竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

16 / 63
うちのカルデアのレベル上限が概ね90だったんですけど、レベル上限120実装に伴いシグルドさんをレベル100に。ありがとう種火配布。ところでQP配布はまだですか?


16.フラグ回収ラッシュ

「くそ……間に合わなかったか……!」

 

 ギリ、と部屋の惨状を前に歯嚙みする。

 グレンが旅籠にたどり着いたとき、そこにいたのはシスティーナとルミアの二人ではなく、一人泣きじゃくるシスティーナと、苦々しい顔で佇むアルベルトだった。

 

 ボロボロになったバルコニーで、おおよその事情は察することができた。つまり、グレンが足止めされている間に、リィエルは『兄』を名乗る青年を連れてルミアを連れ去ったのだ。

 幸い、システィーナに傷はないが……それだけだ。さらには、アシュリーは足止めのために置いてきてしまっており、今どうしているのかがわからない。

 

「くそっ……なんでこんなことに……」

「───嘆いている暇はないぞ、グレン」

 

 悔しげに呻くグレンに冷ややかな声をかけたのはアルベルトだ。

 この事態にあっても冷静なあたりが実に憎らしい。

 

「リィエルは護衛対象であるはずのルミア=ティンジェルを連れ去った。しかも天の智慧研究会のメンバーと思しき人物を同伴して、だ」

「…………」

「さらに、奴は王女誘拐の前にお前と民間協力者のアシュリー=ヴィルセルトにまで刃を向け、件の天の智慧研究会の魔術師を保護した。相違ないな?」

「…………っ」

 

 鷹の瞳から目を逸らす。それを認めれば、否、認めなかったとしてもアルベルトは決定的な一言を口にするだろうとわかっていたからだ。

 グレンにも、これがグレンへの質問というよりも現状の再把握であることはわかっている。

 

 アルベルトが、次に言うであろう言葉も。

 

「───これらの状況を以て、俺はリィエル=レイフォードを完全な『敵』と見做し、もし王女救出に際して奴が邪魔立てするようであれば……これを排除する」

「……ふざけんな……ッ」

 

 ところどころに傷が刻まれた壁に拳を打ち付け、グレンは憤怒のままにアルベルトを睨み付ける。

 だが対するアルベルトはどこ吹く風とばかり、その視線を変わらず冷ややかに受け流している。

 アルベルトの言葉はその悉くが正しい。リィエルの裏切りは事実だったし、その後に敵対したことからも明らかだ。もしかすると、その場に居合わせたアシュリーさえも殺されていたかもしれなかったのだ。これを見なかったことにして、リィエルは仲間だなどと言い張ることはどんな詐欺師であろうと不可能だろう。

 

 けれどグレンはその正しさと、正しさから導かれる結論───即ち、リィエルは処断すべきという意見に頷けない。一時であったとしてもリィエルは確かに仲間だった。それに、リィエルが従ったのは───

 

「ふん。『兄』、だろう? 仮令それが本物であろうが偽物であろうが、あの女が素直にそれを認め、此方に戻ってくるとでも?」

「うるせえ……可能性の話をしてるんじゃねえんだよ、今は……!」

「可能性の話でなければなんだ。希望的観測の話か? 事態を楽観視する話か? 現実を見ろグレン=レーダス。貴様が駄々をこねて拾い上げたあの女は、今、俺たちの敵だ」

「うるせえって言ってんだろ!!」

 

 逆上したようなグレンの叫びに、室内がしんと静まり返る。

 

 しばらく、二人はシスティーナを挟んで睨み合っていたが……先に沈黙を破ったのは、グレンの方だった。

 

「……お前、どうせこれからルミアを助けに行くんだろ」

「無論だ」

「なら、俺も連れていけ。俺が、リィエルを引き受ける……いや、連れ戻す」

「奴とお前の相性は最悪と理解しての発言か?」

「知るか、そんなモン」

 

 吐き捨てて、グレンはもう一度アルベルトを見る。

 冷徹な瞳には一切の感情を見出すことができなかったが、やがてアルベルトは一つ息を吸って、

 

「ただでさえリィエルは特務分室のエースだった魔導士だ。それを相手取り、生かして説得することの難度はわかっているのだろうな」

「当たり前だ」

「いいやわかっていない。王女救出を最優先にするのならば、リィエルを救うなどという甘いことを言っていては仕損じる可能性がある。俺たちの前から何も言わずに逃げたお前に、俺にとって状況が不利になることを容認しろと?」

