竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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明日明後日の更新は個人的な都合でかなり怪しいです……!
期待はしないでいただけると。
というかよく見たらUAがミリオン突破しててびっくり。お気に入りも2000近くになってるし、皆さま本当にありがとうございます……!感想も毎日楽しみにしております。


34.教師に社会的な死に追い込まれる

 セリカ=アルフォネア。

 

 大陸最高峰の魔術師。アルザーノ帝国魔術学院に在籍する教授であり、グレン先生の育ての親にして魔術の師。

 

 そんでもって───結構いたずら大好きな、困った大人なのである……!

 

「ふっふっふ〜……さぁて、まずはグレン。お前だ」

「はっ!? セリカお前、突然出てきてなに言って───」

 

 ズキュウウウウウウウン。

 

 突然俺たちの目の前でR-15ムービーが展開され始めた件について。

 近親相姦歳の差カップルか。なかなかニッチなところを攻めますね……とそっと視線を逸らした。……いや、実はメジャージャンルだったりするのか? わからんな……。

 

 というか『まずは』って聞こえたんですけど。あの、『次は』とかないですよね? ね?

 

「ブハッ……!? お、お前、俺になに飲ませやがっ……」

「んっふっふ。ま、見てろって───《陰陽の理は我に在り・万物の創造主に弓引きて・其の躰を造り替えん》!」

 

 メキメキ、という不吉な音とともにグレン先生の姿が煙に包まれ、その姿を覆い隠していく。

 正直今すぐにでも逃げ出したいのだが、相変わらずアルベルトさんが控えている上に実はまだ両手をロープで縛られたままなんだ。

 

 詰んだわ。

 

「ぐ、がぁぁあああ……!? げほっ、セリカ、お前マジでなにを……」

 

 煙が晴れ、実に嫌そうな仕草でぱたぱたと手で扇ぐグレン先生の姿がぼんやりと浮かび上がってくる。

 

 いつも通り、ぼさぼさとした男性にしては長い髪。だらしなく着崩されたシャツと大雑把に締められたネクタイ───を、布地の下から押し上げる、概ね半球状のナニカ。

 

 ……おや?

 今、男性にはそぐわないパーツがあったような?

 

「……あー、先生?」

「なんだよ……? ……ん、なんだ……俺の声、やたら甲高いな……風邪でも引いたのか?」

「いや、その……落ち着いて下を見ましょう」

「下ぁ? 地面なんかになにがあるって───」

 

 ぴしり。そんな擬音とともに、グレン先生が固まる。

 さもありなん。そこに鎮座ましましているのはまさしく男性にはそぐわない胸部装甲、女子は女子で紛争の原因になったりするという───

 

「オパーイ!? ナンデ!? オパーイナンデ!?!?」

「揉むなよ。いや自分ので混乱してるからって揉むなよ」

「うるせえ!? 突然ルミア並みの爆弾が生えた俺の気持ちがお前にわか───コッチもなくなってるゥ!!」

「ズボンの中を女生徒の前で覗き見るんじゃねえよ!?」

「後ろ向いてるからセーフだろがッ!!」

「くそ、普通有り得ない状況だからセーフかアウトか判定ができん……ッ!!」

 

 というか猛烈に嫌な予感。

 

 アルフォネア教授がなにかしたのは明白だ。それがグレン先生をにょたぁさせてしまったことも。

 そして先のアルベルトさんの発言───『アシュリーは女性名でも通る』というあの一言。そして俺が同行させられそうになっている聖リリィ魔術女学院は文字通りの男子禁制女の園───!!

