竜殺しっぽい誰かの話。 作:焼肉ソーダ
ミイラうぜええええええええ。
俺の現在の正直な感想を述べるならそんなところか。
いや、マジでうざったいんだこいつら。あとからあとから出てくるし、わけわからんことはほざくし、しつこいしで。
ここに叩き込まれたこと自体はまあ、よしとしよう。あそこにいる面々が俺をこんなところに叩き落とす必要があるとは思えないし。俺のうっかり、または事故だ。
でもさすがにね。こう何度も何度も繰り返されると俺も堪忍袋の尾がどっか行っちゃうっていうか。
俺はいつもの平和な日常が好きなんだって、何度言えばわかるんです?
『憎イ───ッ、憎イィィィイイイイイ!!』
「うるせえ、死ね」
やかましい舌ごと頭を叩き斬る。
どこに刃を叩き込めば効率的に殺せるかは知っている。
横から突っ込んできた一匹の頭を鷲掴み、他のやつを巻き込んで地面に叩きつける。グシャ、と独特な音がして二匹同時にトマトみたいに潰れた。トマトと違って出る
相当頭にきているのか、思考回路の切り替えがうまくいかない。ここに友人がいたら、豹変したように見えただろうか?
まあ、どうでもいいが。
怨霊じみた存在でも
いつぞや、師匠にぶち込まれた
……うぜえ。
「寝とけ」
魔力を注ぎ込み、うぞうぞと集まっていたところを磔刑のように串刺しにする。
炎で灼いてしまう方が個人的には好ましいのだが、なんとなく忌避感があったのでやめた。
灰にしてしまえば、元がなんであったかもわからなくなる。
その方が、俺としては好ましい。
「……はあ」
あーやだやだ。帰りたい。ぼけーっと毎日を浪費するあの日々に戻りたい。
「ほんと、嫌になる───」
時折素手で喧しい骸を粉砕して、石造りの通路を踏破していく。
そういえば───と、気を紛らわせるように通路に目をやった。迷路のように入り組んだ構造といい、どう見たって『タウムの天文神殿』内部ではない。
思い起こすのは『タウムの天文神殿』に隠された機能だという時空間転移魔術。感覚からして
しかしそうなるとここはどこなのか。さっきからひっきりなしに……というほどではないにせよ、次から次へと襲い来るミイラと道中で見かけた部屋を見るに、魔術師の住処であったことはわかるのだが。
気になるのは、襲ってくる連中が一様になにかに対する怨嗟の声を上げていること、判別すら難しい顔が恐怖と無念に歪んでいることくらいだが……それこそ気にするべきことではない。
キーワードは『あの女』と『裏切り者』。
……うむ、さっぱりわからん。
「出口とか、ないのかねえ……」
どうやらこの謎の建造物はかなり広いらしく、階段すら見当たらない。あるいは一階建ての建物であるという可能性もあるが、それにしたってもう少しなにか見付かっても良いものだ。
一応、俺が吐き出された場所にはあの
当たり散らして多少は落ち着いた頭で考えてみるものの、事態は全く好転しない。
グレン先生がこっちを探しに来てくれることを祈るばかりだが……偶発的なものだったようだし、どうなることやら。
最悪、この広さでは合流できずにお互い彷徨うことになるかもしれない。
まあ、そうなったらグレン先生のことだ。対策を立てるかこっちを見捨てるかくらいは判断してくれるだろう。
人間、三日くらいはなにも食べなくても生きられるというし。水なら魔術でどうにかなるし。
これだから壁がぶち抜けない建物は嫌なんだ。
むしろ触ると……いや、触らなくてもだが謎の手がわさーっと出てきて捕まえに来るし。なにあれキモい。力づくで腕を引きちぎりながら脱出してやったが。汝はゴリラ。
……いや、勘違いしないでほしい。なにも昔からゴリラであったわけでは……違う違うゴリラじゃないから。ゴリラは師匠だから。あ、最近だとレイフォードもか。
やだもーほんと。モテモテ大作戦(霊限定)とか嬉しくなさすぎる。俺を捕まえたところでいいことなんかなにもありませんことよ。
「はあ……」
近くにいるやつはあらかた叩きのめしたのか、しんと静まり返った道を歩く。
勘に任せて進んでいたが、案外こういうときの運は良いのかもしれない。今までとは明らかに違うアーチ型の出入口が、ぽっかりと口を開けていた。
今までにないパターンに念のため警戒しつつ、ひょこっと出入口の内側に顔を出す。
内部に広がっていたのはどうやら闘技場のようで、円形のフィールドのあちこちに炎が揺らめいている。当たり前のようにミイラが転がっているが、まあ慣れたものだ。
問題は───その奥。黒光りする石で封じられた巨大な門だ。巨人でも通るのかと言いたいところだが、確かこの世界に巨人はいなかったような? いたっけ?
