竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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時間がないからと校正なしだとこうなる(白目)
七巻は介入できる戦闘が少ないからダンスダンスダンスで話が進まないんじゃよ……ッ!!

ちなみに今日遅れに遅れた上に史上最高レベルで雑なのは台所の蛇口がぽろっと取れて対処に手間取ってたらいつもの数倍執筆時間が飛んでったからです(殺意)


31.今回もやっぱりダメでしたね

 愛したものに価値はなかった。

 

 紡いだものに意味はなかった。

 

 それは悲しくて、寂しくて、つらいことだったけど。

 

 だからせめて、自分だけは覚えていようと決めたのだ。

 

 ───決めて、いたのだ。きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 踊る。

 

 熱に浮かされるように、際限なく上がっていくボルテージに引きずられるように、跳ね上がる鼓動のリズムに乗るように。

 

 踊る、踊る。

 

 演奏が耳障りだ。精神に響く音が気持ち悪い。夢の中にいるかのような高揚感が気持ち悪い。

 

 なにかが。自分という存在を絡め取ろうとしているようで、気持ちが悪い。

 

 ───演奏が止まる。

 いつの間にかダンスは終わっていた。一瞬なにかやらかしたかとも思ったが、どうやら無意識でもしっかり踊っていたらしい。ギリギリで勝ち抜けたのは幸運と言えるだろう。

 

 視界の片隅にノイズが走る。……なんだ?

 今日はずっとなにかがおかしい。聞くな、となにかが訴えている。

 

 ああ、くそ。考えがまとまらないな。睡眠不足か? 帰ったらちゃんと眠らないと。

 

「アッシュ?」

 

 どこか心配そうな声が聞こえた。レイフォードだ。

 今は……どこが終わった? まずいな、本格的に疲れている。

 

「準決勝。次は決勝。……具合悪い?」

「んん……や、問題ない」

 

 軽く眉間を揉み解す。具合が悪い、というとこれは少しばかり意味合いが違う。さっきからひっきりなしに『聞くな』というフレーズが脳を叩いている。度が合わないうんぬんとはまた違う頭痛だ。

 というか、なんだかんだで勝ち抜いてしまった。これもフィーベルのスパルタ教育とレイフォードのセンスのおかげか……。

 

 三十分後に決勝が行われるらしいと聞き、ひとまず休憩のためにグレン先生のところに集っている二組生徒に混じる。

 グレン先生を金銭的に乾すためにこっちを応援してくるやつとか、相変わらず要所でドジ踏んで初戦敗退したやつとか、いやいや来た割にはちゃんと最後までいてくれるやつとか、こっそりグレン先生と踊りたそうにしてるやつとか───

 

 決勝間際、ということもあってテンションが上がっているのだろう。二組生徒の群れはわいわいがやがやと落ち着きなく騒いでいた。

 

「アッシュ……まさかお前が決勝まで勝ち残るなんてな……」

「むきーっ! リィエルはともかく、あなたのよーなデリカシーもマナーもなっていないおとぼけ男子が決勝進出だなんて……ッ!!」

「悪いか。……ま、フィーベルのプロデュースが良かったんだろうさ」

「クールぶってんじゃねえよ~!? そういうのはギイブルの専売特許───あっ、今はギイブル二号だったなお前」

「おい、誰が僕二号だって? どういう根拠だ」

「眼鏡」

「眼鏡ですわね」

「ふざけるなよ!?」

 

 騒がしいなあ。

 懐かしいし、嫌いじゃないけどさ。

 

「……なあ、アッシュ」

「んー? どうかしました、グレン先生? 仮に勝っても金一封はあげませんよ」

「ちっげーよ。……お前、エレノアに会わなかったか?」

 

 む。この口ぶり……グレン先生はエレノアさんと遭遇したと見える。

 まあ隠すことでもないし別に良いけど……エレノアさんの『やること』ってグレン先生関係だったのか? なんだったんだろう。

 

「会いましたね。踊らされました」

「マジかよ……くそ、イヴのやつ……なーにがアッシュは狙われないー、だよ……ガッツリ接触されてんじゃねえか」

「? あの、なにゆえイヴの名前が出るんです?」

 

 会場警備とかしてるんじゃないのか、あいつ。

 

「あ……いや、ちょっとな。まあ、気にすることはねーよ。本当、ちょっとした野暮用だ」

「ふうん」

 

 聞かない方が良いんだろうなあ。

 ティンジェルを誘ったときの強引さといい、この前みたいにティンジェルが狙われてる……とかだろうか。そうなると、前は暗殺騒ぎに関わってたっていうエレノアさんがなにもせずにいなくなったのが疑問だけど……。仲間割れでもしたのかな。