 

「すみませんちょっと用事を思い出したので!!」

「逃がさん!」

「逃がして!?」

 

 アルベルトさんがこっち(ロープ)を引っ張って連れ戻そうとする───縄を引きちぎって脱出。

 即座に魔力を足裏に集めて放出。座椅子を踏み台にしながら、出入口に向かって駆ける。こんなところにいられるか! 俺は家に戻らせてもら───

 

「はっはっは……《動かない方が身のためだぜ》?」

「がッ───!?」

 

 そんなアルフォネア教授のセリフとともに、突如びしりと全身に走る緊張感。いや、それは少し正しくない。緊張より緊縛の方が正しい。身体を見ると、ここに来たときのレイフォードと同じように身体の三ヶ所が魔術で拘束されている……!

 

 無理やり動かせばなんとか突破できないこともなさそうだが、確実にそのあとが続かない。

 

「やだ! さすがに嫌です!! せめて女装で!!」

「俺としてはそれでも構わんのだが。考えてみろ、アシュリー=ヴィルセルト」

「なにをですか!?」

 

 アルベルトさんはくいっ、と今まで自分の胸を揉みしだいていたグレン先生を親指で指した。

 グレン先生は、いつの間にかアルフォネア教授と同じように手をワキワキさせていて。

 

「ッ───!?」

「グレン=レーダスという男が、自分がこんな目に遭う中でお前を見逃すような殊勝な輩だと思うか?」

「最ッ低な理由ですけど説得力半端ねぇな!!」

 

 つまりは旅は道連れ世は情け、というコトだ。

 

 この状況のどこにも情けはないけど。

 むしろ人類の醜さが、これでもかと(約一名に)凝縮されている……ッ!!

 

「ざっけんな!? 俺を巻き込まないでくださいよいい加減に!! いや手伝えることなら手伝うけどそれとこれとは別っていうか、なんで俺にフツーの毎日を送らせてくれないんですかあんたは!!」

「うっせえ! リィエルのためだ、我慢しろ! ていうか、抵抗するならそれはもうありとあらゆる手を使ってお前も同類にしてやる……!!」

「鬼! 悪魔! 金欠講師ィ───!!」

「フゥーハハハハなんとでも言えェ───!!」

 

 くっそ、こいつ本当に教職員か!? いや今さらだが!!

 しかもこっちは【リストリクション】で拘束されて動けないのに!

 

「おら飲め。そしてお前も道連れだ……くっくっく……」

「がぼっ、口に直接小瓶を突っ込むなゲホッ!?」

 

 ───結局、俺はグレン先生に強引に謎の魔法薬を飲まされたのであった。

 いやさ……口移しとかされなかっただけマシだけどさあ……。

 

 ぐええ。それはそれとしてまずい。色んな意味でまずい……。

 

「良い子良い子。大丈夫、痛くないからな~?」

「それは本当は痛いのを騙すときの常套句じゃないですか!? ちょっ、マジでやめ───」

「よーし、張り切っていってみよ~!」

 

 実に楽しそうだなコンチクショウ!!

 

 ───あ、なんか意識が。

 バキメキゴキー、とどう考えても痛くないなんてことはなさそうな音が、今度は自分の身体から聞こえてくる。

 

「痛くない、って、ぜってえ、噓だ……ッ」

「あっはっはっは! グ、グレンといいお前といい、なかなか美人じゃん!? あーっはっはっは!!」

「え、えっと……二人とも似合って……る、よ?」

「……やめてくれティンジェル。その発言はだいぶ、キツい」

 

 やたらと伸びた髪の毛が、ばさりと音を立てて地面を擦る。

 もう逃げる心配も必要もないと判断したのだろう。【リストリクション】は解除され、解放された俺は床にくずおれていた。

 

 くすんだプラチナブロンドは、腰よりもなお長いのではないだろうか。手入れをしていない割にはそれなりに整っている。

 そして───案の定、胸筋の代わりに増築された胸部装甲。

 泣きたい。

 

 しかしそれはともかく、こっちは日頃から身体をいじくってしまっているのでそれと相殺してたり妙な不具合を起こしていたら困る。主に炉心……回路とか。ので、ざっと自分の身体の調子を確かめる───うん、性別が変わった以外に妙な部分はないらしい。

 いやおかしいだろ明らかに。主に文面が。

 

「……アルベルトさん、このアホみたいな計画立てやがったのはどこのどいつですか」

「イヴ=イグナイトだ」

「イヴゥウウウウ!? あいつもしかして俺のこと嫌いなの!? ねえ!?」

「知らん」

 

 と、素っ気なくアルベルトさんは吐き捨てて『パシャッ』……パシャ?

