竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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とことん活躍しねえなあこいつと思いつつの難産25話。すまない……たぶんそろそろ(ようやく)ウォーミングアップが終わるから許してほしい……メンタルよわよわマンで本当にすまない……。
今回はほぼつなぎなので面白みと新鮮みと脈絡はないです。たぶん。


25.あの、まだひと月経っていませんよ?

 アシュリー=ヴィルセルトという人物についてどう思うか?

 

 グレン曰く、なに考えてるんだかわからない。

 システィーナ曰く、どんなときにも緊張感がない。

 ルミア曰く、いつも楽しそうで寛容でノリが良い。

 リィエル曰く、よく笑う変な人。

 

 などなど。人によって答えは変わるだろう。

 

 だが、二組であれそれ以外のクラスであれ、ほとんどの人間はおそらく一度はこう答える。

 

『いるんだかいないんだか、いまいちわかんないやつ』

 

 と。

 

 いつもクラスのどこかで笑っているが、逆に言えば固定の居場所を持たない。

 

 その在り方は空気のようだ、と言えなくもない。あるいは現世に縁薄き幽霊か。

 

 クラスの雰囲気には馴染んでいるのに、存在が馴染んでいない。

 

 別にアシュリー本人が皆を遠ざけようとしているわけではない。

 

 ただ、何故か───同じ場所にいるのに、まるで別の場所にいるようだ、というだけの話である。

 

 言い換えればそれは、『いてもいなくても変わらない』ということ。

 

 いるのに、いない。

 

 それが、アシュリー=ヴィルセルトという人間への評価だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 六日目。

 

 三日目以降も順調に調査を進めた俺たちは、本日ついに最後の調査対象……大天象儀(プラネタリウム)場を調べるという段階までこぎつけた。

 それ以外の場所は調査を終えているので、今日がこの長かった旅の終わりと言えるだろう。

 

「───……でね、この大天象儀場の装置には文字通り巨大プラネタリウムとしての機能があって、どうしてそんな機能があるのかといえば古代の人々はなにかと空を大いなるものと崇めていて、あっこれを星辰信仰って言うんだけど───」

「わ、わかった。わかったから落ち着いてくれ、フィーベル。俺の耳と頭がそろそろキャパオーバーで破裂しちまう」

 

 思いつくままにまくし立てるフィーベルを宥めつつ、懲りもせずに湧いて出る狂霊をサクッと成仏させる。

 ああいや、正確には幽霊じゃなくて実体を持って暴れる妖精だか精霊だかなんだっけ? ちゃんとした妖精にはお目にかかったことがないが。

 

 いずれにせよ、理由もなく暴れられるとこっちはいい迷惑だ。運がなかったと思って諦めてほしい。

 

「───それからね、この天空の双生児(タウム)っていうのが……ちょっと、聞いてる?」

「ふぁ……ん? ああ、聞いてる聞いてる。天空のタンゴとは洒落てるな」

「踊るなっ! もう、真面目に聞いてよね!」

 

 専門的な話が多くて理解がおっつかないんですよこっちは。

 

「まったく……そんなに気が抜けてて大丈夫なの?」

「大丈夫っつってもな……ここしばらく、狂霊も打ち止めなのかほとんど出てきてねえし。あとはプラネタリウムを調べるだけなんだろ?」

 

 むしろなにが起こる余地があるというのか。

 

 なんか隠された機能が発現して本当に時空間転移魔術が発動でもしない限り安全だと思う。

 

「そうだけど……これは遠足じゃないの。危険度は低いとはいえ、ここもれっきとした古代遺跡なんだから。そりゃあ、『タウムの天文神殿』に罠が仕掛けられているって話は聞いたことないけど……」

「だろ? 気にしなくても良いことは気にしないに限る」

「少しは気にしなさいって言ってるの!」

 

 へーいへい、と。

 

 お説教モードに入ったフィーベルからそそっと目を逸らし、大天象儀場があるという通路の方へ向ける。

 遠くに見える出入口は、初日に見た第一祭儀場の入り口が一番似ているだろうか。おそらく内部もドーム状になっているんだろう。

 と、相変わらず眠そうな顔で歩いていたレイフォードがこっちをじろっと見ていた。なんだろう?

