竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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UA20000で喜んでたら今日30000になってたし、急にお気に入りも900越してて逆に怖くなってきた。何事かと思ったけど日間ランキングに載せてもらえてたんですね……。皆様、ありがとうございます。

今回のはけっこう急いで仕上げたので粗いですがご容赦ください。戦闘わかんねぇ。


15.勘の良いガキなのでおハゲに嫌われそう

 アイエエエ!? レイフォード=サン!? レイフォード=サンナンデ!?

 

 混乱のあまり愉快なモノローグを展開しながら、ポケットに突っ込んでいた触媒に魔力を通して(武器借りパクしますよーの術)鈍色の刃を引っ張り出す。

 ギィン! と金属同士がぶつかる音。間に合ったらしい。逆手に持った短剣の、ちょっと自分でもどうかと思うくらいに鋭利な刃がレイフォードのウーツ鋼の大剣と擦れ合ってギチギチと噛み合っている。

 

「信じてたよ、リィエル!」

「やかましい!」

「うわっ」

 

 こいつぜってー敵じゃん。レイフォードが従ってる理由はわからんが、とりあえず助太刀されても困るのでレイフォードが離れた隙に蹴っておいた。片手間というか、レイフォードの攻撃を防ぎながらの大雑把な一撃だったからあっさりと避けられてしまったが。

 だがその行動がレイフォードの逆鱗に触れたらしく、さっきより重い一撃が頭上から降ってきた。曲芸師かと言いたくなるぐらいに軽々と鋼の塊を振り回し、まともに食らえば脳天から真っ二つになるであろう一閃が落ちてくる。ポケットからもう一つ短剣を引っ張り出す。なんとか受け止めたが、びしりと波止場の地面にヒビが入る。

 

「兄さんに……手を出すなッ!」

 

 ……兄さん?

 

 お兄さん。ブラザー。即ち兄弟。

 二秒で単語の意味を理解し、三秒目に疑問を抱いた。確か、レイフォードの兄貴は亡くなってるって話では?

 

 実は生きてたとかだろうか、と合流したグレン先生の方を見る。「お前なに言ってるんだ!?」……違うっぽい。

 

 グレン先生が『兄貴は死んだ!』と断言している理由は定かではないが、面白半分で人の生き死にを語る人ではない。断言するならするなりの理由があるはずだ。

 そしてこう言っては悪いのだが、今のレイフォードは錯乱……とまではいかなくともだいぶ混乱しているようだ。発言の信憑性はグレン先生の方が高いと言えるだろう。

 

 あと単純に兄貴がめっちゃゲスい顔してるのでこいつを信用したくないというか。

 

「リィエル! そいつらを早く蹴散らして、ルミア=ティンジェルを確保するんだ!」

 

 目的解説ありがとうございます。

 つまりはあれですね? お前も天ぷら同好会ですね? クッソ、こんなところでも律儀に働きやがって。大人しく天丼でも食ってろってんだ。

 

「……ッ」

 

 しかし呆れ果てる俺とは対照的に、レイフォードの顔が据わっていく。……まずい。これは覚悟完了しちゃった顔だ……!

 

 想像通り、どこか迷うようにキレのなかった太刀筋が、確実にこちらを仕留めようという意思のあるものへと変わっていく。

 こっちにはグレン先生がいるけど、魔術競技祭の一件でグレン先生がレイフォードと正面きって戦うのはかなり不利だということはわかっている。加えてレイフォードの技量は俺よりも遥かに上だ。いくら英雄の武器を借りパクしていても、実力まで完璧についてくるわけじゃない。

 

 だがそれでも、レイフォードをここに釘付けにするくらいは───ッ!?

