竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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ひょ、評価バーが赤くなってる!と思ったらあっさりオレンジに戻っていた。いい夢見させてもらったぜ……。
それから皆様、いつも感想や評価ありがとうございます。
続きを書く傍ら、一日中ずーっと感想欄と行ったり来たりしてふへへと気持ち悪い笑みをこぼしておりました。


23.だから遺跡は苦手なんだよ

 ───雪景色を見た。

 

 一面の銀色。

 そこに、無数の人間が並んでいる。

 

 雪にはしゃぐ幼子ではない。

 かといって、雪を退ける大人でもない。

 

 剣を帯び槍を携え、硬質な鎧に身を包み、規則正しく並んだそれは───兵士。

 

 雪景色いっぱいに。

 無数とも見える軍勢が、並んでいた。

 

 そして、その中心。否、あるいは先頭。

 

 そこに、一人の男がいた。

 

(ああ───すげぇな)

 

 ぼんやりとした思考で物思う。

 

 なんとその男は、軍の先陣をきって突撃し、手に持った長剣で片端から敵を薙ぎ払っていたのだ。

 

 目の前に迫る敵を、左右を挟む敵を、前後を阻む敵を。

 

 握った長剣で、腰に提げた短剣で、肩に取り付けた半月型のパーツで、ときには拳そのもので。

 男は、その身に帯びたあらゆる技巧で、立ち塞がるなにもかもを破滅へと導いていた。

 

 英雄。

 

 まさにそんな言葉が似合う猛進ぶりだった。

 

 あれだけたくさんいた兵士を蹴散らして、

 それを誇るでもなくただ淡々としている。

 

 

 

『当方■道■■は■要。情■無■。私■■の為■■きこ■を■■■■るま■』

 

 

 

 気高き戦士。人々のためにある機構。

 

 ああ、なるほど。

 

 これが英雄。

 人を守り、人に望まれ、そして()()()()()()モノ。

 

(……本当に、すごいなぁ)

 

 子どものように憧れた。

 

 だって。

 

 それだけの力があれば、きっと───守れないものなんてどこにもないと、そう思ったから。

 

(けど───)

 

 それはともかくとして───結局、この人は誰なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「だぁぁぁ、ここでその役はありえねえだろッ!?」

 

 ばーん、とグレンが派手にカードを撒き散らす。

 その向かいでは、五枚のカードを広げたテレサがにこにこと微笑んでいた。

 

 現在はグレンがクビの宣告を受けてから一週間後、実際に『タウムの天文神殿』へと向かう道の途中。

 屋根上が二階になっている大型の貸し切り馬車、その内部。つまるところ一階部分で、見るも無残な戦いが繰り広げられていた。

 

「ふふっ、これが現実ですよ? 先生。それじゃあ、またこのメダルはいただいていきますね?」

「おー。さすがに強えなあ、レイディは」

「褒めてもなにも出ませんよ? アッシュさん」

「じゃあ俺の方から出そう。今回の勝者に、賞品のベリータルトを進呈だ」

「あら、素敵」

 

 商家の娘というだけあって仕込まれているのか、テレサは上品な手つきでぺろりとアシュリーから受け取った小振りなタルトを平らげる。しかし、このままではテレサからしか試食品の感想が聞けなくなってしまう。

 せっかくだし、上階にいる女子面子にも振る舞いに行くか───そう結論付け、完全に賭場と化している一階部分に背を向ける。

 

「くそっ、もう一戦だ! 今度は、今度こそはぁぁぁっ!!」

「これが天運を前にしたギャンブラーの末路か……」

 

 すっかりテレサの養分にされている男たちを哀れみつつ、先日学院でタルトを振る舞って以降完全にスイーツ保管用の容器と化している木箱を持って馬車の上階へ。

 吹きさらしになっているそこでは、システィーナやルミアといった顔馴染みの面々に加え、リンやウェンディも同席して談笑していた。

 

 少々場違いのように思いながらも、ひょいと片手に持った木箱を掲げる。

 

「よ、お嬢さん方。まだまだ目的地は遠いけど、食前にスイーツは如何かな?」

「わ、アッシュ君? 早速働いてるんだね……」

「おう。どういうつもりかはわかんねえけど、デザート提供役って名目で呼ばれちゃあな……あ、レイフォードには苺タルトもあるぞ」

「……!」

「がっつくながっつくな。逃げたりしねーから」

 

 待ちきれない、といった風に木箱にへばりつくリィエルをひっぺがし、食べると手を上げた女子面子に一人一つずつ配っていく。

 今日アシュリーが持ってきたお菓子は、リィエル用に作った苺タルト以外は概ねバイト先の店長と二人で作ってきた試作品だ。

 

