竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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お待たせしました。マジでどこまでなら主人公語りしてもええんじゃろな。

あの、感想で寄せられたコメントで『シルヴァリオ トリニティ』という作品について知ったんですけど大雑把な設定とか愛称とかが一致しすぎてて待って待ってめちゃくちゃ怖い……。なるほど、あのフレーズはここからだったのか……と現在震えています。弁明させてください、偶然の一致です(震え声)
でも好みの予感がするので全年齢版は機会があれば買います(真顔)


29.マジで専門外なんですけど

 クイック、クイック、ターン。

 

 くるくる、くるくる。目の前で薄青色が回っている。

 

「はいそこ! もうちょっと早く!」

 

 慣れない動きに全身を酷使しつつ、なぜか俺はフィーベルにしごかれていた。

 

 目の前で同じようにくるくると踊っているのはレイフォード。

 グレン先生が売れてしまったから消去法で俺を選んだのか、それともなにか理由があるのか。今度のダンス・コンペで一緒に踊ることになったリィエル=レイフォードである。

 

 なぜこんなことになっているのか?

 

 それは、昨日───グレン先生がティンジェルを口説き落とした翌日にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───グレン先生が、ティンジェルとダンス・コンペに参加することになった翌日。

 

 俺とレイフォードを含めたダンス・コンペの参加者は、ダンスの練習をするために中庭に集まっていた。

 それはもちろん、グレン先生たちも例外ではなく。

 

「ほら、来な? ルミア。一緒にダンスの練習しようぜ?」

「で、でも……っ、あぅ……」

 

 ぽやぽやとした顔のまま、ティンジェルがグレン先生に引っ張られていく。なんというか、珍しい光景だ。いつもティンジェルの方がグレン先生に寄り添うことはあっても、グレン先生の方から、というのはあまり見たことがない。

 

 なぜかその後ろに、フィーベルがすごく不機嫌そうな顔でついていっているが。

 

「むううう……」

 

 優勝賞品の金一封目当て、と嘯くグレン先生に腹を立てているのか、それとも自分もグレン先生と踊りたかったのか。理由はやっぱりわからないが、まあ乙女心は難しいものなので。

 

 で、問題はここからで。

 

「どーせ先生は社交ダンスの『しゃ』の字も知らないんでしょ? パートナーのルミアが当日に恥をかかされないように、私が必要最低限くらいは仕込んであげる」

 

 と宣ったフィーベルがなんでかグレン先生と踊ることになったのだ。

 すみません、社交ダンスの『しゃ』の字も知らないのはむしろ俺らの方です。

 

 そういうことなら、とティンジェルが中庭の一角に移動し、蓄音機をいじり始める。

 今回のダンスで用いられる楽曲は南原の遊牧民族の伝統的な戦舞踊を宮廷用にアレンジした『シルフ・ワルツ』らしい(ここに来るまでにフィーベルから聞いた)。実際見たことはないが、すごく難しいらしい。

 

 前奏が終わり、グレン先生とフィーベルがお互いに一礼して、とうとう本番のダンスが始まる。

 

 自信満々なフィーベルは貴族の出ってことで幼い頃から練習してきたのだろう。堂に入っている。

 対するグレン先生はやる気なさげだが、どこかいたずらっぽい表情だ。学生のお遊戯でやるシルフ・ワルツなんざ楽勝だぜ! とか言ってたし、実は自信があったりするんだろうか?

 

 二人が手に手を取り合って、曲に合わせて踊り始める。

 

 『シルフ・ワルツ』なんていういかにも優雅っぽい名前だったから、大人しめのダンスなのかと思っていたが───グレン先生のそれは、荒々しくも不思議な魅力に満ちていた。

 

「……ティンジェル、これが『シルフ・ワルツ』?」

「う、うん……ううん、振り付けは『シルフ・ワルツ』だけど……この動きは、どっちかっていうと原典の方に近いんじゃないかな……」

「へえ。……それであんなに荒っぽいのか」

 

 樹に寄りかかりながらぼんやりと中庭の視線を集めている二人に目を向ける。

 ダンスというものには詳しくないが、なるほど。グレン先生があれだけ動けるのであれば、優勝は俺たち! と宣言するのも納得と言えよう。

 

 そうこうしているうちに二人は中庭を自由な草原であるかのように縦横無尽に踊り狂い、ようやく曲が終わる頃にはフィーベルは荒い息をつきながらも夢見心地だった。終わったことに気付いた観客たちが、思い出したように惜しみない拍手を贈る。

 

 ……どんだけ隠れた特技持ってるんだろう、あの人。

 