 

「ところでアルベルトさん」

「なんだ」

「つかぬ事をお伺いしますけど、その……たった今瞬速召喚(フラッシュ)したそのでっけー箱はなんでせう?」

「む、知らないのか。これは射影機といって」

「いやそこは知ってる。知ってるけど俺が聞きたいのはですね、なんだってそんな箱をこっちに向けてンのかなんですよ。わかります?」

「撮影するためだが?」

 

 当然だろう、と言いたげな顔をするアルベルトさんwith.射影機。

 違うそうじゃない。というかなんで現像した画像に保護呪文かけて封筒に入れて鷹の使い魔に持たせてるの!?

 

「イヴが、『うまくいったら一枚くらい写真を撮っておけ』と」

「なんっでだよ! 今確信した! あいつ俺のこと嫌いだな!? そうなんだろ!?」

「それは与り知らぬが、ともあれこれで聖リリィ魔術女学院への短期留学は可能となった。どうだ、リィエル?」

「ん。……二人も来るなら、問題ない」

「あるよ、ありすぎるよ!」

 

 なんで問題ないと思ったレイフォード!?

 

 あいや、もうここまで来たら腹をくくるしかないというのはわかるけどさあ!?

 

「んー。効果はバッチリだが、どーも効きが悪いな。お前、魔術避けの護符(アミュレット)でも持ってんのか? ……ま、いいが。変身の維持には専用の薬が必須だからな、ちゃんと定期的に飲むんだぞー」

「もう完全に参加することで話がまとまってる……」

 

 慈悲はないんですか。ないよ。

 

 ───こうして、なんでか俺までもが聖リリィ魔術女学院にお邪魔することになったのであった。

 

 いやだから。なんでさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく出られないと連絡をしに行ったバイト先の店長に大笑いされ、フィーベルとティンジェルの二人にオモチャにされかかってから一日。

 

 無事に俺たちのところには聖リリィ魔術女学院への短期留学のオファーが届き、今現在はそこに向かう鉄道に乗るため、帝都の駅をさまよっている最中だ。

 

 ……いや、本当。なんでこうなった。

 

「まあ、いいじゃない。これもリィエルのためだし?」

「マジで他人事だなフィーベルさんよお……」

「他人事だもの。ま、ご愁傷さまとは言っておくわ」

「むう……」

 

 まあ、過去は変えられないし、過ぎたことをうだうだ言っても仕方ないのであるが。

 道中で懐かしの帝都に寄れたからまあ、よしとしよう。爺さんがなにか手を回したのか、昔の家はまだ当時のままで放置されているらしい。遠くから見た限りでは、昔となにも変わっていなかった。

 

「……ごめん、アッシュ……」

「あーいや、気にすんな。レイフォードの手伝いすんのが嫌って話じゃないから」

「でも……すごい嫌がってた……」

「ありゃ強引なイヴとアルベルトさんとついでにアルフォネア教授が悪い」

 

 だが、わざわざアルベルトさんたちが第七階梯(セプテンデ)を引っ張り出してまで同行させたのには一応ちゃんとした理由がある。

 

 グレン先生への嫌がらせ……というのもそうだが、そもそもレイフォードの退学騒ぎは、確かに権力争いは日常茶飯事、陰謀の渦巻く帝国政府の状況を見ればあってもおかしくはないのだとか。

 だが、レイフォードに送り付けられた『聖リリィ魔術女学院への短期留学のオファー』。こちらはあまりにも送られてきたタイミングが良すぎる。軍がレイフォードを学院に在籍させ続けるためにはこの短期留学に行かねばならない。つまり───そこになにかしらの目論見があるのではないか、というのがアルベルトさん含めた軍の判断なのだと。