 別枠で包まれていた苺タルト数個をリィエルに渡し、空になった木箱をそっと脇に退けてせっかく来たのだからとシスティーナの隣に腰掛け、外を流し見る。

 遺跡が乱立し、だだっ広い草原のあちらこちらで羊が草を食むその雄大な光景は、つい感嘆のため息がこぼれてしまうほどに素晴らしいものだった。

 

 少々いつもの生活とは外れているものの、のんびりとした風景は彼の望むありふれた日常と同じ匂いがした。

 

「こういう、普通の生活が俺は好きなんだよな……」

 

 決して、月に一回は襲われるような生活ではない。

 帰りたいなあ、とぼんやり口にして、まだ出掛けたばかりなのになにを言うのかと苦笑した。

 

「そういえばアッシュ、あなたこれどうやって持ってきたの?」

「ん? いやほら、そこの木箱に入れてきただけだぞ?」

 

 そう言って、横にのけた木箱を膝に置く。

 なにかおかしなところがあっただろうか、と思ったが、やはり妙なところは見当たらない。

 

「そうじゃなくて、冷蔵しなきゃいけないんだから大変でしょ? なにか魔術でも……あ、氷のルーンが刻んであるのね。

 ちょっと変わったタイプっていうか見慣れない形式だけど、オリジナル?」

 

 システィーナが、木箱の底に刻まれていた模様を見て納得したようにつぶやいた。

 ルーン文字そのものだけで魔術的効果を発動させる方法は、まだグレンには教わっていない。ごく簡単なものならば教わってはいても、長時間継続させるほど有効な使い方はまだできない。であればこそ、独学で習得したのだと考えての発言だった。

 

 だが。

 

「──────……」

「……アッシュ?」

 

 不意に黙り込んでしまった級友の姿に、少し心配になって顔を覗き込む。

 真顔のまま、凍り付いたように動かない。

 

 どくり、と妙な動悸がアシュリーの胸を襲った。

 言われるまで、自然とそれを使っていたことに全く気が付かなかった。

 

 代償がない? 本当に?

 記憶を探る。一週間余前にどこかの英雄のデータを引っ張り出したあとにしか、こういった技術を使った覚えはない。

 

 どくどくと、騒がしく鳴り響く鼓動。

 

 それを───

 

「───まあ、いいか。気にするほどのことでもないだろう」

 

 いつものように、記憶の片隅へ放り投げた。

 

 そう考えた途端、あれだけ騒がしかった鼓動は治まって、いつも通りのアシュリー(自分)が戻ってくる。

 

 そこでようやく自分の顔を覗き込んでいるシスティーナに気付いたのだろう。いつものように笑って、なんでもないと言ってみせる。

 いつものように、気にしなくても良いことは気にしないでおこう。気にしなくても良いことに、わざわざ思考を割く必要はないのだから。

 

 ───本当に。

 

 どこから見ても、誰が見ても、それはいつも通りのアシュリー=ヴィルセルトの顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 すっからかんになった木箱。ここからは、長期保存ができるように予め作ってきていたお菓子を少しずつ切り崩していくことになるだろう。

 幸い冷蔵保存はこの木箱……いつの間にか氷のルーンなんてものが刻まれていた簡易冷蔵庫があるからなんとかなる。いやあ、びっくりした。いつの間にできるようになったんだろう。いや、心当たりはあるというかありすぎるけどね?

 

 まあ、死ぬわけじゃなし。別に気にしなくても良いだろう。……たぶん。

 

 ちなみに現在は一人一人からの感想を書いた手帳をカバンに仕舞っているところ。

 レイフォードは「おいしい」としか言わなかったが。

 

「なあ、フィーベル。F級って霊的なやつって出ないんだよな?」

 

 少し気になって、こういうことには一番詳しいであろうフィーベルに聞いてみる。

 フィーベルは少し考えてから、こくりと小さく頷いた。

 

「霊的なやつって……狂霊とかのこと? そうね、『タウムの天文神殿』の現在の等級はF級……実習ですら使われないくらい危険度の低いものよ。そうそう出ることはないと思うわ。もっとも、何年も放置されているみたいだから今は変わっている可能性もなくはないけどね。どうして?」

「や、幽霊っていうか……普通の肉体がないモノが少し苦手でね。気になっただけ」

「ほっほーう。それはつまり、お前は幽霊が怖いと!?」

「うわどっから出たんだあんた!?」

 