 

「いいぃいやああぁぁぁああああッ!!」

 

 咆哮。連撃。あんな馬鹿みたいにデカい剣を振り回している癖に、有り得ないほどに素早い切り返し。

 こっちが取り回しの良い短剣だからなんとかなっているが、それでもわずかに軌道を逸らすのがせいぜい。というかこいつ、振り抜いたあとの……剣圧? とでも言えば良いのだろうか。ともかく、剣を振っただけであまりの鋭さに直撃していないはずの腕や顔に傷が増えていく。

 でたらめだ。剣筋も、その実力も。先も言った通り、今の俺では『ギリギリ逸らす』が精一杯。グレン先生の支援(攻撃対象の分散)込みで、だ。

 

(レイフォードと初見で殺り合ってたら確実に死んでたな)

 

 運が良かった。初見と二度目では戦いやすさが大違いだ。正確には、一度目もそう大して戦ってはいないのだが、それでも情報量は段違いになる。情報はそのまま力だ。さらに言えば、レイフォードをけしかけた男は非戦闘員なのかレイフォードをせっせと焚きつけるだけでなにもしてこない。

 それでもやはり、状況は不利だ。ジリ貧、と言い換えてもいい。レイフォードは未だに無傷だが、こっちはどんどん傷が増えている。というか今まさに頬が裂けた。滴る血を拭う間もなく次の攻撃が飛んでくる。

 

 どうにかして止めなければならない、と思うのと同時、このままではこちらが全滅する、と冷静な思考が挟まれる。

 

 さて、どうにかしてこの状況を打破しなければ───というところで、不意に月明かりしかなかった波止場に月とは違う光が差した。

 

「ハハッ、助かった……あの爺さんもいい仕事をするじゃないか……!」

 

 見知らぬ青年の弾んだ声。次いで聞こえてくる、バチバチとなにかが爆ぜる音。

 不穏な光と音に何事かと顔を上げ───そこに見えたものに思わずため息をついた。

 

「ほら見ろ。だからキメラ研究なんてやってるやつはロクなもんじゃないって言ったんだ」

 

 そこに見えたのは、無数の光球。

 

 紫電が、爆炎が、それぞれ唸りをあげながらさながら太陽のように輝いている。

 

 そしてそれを掲げているのは、歪なカタチをした獣たち。

 

 それはまさしく、兵器運用が禁止されたはずの合成獣───キメラの群れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 なによりも早く動いたのはレイフォードだった。

 

「───────」

 

 現れたキメラを見て愉快そうに笑っている青年を抱き上げ、剣を片手にキメラの横を通り過ぎてどこかへと走っていく。

 

「待て、リィエル!」

「───ごめん。今まで、ありがとう」

 

 呼び止めたグレン先生の言葉に短くそう返すと、茂みの中に消えていく。追いかけようにも、今度はキメラが三体立ちはだかっている。

 そのどれもが魔術なのかあるいは固有の能力なのか、いかにも当たったらタダでは済まなさそうなエネルギーの塊をこれみよがしに掲げていた。なんだお前ら。魔術狙撃がヘタクソな俺への当て付けかコラ。【ショック・ボルト】すんぞ。……リジルとフロッティ投げた方が早いな。

 

「おい待てって……くそっ!」

「グレン先生、とりあえず今は」

「わかってる! 今は───」

 

 そこで、敵方も準備が終わったのだろう。

 生物としてどこかおかしい姿をした怪物たちは、最初の数倍に膨れ上がった電撃を、あるいは火球を、咆哮とともにこちらへと解き放って───

 

「───こいつらをシバくぞ!」

 

 掛け声と同時、静かだった波止場を轟音が埋め尽くした。

 

 右にサイドステップで躱し、次いで襲い来る爪がこちらを捉える前にその場からさらに一歩下がり、跳びかかってきた一体に思い切り短剣を投げつける。投げる用の剣ではなかったために若干勢いは劣るが、それでも並みの生物であれば血を撒き散らして地に伏せるだろう。

 

 着地するタイミングで攻撃されてはさすがに避けられないだろう。そう踏んでの一撃だった。

 ───だが、獅子とサソリが混じったようなバケモノは着地寸前で身をひねり、眉間に直撃するはずだった攻撃を首で受け止め、一撃死を免れていた。しくじったという事実に歯嚙みする。一匹は落としたかったんだが。