 

「アッシュ。気が抜けるのはよくない」

「……レイフォードにも言われるとは……え、俺ってそんなに緊張感ないように見える?」

 

 うん、と二人揃ってこっくりと頷く。

 マジかー。

 

「でも、大丈夫。なにかあっても、わたしがみんなを守る」

「お、おう。頼もしいな、レイフォードは」

「ん。アッシュも守る」

「あれ? 別枠に置かれた……?」

 

 今の言い方だと『みんな』に俺は入ってなかったよね?

 

「……ことばのあや」

「……そうか」

 

 たどたどしく言うと、レイフォードはふいっとそっぽを向いてしまった。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。

 一応、レイフォードもこっちを仲間だと思ってくれていたんだろう。……無論俺がそう思っていなかったわけではない。

 

「悪い悪い。頼りにしてるからさ、そんな顔しないでくれ」

「…………」

「レイフォードってば」

 

 ぷいっ。

 ……どうやら完全に拗ねてしまったようだ。仕方ない、忘れてくれるのを待とう。

 

「ほう……? このだだっ広い部屋が、『タウムの天文神殿』が誇る大天象儀(プラネタリウム)場か……」

 

 ふと聞こえたグレン先生の声に前を向くと、いつの間にか入り口は目の前に迫っていた。ぼんやりと内側が照らし出されている。

 今回は幻聴もなく、みんなで内部へと突入する。

 

 内部は今まで見てきた祭儀場などとそう変わりはなかった。違うところがあるとすれば、それは純粋な広さと中心に置かれた装置だろう。

 

 天秤のような形をしたその装置こそ、この『タウムの天文神殿』の名物にして最大の謎。やたらと豪華なプラネタリウム装置なのだった。

 

「あの……先生? せっかくですし、星空を見てみませんか?」

「はぁ~? 面倒くせえなあ……俺、それよりも論文の構想を練っときたいんだけど……」

「いいじゃないか。そんくらい、あとで私が手伝ってやるよ。またとない機会なのも確かだし、やってみたらどうだ?」

 

 ……む、プラネタリウムか。

 実際に見てみたいというフィーベルの意見に同調するわけではないが、確かに興味はある。

 

 なんせ名物とまで言われるほどだ。そんじょそこらのプラネタリウムとは違う……と、思う。

 そんじょそこらのプラネタリウムとか、存在すら知らないが。

 

「くそ……古代語の文法はこれだから……うぜえったらありゃしねえ」

 

 ぶつくさと文句を垂れつつも、グレン先生が論文を片手に装置の横にあった黒い石(モノリス)を操作していく。

 

 すると───

 

「───へえ」

 

 一瞬の暗転ののち、一気に部屋の中が明るくなる。

 

 天井や壁に映し出されたのは満天の星空。人の営みに関わりなく運行する、ソラに輝く光たち───

 

「……さ、ひとまず星空観賞はここまでにしよう。なあに、別に一回限りってわけじゃないんだ。全部終わってからまた見ればいいさ」

 

 アルフォネア教授のセリフとともにぷつん、と星空が消える。まるで世界が一つ消えてしまったかのような寂寥感に、小さく息を吐きだした。

 名残惜しかったのは他の面々も同じだったらしい。しばらくぼけっとしていたが、やがて自分の仕事を思い出したのかまばらに散っていった。フィーベルだけはアルフォネア教授にあの天象儀(プラネタリウム)装置を調べてもらうよう頼み込んでいるようだが……。

 

「と、俺も仕事しないと……」

 

 このだだっ広い部屋に隠し通路なんぞあるのだろうか、と思いつつ壁際で手を動かす。

 定番なのは叩いてみて音を聞いたり、といったところだが、軽く殴ってみてもゴンゴンとしか鳴らない。……うーん。やっぱりそれっぽいのはねえなあ。空間が歪んでるって話だし、まともな手段じゃ見つからないのかもしれない。念のため魔術で探るも、やはり手ごたえはナシ。まあ、高名な魔術師も調べ尽くしたっていうし、俺ごときの魔術じゃ気付けるはずもないか。

 