「それは今でも悪かったと思ってる。欲しいなら土下座でもなんでもしてやるよ。けどそれでも、譲れねえもんがあるんだよ」

「その資格が本当にお前にあるのか、グレン=レーダス」

「そんなもんねえってことは百も承知だよ、アルベルト」

 

 再び場を沈黙が支配する。議論は平行線だ。互いに互いの主張を取り下げないことは、長い付き合いの中で嫌というほど理解している。

 しかし。

 

「……条件は二つ、だ」

 

 ───先に折れて見せたのは、アルベルトの方だった。

 

「え……」

「一つ。俺はあくまでも王女救出を最優先する。二つ。そうせざるを得ない状況になった場合、俺は容赦なくリィエルを討つ。……この二点について邪魔をしない限りは、リィエルはお前に任せる」

「あ……い、いいのか?」

「ふん」

 

 アルベルトは短く鼻を鳴らし、相変わらず感情の読めない仏頂面で応じた。

 

「どうせ許可しなかったところでお前は勝手についてくるだろう。であれば、先に取り決めで縛っておいた方が幾分かマシだ」

「……は、はは……素直じゃねえやつだな、お前も……」

「ぬかせ」

 

 そうだ。そうだった。常のアルベルトは一を切り捨て九を救うと嘯く数字を信奉する冷血漢に見えて、一度仲間と認めた人物にはとことん甘いというか、とにかく義理堅いのだ……ということを、ここにきてようやくグレンは思い出した。

 先の言葉も、『いざとなればリィエルを殺す』と言っているようにしか聞こえないが、それは裏を返せば『いざという状況に陥らなければ好きにしろ』ということだ。

 

 アルベルトの回りくどい言い回しに苦笑して、肩をすくめたそのとき。

 

「ああ、それからこれは落とし前だ。食いしばれ」

「は?」

 

 アルベルトの拳が空を裂き、グレンの頬を強打した。

 

 真っ向からくらってしまったグレンは壁に叩き付けられ、「先生っ!?」というシスティーナの悲鳴がこだまする。

 

「お前が何も言わずに去っていったことはこれでチャラにしてやろう。……行くぞ」

 

 言って、アルベルトは頬を抑えて呆然としているグレンの足元にごとりと無骨な銃を放り投げると、返事も聞かずに部屋を出ていく。

 アルベルトの言葉と、投げ渡されたものの正体を理解して───グレンは笑った。

 魔銃《ペネトレイター》。グレンが軍に所属していたときに愛用していた銃器だ。どういうわけか、アルベルトはグレンがいなくなったことで倉庫で埃を被るだけだったこの銃を申請して持ち出してきていたらしい。

 

「……あっはっは」

「ど、どうしたんですか……?」

「いんや。あいつはほんとにツンデレだよなあと思ってな」

 

 魔銃を手に取り、軽く点検しながらシスティーナに笑って答える。

 ぽんぽんとその頭に手を置くと、グレンは安心させるようにいつもの人を食ったような笑顔を浮かべて部屋の外へと歩き出す。

 

「せ……先生!」

「んお?」

 

 声に振り返る。

 システィーナの手は微かに震えていたが、言うべきことが定まったのだろう。真っ直ぐにグレンを見上げると、祈るように手を組み、言葉を紡ぐ。

 

「その……えっと、こんなこと言うのって、変かもしれないんですけど……」

 

 そこで一旦途切れる。それから、そっと笑って───

 

「……ルミアを、助けて。それから……リィエルも、きっと連れて帰ってきてください」

「……おう。任せておけ」

 

 グレンはそれに親指を立てて返すと、アルベルトを追って駆けだした。

 

(アッシュ……悪い、もうしばらく待っててくれ……無事でいてくれよ……!)