「ふふん、どうよこの俺の実力。大したもんだろ?」

 

 いつもであればうざさ満載のセリフも、今はれっきとした事実でしかなかった。

 

 グレン先生曰く、昔の同僚にダンスに詳しいやつがいて、そいつに原典から仕込まれたのだとかなんとか。

 パートナーと合わせる練習をしていない段階でコレだ。ティンジェルと息を合わせるようになったらどんなことになるのか想像もつかない。

 

 少なくとも、今回の優勝候補には躍り出たと言えるだろう。

 

 驚いたのか、それとも今のダンスによほど引き込まれていたのか。終わったあとの高揚感冷めやらぬフィーベルと、実力もわかったところで練習しようと声を掛けられたティンジェルが入れ違いになる。

 

「よ、お疲れさん。どうだった?」

「……悔しいけど、完璧よ。グレン先生のダンスの習熟度もそうだけど……あれ見て。なにより、ルミアとの相性が抜群なのよ」

「んー……あ、なるほど」

 

 さっきまではフィーベルが振り回されている、といった印象が強かったが、今は二人がお互いに寄り添って一体となっているように感じる。ティンジェルのフォローもそうだが、そもそもフィーベルのときは多少キツめ……本家本元の戦舞踊に近い感覚で踊ったのだろう。今はティンジェルを慮っているのか、荒々しさは比較的鳴りを潜めている。

 

 と、素人考えながらそんな感想を胸に留めていると、ふとフィーベルがこっちをじーっと見ていることに気付いた。

 正確にはレイフォードの方だが、チラッとこっちの方も覗き見る。なんぞ。

 

「……アッシュとリィエルも、踊るのよね」

「おう。なんかレイフォードにご指名くらったんでな。ダンスはわからんが、たまにはいいだろうさ」

「ん。ルミア、楽しそうだし。わたしも頑張る」

「ううー……リィエルならもしかしてって思ったけど、先客がいるんじゃなあ……でもこのままはなんか悔しいし……うーん……」

 

 フィーベルはなにやらうんうんと唸っている。チラッチラッと向けられる視線は俺にだったりレイフォードにだったりとせわしない。

 だがやがて、考えをまとめたのだろう。フィーベルはよし、と一つ頷くと、俺たちを引っ張って中庭のさらに一角へと連れていく。

 

 なんだなんだ、と目を瞬かせる俺たちを前に、フィーベルは堂々と宣言したのだ。

 

「よし。私があなたたちをプロデュースしてあげる!」

「……はい?」

 

 やる気に満ち溢れたフィーベルの言葉に、俺は間抜けな声をこぼすことしかできず。

 

 レイフォードは、いつものように眠たげに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 ───と、いったところで冒頭に戻るのである。

 

 なんでこうなったんだろうね。

 

「アッシュ! 気を抜かない! 次はスピンとスウェイ、いくわよ!」

「なーんで俺ばっか……」

「そりゃ、リィエルが珍しくやる気出してるのに肝心のあなたがぼんやりしてるから……じゃなくて、あなたがリードしないといけないの! わかってる?」

 

 まあ、レイフォードは一回見せた動きは完璧に再現してみせるけど、精確すぎてそれ単品だとグレン先生の躍動感溢れるダンスには対抗できなさそうだし。

 言ってることはわかるんだけど、なんか妙な方向に熱が入っているような。

 

「ごちゃごちゃ言わない! 筋は良いんだから、このまま練習すればギリギリ対抗できるぐらいにはなるわ!」

 

 もう俺たちより気合い入ってるなあ。

 

「あー、レイフォード? 疲れてないか?」

「ん。よくわからないけど、動くのは……楽しい」

「それならいいんだが」

 

 小柄なのもあって、レイフォードのつむじがいつもよりよく見えるなー、なんて思いながら言われた通りに動いていく。

 

 くるくる、くるくる。

 

 手を取り合って慣れない動きに身を任せる。二度、三度やれば一応コツは掴める。

 幸いにして、普段から運動をしているおかげか足を踏んだりといった無様は晒していない。もしかするとレイフォードの方が避けてくれているのかもしれないが、なんとか形にはなりそうで一安心だ。

 

 未だになんで誘われたのかはわからないが、せっかくの機会をふいにするのは本意ではない。

 

 不思議なこともあるものだ、とぼんやり思いながら、俺はフィーベルの情け容赦ない叱責にいつもよりかは真剣に耳を澄ますのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その日の深夜。