 フィーベルに頼まれたアルフォネア教授による天象儀(プラネタリウム)装置の解析もちょうど終わったようだが、あのアルフォネア教授をもってしても新しい発見はなかったらしい。残念。

 

 で、だ。隠し通路を探すように指示したグレン先生曰く、この神殿が本当になにかしらの魔術的機能を持つ儀式場なら、どこかにそれを制御するための『玄室』とやらがあるらしい。ところで玄室ってなんですか、と聞きたい衝動に駆られたが、当人はアルフォネア教授と一緒になにやら話しているようなのでやめた。

 ……諦めきれないのか、フィーベルが未練がましく天象儀(プラネタリウム)装置をじっと見ていたのが少し気になったが、フィーベルのお祖父さんはこの『タウムの天文神殿』に並々ならぬ執着を燃やしていたらしいし……その志を継ぐフィーベルも、この遺跡には強い想いがあるんだろう。

 

 そんなことを考えながら、ゴンゴン、ゴンゴンと片っ端から魔術も併用しつつ調べていく。

 

 ……むう。面白いくらいになにもないな。

 

 もう少しなにか、面白いものがあればやる気も出るんだが───

 

「……ん?」

 

 キン、という音に顔を上げる。ふと気付けば、部屋の中心にある天象儀(プラネタリウム)装置がぐわんぐわんアームを振り回し、先ほどのように部屋中に星空を描いていた。

 何事かと少しだけ壁から離れ、ぎゅんぎゅん動く装置を眺める。星空が早送りのように勢い良く進行し、同心円を形作っていくその光景は幻想的というよりどこか不気味で……う、そんなこと考えてたら酔った。アームの動きを追いすぎたか……。

 

 目を閉じ、くらくらする頭を振って意識を切り替える。

 少しだけ壁に寄りかかろうと、目を閉じたままでさっきまで殴っていた壁へと手を伸ばして───

 

「アッシュ! だめ!」

「レイフォー……え?」

 

 手は壁をすり抜け、勢いのまま突き抜けた。想定されていた支えを見失った身体がぐらりと傾ぐ。

 瞼を開けて前を見ると、そこには操作モノリスのそばで呆然としているフィーベルとティンジェル、大口を開けてこっちを見ているグレン先生、真っ青な顔で俺の後ろを凝視しているアルフォネア教授と……こっちに向かって走りながら、手を伸ばすレイフォードがいた。

 

 え、なんだこれ───と困惑のままに頭上を見上げると、そこにあったのは天井ではなく蒼い光で編まれたカーブ。

 緩く弧を描くそれの両端は床に真っ直ぐ向かっていて、遠くから見ればまるで扉のような形をしているのだろうと理解した。

 

 そんでもって俺の身体は現在『扉』の中へと傾いている。

 

 ……それってまずくない?

 

「ちょ、なにゆえ───!?」

「はやく、手を───!!」

 

 レイフォードが駆けてくる。だが悲しいかな、入り口を警戒していたレイフォードと、入り口から一番遠い壁際にいた俺とでは致命的に距離がある。

 

 完全に意識の外で起こった出来事に、俺は成す術なく───

 

「待っ───」

 

 よろめいた拍子に完全に扉の中へ入ってしまったことに気が付いた瞬間。

 ぶつん、と、目の前で『扉』が弾けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッシュ……! くそ、なにがどうなってやが───セリカ!?」

 

 アシュリーが謎の『扉』の向こうへと転げ落ちた数瞬後、再び同じような造形の『扉』が開き───セリカが、それに向かって駆け出していく。

 

 ホシノカイロウ、というワードだけを残して、セリカまでもが『扉』の向こうへ消えていく。

 

 残されたのは、あまりにも唐突な出来事に放心している二組の面々だけだった。

 

「どういうつもりだあの耄碌ババア……ッ!? ちっ、とりあえずお前らこっちこい! 一回出るぞ!」

「そんな、先生……二人はどうするんですか!?」

「なにが起きてるかわからなさすぎる! とにかく一度撤収だ!」

 

 チラチラと不安そうに大天象儀(プラネタリウム)場を見る生徒たちをまとめ、遺跡の入り口にある野営地へと退却する。

 落ち着きのない生徒たちを各々のテントに押し込むと、グレンはシスティーナとルミアを音声遮断の結界を張った自分の天幕に呼び出した。もちろん、直前まで操作モノリスに触れていた二人に話を聞くためだ。