 一階に続く階段からにゅっと顔を出してくるグレン先生。大方、負けに負け続けて気分転換、といったところか。

 

「怖いんじゃないですよ。一応、ぶった切れば死ぬし」

「リィエル並みの脳筋思考やめない?」

 

 やかましい。

 

「じゃあ、なんで苦手なんて言ってるんだよ」

「あー……あいつら、なんでか俺に寄ってくるんですよね。昔師匠に地下墓地(カタコンベ)に放り投げられたことあるんですけど、キリがないし墓地を出ても寄ってくるしで……」

「マジかよ……誰だか知らねえけど、お前の師匠って相当なロクでなしだな」

「同感です」

 

 本当、ロクでもないというか常識がないというか遠慮がないというか。

 あの爺さんと過ごした思い出の大半が修行というか、修行と称した理不尽なイジメの数々なのはどうかと思う。

 

 まあ、感謝はしてるけどね? 感謝はしてるけどやっぱりどうかと思う。

 

「……あれ、このルート違くないか?」

 

 ふと、濃くなった緑の香りに周囲を見る。

 今回の遺跡は意外と近場で、帝都とフェジテを繋ぐ街道に沿って移動する手筈だった。なのに気が付けば、辺り一面にわさわさと木が生えている。一応、中を突っ切るのではなく、森に沿って移動してはいるが……うん、どう考えても本来のルートとは違います。本当にありがとうございます。

 

 と、言ってる場合じゃねえや。

 フィーベルが御者さんに声をかけてるけど、既に木々の隙間からはちょこちょこ狼が這い出してきている。

 

 あ、シャドウ・ウルフじゃん。

 

「シャドウ・ウルフ……!? こんなところにいるなんて聞いてない……! ちょっとあなた、どういうつもりなんですか!?」

「…………」

 

 声を荒げるフィーベルにも構わず、御者さんは馬の手綱をきつく握ったままだ。

 まずいなこれ。この前ボッコボコにしてやった俺はともかく、実戦経験のない他の生徒にはちと荷が重い。

 

「ぎゃあああーーー!? 足くじいたッ!!」

「あんたなにやってんのほんと」

 

 下を見れば、窓から颯爽と登場したグレン先生が足首をさすりながらゴロゴロ地面を転がって……ああいや、違うなあれ。銃持ってら。……え、銃?

 いつの間にそんなおっかないもん手に入れてたのあの人?

 

 だがいかに銃と言えども、対する敵は十数匹。これはさすがに助太刀すべきかと転落防止の手すりに足をかけた───そのときだった。

 

「……おお」

 

 なにやら耳慣れない───まあ、ヘッポコ魔術師の俺からしたら知ってる呪文の方が少ないが、を唱えた御者さんがなにやら業物っぽい剣を握ってバッサバッサと狼の群れを斬り伏せ始めた。

 すごいな、あれ。見ればわかるけど、なんていうか神懸っている。達人なんてレベルじゃない。俺はもちろん、今まで会ったことのあるどんな剣士よりもその御者さんは強く、その剣筋は美しかった。

 

 もう一度、すごい、と意図せぬままに言葉がこぼれた。洗練された動きは一切の無駄がなく、風を切る音さえ聞こえない。

 

 見惚れている間に、周囲にいた獣は一掃されていた。

 

「白魔改【ロード・エクスペリエンス】……物品に宿った持ち主の記憶を再現し、自らに憑依させる魔術だ。あの剣はかつて帝国史上最強と謳われた剣士の愛剣でな。それを読み取ったあいつは、疑似的に帝国最強の剣士になれるってわけだ」

「へえ……そんな便利な魔術が」

「白魔儀に確かにそういう魔術はありますけど……それを、たった三節の詠唱でやってのけるなんて……あの御者さん、一体何者……?」

「ん? なんだ、わからないのか? こんなふざけたことができるやつなんざ、帝国広しと言えどもあいつくらいなもんだろうよ。なあ?」

「ははは、そう褒めるな。なにも出ないぞ?」

 

 グレン先生の言葉に、シャドウ・ウルフにローブを斬り裂かれた御者さんが笑う。

 

 豪奢な金髪、鮮血のような紅い瞳。見事な曲線美を強調するような黒いドレスを身に纏ったその女性は、そう。

 

「アルフォネア教授───!?」

「や、諸君。元気に魔術師、やってるかい?」

 

 セリカ=アルフォネア。

 大陸最高峰の魔術師と名高い第七階梯(セプテンデ)が、からからと剣を片手に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて。そんな一幕のあと、グレン先生と御者役を交代したアルフォネア教授は馬車の中に陣取っていた。