 授業にダンスにと重労働をこなしたグレンは、気が進まないながらもフェジテの南地区郊外に存在する倉庫街へとこっそり足を運んでいた。

 

 目的は───作戦会議。

 

 社交舞踏会にかこつけたルミアの暗殺計画をいかにして防ぐのか。その具体的な内容を聞くためであった。

 

「おお、グレ坊! ひっさしぶりじゃのう、元気しとったか!?」

「じじい……アンタまで来てたのか。そっちは相変わらずみたいでなによりだよ。てか、クリストフまでいたんだな。……その、なんだ。久しぶり、だな」

「はい、先輩。先輩も、お元気そうでなによりです」

 

 温和に微笑む《法皇》のクリストフの目の前で、豪快に笑う《隠者》のバーナードに背中を叩かれながら、なんとも苦い心持ちでかつての仲間たちを眺める。

 

 アルベルト。リィエル。バーナード。クリストフ。そして───イヴ。

 

 一年余前まで、よく一緒に任務にあたっていた特務分室の仲間たちだ。……訂正、イヴだけはあまり組んだことはなかった。

 挨拶と謝罪もそこそこに、バーナードが背中を叩くのをやめて馴れ馴れしく肩を組んでくる。

 

「聞いたぞ、グレ坊。おぬし、今回の任務……護衛のためとはいえ、アリシアちゃんの娘っこと踊るんじゃって? カーッ、羨ましいのう! わしもこーんな胸糞の悪い任務さえ入ってなければ、一般客として女の子とキャッキャウフフしたものを!」

「うっせえ、ほんとに相変わらずだなアンタは!?」

 

 英雄色を好むというが、バーナードはまさにそれだった。

 まあ、英雄というよりも、バトルジャンキー、エロオヤジの方がルビとしては正しいが。

 

「リィエルちゃんも一応参加するんじゃろ? もう誰か誘ったんかいな?」

「ん。アッシュを誘った」

「お、おう……そりゃまた、意外なところに行ったのう……」

「……? おい待てじじい、アンタあいつのこと知ってんのか?」

 

 今の言葉からは、どうも『天の智慧研究会にオマケ程度に狙われている人間』、という特務分室の認識からは少し離れていた。まるで当人をよく知るような口ぶりだ。

 

「ん? なんじゃ、聞いとらんのか? アシュ坊はわしの弟子でな、帝都にいた頃は面倒を───」

「ストップ。ストップだ、ちょっと待て。マジでか?」

「マジマジのマジじゃよ」

 

 大真面目な顔で頷く。

 まさかの、先日の『もしやバーナードがアシュリーの師匠なのでは説』が見事に的中してしまった。

 

「いや……いやいやいや。アンタがそんなの買って出るタマかよ……」

「しゃーないじゃろ!? さすがにわしも、迷子の坊主を放り投げて帰ってくるほど腐っとらんわい」

 

 ───聞けば、事件に巻き込まれて天涯孤独の身となったアシュリーを保護したのは、当時外道魔術師出現の報を受けて出動したバーナードであったらしい。

 

 誰もいなくなった、死体ばかりが転がる村の跡地。そこに一人佇んでいたアシュリーを置いていくこともできず、とりあえず連れて帰ったのだとか。

 本来なら孤児院に預けて終わりなのだが、なぜか軍からは保護観察命令が下り、そのまま成り行きで面倒を見ることになり───

 

「昔っから、よく笑うガキンチョじゃったよ。ま、強いて言うなら女の子ならよかったが……まあそれはそれ。暇つぶしにと色々仕込んでやったりもしたのう」

「……中途半端にしか教えてもらってないって言ってたぞ?」

「そりゃ、あやつがフェジテに引っ越したからじゃよ」

 

 五年ほど前か。

 軍からの命令が無効になったあとでも、なんとなく定期的に顔を見せていたバーナードに、アシュリーが突然『学校に行きたい』と言ったのだ。

 

 帝都の軍学校を勧めてみたものの、どうもそういった将来が定まったものは興味を惹かれないらしく、それならとフェジテにあるアルザーノ帝国魔術学院を提示した。

 

「本人が何回も言っとる通り、まーあやつは凡才でな。魔術特性(パーソナリティ)自体は【適合者(アダプター)】……要するに霊的・概念的な存在を憑依させられる稀有なもんじゃったが、まともな魔術に関してはからっきし。それでもお前さんよりはマシじゃろうが」

 