巨人といえば、世界を灼いた終末装置であるスルトだとか、神々の麗しき花嫁たるスカディだとかが有名か。
しかし、これは出口……なのだろうか? どう見ても通り抜けられなさそうだが。
あ、ミイラがこっち気付いた。
「……行くか」
ここで逃げても仕方がない。どうせ行くアテもないのだ。当たって砕けるべきだろう。
性懲りもなくわさわさ湧いてくるミイラを踏み砕き、撲殺し、片端から蹴散らしていく。
もはや語るべきところはない。だってマジでただそれだけの作業なんだもの。人体に縛られているが故なのか、大抵は四肢を砕くか頭を潰すかすればさすがに動かなくなる。
さっくりざっくり殲滅し、門の前に立ってみる。
真っ黒な石で造られたそれには、やはり古代文明のものらしくびっしりと謎の紋様やら文字やらが刻まれている。
押せば開く、ということもないだろう。見るからに重そうだから、といった理由ではない。こういったものは、条件を満たさなければ開かないのがお約束だ。
だが、ここにしか出口のアテがないのも事実。
できるだけはやってみようと、門を開くために手を触───
『その門に触れるな、下郎』
押し開こうとした手が止まる。
唐突に背後の闘技場、その中心に生まれた気配に冷や汗が流れた。
動いた瞬間にコマギレにされそうな威圧感。
視線だけで後ろを流し見れば、そこにいたのは闇そのものがローブを羽織り、辛うじてヒトらしいカタチを成したようななにか。二刀を携え、一筋の光すら見えぬ視線でこちらを射抜く───魔人。
(───あ、死んだな)
俺もそこまで馬鹿じゃない。後ろにいるやつがどれだけ強いかくらいはわかる。
表す言葉があるとするなら───規格外、だ。
後ろにいるものは、明らかに人間の規格を超えている───!
『
全く、誰だよ。こういうときの運はあるとか言ったアホは。
こんなもん───どう考えたって、最大級の厄ネタだろうが。
────────────────────────
腰に提げた短剣を無意識に触りながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
幸い、敵にこちらを害する動きはない。……今のところは、だが。
「───一応、聞こうか。どちらさん?」
『我は此の尊き門を護る者。即ち、汝を滅する者である。身の程を知らぬ愚者の子よ』
「電波発言はやめてほしいんですけど……」
難しい言い回しやめよ?
一ミリも意味がわからんのよ。もっと意思疎通をする努力をしよう。
「提案。見逃す気は?」
『汝の問、実に愚問也。此の聖域に足を踏み入れた時点で、汝の命運は既に断たれた』
「……はっはっは」
苦笑い。要するに、ぜってー許してやんねー!! ということだろう。
言う間にも、敵は油断なく刀にも似た片刃の剣を両手に携えている。それ置いてこのままお話してようよ。ねえ。ピクニックよろしくここでほのぼの語り合おうよ。それなら俺付き合うからさあ。
あ、ダメですかそうですか。ちくせう。
『構えよ、名も知れぬ愚者よ。我が双刀の錆と成りて果てるが良い───』
もうこれ以上仲良くお話するつもりはないらしい。
魔人は赤と黒の双刀をゆるりと構えてこちらを睥睨している。
さーて、どうしようか。
こっちの武器は相変わらずの短剣と、今日はまだ切っていない最近ほぼ通常武装と化している『
正確に言うと、やっぱり俺ごときじゃ使いこなせませんよーということなのか本来の威力からは落ちているのだろうが。……一つ聞きたいんだけど、件の英雄サマってマジでなんなの? 剣技も魔術も堪能とか舐めてるの?