 

 まあ、大方の予想はついているが───

 

「さーて……お前ら、なにをした? あの『扉』は、明らかにモノリスの操作で開いた……すぐ近くにいたお前らが一番、なにが起きたのかには詳しいはずだ」

「は、はい……」

 

 顔面蒼白なシスティーナから聞いた話によれば───案の定、あのモノリスを操作したのはシスティーナだった。

 しかし、それは少しだけ正確な表現ではない。システィーナは元々操作しようなどというつもりは毛頭なく、ただルミアの能力───『感応増幅能力』と呼ばれる、触れた相手の魔力と魔術を強化する異能……のアシストを受けた魔術機能の解析・分析の術を使って、セリカが見落としたことが少しでも見付からないかと思っただけらしい。

 

 だが結果として、システィーナは装置の裏に走る今まで全く見えなかった得体の知れない術式の存在に気付き、動揺のままにモノリスに触れてしまい───偶然、『扉』が開いてアシュリーを飲み込んでしまったのだという。

 級友が暗がりに飲み込まれるのを見たシスティーナはさらに動揺し、咄嗟に開き直せないかと再びモノリスに触れてしまった。……その結果、失踪者が二人に増えてしまったが。

 

「ごめんなさい……私が……私がこんなことしなければ……!」

「ううん、システィ……私も、軽はずみに力を使ったりしたから……」

「いや、それはいい。過ぎたことだし、こういう新発見を探してたわけだしな。問題は……アッシュと、あのババアだ」

 

 もちろん、気になることが全くないわけではない。例えば、ルミアの能力。『感応増幅能力』だとは言うが、そもそも『感応増幅能力』は魔力のブーストを行うだけの異能だ。今回のように、『不可能を可能にする』ものではない。

 

 遠征学修の一件……『Project:Revive Life』でのこともそうだ。あのとき、ルミアを救出するために突撃したグレンが見たものはリィエルの複製体……『Project:Revive Life』の成功例だった。

 だが、オリジナルのリィエルとは違い、彼女らは生まれるはずのない存在だった。あれはリィエル───もとい、イルシアの兄ことシオン=レイフォードがいて初めて成し得る禁呪だったのだ。シオン亡き今、成功する道理はない。

 

 だが、ルミアはそれを可能にした。

 これはもはや、ただの『感応増幅能力』にできることを超えている。

 

「……話を戻すぞ。あの『扉』……ありゃどう見ても、ワープゲートの類だ。つまり、あの二人はどっか別の場所に飛ばされた可能性が高い」

 

 アシュリーとセリカが同じ場所にいてくれれば良いのだが……なんとなく、お互いに別の場所にいるだろうという気がしている。

 あの二人が通った道はおそらく、別々のものだ。そうでなければ再び『扉』が開いたあのとき、内側からアシュリーが飛び出してきてもおかしくないのだから。

 

「白猫、ルミア。お前らは扉の開閉だけ……ああくそ、俺一人でできるか……? わけわからん場所に飛んでった二人を連れ戻す……? 三流魔術師なんだぞ、俺は……!」

「先生……」

「グレン。わたしも行く」

「……リィエル?」

 

 真っ先に同行を告げたのはリィエルだった。

 無表情に薄っすら苦悩のようなものを重ねて、それでも真っ向からグレンを見ている。

 

「セリカも、アッシュも……一人にしたら、だめ。

 たぶん、二人とも……迷子になる」

 

 リィエルの言うことは、要領を得ないあやふやなものだ。

 

 だが、リィエルの言が理路整然としていたことなど今まであまりないし───そのわりに、勘だけはよく当たる。

 

「……本当は、根拠がほしいところなんだが。つか迷子ってなんだよ」

「ん。気にしない、気にしない」

「アッシュみてえなこと言ってるんじゃねえよ……ったく、仕方ねえなあ」

 

 がしがしと、面倒そうに頭をかきむしり、しばらく三人をじっと見つめる。

 

「お前らは……って、リィエルと同じみたいだな」

「……はい。私も連れていってください、先生」

「わ、私も! 今回の件は、私の責任だし……!」

「はあーーー……しゃーねえか」

 