 というか、勢いが落ちたとはいえ並大抵の武具なら貫通するアレが肉だか骨だかで止められてんの、普通に有り得ないんですけど!? そもそも首に刃物が当たったんなら死んでよね! ……あ、首だけど刺さりっぱなしだから出血が少ないのか。そっかー。

 

「いやそれでも死ねよ!?」

「うだうだ言ってんな! 次、来るぞ!」

「うす!」

 

 端的に返答し、グレン先生のセリフの通りにもう一度跳びかかってきた個体から距離を取る。今のところ、奴らの武器は魔術モドキと爪、牙だ。距離さえ取っておけば気を付けるのは魔術っぽいものだけでいい。

 まあ、問題は魔術っぽいものを連発されると俺が身動き取れないことなんですけどね!

 魔術への対抗手段なんて【トライ・レジスト】で耐える脳筋戦法しか取れませんことよ!

 

 だが先ほどの感覚からいくと、こいつらのぶっぱなしてくるものは【トライ・レジスト】で耐えられる領域をオーバーしている。一撃を耐えれば逆転できるとかじゃないならさすがに採用できない。

 

 そして今のを見る限り、こいつらを仕留めるには単に剣をぶっ刺してみるだけじゃ足りないようだ。筋肉なのかなんなのかはわからないが途中で止まってしまう。しかも刺した短剣がずぶずぶと肉に埋まっているのを見るに、どうやら傷の自動修復機能もあるらしい。直接心臓か脳髄を破壊するまでは止まるまい。

 さらに言うと俺の狙撃能力というか、狙ったところに中てる技術はまだそこまででもない。命中率は七割から八割というところ。それでも魔術による狙撃に比べれば破格の数値だが、せめて九割はないと話にならない。肝心なときに当たらないとか嫌すぎる。

 

 しかし悔しさと驚きに打ち震えている暇はなく、再度装填された火球が獲物()を目掛けて真っ直ぐに飛来する。

 

「環境破壊反対ィィィ!!」

 

 珍妙な掛け声で気合を入れて、周囲の緑を焼き焦がしながら迫る灼熱の塊を避ける。

 地面に触れた瞬間爆発を起こした火球は、その膨大な熱量を全て破壊力へ転換し、生い茂る草木を焼き払う。とはいえ、元○玉(オラに元気をわけてくれー)並みにデカかったわけじゃないのが幸いしてか山火事になるようなことはなさそうだ。

 少し工夫すれば手持ちの剣でも切れないことはなさそうだけど……失敗した場合そこらに生えてる草の代わりに俺が燃え尽きちゃうので試すのはちょっと躊躇われる。というか無理。あんなの食らったらさすがに死んじゃうって!

 

「……とりあえず、これはもったいないんで刺しとくね」

『GUAAAAA!?』

 

 あの大炎上豪速球がなくなったのを良いことに前に向けて一気に跳びかかり、今しがたどかーんと森林破壊をかましてくれやがった個体の近くに降り立つ寸前、空中で身体を捻って、中途半端に刺さったまま杭のように飛び出ている短剣の先端を蹴り、より深く肉を抉る。

 さすがに首を伝って念入りに内部を穿たれた獣は重要な器官にダメージが入ったのか、ピクリと痙攣するとそれきり動かなくなった。くるりと一本だけ手元に残った短剣を回して構え直し、改めて現状を把握する。

 

 移動していたせいでお互い茂みに紛れる形になっているが、どうやらグレン先生も一匹を仕留めた模様。残り一匹はどっちを攻めようか決めあぐねて……訂正。小さいこっちを殺すことにしたらしい。実に正しい判断だクソッタレ。

 

 共闘というシチュエーションの経験が少ないせいで、援護というものは基本的に得意ではない。だがこっちに直接来るならやりようはある。避けるだけなら俺でもなんとかなるみたいだし。

 ふはははは、小さい的に全くもって当たらない苛立ちを思い知るが良いわ。具体的には俺の魔術狙撃の授業みたいにな!