いや、俺みたいな凡人が比較的まともに戦えるようにはなるからありがたいっちゃその通りなんだけどさ。
「気分は討ち入りだよ」
しかも、生き残れないことがほぼ確定している類の。
とはいえ、このまましびれを切らして殺しに来られても困る。
座して死を待つのももったいないし普通に嫌だ。
なので、できることと言えば───いつものように、投擲して様子を見ることくらいなもので。
遠くにいるのを良いことに、もはや定番、最近在庫がガリガリ減っていってる金属片を放り投げてぶっ飛ばす。
手に取ったのは一つだけ。一歩前に踏み込み、後から出した足が地面を離れた瞬間に全力で
いつもと違うのはその速度。本気で打ち込んだソレは杭のように風を切り、常の数倍の速度で空を滑る。
無論当たるとは思っていない。だが手数でどうにか押そうにも、おそらくあの双刀に弾かれる。であれば───一点突破しか道はない。
『ほう』
左へと流れる勢いには逆らわずに旋回、左手に握った一振りを手首のスナップだけで投げ放つ。
タン、とステップを踏むようにもう一度前へ。反作用で軽く跳び上がりつつ、腰から抜き放った短剣を逆手に振り下ろ───
「───な」
魔人の持つ左の刀が円を描くようにして閃く。キン、という音が二回。先に投げ放った二振りをその刃で弾いたのだ───と、そう見えた。
実際は違う。刃に触れるそばから、ほんの微かな音を響かせて銀色の輝きは碧色の魔力光へと変じて散っていく。
マズい。そう直感的に判断するも、既に右腕は打ち下ろしたあと。左の紅と銀色が一瞬だけ相克し、わずかな手応えを残して銀の方が霧散する。
驚きに打ち震える間もないままに、右の漆黒が振り下ろされる。逆手に握られたそれはこちらの心臓を貫こうと天上から突き落とされ───左手に抜いたもう一振りの刃に弾かれる。
だが、無理な体勢から大振りな迎撃をしたせいで大きな隙ができてしまっている。しかも右手は無手。このまま敵が左の魔刀を振り上げればそれで終わりだ。
『逝ね』
「お断りだクソッタレ───ッ!」
今の俺に限った話ではあるものの、無手であることは必ずしも不利ではない。
わずかに紅が腕に食い込むのを無視して
描き出した記号を境に前後へと伸びる氷柱の平面部に右手を添える。咄嗟の判断、当然無傷で済むはずもない。凍てつくような冷たさと小さくない衝撃が右手を通して腕を打ち据えるが、知ったことではない。
その代償として、打ち出された氷柱の衝撃でお互いの身体が吹き飛ぶ。こちらを穿たんとしていた黒は空を斬り、紅は標的を見失い氷柱に触れる。
途端、霧散する氷の柱。だが運が良かったらしい。既にその先端は敵の胸板を貫通している。どう見ても致命傷だ。
よし、これでなんとか───!?
「う、そだろ」
仕留めたと思った。珍しく強敵相手に一矢報いたと思った。そうでなくともかなりの手傷を負わせたはずだった。
だが魔人は振り上げた紅と突き降ろした黒をくるりと回して整え、負った傷にも構わずこちらへと猛追する───!
『異な術を使う。紋様を描き出しただけでこの威力とは』
「ど───ういう身体してやがる、テメエッ!?」
地面を擦りながら減速。だが止まってしまってはこちらへと迫る双刀に斬り伏せられる。
故に、静止までは至らない程度の速度まで落としてから───地を蹴る。前ではなくやや斜め後ろに向けて。瞬間、今までいた場所を黒の魔刀がすり抜けていく。危うく一刀両断されるところだったという事実を認識するより早く、紅が奔る。
これをリジルやフロッティで迎撃することは不可能だ。それは触媒が取り出せない云々の話ではなく、触れた瞬間霧散してしまうということを先の投擲で理解したから。
取るべき行動は回避。本能の為せる技かそれとも引っ張り出した英雄の技量によるものか。直感に従って二歩、三歩と跳ねるようにして躱す。
黒の魔刀であれば短剣が使える。だが紅の魔刀には打ち消される。
さっさと『破滅の黎明』を抜いていたら、膨大な魔力を持っていきながら紅の魔刀によって消え去っていたことは想像に難くない。ナイス判断、と自分を褒めてやりたかった。
だが快進撃は始めの十数秒のみ。主導権は今や完全に魔人が握っていて、俺は踊るように滑る刃を回避するので精一杯だ。
向こうはこの戦いを楽しんでいるのか、こちらが対応できるギリギリで留めている……いや、違うな。向こうがこちらに合わせて手加減をしているのではなく、本気でないあちらの攻撃を捌ける程度に、こちらも最低限の実力くらいは有している、ということだろう。低すぎる実力の相手とわざわざ手加減してまで打ち合ったところで面白いとも思えない。
左手にだけ短剣を握り、右手は反撃の隙を窺うのみ。だが先ほどのようにおっそろしいくらいにうまくハマらないと二度は通じないだろう。既に敵方にはこちらが記号を描くだけで魔術を発動できることを知られている。
距離だ。ひとまず距離が欲しい。
状況をリセットするのもそうだが、それ以上に黒の魔刀……アレには触れてはいけないという気がしている。
このままでは食い付かれる。黒の魔刀を弾いた直後、紅の魔刀がこちらを捉える前に魔力放出も突っ込んで大きく後ろに飛び退く。その過程で三本ほどナイフを投擲。弾かれる。
蹴りも交えれば多少は動けるが、蹴り技には大振りなものも多い。素手の相手ならいざ知らず、ヤツ相手ではどちらかの刃で斬り落とされるのがオチだ。
有り得ない。マジで。なんでこんなことになってるのん?
