にナンパだとすると、プチっときたレイフォードが暴走しないとも限らんし。いつもならグレン先生が身を挺して止めるところだが、今は俺しかいないし、レイフォードは情緒不安定らしい。行くしか……ないのか……?

 

 息を吸って、吐いて、ナンパ許さんマンとなる覚悟を決める。

 がさがさと茂みをかき分け、レイフォードの方へ。レイフォードは気付いていないのか、ずっと俯いたまま……いや待て、こいつなんで大剣持ってるのん?

 もしや俺、ファインプレーだった? などと頭の中だけでつぶやきつつ、レイフォードと違ってこっちに気付いたらしい青年とレイフォードの間に立つ。……おや、珍しい髪色だな。レイフォードと同じ青色か。

 

「だ、誰だっ!?」

「しがない一学生です」

 

 できるだけ刺激しないように切り返す。というか、むしろお前が誰だと言ってやりたい。

 それにしても男性の方の動揺具合がやべえ。なんだ、もしかしてナンパじゃなくてロリコンの類か? 犯罪者なのか?

 

「な、なんの用かな? リィエルの知り合いかい?」

「用はないんだけど、波止場でぼっちのお嬢さんを見付けちまったんでちょいとナンパにね。あんたはどうなんです?」

 

 噓です。グレン先生の差し金です。たとえ知り合いであったとしても婦女子をナンパする度胸は俺にはないデス。しかしグレン先生の名前を出しても青年には伝わらないだろうし、なんかレイフォードの方の地雷を踏み抜きそうなので控えた。ナイス俺。褒めてつかわす。報酬はないが。

 

「誰だか知らないけど、どこかに行ってくれないかい? これは僕とリィエルの大切な話なんだ」

 

 とても迷惑そうな青年。がしかし、この二ヶ月で図太くなった自信のある俺はその程度では揺らがないぜ。

 というかあんたそこの女の子の持ってるでっかい剣見えてないの? 節穴なの? 不興を買ったらバラバラ惨殺死体にならないかなとか思わないの?

 

「学友が見知らぬ人間にたぶらかされそうになってたらそりゃあ割って入るでしょう」

 

 万が一レイフォードがブチッとフルボッコタイムを開始しようとしても止められるよう、片手をポケットに突っ込んでおく。

 ちょっとマナーが悪いかもしれないが許してほしい。身内から犯罪者を出すわけにはいかん。目の前の野郎の方が犯罪者疑惑かかってるけど。

 

「……待てよ。その制服、もしかして……お前、じゃなかった君もアルザーノ帝国魔術学院の生徒さんなのかな」

「そうですけど」

「…………」

「……?」

 

 肯定するなり、空気がどこか張り詰めた。

 目の前のお兄さんはなんかぶつぶつ言い始めるし、レイフォードは相変わらずぬぼーっとしながら剣持ってるしで、未だに状況が把握できん。

 

「……そうだね。リィエル」

「っ」

 

 なにを考えていたのかは知らないが、青年の中では話がまとまったらしい。

 声をかけられたレイフォードがびくりと身を震わせたのが、背中越しでもわかった。

 

「手始めだ。君が僕を助けてくれると言うのなら」

 

 怯えているのか。レイフォードが?

 それはさすがにまずいと後ろを振り向く。

 

 ───視界に映った女の子は、どうしたら良いかわからない迷子のように震えていて。

 

「そいつを───」

「二人とも! そいつから離れろッ!!」

 

 遠くからグレン先生の声が聞こえる。レイフォードの大剣を握る手に力が入る。

 

 え、なにこの状況? 困惑している俺に構わず、青年が言葉(命令)を紡ぐ。

 

「───殺せ」

 

 風を斬る音。

 

 袈裟懸けにこちらを斬り裂こうと、見覚えのある剣が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、どことも知れぬ闇の中。

 リィエルにとある男が接触したちょうどそのとき、闇の中で二つの影が蠢いた。

 

「……ふん。さすがに手が早いな、外道」

 