 

 それを聞いてしまっては、さすがに嫌だ嫌だと言ってはいられない。特にグレン先生は。俺? 『来てくれないの?』としゅんとうなだれるレイフォードに良心が痛んだので屈しました。女の子を泣かせる野郎に人権はない。

 

 どうにかこうにか聖リリィの制服を着るのは勘弁してもらったが(ちょうど俺の身長に合うサイズの制服もなかった)、代わりにグレン先生と同じようなシャツにズボンという格好になっていた。やたらと伸びた髪の毛は後ろで一本に結んでいる。俗にいうポニーテールというやつだ。それでも長いので、腰のあたりにさらさらと髪の毛が擦れる感覚がずっとしている。

 動くたび、腕や胴に一房ずつバッサバッサとかかってくるので非常に邪魔だ。だがこの状態で髪を切ったら戻ったときにどうなるかがわからないため、仕方なく伸び放題で放置しているのだった。

 

「……と、五番線は……こっちか」

 

 グレン先生の案内で駅のホームを目指しつつ行進する。周囲には俺たち……正確にはフィーベルたちと同じ格好をした女子が大量にたむろしており、明確に示すものがなにもなくともこちらが目的地なのだと如実に表していた。

 

「うへえ……こんなに帰省してたのか!」

「みたいですね……聖リリィ魔術女学院は短期の休暇だったっていうし、みんな外に出てたんでしょうか?」

「す、すごいなあ……女の子がこんなにたくさん……」

「……ああ、すげえ光景だな。ある意味」

 

 女三人寄れば姦しい、というが。

 まだ列車に乗りもしていないのに、既に駅構内は女生徒のささやきで埋め尽くされていた。うるさいといえばうるさいが、多分これからさらにうるさくなる。

 

 そして肝心のレイフォードをチラリと見ると、苺タルトの売店で引っかかっていた。大丈夫なのかあいつ。

 

「おい、迷子になんぞ」

「ん……でも、苺タルト……」

「……今度また作ってやるから。今日は抑えろ、な?」

「……ん」

 

 それでも名残惜しそうなレイフォードを引っ張り、半ば無理矢理に連れていく。既にフィーベルたちは五番線にこっちを置いて向かってしまった。このままでは置いていかれてレイフォードの落第は早くも確定してしまう。

 

 ───俺は、ずるずるずるー、と首根っこを掴まれて荷物かなにかのよーに運ばれていくその姿が、果たして周囲からどう見えるのかを失念していた。

 

 今の俺は髪の長さで一発で女性とわかるものの、身長の高さと服装のせいでとてもではないが普通の女生徒には見えない。

 おまけにレイフォードは無表情だ。能面のような顔は遠目に見れば恐怖に怯えるいたいけな乙女に見えないこともなく、下手をしたら誘拐の現場にも見えるかもしれない。

 

 つまり、だ。

 

「あ、あの……っ!」

「……んー?」

「そ、その子を離して……あげて、ください……っ!」

 

 ……こんな感じで、予期せぬアクシデントが発生するのも、致し方のないことと言えよう。

 

「……えーと」

「どなたかは知りませんが、その子は私たち聖リリィ魔術女学院の生徒です……っ! ゆ、誘拐なんて……見過ごせません……!」

「……あのー?」

 

 誘拐じゃないんだなこれが。

 声を掛けてきたのは同年代と思しき少女だ。聖リリィ魔術女学院の制服を着ているあたり、俺たちと同じく五番線に乗って学院へ向かう途中だったのだろう。

 

「こっちはその、単純にこいつを連れて行かないといけないというか……」

「だ、ダメです! とにかくダメなんです! 早くしないと警察を呼びますよ!?」

「いや、あの……それはその……困ります……」

 