 

 と、それはいいや。当てずっぽうだけど黙ってる以上は聞かない方が良いことだろうし。

 

「まさか、ここまで食い込むとは思ってなかったわ……」

「あはは……システィが教えてあげたんだっけ?」

「ええ、そうよ。ほんとは私がリィエルと踊ろうかとも思ったんだけど……」

 

 ここでちらっとこっちをみるフィーベル。俺悪くないよー。誘ってきたのレイフォードの方だからねー。

 というか女子同士で踊るつもりだったのかフィーベル。その場合レイフォードが男装でもしたんだろうか?

 

「……それにしても、リィエルの方から誘うなんてね。今さらだけどちょっと意外だったわ」

「ん……だんす? みんな、楽しそうに話してたし……それに、なんか、ほっとけなかったから」

「……俺はもしかしてレイフォードにもぼっちの可能性を哀れまれてるんでせうか?」

「?」

「天然んん……」

 

 そこまでぼっちじゃないと思うんだけど、俺。

 

『───もう間もなく、決戦を行います。決勝に勝ち上がったペアは会場の中央へ───』

「あー……。出番か」

「ん」

 

 会長のよく通る声に促されて、なんとなく落ち着かない気分のまま中央へと進み出る。

 

 しんと静まり返った会場で、互いに一礼。

 手を握るのも、もう慣れたものだ。緊張するようなことでもない。

 

「アッシュ」

「うん?」

「……楽しい?」

 

 ふと、レイフォードが上目遣いにそんなことを聞いてくる。

 

「───ああ、まあ。楽しいよ」

 

 噓ではない。楽しいと、そう確かに感じている。たとえそれが、どこか現実味のない感覚だったとしても。

 どこか疑うような眼差しを振り払うように、静かに始まった音楽に合わせて踊り始める───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───なにかが、おかしい。

 

 一心不乱にステップを踏みながら、ほんの僅かな隙間にそんな思考が差し込まれる。

 

 ()()()。けれど、()()()()()

 

 ()()()()()()()()、楽しいと感じている。

 

 いつもいつも付きまとう、薄皮一枚隔てたような、無意識に感じていた感覚()がない。

 

 心から楽しいと感じている。本当に?

 

 一体感。()()()()()()()()()()()()()。───本当に?

 

 おかしい。

 それは、おかしい。

 

 今の自分が正しくこの世界、この日常に溶け込むことなど有り得ない。

 

 たとえその認識が無自覚であったとしても、現状が有り得ないことだけは確信できる。

 ズレが無理やり矯正されるような感覚、と言えば良いのだろうか。少しだけ別の場所にいるはずの自分が、見えない糸で一括りにされるような。

 

 なんだ。なにがおかしい。

 一体なにが、自分を馴染ませようとしているのか───

 

「くそ───」

 

 くるくると踊る中、疲れとはまた違うものに苛まれる。荒い息というとそれも少し違う。息ができない、の方が正しい。

 見えない糸がこちらを引っ張ろうとしてくるのに、ほんの僅か、抵抗しているせいで動きがぎこちなくなるような。中途半端に引き込まれているせいでかえって苦しい。

 

 いつもなら気にしなくて良いことだと判断してしまいそうな違和感が、どうしてか拭えない。

 

 身体は───動いている。大丈夫だ。不自然に動きを鈍らせるようなことにはなっていない。

 問題があるとするならば、意識が若干軋んでいることだけ。───今だけは切り替えよう。理由は相変わらずわからないけど、わざわざ誘ってくれた少女と、今日のために教えてくれた少女の気持ちを台無しにするわけにはいかない。

 

 息を止めて、吐く。

 

 ……よし、大丈夫。まだ動ける。

 

 今までと同じようにステップを踏む。腕の中でお姫様を滑らせる。

 くるくると回る青。際限なく高まる熱気に、今だけは身を任せよう。

 

 せめて、この夢のような時間が終わるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 互いが互いの全力を尽くした決勝を制したのは───グレンとルミアのペアだった。

 

 アシュリーとリィエルも善戦はしたものの、経験不足が如実に出た形だ。

 

「はぁー……はぁー……あー、負けた負けた。おつかれ、ティンジェル。あとおめでとう。で───悪いなフィーベル、代理戦争は敗走だ!」

「人聞き悪いわね!? 別にそんなんじゃないわよ!」

「はぁ……はぁ……や、った……やりました、先生!」

「……おう。おめでとさん、ルミア」

「……ん。なんかよくわかんないけど……おめでとう。ルミアはすごい」

「ふふ……ありがとう……」

 