 

 一人置き去りにした、生徒の安否を気にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー! OBUTSU HA SHOUDOKU DA(死ね腐れケダモノどもが)ァ!!」

 

 言いながら短剣を脳天にシュゥゥゥーーーーーーッッッ!! 超☆エキサイティン!! 哀れ正体不明のケダモノはしめやかに爆発四散。

 え、『破滅の黎明(グラム)』に切り替えたんじゃないのかって? 勝てば良かろうなんだよ、勝てば。

 

 そういうわけで、一ヶ所に留まって迎撃戦をしようと思っていたら結局あっちこっちに走らされて、しかも道中めちゃくちゃ怪しい封印を見付けてしまいそっと目を逸らしたら、封印の内側からニョッキリとこの十数分で顔馴染みになった合成獣が出てきたのを見て思わず封印叩っ斬って侵入しちゃった俺こと『脳内お花畑かよ』、『もう少し考えて行動しましょうね』とか言われそうなアシュリー=ヴィルセルトです。

 

『GUAAAAAAAA!?』

「ドやっかましい!!」

 

 度重なる戦闘で妙な方向にテンションがぶち上がった俺に敵はない。キメラがぶっぱなしてきた火球を紙一重で避け、すれ違いざまに顔面に魔力放出込みで拳を叩き込む。頬と腕を爪が掠り、浅い傷が刻まれるが構うまい。

 ぐしゃり、と内側で魔力が爆ぜ、肉が潰れる音と感覚。非常に気持ちが悪いそれから意識的に目を逸らし、懲りもせずにやってくる獲物の首を携えた長剣で斬り払い、また一体地に沈める。

 

 お世辞にも、『剣を振るっている』とは言えない状態。俺のはただ武器の性能に任せて『振り回している』……良く言えば『払っている』だけ。そこに技術はほとんどなく、レイフォードのような達人と相対すればあっという間に懐に潜り込まれるだろう。

 こんなモン振り回すとか大本(オリジナル)ってのはどんなバケモノなんだか想像もつかん。俺なんかでは比較になるまい。本人に『我が力を勝手に奮うな面汚しめが』とかって言われても文句は言えないぐらいに。

 

 だが残念ながら俺は使えるものは凡そなんでも使う主義なので、この分不相応な得物をぶんぶん振り回す傍ら、隙を見つけては短剣を投擲し、次々と()()()()()バケモノを相手になんとか切り結んでいるのだが───

 

「ジリ貧だな、こりゃ!!」

 

 封印の奥からキメラが出て来たなら、奥に行けば指示を出している大本を叩き潰せるだろうかと思って突入したのだが、なんと外であれだけ叩き売りしていたクセに内部にもうじゃうじゃと突撃待機列ができていたのだ。そうこうしているうちに退路も塞がれてしまったので、仕方なく奥へとばっさばっさ斬り伏せながら進んでいたのである。

 

 だが道を阻む魔獣は一向に潰える気配がない。

 いつの間にか地下水道へと侵入していたのか、清浄な水が脇に敷設された水路を流れているが、常であれば美しいと感じるその流れは既に血で汚れていた。

 

「次から、次へと……!」

 

 獣ですらない、蔦が人型に絡まりあったような異形をコマギレにして毒づく。

 一体どこから湧いて出ているのか、異形の群れはひっきりなしに通路に現れていた。

 

 一度顕現させてしまえばそれ以降は魔力を消費しないで済む都合上、なるべく『破滅の黎明(グラム)』のみで切り抜けたいところだが、それでなんとかなるほど敵の数と戦闘能力は優しくない。

 傷を負う代わりに残った魔力を消費していては途中で枯渇してしまって本命(いるかはわからん)とは打ち合えない。故に魔力消費は必要最低限に抑え、傷は気合いで我慢しているがそれもどこまでもつか。

 

 そろそろ打ち止めになることを期待しつつ、遠くから援護射撃をしようと構えている一体に向けて『破滅の黎明(グラム)』をぶん投げる。細長い身体をくねらせていた蛇のようなバケモノは、胴体を破壊されて破片となって水路に落ちた。

 

 『破滅の黎明(グラム)』を投げたせいで無手となったところを狙ったのだろうか、キメラが一匹こちらへと走っている。既に跳び上がった後、回避するのは不可能な位置。このままでは頭からパックリといかれてしまう。エリック! 上田!