 そんなことしてたら列車が出てしまう。

 しかし野暮ったい眼鏡をかけた亜麻色の髪をした少女は聞く耳を持たず、ジリジリとこっちに近づいて来る。あ、石畳にヒビ発見。

 

「困る……? や、やっぱり後ろめたいことがあるんじゃないですか!?」

「そんなことはないんですけど……あの……あんまり不用意に近づくと転びますよ?」

 

 瞬間、少女の顔がこわばる。あ、よかった。そのまま進んでたら転ぶかもしれなかっ───

 

「──────」

「……っ?」

「……?」

 

 ───不意に感じた殺気に思わず短剣を出して身構えてしまったが、勘違いだったらしい。

 目の前の少女はおどおどとした様子で眼鏡をいじっている。無意識に触る癖でもあるのだろうか。

 

 反射的に背中に担いだレイフォードも、いつの間に作ったのかいつもの大剣を構えたまま背中でぶらぶらと揺れていた。

 だが周囲にこちらに害を為すものは見当たらない。……やはり勘違いだったのだろう。魔力の粒子に変えて散らしながら、誤魔化すように苦笑いした。

 

 ……と、まずいな。時間がなくなってきた。もうじき列車の発車時刻だ。このままでは迷子のお知らせをされてしまう。

 

「……本当に、誘拐とかじゃないんです。お───自分たちもその……聖リリィ魔術女学院に向かう途中で。はぐれそうになったから、回収してただけなんですよ」

「え……? じ、じゃあ……私の、勘違い……?」

「ん。誰だかわかんないけど……アッシュは、仲間」

 

 なんかちょっと誤解を招く言い回しやめぇ。迷子仲間だと思われるだろうが。

 

 幸い、それで眼鏡少女は理解してくれたらしい。すみません、すみませんと平謝りしながら五番線の方へと案内してくれる。

 よかった。誤解は解けたようだ。ほっと胸を撫で下ろし(手に当たる感触は努めて無視した)、レイフォードをぶら下げたままで列車の方へと二人+一人のトリオで歩いていく。

 

 指定された場所に来ると、既に列車は到着していた。待っていたのであろうフィーベルとティンジェルが、『やっと来た!』とでも言いたげな顔になる。

 大雑把な事情を説明し、さあ乗り込もうといったところで───問題が発覚した。

 

「……グレ……レーン先生は?」

「「……あっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───あんまり不用意に近付くと、()()()()()

 

 背の高い女性の冷徹な、だけどどこか柔らかな響きをもった声。

 ほんの少し、眼鏡を外した(スイッチを切り替えた)だけなのに……私の仇敵を背負ったままで即座に構え、氷のように冷たい視線でこちらを射貫いた彼女。

 

(……まさか、イルシアの近くにあんなやり手がいるなんて)

 

 計算外だ。これでは私の計画もどこまでうまくいくものか。

 両親の仇。炎の記憶。私の夢。

 それを払拭するための今回の計画。失敗するわけにはいかないのだ。

 

(……まずは、当初の予定通り懐に潜り込んで、信頼を築きながら……機会を窺おう)

 

 こちらが親しくすればするほど、気は緩み、イルシアと二人きりになれるタイミングも多くなるはず。

 

 よし、そうしよう。

 大丈夫、私の正体も目的もまだバレてはいない。慎重にやれば、大丈夫だ。

 

 そう自分に言い聞かせ、眼鏡を少しだけいじりながら、私───エルザ=ヴィーリフは、裁くべき犯罪者の手を引きながら、忌むべき鳥かごへと向かう鉄の蛇へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーなる気はしてたんだよ……はあ……」

 

 ぐったりと手すりにもたれかかるグレン先生、もといレーン先生。

 レーン、というのはグレン先生が一秒で考えた偽名だ。フルネームはレーン=グレダス。なんのことはない、シンプルなアナグラムだ。それでいいのかとその場にいた全員で突っ込んだのを覚えている。

 