 

「そーゆーワケなんで、グレン先生はレイフォードを追っかけてください」

「はあ!? お前、一人で大丈夫なのかよ!?」

「なんとかなります、てかします。……というか、ティンジェルのところには戦闘員がいないでしょうが! あんたが守んないでどうすんですか!」

「う……」

 

 ティンジェルは異能と度胸こそあるものの、戦闘には向いていない。フィーベルが一緒にいてくれてはいるだろうが、レイフォードのようなガチの白兵屋が襲ってきたら……たぶん、ひとたまりもない。

 こっちを案じてくれるのは嬉しいが、それでティンジェルを失ったのでは本末転倒だ。

 それにグレン先生は魔術でないとこいつを仕留められないが、俺はキッチリ中てればの話ではあるが短剣一本あれば問題ない。そしてその手段は既に用意してある。

 

「早く! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

「───ッ!」

 

 そう。これが最大の懸念事項。

 必殺仕事人みたくなってしまったレイフォードが、果たしてティンジェルの確保の障害となりそうなフィーベルを生かしておくのか。まして今は『兄貴』とやらも一緒にいる。たとえレイフォードが見逃したとしても、『兄貴』が焚きつける可能性だって有り得るのだ。

 

 それでようやくグレン先生も理解してくれたらしい。血相を変えて、唇を噛みながらくるりと踵を返す。その方向は、旅籠……レイフォードがついさっき向かった建物だ。

 

「……死ぬなよ!」

「さっき一匹仕留めてるしへーきへーき」

「軽いんだよ! いいな、油断はすんじゃねえぞ!? 死んだらぶん殴ってやるからな!?」

「死んだら殴れませんよ」

「いや、死体を」

「骸への慈悲はッ!?」

 

 というか雑談してないで早く行けってば!?

 

 今は一匹だけだけど、いつ増援が来るかわからないんだからさあ! ……あ、やべ。これフラグかな。

 

 鬼気迫る表情が伝わったようで、グレン先生はちらちらとこっちを見ながらもある程度離れると吹っ切れたのか、魔術も併用して姿を消した。

 よし。これであの陰気な青髪の動向は追えるな。まだこの辺にいてくれればいいんだけど───

 

『GUU……GAAAA!!』

「ああ、はいはい。無視して悪うござんした」

 

 そうだね。もうこの場には俺とお前しかいないもんね。悪かったって、そんな怒るなよ。

 

 だからそのバチバチ言ってるエレキボールやめようってば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつ増援が来るかわからないってやつ、フラグだと思った?

 

 大正解だよ。

 

「ずいぶんと大盤振る舞いしやがるなァあの爺!!」

 

 言いながら、こちらを引き裂こうと執拗に追いかけてくる爪を避けて跳び上がる。そのまま上に回って持っていた投擲用の短剣を二本、叩き込む。

 魔力放出も突っ込んでやったから元々の武器の鋭さも含めてとんでもない威力になっているはずだ。さすがに胴体は比較的柔らかいのか、コウモリの羽根を生やした獅子のような生き物はあっけなく地に沈んだ。

 

「まずは、一匹……!」

 

 地面を滑るようにして着地し、追撃のようにして放たれた火球を伏せることでやり過ごす。頭上を通り過ぎたのを確認するより早く、制服が汚れるのも構わずに転がった。すぐそばの地面を、鋭い爪が抉った。

 

「は、ぁ───ぐっ」

 

 一息つく間もなく、顔に飛んだ土をぬぐうのも忘れて跳ねるように起き上がり、地面を蹴って加速、その場から離れる。さっき派手に地面を抉ったくせに今度は追いかけながらまた○気玉を装填している。器用な真似すんじゃねえよ。キレそう(小並感)。