なによりまともに打ち合えないのがつらい。先日の霊基再現率を引き上げた影響でこっちの動きと勘は格段にマシになっている。今回はほぼ全快の状態からやり合っているのもあるが、以前の俺ならそれこそ三合程度でお陀仏だ。
だがそれでも、『抵抗できない攻撃』が相手ではどうしようもない。アレと真っ当に戦うなら、魔力に依らない武器が必要だ。例えば、アルフォネア教授が持っていた
もう一段階引き上げる? ……いや、厳しい。それであの猛攻をかいくぐり、なおかつ不死の謎を解けるのかと言われれば確信がない。
なによりアレは無限にできるモノじゃないのだ。ある程度
となると、現状俺はこのままでなんとかしないといけない。
欲を言うならもう一度くらい殺しておきたいところ。
完全に不死身の生物なんざあってたまるか。必ずカラクリ、もしくは限界があるはずだ。……希望的観測、個人的な欲求に過ぎないが。
最悪なのはあっちが完璧不死身の生き物だという可能性だが、ないと仮定して動くことにする。
今重要なことはどう殺すか。
訂正。どうすれば殺しきれるか───だ。
(なにをしても死なないわけじゃないはずだ)
そうであるのなら、最初の投擲など無視してこちらを斬り伏せれば良い。
穿たれるのを避けた。それは事実のはず。
(で、あるならば───)
『如何した、愚者の子よ』
じりじりと、こちらに歩み寄ってくる。……完全に遊んでいる。
くそ、せめてこっちの武器が魔術絡みでなければ───いや、ないものねだりをしても仕方がない。ただでさえ分不相応な力を揮っているのだ、それ以上を望むのはそれこそ罰当たりというものだ。
一歩後ろに下がりそうになる。恐怖は感じないが、この威圧感を前にして打つ手がないという事実が重い。
どうする?
どうすれば、あの双刀をかいくぐってあの命を奪いに行ける?
「───象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》ッ!!」
入り口の方から迸る極光。
何事かと一瞬面食らったが、この光は見たことがある。前にグレン先生が披露した【イクスティンクション・レイ】だ。が、詠唱が微妙に違う。
いずれにせよチャンスであることは違いない。今までの経験からして、こいつは左の魔刀で破壊の光を消しにかかるだろう。
であれば、今が好機。
光を認識すると同時、黒の魔刀に向けて走り出す───!