 なんか流れ弾でグレンの胸に刺さったセリフがあった気もするが、まあ慣れたものなので聞き流す。

 そういったアシュリーの才能についてはグレンも知っていた。【霊基の記録・再現】。中位程度の天使や悪魔であれば、憑依召喚もできるだろう才能だ。本来は適性のある存在にのみその真価を発揮する魔術特性だが、どうもアシュリーのそれは限界こそあるものの、その代わりにおおよそあらゆる霊的存在に有効らしい。

 

 やたらと霊などの正しく実体を持たない存在に襲われる、というのも、その魔術特性が原因だろう。やりようによってはそうした存在……世界に縁の薄いものであっても、この世界に存在するものとして受肉することが可能となる。

 魂の在り方というものは、時として現実にも影響をもたらす。グレンが【変化の停滞・停止】という魔術特性を持って生まれたせいで魔力操作を苦手とするように、だ。

 

 ……もっとも、アシュリー本人はその才能を既に別のなにかで埋めているようだが。それでも引き寄せてしまうあたり、災難だと言わざるを得ない。

 人の身に降ろせるキャパシティから言って、名声を得られなかった凄腕の剣士の亡霊でも降ろしているのだろう……とグレンは踏んでいる。ぽこじゃがと量産される武器は、その剣士が使っていたものか。往々にして、憑依召喚をした人間には降ろした存在の得物までもを得ることがある。それだろう。

 

「だからまあ、受験前からかなーり勉強しておったのう。なんでそこまでするのか聞いてみたら、『学校に行きたかったから』、なんていう相変わらずぼんやりした理由が返ってきたがの」

「……あいつらしいな」

 

 で、アシュリーはこれまた成り行きで帝都にあった自分の家を出て、フェジテにある今の一軒家に引っ越した……ということらしい。

 

「そうじゃそうじゃ、昔はセラちゃんやリディアちゃんとも仲が良くての? リディアちゃんづてに知り合ったイヴちゃんとも───」

「……昔話もいい加減にして、バーナード。焼くわよ」

 

 我慢の限界だ、と言うようにイヴ。

 集まってから、既にかなりの時間が経過している。これ以上は時間の無駄だ。

 

「さて、あの凡人のことは脇にどけといて……」

 

 心底くだらない、というように古馴染みの話を放り投げ、イヴが今回の作戦についてつらつらと述べていく。

 敵は第二団《地位》アデプタス・オーダー、《魔の右手》と称されるザイード。それに付き従う第一団《門》ポータルス・オーダーが三名。グレンを含めたイヴたち六名で十分に対処可能だ。

 

 問題は、悪名高き《魔の右手》ザイードの暗殺方法がわからないことだが……それも、イヴの眷属秘呪(シークレット)───殺意や悪意といった負の感情を読み取る【イーラの炎】で対処する、とのこと。

 

 内部の守護は眷属秘呪を起動したイヴと、グレン、リィエルが。

 外部の守護はアルベルト、バーナード、クリストフが。

 

 聞けば聞くほど完璧な布陣だ。……理論的には。

 

 なにかを見落としてしまっているような奇妙な違和感が拭えないが───理論的には確かにイヴの策こそが、ルミアの安全確保のみならず、今後の帝国のためにも一番良い。ルミアを狙ってくる敵を、もっとこちらが混乱している状態ではなく、こうも完璧な布陣で迎え撃てるならば、またとないチャンスと言えるだろう。

 

 だがやはり、違和感が拭えない。

 それを考える時間を稼ぐように、グレンがふと思い付いたことをイヴに尋ねた。

 

「……アッシュは今回狙われないのか?」

「敵は暗殺に拘らざるを得ない、と言ったでしょう? あの凡人まで狙ってる余裕は敵にはないわ。万が一のことがあっても……まあ、昔のよしみで注意くらいは払ってあげるけど」

「そーかよ。チッ、相変わらずいけ好かねえ女だな、テメェはよ」

 

 今のイヴの発言は、つまるところ『こっちもオマケ程度に気にしてはあげるけどルミアが最優先だからいざとなったら切り捨てる』、と言っているのと同じことだ。

 ルミアが優先されるのは当然ではあるけれど、昔の友人をこうもあっさり切り捨てると言うイヴに対する敵愾心は高まる一方だ。

 

「ふふ、そんな怖い顔しないの。いざってときなんか、この私が控えている以上来ないんだから。聞けば、リィエルも見張ってくれるらしいじゃない?」

「……? 見張りじゃなくて、だんす……」

「同じことよ。守るにせよ()()捨てるにせよ、リィエルがいるなら安心でしょう? グレン」

 

 今度こそ反論ができない。

 