 

 さすがに人外の領域と言われる第七階梯(セプテンデ)を前にしては緊張してしまうのか、いつもこうした微妙~な空気のときには率先して声を張り上げるカッシュも今日に限っては大人しい。

 

「へえ。じゃあアルフォネア教授はグレン先生の親代わりでもあったんですね」

「ああ。昔のあいつはそりゃも~かわいくてな。今はヒネちゃったが」

 

 俺? 俺は暇だしせっかくだからとアルフォネア教授とちょこちょこお話してるよ。

 

 ついさっきなんか、『お前は肝が据わっているな』と呆れてるのか褒めてるのかわからない一言をいただきました。第七階梯にも認められる俺の図太さよ。

 

「ん……セリカ? いたの?」

 

 もそもそと、馬車のすみっこでぐっすり快眠していたレイフォードが目を覚まし、器用に座席を乗り越えてアルフォネア教授の隣に飛び乗り、子リスかなにかのように頬を寄せた。

 ……こうして見るとマジで小動物だな。その実態は大剣を振り回すゴリラも真っ青な子リスだが。

 そしてアルフォネア教授の方も、そんなレイフォードのことは憎からず思っているらしい。よしよしと頭を撫でてやっている。

 

「……なに、読んでるの? セリカ」

「んー? これはな、『メルガリウスの魔法使い』って言ってな。なんとグレンの昔の愛読書だ」

「グレン先生の……い、意外だわ。あの人なら真っ先に『くだらん!』とか言って切って捨てそうなものなのに……」

「はは、言ったろ? 今はヒネちゃった、ってさ。昔のあいつは典型的な魔術大好きっ子でな。正義の魔法使いになるんだ! って、日夜魔術の勉強に励んでいたもんさ───」

 

 そうして語られたのは、アルフォネア教授とグレン先生の穏やかな日々。

 

 とある事件に巻き込まれて天涯孤独になったグレン先生を、アルフォネア教授が拾って育てたこと。

 料理が下手と言われてめちゃくちゃ練習したとか、子どもだったグレン先生に逆に世話をされたこともあるとか、拳闘の才能はあるのに才能ゼロの魔術に傾倒していったことに呆れてたとか、他にも色々。

 

 なんでもないことのように語ってはいたが、かつてグレン先生に贈られたという赤魔晶石を見つめるアルフォネア教授の目は優しくて、そんななんでもない日々をこそ愛おしんでいるのだと……なによりも雄弁に語っていた。

 

 そのあと、グレン先生にも色々あって、初めて会った頃のような死んで一ヶ月経った魚と化していた……という話を最後に、アルフォネア教授は口を閉ざした。

 

 グレン先生を本当に大事に思っていることが伝わったからだろう。馬車の空気はいつの間にか和らいでいて、怯えていた連中も消極的ではあったが先ほどまでよりはよっぽど自然に話しかけるようになっていた。

 

「……いいねえ」

 

 ぼんやり、沈み始めた太陽を遠目に眺めながらつぶやいた。

 

 ───なんでもない日々というのは、尊いものだ。

 

 退屈で平穏な日常なんていうものは、どこか誰かの気まぐれで、あっさりと摘み取られてしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そんなこんなでやって参りました『タウムの天文神殿』。

 到着した当日はキャンプの設置に費やし(ついでにグレン先生がフィーベルに吹っ飛ばされるなんてこともあったが、まあいつものことなので割愛しよう)、翌日、日が昇ってから遺跡内を探索しようという運びになった、の、だが───。

 

「グレン先生とフィーベルの噓つきっ! めっちゃ幽霊いるじゃん!」

「俺は悪くねえ! ここを放置し続けた魔術師が悪いんだよォ───!?」

「二人とも、言ってないで早く次構えて! 早く!」

 

 現在の俺たちの所在地は、『タウムの天文神殿』内部。

 

 ひっきりなしにやってくる狂霊を前に、ひたすら駆除作業を行っている真っ最中なのであった。

 

「げえ、まーたこっち来た……ったく、面倒くさいなあもう!」

 

 ひゅん、とポケットからいつものように触媒を引っ張り出し、短剣を二振り手元に作り出す。以前に霊基再現率……具体的にどういうものかはいまいちわかっていないそれを引き上げた影響か、以前よりもスムーズに、かつ低コストで喚び出せるようになった短剣を構え、先陣を切って狂霊を葬っていく。

 本当は『破滅の黎明』でもあればもう少しお手軽に斬り捨てられるんだけど、消費が軽くなったとはいえリジルやフロッティに比べれば格段に重いことに変わりはない。ここは温存。