 かくいう俺はアルベルトさんの言った通り『アシュリー=ヴィルセルト』という名前のままで通ることになった。改竄箇所が少なくて助かったと(師匠)が言っていた───というのはアルベルトさんの言だ。嬉しくない。あの人ぜってー書類捏造してるとき楽しそうにゲラゲラしてただろ。間違いない。

 しかし当の本人の居場所は全くわからんので文句を言う相手はいないのであった。

 

「さっきはすみません……本当……」

「あー……いえ、気にしないでください。ええと……ヴィーリフさん?」

「さん、なんていりませんよ。同年代みたいですし……」

 

 俺の隣でぺこぺこしているのは、さっきこっちを誘拐犯扱いしてきた少女。エルザ=ヴィーリフ、というらしい。

 これもなにかの縁ということで、現在俺たちとヴィーリフは座れる場所を探して列車内を歩いていた。

 

「不思議よね……魔術もなしに、こんな鉄の塊が地を走るなんて……」

「煙たいしうるせえし、近所迷惑の権化だろこれ。感動する要素なんてねえっての。ケッ」

「俺は好きだけどなあ、蒸気機関車」

 

 鉄道ファン、というわけでは全くなかったが、それでももはや思い出せず、郷愁の念だけが無意味に募る故郷の面影を感じさせるものはどうも嫌いになれない。むしろ好きだ。切符を購入するときなんか柄にもなくソワソワしてしまった。

 その関係で、実は家には科学技術や東方の文化に関する学術書が結構置いてあったりする。……無論、内容を完璧に理解しているわけではないが。

 

「そうですか……皆さん、アルザーノ帝国魔術学院からの短期留学生だったんですね。……それにしても、制服のサイズがないなんて……」

「んー、ま、仕方ない。このサイズの女子制服なんてあんまりないよ」

 

 俺の身長は174センチ前後。女体化した影響で若干縮んではいるものの、それでも170はある。

 フィーベルやティンジェルは150センチ台だし、女子は基本的にそのサイズなのだろう。……こちらからすれば不幸中の幸い、といったところだが。スカート履く羽目にならなくて本当によかった。

 

「それに、アッシュさんといいリィエルさんといい……すごく体術に長けてるみたいですし。文武両道……憧れます」

「……そうか?」

 

 ヴィーリフが言っているのは多分、こっちが勘違いで剣を抜いてしまったあの事件のことだろう。

 ビビってまともに話ができなくなっても仕方ない、と思っていたのだが……なかなかどうして胆が据わっているというか。

 

「……でも、気を付けた方が良いかもしれないです。あまり強いと、あちこちの『派閥』から引っ張りだこになるかもしれないから……」

「……『派閥』?」

 

 なんじゃそら、と思いつつ、座れる場所を探して列車内を進んでいく。

 自由席車両の扉に手を掛け、一気に開け放つ。今までの個室が並んでいた車両とは打って変わって、左側に座席、右側にはカフェテーブルや調度品が置いてある。

 さすが貴族のご令嬢が数多く通う学院へ向かう専用の列車内。そこはちょっとしたお嬢様方の社交場になっていた。運の良いことに、席にもかなり余裕がある。怪しいくらいだ。

 

「ま、いいや。とりあえずどっかその辺に座っちまおうぜ、お前ら!」

 

 ───と。グレン先生が号令をかけた、そのときだった。

 

「ちょっと、そこの方々!」

 

 ずらーっ、とこちらを取り囲む女子の集団。

 いかにも『お嬢様です!』といった風体の彼女らはびしっと指をこちらに突き付けると。

 

「この車両はわたくしたち、『白百合会』のものですわ! 部外者はお引き取りくださいまし!」

 

 ……呆気に取られる俺たちに、そっとヴィーリフが耳打ちした。

 

「……その、こういうことなんです」

 

 なるほど。

 

 どうやら、お嬢様学校というのも───一筋縄ではいかないらしい。




殺しますよ(聞き間違い)(CV.能登麻美子)
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