 ───こうして。

 様々な思惑を絡めたまま、作戦会議の夜は更けていく───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 穏やかな毎日が続き、いよいよダンス・コンペが翌日に迫った日の夜。

 授業にダンスにアルバイトに、と疲労困憊の状態になりながら家に帰還する。

 

「───……」

 

 相変わらず、誰もいない部屋だ。

 机にベッドにクローゼット、と一通りのものは揃っているが、概ね乱雑に物が置かれている。

 

 机の上には何冊か本が散らばっていて、自分の名前と日付が書いてある。……そういえばここ最近、日記はつけていなかった気がする。

 ……なにがあったっけ、と一つ一つ思い起こしながら、この一週間近くのまとめをするようにペンを走らせる。

 

 遺跡調査で散々な目に遭って、イヴに会って、レイフォードにダンスに誘われて……。……ああ、そうだ。学院から預かった礼服も、もう一度着てみないと。

 

「……はあ」

 

 日記を読み返して思うが……どうも、今年度からの話ではあるものの、自分の恋い焦がれた日常からどんどん外れていっている……気がする。

 ただ俺は普通に/■■■■■(昔みたいに)、毎日を過ごしたいだけなんだけどなあ。世界って理不尽。

 

 ……いかん、つい昔のページを読んでいたがまだ書いてる途中だった。えーっと……なんだっけ。遺跡調査があって……ああいや、これはもう書いてあったな。

 んー……じゃ、あとは……イヴのくだりも書いたか。ああ、そうだ。アルフォネア教授はしばらく休養するんだっけ。

 

 忘れっぽいからと言われて渡され、そこから習慣になっていた日記だけど、こうして読むと本当に忘れっぽいんだなあ、と苦笑する。というより、最近の毎日が濃すぎるのか。

 思いつく限りのことを書き記して、表紙を閉じて机の片隅に放る。ぎしぎしと椅子を軋ませながら部屋を見渡していると、ふと姿見が目に入った。

 

 鏡に映る自分の姿。くすんだプラチナブロンドはあっちこっちが跳ねていて、つり目がちの目は銀灰色。カラーリング、という意味であればどちらも薄味でいまいちパッとしない。それで良いのだとも思うけれど、やっぱりどこか違和感が拭えないのは感覚的な問題だろう。

 昔はもう少し濃かったような気もする。……昔っていつだ?

 

 まあいいか。

 

 一回くらいは自分でも見てみないと、と思い学院からの礼服に着替えてみる。フィーベルからは概ねオッケー、ちょっと物足りなさはあるけれどと付け足されたのを思い出す。

 

 シャツを変えて、上着を変えて、教えてもらった通りに着替えていく。

 若干着られている感は否めないものの、それなりに様になっているのではなかろーか。

 

「うーん?」

 

 だがやはり、フィーベルの言っていた通り物足りない感じがある。

 髪の毛がぼさついてるのがいけないのだろうか、と手櫛で梳いてみるものの結果は変わらず。

 

 なんだろう。もう一ヶ所、なにかアクセントがほしいというか。

 

 あっちこっちこねくり回してみるものの、やはりどうにもならない。

 なにが足りないんだろうな、と思いながら色々とやってみるものの、なにが足りないのかがいまいちわからない。

 

「……うーん」

 

 ふと、脳裏に浮かんだのはクラスメイトの一人だった。

 キング・オブ・ぼっち。本が友達の男子生徒。

 

「……そういえば」

 

 完全に記憶の彼方に放り投げていたものを思い出して、机に備え付けられた引き出しを引っ張る。

 しばらくあれでもないこれでもない、と中身をまさぐり、目当てのものを引っ張り出す。埃を払って、念のため脱ぎ捨ててあったシャツで拭った。

 

 これならどうだろう、ともう一度姿見の前に立ってみる。

 

「……。……よし」

 

 さっきよりは格段にマシだ。

 

 動きの調子を確かめるようにしばらくその場で軽く動いてみてから、問題ないと判断して衣装一式をカバンに仕舞う。

 これで準備は万端だ。

 

 お姫様に恥をかかせない程度に、凡人なりに頑張るとしよう───。




【適合者】云々は追想日誌四巻や本編十三巻に載ってます。めちゃくちゃ読み返した。
で、それを踏まえた総評は『霊的存在・概念存在ならなんでも憑依させられるけど、普通に考えたらそこそこ程度のやつしか無理』、ですね。FGOで言うなら幻霊とかが限界。……え?北欧トップレベルの英霊……?なんのことでしょうね。

-追記-
ちょっと気になるところがあったので修正。細かな言い回しの差なので対して気にしなくても大丈夫です。
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