 もちろんくらってやるわけにはいかないので、後ろに意識を向けながら木々の合間を縫って走る。途中でポケットに手を突っ込み、魔術触媒の数を確認する。……十二。まだいける。

 

 と、数を確認したタイミングで後ろから元気○が飛んでくる気配。ちらりと流し見て確認し、避けられるギリギリのところまでステップ。ホップとジャンプはなしで。

 

「ぬおおお……うぜえ、マジでうぜえ……!」

 

 悪態をつきながらも走る。オリンピック選手もビックリの大ジャンプをかましてきたので、ぶつかっておいしくかじられる前にこちらから仰向けになってスライディングでその下へと滑り込む。腹が丸見えになったタイミングで両手を地面について、バネのように跳ね上がって蹴り飛ばした。

 くぐもった鳴き声を上げながらも獣はベクトルの方向を前から上へと変えられて跳ね上がる。素早く体勢を整え、先のキメラとは逆に真下から刺し穿つ。下敷きになる前に、短剣を殴ったばかりの拳をそのまま振り抜き、横方向に吹っ飛ばす。我ながら無茶苦茶やってんなと思うがうまくいったらしく、落っこちてくるはずだったキメラはその辺の樹にぶつかってバウンドしながら転がっていった。俺すごい。

 

 しかし敵の追跡は留まるところを知らず、今度はまた別のやつが来たらしい。遠くから元気が有り余っていそうな咆哮が聞こえて思わずゲンナリした。しかも一匹や二匹ではない。なんでそんなにぽこじゃがキメラ生やしちゃうの? 一匹でいいよ一匹で。いい加減にしてくれ。

 

 ───真面目な話、戦況は非常に良くない。敵の数がわからないこともそうだが、こっちのメインウェポンがリジルだかフロッティだか無銘のナイフだか知らんが、とにかくリーチの短いものだからだ。

 隙を見付けて急所に叩き込まないと死なない。いや、俺の実力で倒せるだけマシというものだが、魔術触媒にも魔力にも限りはある。だというのに、こちらは一匹倒すごとに最低一本は武器を消耗してしまうのだ。あっちはどんどん増援呼びやがるのに。マジ理不尽すぎるワロエナイ。

 

 魔力放出込みでぶっ放せばある程度狙いが逸れても無力化はできるのだが、そうなると消費がかさみすぎる。二枚目の切り札まで切らなくては、とてもではないがこの数は切り抜けられない。そして俺はあれをあまり使いたくない。

 レイフォードのような大剣でもあれば話は別だが、あいにくと今の俺はそんなものは所持していない。

 

「……いや」

 

 出そうと思えばアテはある。アテはあるのだが、魔力をゴリゴリ持っていかれるので武器を()()に切り替えるのなら俺はこのバケモノどもと正面きって戦う覚悟を決めなければならない。

 今までのように逃げながらどうにか隙を見付けて倒す、というのは難しくなる。なんせ替えが利かない。正真正銘の白兵戦だ。それに現段階で抜き放てば、マナ欠乏症一歩手前ぐらいまで魔力を消費することになる。

 

 ……足音が近い。樹にもたれていた俺の視界に数頭、先ほどまでとは若干ビジュアルの違う、しかし歪であることには変わりない異形の群れが映る。時間がない。

 それに、このまま逃げ続けるのも限界がある。ずっとこの獣道を全力疾走していられるほどの体力はない。その内動けなくなってしまうだろう。

 

 つまり、推奨されるのは迎撃───逃げるのではなく、その場に留まって正面から叩き潰すこと。

 どうすべきか思案しながら樹の影に隠れ、激しく鼓動を刻む心臓にそっと手を置く。荒い息を整えて、いけるか、と自分自身に問いかけた。

 

 敵の数、不明。増援の可能性、不明。味方───俺一人。

 

「……はは、上等」

 

 強がりのようにつぶやき、深呼吸。

 現状ではどっちみち手詰まりだ。

 

 なら、仕方ない。

 