 この一瞬で地を蹴り、限界まで加速した合成獣が、獰猛な牙を剥き出しにして哀れな獲物の肉を食い破らんと走る───

 

「ま、あんまり旨くはないだろうけど───」

 

 つぶやき、片手を構える。このままでは、短剣で迎撃したとしてもある程度の傷は免れまい。そもそもアレを作るための触媒はポケットに突っ込んでいるので、この一瞬で取り出すのは至難の業だ。なくても作れはするが、魔力消費が二倍くらいに跳ね上がる。現状でそれは非常に困る。

 

 なので、別の方法で切り抜けさせてもらうこととする。

 

『GAAAAA───!』

 

 苦悶の咆哮。穿たれたのは俺の肉ではなく獣の方だった。ヴン、という鈍い音とともに『破滅の黎明(グラム)』が独特な軌道を描きながらひとりでに宙を走り、手に収まる。

 その過程でキメラを刺し貫いた魔剣は血に濡れていたが、まあ些末事だ。トドメと言わんばかりに獣の眉間を叩き斬り、くるりとその場で振り払う。刀身の赫とは違う紅色が水滴となって地面を汚す。

 

 だが、そんな時間さえ俺には許されないらしい。

 夥しい数の骸が転がる通路の奥。大亀のような、馬鹿みたいに巨大な怪物。肉体の大部分が透き通った鉱石のようなもので構成されたそれは、見ればわかる。強い。

 

 亀は見上げるほどの巨躯を太い後ろ足で支え、こちらを叩き潰そうとその豪腕を振り下ろす───!

 

「げぇ……食らったら死ぬな、これ。しかも物理と魔術の二段構えとは恐れ入る……」

 

 振り下ろす間際、体表に埋め込まれた宝石がバチバチと唸りを上げて電撃を生み出しているのを確認して判断を下す。退避は不可能。防御は論外。であれば、攻撃。

 物理的衝撃ならどうとでもなるが、電撃をくらうのはご免被る。

 

 ステップで避けた腕が、地響きを立てて施設を揺らす。揺れから逃れるために跳び上がり、空中で一回転。そのまま重力も加味して、手に持った長剣の刃を亀の甲羅に叩きつけた。ギャリ、と聞こえる金属が擦れる音。一見弾かれているように見える───だが刃は確実に、微かではあるがその甲羅を傷付けている。

 それならいける。貫ける、斬り裂ける。そんな確信と同時に、残されたなけなしの魔力を一部、推進力に変換して放出する。

 

 狙うは速攻。また非物理攻撃なぞされてはたまらない。

 グレン先生も言っていたではないか。隊伍を組んでの魔術掃射はキツいと。

 

「押し、通、るッ!」

 

 一時的にブーストをかけられた腕が、耳障りな音を響かせながら体表に食い込む刃を押し込んでいく。一歩を踏み出す。平衡を保っていた攻防を押し切る。火事場の馬鹿力というやつだろうか。それとも俺がおかしいのか。もう一歩を踏み込む。ヒビが広がっていく。

 もう一歩。───捉えた。

 

「ぜ、ェ、りゃああぁぁぁぁああああ!!」

 

 馬鹿みたいに硬い大亀の輝く身体を、馬鹿みたいに鋭い魔剣が両断する。

 硬い分脆かったのか。あるいは衝撃に耐えられなかったのだろう。あっけなくその身を砕けさせると、大亀は断片と化して地に沈んだ。同時に、用意されていた雷撃も消え失せる。

 

 そこでようやく、今のが最後の一匹だったらしいと気が付いた。

 いつの間にか辺りはしんと静まり返り、無数の死骸だけが転がっている。

 

 どれぐらい戦っていたのかは不明だが、短くない時間をここで過ごしたことだけは確かだ。

 

「……時間、くっちまったな……いてて」

 

 戦闘時はいつでも大活躍のアドレナリンがどっかにいってしまったので、誤魔化していた細かな傷の痛みが全身から響いてくる。でもまあ、やっぱり二ヶ月前よりはマシだ。今考えるとある意味良い経験をしたと言えるのかもしれない。礼は絶対にしないが。

 

「は、ぁ───……まあ、継戦可能では……あるか」

 

 損傷具合を確認し、そう判断を下す。

 脇腹にそこそこサイズの切り傷が一つ、ちょっとした火傷がそれなりに。あとは細かな切り傷が肩やら腕やら顔やら足やらに無数についている。中傷と言っても差し支えないだろう。

 だが、だからといっていつぞやのように治癒魔術をかけるわけにはいかない。魔力が足りなさすぎる。戦闘開始前は三分の一と少しだったのが、今や四分の一、いや五分の一にまで迫っている。もうそろそろマナ欠乏症に陥りそうな状態。魔剣に名剣、ついでに魔力放出まで大盤振る舞いすれば、そうもなるか。

 

 それにしても、大量の合成獣を相手にしてしばらく時間が経ってしまったが、ティンジェルは大丈夫だったのだろうか。あの青年は『確保』と言っていたし、魔術競技祭のときのように命を狙われることはないだろうが……。不安ではある。

 

 ゴロゴロ転がってるバケモノを避けて、邪魔くさい制服のケープを脱ぎ捨てながら水路に沿って早歩きで進んでいると、不意に遠くから爆発音のようなものが聞こえた。音の響き方からして、同じ施設内での爆発のようだったが……一体なにごとだ?