『ぬう……!?』
「大人しく死んでおけ、この理不尽が───!!」
近付きすぎれば刀は振るいにくくなる。もちろん懐に入り込まれたら無力だという意味ではない。対処しやすくなるというだけの話。
そのほんのわずかな隙間を縫って、どうにか接近し───黒を右手に握った短剣でどうにか防ぎ、背後に回した左手に持つもう一振りで思い切り刺し穿つ。
誰がぶっぱしたんだかわからないが、おかげで助かった。
さて、二回目の致命傷。こいつはどう出るのか───
「───ぐ」
唐突に身体を襲った浮遊感。
見れば、魔人の膝が腹部にめり込んでいる。
ここにきての、体術。
警戒を怠った。そのことを悔やむ間もなく、光が飛んできた方向に今度は俺が飛ばされる。嫌な音がして身体が軋む。
内臓とか、無事なんだろうか。これ。
「アッシュ!?」
床に転がるかと思ったのだが、どうやら飛ばされたのは出入口の方だったらしい。熱を持ったなにかにぶつかったと思ったら、聞き覚えのある声が頭上から降ってくる。見上げれば、それはグレン先生の顔だった。どうやら受け止めてくれたらしい……後ろによろけながら。
すみません、勢いありましたよね。そりゃそうもなります。
後ろから、フィーベルやティンジェル、レイフォードが駆けてくるのが見えた。救助隊だろうか。
「無事……じゃ、なさそうだが……おい、セリカ! いい加減にしろ、戻ってこい!!」
「退けェェェエエエエエ!!」
グレン先生の叫びにも構わず、闘技場にアルフォネア教授が突っ走っていく。その手には真銀の剣。どう見ても冷静さを欠いている。
豪奢な金髪を振り乱しながら魔人へと駆けるアルフォネア教授をついつい見送り、
───白魔改【ロード・エクスペリエンス】……物品に宿った持ち主の記憶を再現し、自らに憑依させる
その一言が、稲妻のように脳裏を駆け巡った。
これまでの交戦でなんとなく見えてきた紅の魔刀の効果。
想定通りのものであるのなら、あのまま突っ込むのは危険にすぎる───!
「教授、ダメです! そいつに魔術は───ッ」
【イクスティンクション・レイ】が消されてるんだ、普段のアルフォネア教授なら突っ走ってったりしないはず。
でも今は危うい。なにかに突き動かされるようにがむしゃらに突貫している。
……これはまずい。
アルフォネア教授の剣術は魔術によるものだと聞いた。では、それが唐突に
だが警告は間に合わず。
見れば、アルフォネア教授の背後に回り込んだ魔人が黒の魔刀を構え───アルフォネア教授は、床にくずおれている。
「く、ぁ」
『終わりだ。今の汝に用、なし』
既に刃はアルフォネア教授の首にあてがわれている。……間に合わない。そう判断しかけた俺の耳に都合六発分の銃声が届く。
言うまでもない。グレン先生のものだ。
視認性の悪い銃弾が見えにくかったのか、それともアルフォネア教授に集中していたからなのか、魔人の反応が一瞬遅れる。
『猪口才な……爆裂の魔術で鉛玉を飛ばしたか? 愚者の子らにまさか三つも持っていかれるとは』
「くそ、どうなってんだお前! 心臓にぶち込んでやっただろうがッ!?」
一撃をモロにくらいつつも、アルフォネア教授に向けていた刀で残る五発を弾くと魔人は大きく後退した。銃弾に衝撃を受けてのものではない。いわばそれは、仕切り直しのための一時的なもの。
その隙に、グレン先生がアルフォネア教授を確保したようだが───
『よかろう! 愚者たちよ、我が力に何処まで抗えるのか……今一度見せてみよ───!』
そう言うと、魔人は実に愉快そうに剣を降ろした。停戦。違う。魔術。
「……そんなデタラメ、いてたまるかっての……!?」
悪態は俺のものだったか、それともグレン先生のものだったか。
わかるのは、魔人の頭上にとんでもない熱量が集っているということ。
うん。くらったら蒸発するね、アレ。
「チッ……!」
一瞬、グレン先生の手が愚者のアルカナを掠めて止まる。たぶん、迷っているんだ。先のアルフォネア教授との攻防で圧倒的な力を見せ、心臓に銃弾を叩き込んでも死なないこいつに果たして魔術なしで挑んで良いのかと。
その躊躇いは隙となり、太陽がごとき敵の魔術が完成する。
煌々と燃え盛りながらそれはこの場に駆け付けた全員を飲み込まんと迫り───
───かちっ。
時計のような音とともに、世界が一瞬でモノクロに染まる。
『はあ……全く、世話が焼けるわね』
あまりにも唐突な出来事に、全員が動きを止めていた。
いや……より正確には、魔人と光球だけは、文字通りの意味で動きを止めているのだが。
『こっちに来なさい。早くしないと時間が動き出して、消し炭よ。あなたたち』
そんな声と一緒に、見覚えのない第三者が現れる。
異形の翼を生やし、極薄の衣に身を包んだそいつは、なぜかティンジェルと瓜二つだった。
ようやく戦闘しても主人公が気絶しないレベルまできたぞ……!!
そして蒼銀ドラマCDが届きました。最高。ああ~そして特典小説の北欧夫婦おいしいんじゃ~……。