「奥の手その一。切らせてもらおう」

 

 足りないのは一撃必殺を可能とする武装。不足した技量を補える威力。

 

 なけなしの魔力を捻り出して、かつてどこかにあった記録を再現する。

 長ったらしい詠唱は必要ない。必要なものは彼の魔剣のデータとそれを現世に呼び起こすための魔力のみ。

 

 大丈夫、条件は全て整っている。

 その確信だけは、なぜかずっとこの魂に刻まれている。

 

 故にこそ───その(なまえ)を呼ぶ。

 

 一時的に幻想を借り受ける。

 

 本来、己が振るうことなどおこがましい、大英雄の持つべき刃の銘を───

 

 

 

「───《破滅の黎明(グラム)》───ッ!」

 

 

 

 ───呪文と同時、ばちり、と手元に光が走る。散々見慣れた電撃ではなく、魔力───エーテルとでも呼ぶべきモノが弾けて、瞬時に形を成していく。

 

 ……うお、やっぱりゴリゴリ魔力もってかれるな。

 さっきまで使っていた短剣の比じゃない。霊基再現度はさほどでもないというのに、数値にして実に今までの(リジル/フロッティ)十倍近くに及ぶ量。最大魔力容量の約半分弱が消費される。つまり、今までにちょこちょこ消費していた今の俺に残された魔力はこれでほぼ三分の一。

 

 その代償に、英雄の剣が現世に再現される。

 赫く輝く諸刃の剣。太陽の属性を持ちながら魔剣として成立した稀有な武器───宝具。

 英雄■■■■が振るった、■■しの剣。

 

 あまりの消費量に一瞬くらっときた。それを隙と見たのか、ついに目の前に迫った合成獣が肉を裂き、骨を砕く爪と牙をこちらに向けて駆けてくる。

 ───それを防ぐより早く、前に一歩踏み込んで、逆手に持った魔剣を横に振るった。

 

『GUA、GAAA……!?』

 

 獣の駆ける速度そのままで、すれ違いながら振り抜かれた刃は骨を裂き肉を裂き命を裂いた。嚙み砕くための牙を剥き出しにしていた口から獣の肉体は両断される。べしゃり、と血と臓物が地面に落ちる。自分についた返り血を拭うよりも先に、剣を払って血を飛ばした。

 完全な再現に至ってはいないのにこれだ。この剣はあまりにも斬れすぎる。自分の技量で扱うにはいささかオーバースペック、剣に振り回されることも十分に有り得る。というか、なってる。

 

 だが、ようやく一撃で仕留められるだけの力は手にした。

 相変わらず武器の銘しかわかんないけど、お借りします。

 

「さて……俺ごときが、どこまでいけるかはわからんが。

 救出劇の幕間だ。とことんまで付き合ってもらおうか───!!」

 

 『破滅の黎明(グラム)』を武装に選択した時点で、こっちの魔力量は半分を割っている。つまりここから先は、ほとんどこれ一本で凌がなければならない。

 実力勝負、とは言えない。ここから俺がするのは、ほとんど『破滅の黎明(グラム)』のスペックをアテにしての戦い。如何にしてこの魔剣を敵にぶつけつつ、自分は生き残るかを考えるだけのものだ。

 

 武器の力に頼るようで、というか実際頼りきりで情けないが、これも世界平和のためなので許してほしい。……許されるよね?

 

 そんなくだらないことを考えながら、俺は片手に長剣、片手は無手で次の標的に向けて駆け出した。




【悲報】マジで話のストックがなくなる。

それはさておき、シグルドさんのモーションやらマテリアルやらをガン見していたのですが、シグルドさんってけっこう逆手で武器を持つことが多いんですね……。
あと結局ナイフとリジル(リディル?)とフロッティの違いがわからなくて頭を抱える。マテリアルを見る限り柄のあるなしで分かれてるみたいだけど、逸話的には柄のある方がリジルになるのだろうか……?
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