 純粋なクラスメイトの賛辞に、ルミアが微笑む。もう後悔はない、できることをやりきった……そんな顔だ。

 今宵、ダンス・コンペを勝ち残った淑女に貸与される『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』は、晴れてルミアが身に纏うことになったのだ。

 

 もっとも、ただ着て終わりではない。優勝したグレンとルミアは、このあとに行われるフィナーレ・ダンスを踊ることになっている。

 運営スタッフに促され、クラスメイトの声援を浴びながらルミアが姿を消す。念のため護衛としてリィエルもついていったが、まあ問題はないだろう。

 

 なにせ、もう事件は終わったのだから。

 

(イヴがザイードを確保したって聞いたときは信じられなかったが……実際、なにも起きなかったしな……)

 

 魚の小骨のように心に刺さっていた不安が霧散していく。本当に何事もなく終わったのだ。裏で蠢く陰謀も、煌びやかな舞踏会も。

 

「……あったま痛ぇ」

 

 一人、そう言って離れていった生徒もいたが───正直、今のグレンにはそれを気にしている余裕はなかった。

 着替えを終えたルミアが、その姿を現したからだ。

 

「……ッ」

 

 ルミアが先ほどまで着ていた、淡い桃色のドレスではない。

 『その少女をもっとも美しく見せてくれる』───なんていういわれのある、幻想的な衣装。妖精の乙女が仕立てた逸品。

 

 それがルミアという特上の宝石の原石を、さらに磨き上げて───思わず、グレンでさえ息を吞んだ。

 

 これから、この少女と踊るのが自分だということさえ忘れてしまいそうだ。

 

 ───きっと、『妖精の羽衣』が彼女の美しき死装束となることでしょう───

 

 ふいに、そんな言葉がグレンの意識を掠める。

 不吉で仕方のないセリフだが、そんなことよりも今は目の前のルミアがただただ美しく、会場を包む熱に身を任せてしまいたい。

 

「……え、と。似合ってる」

「……えへへ……それじゃあ、先生。今日最後のエスコート……お願いしても、いいですか……?」

「お、おう。任せとけ……行こうか、ルミア」

「……はいっ」

 

 中央の舞台に二人で移動し、流れ始めた音楽───『交響曲シルフィード』の七番に合わせて踊り始める。

 

 激戦を勝ち抜いた二人のダンスが、最高の舞台、最高の空気で披露される。

 ゆらりゆらりと、会場の全員までもがそれにつられて踊り始めた。

 

 それはまるで理性を蕩けさせる甘やかであたたかな揺籃。今このときだけは、あらゆる思考から解放され、ただゆるやかに踊り続ける───

 

(……俺も、酔ったかな)

 

 きっと、この雰囲気にあてられたのだろう。グレンまでもが、その意識を手放そうと───

 

 ───ぴしり、と。

 

 夢のような時間の中、それを邪魔する影。

 

 邪魔者は少女と青年の形を取っていた。

 見慣れた真銀のような銀髪と、藍色がかった黒い長髪。

 

 なぜかその二人は、他の人間と同じように手と手を取り合って踊っているにも関わらず、『交響曲シルフィード』に合わせて『シルフ・ワルツ』の七番───ではなく、八番を踊っていた。

 

 不快だ。非常に。

 

 この一体化した世界を乱すこの二人が。

 

 よくよく見れば、それはシスティーナとアルベルト───見慣れた、けれど珍しい組み合わせの二人だった。

 

 周囲が夢見心地に淡々と七番を踊っているのに、やはり二人は八番を合わせ、不協和音を奏でている。

 

(邪魔だな……)

 

 ゆるみきった思考に苛立ちが混ざる。この安穏とした世界を崩されたことへの───違う。そうじゃない。問題にするべきはそこではない!

 

(まさか……まさか、まさか───まさか!?)

 

 電撃のように脳裏を駆け巡るのは一人の女と踊った記憶。

 

 わざわざ脅しをかけ、リスクを背負ってまで現れ、なにを考えているのか助言を差し上げましょう、などと宣った女。

 

『───では、ヒントを。王女の命運を握るのは───』

 

 パチン、と唐突に全てのピースがハマる音がした。

 システィーナたちが不協和音の八番を踊っている意味。エレノアの言葉の真意。それが指し示す、状況の異常さと打開策。

 

(そういうことか……ッ!?)