 一番考えられる、というかそうであってほしいのはグレン先生が殴り込みかけに来たって線なんだけどどうだろう。別の方向から入ってきたみたいだし、ティンジェルの保護には失敗したけど追いかけてきた……というところだろうか。

 

「あー、つっかれたー」

 

 まだまだ本番はこれからだというのにこの疲労具合。今年のヒューイ先生の事件からひっきりなしに問題が起きている。休む間がマジでねえ。

 俺は平穏無事な日常が好きなだけなんだって。いい加減帰らせてくれよ。なあ。

 

 というかまた制服がダメになったんだけど。今度はズボンまで血まみれの傷だらけなんだけど。どうしてくれるんだあの天ぷら同好会。許せん。

 これ、請求したら国かなんかが補填してくれないかなあ……。さすがに無理か。

 

 ……というか、だ。

 ここまでぶんぶん振ってきて思ったけど、これ(グラム)を実際に使ってたやつってのはどんだけやべーやつだったんだ。ゴリラか?

 いや、重いとかそういうのを抜きにしても、なんていうか……この剣、とにかく()()()()()使()()()()()のだ。

 

 たとえば、めっちゃ切れ味の良い包丁があったとしよう。

 かぼちゃでもなんでもスパスパ斬れるようなやつだ。

 それは料理初心者でも綺麗に斬れて非常に良い。大助かりだ。なんせ難しいことを考えるまでもなくスパッと斬れてしまうのだから、コツを知らない初心者にはありがたいシロモノといえる。───一見は。

 

 だが、斬れすぎる包丁はまな板も、豆腐を乗せた手も容赦なく斬ってしまう。

 ある程度扱いに習熟していないと、正しく、そして効果的に使えない。それでは確かに『斬る』という単一機能の発現は問題ないだろうが、その真価は到底発揮できない。それと同じだ。

 

 ついでに言うとこれでもまだまだ序の口というか、さっきのたとえでいけば『めっちゃ斬れる包丁』が錆びついた状態だ。……なんていうのかな、使う機会がなかったせいなのか、再現度が低いというか? たぶんオリジナルはもうちょっと強いんだろうなあ、というか───

 

「まあ、仮にそうでも扱いきれるとは思えんが」

 

 なんせ『そう(弱いと)』自覚した状態でこの有様なのだ。

 レベル10のキャラクターにレベル制限50くらいの武器渡されたって器用には使えない。素が強いからレベル30くらいのスペックは発揮できている状態。実によろしくない。やっぱり鍛錬を増やすべきだろーか。

 使い慣れてないから、なんて理由で性能ダウンとか洒落にならない。いやマジで。

 

 ……レベル10って言ったけど、やっぱ30くらいまでないかな。……さすがに自意識過剰が過ぎるかな。

 

 せめて、20くらいはあると良いんだけど。

 

 ───カツカツと足音を響かせながら、長い長い水路を辿る。

 

 いつの間にか。周囲の景色は、昼間に訪れた白金魔導研究所と酷似したものになっていた。

 

「真っ黒くろすけだあ……」

 

 そりゃ、白金術とやらに必要な条件が豊かな自然……というか、新鮮な生命マナ? とやららしいので、研究施設が似通った構造になるのは当然だ。

 

 そしてここサイネリア島で、キメラを無数に生み出せるほど白金術に長けた人物など一人しかいない。即ちバークス=ブラウモン。好々爺然とした顔の裏側に外道魔術師としての貌を潜ませていたのであろう初老の男。

 そうであるのならば───なるほど、そりゃあんな大安売りするわけだ。倫理を捨てて研究を重ねていたならば、途上で発生した合成獣など掃いて捨てるほどいるだろうさ。あるいは、性能テストを兼ねていたのかもしれない。人間相手にそれをするのは、どうかと思うが。