 

 魔力でこの世に再現しているせいなのか、【ウェポン・エンチャント】をかけた武器のように狂霊を相手取ることができるとわかっていたのは僥倖だった。数年越しに地下墓地(カタコンベ)での経験が活きた形である。

 

 まあ、正直それでもフィーベルとかの方が戦力にはなるんだけど。

 

 【マジック・バレット】とかの無属性系統の魔術のおかげで、フィーベルたちは片っ端から狂霊を粉砕できる最大戦力と化していた。

 

「アッシュ、どいて! 《魔弾よ(アイン)》ッ、《続く第二射(ツヴァイ)》、《更なる第三射(ドライ)》───ッ!」

「お前さあ、どいてって言いながら撃つのどうかと思うよ!?」

 

 地面を蹴って背面宙返り(バク転)。無駄に被弾する前に後ろに下がる。瞬間、無数に飛来する魔力弾。圧倒的物量に軽く引いていると、光の弾となった魔力の塊が勢いよく狂霊を撃ち抜いていく。

 こっちが三匹くらい倒す時間の半分以下で、あっという間に大量の敵が吹っ飛んでいった。魔術すごい。

 

「お前、なにそれ!? かっちょいいな!」

「お褒めの言葉ありがとうカッシュくん! でももう少し俺のことも考えてほしい、さっき腕掠めていったから!」

「すまん!」

 

 そういえば三人娘とグレン先生以外には見せたことなかったか、これ。

 ぶっちゃけ剣の腕も立つレイフォードと違って、魔術触媒がないと消費がそこそこ重いし、ついでに言うと俺の剣の腕はそこまででもない。劣化版レイフォード、と件の狂人に言われたが、まったくもって正しい所感と言わざるを得ない。

 

 ……と、集中集中。

 

 さっきから俺が突っ込むだけでバラけてたはずの狂霊がわさわさこっちに集まってくるので、『俺が突っ込む』→『一ヶ所にまとめつつ時間稼ぎ』→『魔術で一掃』、という流れでわりかし効率良く駆除ができている。

 

 いや、ほんと不本意なんだけどね。

 

 こればっかりは昔から変わらない体質なので。

 

「よっ……と。これで終わりかな?」

 

 最後に運良く一斉掃射を免れていた狂霊を斬り倒し、念のために短剣をそのまま腰のベルト……正確にはベルトを通す穴につけた金具に引っ掛ける。

 ナスカン、というのだったか。それに似た金具なので、引っ掛けるのは簡単だ。

 

 おかしいよね。なんでこんなことになってるんだ?

 安全だって言ったじゃないかー。

 

「放置されてたせいで狂霊が湧いてたんだな……さすがに、今回ので等級が一つ上がるだろうが」

 

 とは、後ろで見守っていたアルフォネア教授の言である。

 

「ったく、どんだけ放置されてたんだっつの!」

「アルフォネア教授のおかげでとんぼ返りにならなくて済みましたね……」

「ふっふっふ。まあ、お前らも大したもんだ。デコイ(オトリ)があったとはいえ、実戦経験のない生徒があれだけ戦えれば上出来だよ。さすがはグレンの教え子だな!」

「アルフォネア教授まで俺をオトリ扱いするんですか……?」

 

 いや、実際その通りだったけどさあ。

 

「でもなんつーか、システィーナとアッシュ……いつの間にそんなに強くなったんだよ? 物怖じしないし、冷静だしよ」

「アッシュに至っては敵に囲まれてばっかりだったよね……怖くないの?」

「いや? 全然。……まあ、ここ最近バカみたいに強いのと戦ってるしなあ……」

「ああ……そういえばあなた、やたらと事件に巻き込まれては病院に叩き込まれてましたわね……」

 

 ほんとね。

 なんでこんなに巻き込まれてるんだろうね。

 

 あ、グレン先生とティンジェルは責任感じることないからね。悪いのは全部天ぷらと狂人だから。

 

「けどま、しばらくは湧かないだろ。……奥の方にいるであろうやつまで片してやったからな……」

「……なんていうか、お疲れさま」

 

 フィーベルからの労い……という名のタオルを受け取り、微かに滲んだ汗を拭く。

 

 さて……今日からの遺跡探索、本当に無事に終わるといいんだが。

 

 先は長い。




シグルドさんの使ってる原初のルーンって、概ねブリュンヒルデさんのと同じってことでいいんだろうか……?(蒼銀4巻と北欧異聞帯を読みつつ)
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