 

 全てに気が付いたそのとき、指揮者が高々と指揮棒を振り上げる。

 もう曲も終盤、フィナーレだ。間に合うかどうか。

 

 ぐい、とやはり夢見心地に踊るルミアを強引に引っ張り、『シルフ・ワルツ』の七番とは違うステップを踏み始める───それは、かつてグレンが同僚であり、白犬と呼んで不器用ながらも心の支えとしていた《風の戦巫女》、特務分室《女帝》のセラから教授された『シルフ・ワルツ』の原典たる『大いなる風霊の舞(バイレ・デル・ヴィエント)』の第八演舞(エル・オクターヴァ)

 

 魔を祓い、己が心を守る精霊舞踏。

 この会場を包む違和感が、精神に干渉するなにかであるのなら───特に有効なはず。

 

(間に合え、間に合え、間に合え───ッ!!)

 

 途中で夢から覚めたルミアを振り回しながら、いつか教え込まれた動きをなぞる。

 演奏がピークを迎え、フィナーレを飾る音が高らかに響いて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 テラスで休んでたらなんか……あの……頭痛が増したのと一緒にすげー勢いでレイフォードが外にすっ飛んでったんですが……。

 

 あの服、確か軍服だよな? やっぱなにかあったんだなあ……。

 

 いや、そんなほのぼの考えてる場合じゃねえよ。なにかあるんなら中が危ない……いや外に行ったんだから外が危ない? どっちだ。

 

「あーくっそ、頭痛え!」

 

 外傷なら余裕で耐えられるけど内部の痛みは専門外ですッ!! いや我慢しようと思えばできるけど!!

 

 どうしよっかなー、このままテラスにいるべきかなー……。

 そんな風に考えていると、不意に目の前に暴風。違う、これは……ただの風圧か。

 

 そんで気が付けば目の前にはヒゲを生やしたオッサン(師匠)一人。

 

 悲鳴をあげなかったのを褒めてほしい。咄嗟に短剣は出しちゃったけど。

 

「なに!? なにごと!? ついに闇討ち!?」

「なーに言っとるんじゃお前さんは……む、お前さんは無事なんか。ほほーう。……よし」

「よしってなに!? あんたの『よし』は良いことあった試しがないんですけど!!」

 

 ぎゃーす、と(一応会場ではフィナーレ・ダンスの真っ最中なので小声で)叫んでいると口を塞がれた。え、マジでなに? 死ぬの?

 

「違わい。お前さん、ちょーっと手伝ってくれんかのう? あ、精神防御の魔術も唱えておけい。……唱えたな? よーしよし」

「な、なに? マジでなにが起きてんの? さすがに俺も理解が追いつきませんことよ?」

「すみません、強引に……」

「どなた!?」

 

 後ろからさらに見知らぬ少年が出てきてマジでわかんねえ。なにこいつ。敵……じゃあないか、軍服着てる。

 

「僕は……バーナードさんの同僚で、特務分室の執行官のクリストフです。……バーナードさん、そちらは?」

「ん? わしの弟子一号じゃよ。ほれ、グレ坊の生徒の」

「ああ、彼が……」

 

 待って待って、なしてそこでグレン先生? というかそっちの少年……クリストフ? さん? はあの、こっちを敵意マシマシで見るのやめようね。怖くはないけど驚きはするんだからね?

 

「失礼しました。ですが、時間がありません。バーナードさんから、あなたはそれなりに腕が立つと伺っています……アルベルトさんの報告では、エレノア=シャーレットやジャティス=ロウファンを相手に生き延びたとも」

 

 それ違う、あっちが本命思い出してそっちに向かっただけ、俺はパンピー。信じて。

 

「ですので、どうかご協力をお願いします。事は内部にいるルミア=ティンジェルさんにも及ぶのです。……ご学友のピンチです」

「……もしかしてそれで釣ろうとしてます? いや、釣れるけど。師匠もいるし手伝いますけども」

「あはは……すみません、何分手段を選んでいられないもので。イヴさんとの連絡が取れない以上、少しでも人手が……そうでなくとも、一人でも多く敵に回らないようにしたいんですよ」

「……イヴ? なんだあいつ、なんかあったのか?」

 

 さすがにもうなにかあったのはわかってるけどさー。

 こうも知り合いが巻き込まれてるとさすがに気が散るというか───

 

 

 

「イヴさんは、恐らく敵の魔術に絡め取られたものと思われます。……確証はありませんが」

 

 

 

 …………。

 

 ぱーどぅん?




ああーーー時間が足りねええええ文字数も足りねええええ。
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