 

 まったく、本気で嫌になる。

 外道ってのはそういう手合いだ。誰かの人生、誰かの平穏、誰かの日常を容易く破壊してみせる。

 

 ……ちょっとイラついてきた。なんでふっつーに生活したいだけなのに、こんなにかき乱されにゃならんのだ。

 

 ───ああ、帰りたいなあ。

 苛立ち交じりに、本来の性能(カタログスペック)から幾分か鈍った魔剣を担ぎ直す。

 本来ならば、神■の■■編■■■■■た■も、■■ル■■■■した■銀■■え■を、そ■悉くを容易■斬り裂いてみせる魔剣だとかなんとか。

 

 ……ダメだな。わかっちゃいたけど、どういうものなのか理解は及ばない、か。

 マジで誰だよこんなやっべー武器振り回してたわんぱく英雄は。爆誕させた鍛冶師も相当だが。

 

 まあ、いいか。

 何度でも言うが、気にしないでいいことは気にしないに限る。

 

 こっちの目標は帰ることだ。名前も知らないわんぱく英雄のことを気に掛ける余裕はない。興味はあるが。

 

「ああ、本当に嫌になる」

 

 それにしても、この事態の元凶にはこの落とし前、どうつけさせてくれようか。

 レイフォードうんぬんという話ではない。きっとなにか事情があったのだと思うし、思いたい。なのでレイフォードへのお仕置きはグレン先生に任せよう。

 

 あのお人好しのことだ。なにがなんでもティンジェルを助け出して、そしてレイフォードもちゃんと連れて帰ろうとするだろう。

 

「帰る……そう、帰る。うん……それがいい」

 

 カツカツと、足音を響かせながら水路を辿る。

 

 途中にはいくつもの分かれ道、いくつもの部屋があったが、ラスボスも姫もこういう場合は最奥にいるものと仮定し、帰るべき日常のひとかけらが囚われているのだろう部屋を目指す。

 度重なる戦闘で身体は思ったより疲弊していたらしく、一歩一歩がやたらと重い。

 それでも進むことは不可能ではない。なんとかなる。大丈夫だ。己を鼓舞して、足を動かす。

 

「……さっさと片付けて、お姫様を助け出して、帰ろう」

 

 

 

「───でも、貴方様の行軍はここでお終い。ここからは、私のお相手を願えます?」

 

 

 

 少しだけ聞き慣れた声が、耳朶を打つ。

 それと同時、いつか味わった灼熱が背中を貫いた。

 致命傷というほどではない。あの時の傷に比べれば十二分に小さなモノ。

 首を回し、それを穿ったのであろう人間の姿を確認する。

 

 黒髪、ショートヘア。

 使用人服、ヘッドドレス、ガーター。

 ああ、見覚えがある。名前も知っている。

 わからないのはそれがなぜ、俺の血で濡れたナイフで舌なめずりをしているのか。

 

「約定通り、お迎えに上がりましたわ。ご機嫌は如何? アシュリー=ヴィルセルト様」

「───は、ははは」

 

 乾いた笑いがこぼれるのは、どこかでそんな気がしていたからだ。

 時折こちらに向けられる、妖しさを帯びた視線。

 ふとした瞬間の底冷えした空気。

 ……ああ。この女と俺の道は、交わることはあるまいと。半ば本能で、理解していた。

 

「申し上げましたでしょう?」

 

 薄っすらとした光に照らされた闇の中、朱を引くように女が嗤う。

 

 それはこれまで一度も見たことがないような、とびっきりに壊れた笑みで───

 

「貴方様には、またすぐにお会いできる、と」

「……自分から来るのは、ちょっとノーカンじゃないかなあ」

 

 傷は浅くはないが致命的でもない。凶器は引き抜かれている。なんのことはない、たかだかナイフが背中に刺さった程度。肺と心臓さえ活きていれば問題はない。

 

 ぬるりとした感触が背中を伝うのを感じながら、俺は敵───エレノア=シャーレットと対峙した。

 

 冗談キツいぜ、まったく。




本家本元のグラムは振ってる本人がやべーとはいえ、オーディンの作った結界もぶっ壊すぐらいの性能があるらしい。
なお現状、アッシュが振るうのは劣化版なので『なんか切れ味がすげー剣』でしかない。それでも威力は十分。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。