 一つは、鷹のごとき双眸を持つ魔術師、《星》のアルベルト=フレイザー。

 

「ふふ……今宵はお一人様なのですか? アルベルト様……」

 

 そしてもう一つは、もはや必要ないはずの使用人服を身に纏い、蕩けるような眼差しをアルベルトに向けるエレノア=シャーレットだった。

 

 妖艶、ともすればあらゆる男を誑し込めるであろう美貌を酷薄に歪めて、エレノアはアルベルトの前に立っていた。

 

「貴様が出てくるということは、またあの王女絡みでロクでもないことを画策しているのだろうが……足止めの心算か? 天の智慧研究会、第二団《地位》アデプタス・オーダーが一翼のエレノア=シャーレット」

「あら。私の位階、割れてしまいましたのね? 軍の方々もぼんくらばかりではないようで」

 

 さして残念そうでもないようにエレノアは笑う。

 アルベルトは常の険しい顔を揺るがさぬままに術を起動し、エレノアの首を穿たんと雷光が走る。

 だが、エレノアはそれを微笑みを浮かべたままでふわりと回避し、返礼と言わんばかりに呪文を唱え───無数の死者の群れを召喚した。

 ぼこり、ぼこりと地面を割って現れる無数の屍。たちまち辺りは腐臭と死臭に包まれ、常人の正気を削るような地獄絵図を描いていく。

 

「くだらん」

 

 それをアルベルトは時間差起動(ディレイ・ブート)した魔術で一蹴するが、後から後から、動く死体は地面から這い出して来る。

 全員が女性で構成されたその死者の群れを率いながら、エレノアが優雅にお辞儀(カーテシー)をしてみせる。配下の一部が一瞬で蹴散らされたにも関わらず、その表情に焦りの色は見えない。

 

「……死霊術師(ネクロマンサー)か。外道に似合いの、下衆な術だ」

「まあ、こわいひと。……今夜は私、身体が火照って仕方ありませんの」

 

 不意に、かくりと首を傾ける。

 折れているのではないかと錯覚してしまうほどに、深く。

 緩やかな弧を描いた唇から、燃えるような吐息が空気に溶けた。

 

「だって、今宵、ようやくあの方をお迎えに上がれるのですから……ふふっ、申し訳ありませんが、今宵のアルベルト様は前座。ああ、ですがご安心くださいませ」

 

 会話の中、アルベルトが撃ちだす即死級の魔術を軽々と避けながら、やはりエレノアは特上に壊れた笑みを浮かべ続ける。

 

「前座と言えど、おもてなしに手を抜くことはございません……熱く燃えるような一夜の夢、背徳的で退廃的な法悦のひと時をご提供いたしますわ」

「残念だが、俺は貴様のような安い女に興味はない」

 

 吐き捨てる傍ら、骸が片端から燃え落ちていく。アルベルトの魔術によるものだが、やはり───エレノアは笑みを崩さない。

 

 しかし、アルベルトにとって気になるのはそこではない。

 

「一つ聞かせろ。貴様は何故そこまであの男───アシュリー=ヴィルセルトに執着する?」

 

 端的な問い。

 

 そう───今の今まで、なぜエレノアという得体の知れない人物が、わざわざあの少年に付きまとっていたのか。

 無論、エレノアが常に彼を監視していたわけではない。だがそれでも、二回、三回と逢瀬を重ね、五回目でようやく彼女は少年から目を離した。

 

 だがそうする理由がわからない。アリシア七世のように国内での権力者というわけでもない。特異な才能があるわけでも、アルベルトの知る限りない。わざわざ殺す旨味も薄く、そのつもりならとっくに少年は墓の下に引っ越していただろう。

 だがエレノアは確実に彼を見ていた。それが大導師とやらの指示であるのか、それともエレノアの独断であるのか。それすらも不明瞭だが、それだけは紛れもない事実だった。

 

 故にこそ、答えがないとしてもアルベルトは問う。

 

 それに、エレノアは。

 

「───おもてなしを、続けましょうか」

 

 嗤って、答えた。




リィエル は こんらん している!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。