 特大のため息をついて、火薬やら銃弾やらが詰まった荷物に手を伸ばす。

 

「あのババア一人なら俺でも連れ戻せるが……あの緊張感ゼロのおとぼけ野郎まで探すとなりゃ、さすがに手が足りん。……手伝ってくれるか」

 

 三人の答えは、聞くまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右を見る。誰もいない。

 

 左を見る。誰もいない。

 

 後を見る。道、既になく。

 

 前を見る。───屍体、無数に。

 

「あっはっはっは……はあ」

 

 どうしてまたこんなことになるのか、ちょっと世界とやらに問い質したい気分だった。

 

 誰もいないというのは、ある意味でありがたくもあるのだが。

 

「本当、もうやんなるよね」

 

 いつものようにくるりと短剣をもてあそぶ。

 

 苦戦はするまい。目の前にいるのはただの死肉の群れにすぎない。

 

『アァ……憎イ……憎イ……憎イィィィイイイイイ!!』

 

 なにやらひっきりなしに騒ぎ立ててはいるが、聞くに値しない。ただの死者の戯言だ。

 

『何故……何故、何故、何故ダァ!! アノ女……アノ女ノセイデ……何故ダ!! 何故ダァアアァァァアアアア!!』

「質問してるのか恨み言述べてんのかどっちかにしてくれない?」

 

 壁から無数に湧いた腕を叩き斬る。

 何故だと? こっちが聞きたいくらいだ。

 淀んだ空気のせいだろうか。どうしてか無性にイラついている。

 自分らしくもないと毒づきながら、遠くからやってくる団体客に舌打ちする。

 

「どいつも、こいつもさあ……」

 

 何故、何故、何故、何故。

 さっきから聞こえるのはそればかり。

 たまに違う言葉を吐いたかと思えば恨み言。

 

「あのさあ、わかる? 俺は一般人なの、ごくごく普通の凡人なわけ」

 

 足を掴もうとした腕を踏み砕く。

 食い千切ろうとしてくる口ごと頭蓋を叩き割る。

 躊躇はない。容赦もない。立ちはだかるのなら粉砕するのみ。

 

「こっちはな。早いとこ終わらせて、帰りたいだけなんだよ」

 

 首に取りすがる腕を無視して首を斬り落とす。

 帰る。帰りたい。帰らないと───どこに?

 それは、そう。あたたかな日常に。

 

「だから……アレだ」

 

 いつの間にか使えるようになっていた(きっと昔から知っていた)記号を指で描く。

 

 知識が浅い。経験も足りていない。本来のものとは比べるべくもないだろう。

 であるにも関わらず相当量の魔力が吹っ飛んでいったが、今はそんなものどうでも良い。

 

 

 

「さっさと死に直せ、有象無象」

 

 

 

 氷結。

 

 存在固定の術を施された遺跡の壁こそ凍てつかせられずとも、

 無数に湧き出る骸を貫くにはなんら不足はない。

 

 見知った光景の焼き直しも、ここまでくると退屈だ。

 

 恐怖はない。

 

 あるのは苛立ち。

 

「八つ当たり、させてもらうぞこんチクショウ───!!」

 

 今年が始まってから早数月。

 

 ほんの数ヶ月の間に、テロリストの襲撃に始まり、キメラに囲まれ、腐肉に囲まれ、知り合いに牙を剥かれ、圧倒的強者に嬲られ、突然ミイラに囲まれた。

 

 さすがにキレた。

 

 これで何度目だ。

 

 ゾンビだかミイラだかに囲まれる趣味はない。

 

 自分に英雄願望はない。ただ平和な日常があればそれで良いのだ。

 

 それで良いのに───何度も何度も何度も何度も、どこまで世界というものはそれを奪っていくのだろう───?

 

「はあ……ったく、いい加減にしてくれよな本当……ああ、帰りたい」

 

 ミイラを蹴散らしながら少年は進む。

 

 その先に、尊き『門』があることを知りもせず。




最近、自分も感じていることを指摘されると「ンンンンまさに!正論!」とどっかのRINBOが脳内に湧いて出る。
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