竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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低気圧を許すな(瀕死)


35.秩序とは(哲学)

 ───グレンたちにビシー、と指を突きつけた金髪縦ロールのいかにもお嬢様然とした少女の名は、エルザ曰く『白百合会』のトップであるフランシーヌ=エカティーナというらしい。

 なんでも、聖リリィ魔術女学院にはこうした生徒同士による『派閥』があるらしく、『白百合会』は学院の伝統と秩序を是とする『派閥』なのだとか。なお、この場合の伝統とは『白百合会』における伝統であり、秩序とはその伝統に基づいた『白百合会』の定める秩序である。

 

「この車両は伝統的に、我々『白百合会』にのみ使用が許された場所なのです。

 ───そう、そこが自由席であろうと、指定席であろうとも!」

「なんっでだよ、なにが秩序だ公共のルールを先に守りやがれ!?」

 

 正論である。

 グレンから飛び出たとは思えないほどのド正論である。

 

 しかしそれにフランシーヌは応じない。あくまでも『悪』は(『白百合会』の定めた)秩序を守らないグレンたちである。

 が、いかに貸し切りの列車であろうが(当然ながら)公共機関でそんな学校内での一方的なルールがまかり通るはずもなく、グレンのツッコミは留まるところを知らない。それを組織のトップであるフランシーヌへの侮辱と取ったのだろう、周囲に控えていたこれまたお嬢様らしい雰囲気をまとう少女たちがじりじりとこの不埒な輩を取り押さえようと包囲網を狭めていく───

 

「ふん、相変わらずバカバカしいことやってやがるなあ『白百合会』さんよお!」

「なっ、あなたは───!」

 

 高まる緊張感の中、ばーん、と扉を開けて登場したのは黒髪ロングの少女……を、中心とした複数人の少女である。

 キッチリと折り目正しく制服を着こなしているフランシーヌたちとは逆に、こちらのグループはほぼ全員が制服を着崩し、じゃらじゃらとアクセサリーをつけた……まあ、率直に言ってしまえば『チャラい』格好をしている。

 

「コレット!? なぜあなたたちまでここに……ここは『白百合会』の───!」

「はっ、くだらねえな! そんなもん気にしてケンカばっかしてるんじゃ世話ないぜ! ───だからアタシたち『黒百合会』は自由に座る!

 そこが自由席だろうが、指定席だろうがな!」

「それはそれでアウトでは? どうしてそう両極端なんですのん?」

 

 さすがに堪えられなかったのか、傍観を決め込んでいたアシュリーまでもがツッコミに転じる。

 

 結局のところ、どちらにも正義はなかった。

 一度ツッコミを入れはしたものの、正直付き合いきれない。付き合う必要はないと言われればそれまでだが。

 

 ぎゃんぎゃんと外野に構わずヒートアップしていく口論、時折こっちに飛んでくる言いがかりにため息をつきつつ、もはやアルザーノ帝国魔術学院からの留学生御一行様はそれをぼーぜんと見守るしかすることがなかった。

 アシュリーなんかはもう興味が薄れたのか、あくびをこぼしながら手すりにもたれている。

 

「……ちょっと。聞いてますの、そこのあなた」

「ふぁ……ん?」

 

 ぼけーっと突っ立ったまま、流れていく窓の外の景色を眺めていたアシュリーをフランシーヌがじろりと睨み付ける。

 自分たちの守る秩序がいかに尊いか、こんこんと語って聞かせていたというのに……この女性は聞いている素振りを見せなかった。本来であればフランシーヌとてこのような田舎者よりも狼藉を働くコレットの方に集中したいのだが、いかんせんアシュリーは背が高く髪も長い。要するに、めちゃくちゃ目立つのだ。

 

 言い争いの最中にチラチラとそのくすんだプラチナブロンドが視界に入るたび、フランシーヌの苛立ちのボルテージは微妙にではあるが上がっていた。

 

「うん、ちゃんと聞いてましたよ? 景色が綺麗だなーとか思いながらだけど」

「それは聞いていたではなく、聞き流していると言うのですわ!」

「では訂正を。ちゃんと聞き流してました」

「こん……のぉ……っ」

 

 淡々と語る女性は実に退屈そうだ。今も、激昂するフランシーヌを前にしながらも『言っている意味がわかりません』とばかりに小首を傾げている。微妙に絵になっているのがなおのこと腹立たしい。

 いや、よく見れば彼女だけではない。似たような格好をした黒髪の女性もそうだ。興味なさそうに、というか呆れたようにこっちを見ている。

 

 フランシーヌは激怒した。必ずかの邪智暴虐の見知らぬ女性たちに秩序を重んじる『白百合会』の鉄槌を食らわせねばならぬと決意した。

 フランシーヌには庶民の考えがわからぬ。ついでに敵対する『黒百合会』を率いるコレット=脳ミソまで筋肉=フリーダの考えていることもわからぬ。だが自身への侮辱には人一倍敏感であった。

 

「おい、今ついででしれっとバカにしなかったかテメー」

「自意識過剰なのではなくて?」

 

 勘の良い方ですこと、という本音はこっそり隠しつつ、フランシーヌが嘆息する。

 

 時々いるのだ。伝統と規律を蔑ろにして、自分勝手なルールを押し通そうとする輩が(一般的な観点から見ればフランシーヌたちがまさにそれなのだが)。

 そしてどうやら、コレットの方もこの招かれざる客が目障りであるのは同じだったらしい。見れば、既に握り拳を密かに固めている。さすがに見知らぬ人間に実際に暴力を振るうまでは至らないだろうが、なにかのきっかけがあれば三つ巴の乱戦に発展しかねない雰囲気だ。

 

 ……いや、実際そんな雰囲気に陥っているのは主にフランシーヌとコレットの方であって、グレンたちは『なんか面倒くさいから別の場所行こうかなあ』なんて思っているのであるが。

 いつの間にやら一行の側にいた灰色のおさげ髪の少女もうんうんと無表情に同意していた。ジニーというらしい少女の「後部車両なら派閥フリー」の言葉に、グレンたちがそちらを視野に入れ始める。というか凄まじい勢いで選択肢候補の第一位に躍り出ていた。

 

「……あの、二人とも……今日は、やめよう? 留学生の人たちが迷惑しちゃうと思うよ……?」

 

 そこに割って入ったのは、意外な人物だった。

 

 エルザだ。大人しく隅で本でも読んでいるのが似合いそうな少女が、睨み合うフランシーヌとコレットの間に介入したのだ。

 大人しく見える、というだけで、実際のところはかなり図太い……もとい芯が強いのかもしれない。

 

「これから一緒に勉強する仲間なんだし……今日くらいは、どうかな……?」

 

 おずおずと、ではない。真っ向から二人を見据え、エルザは眼鏡越しに二人に懇願するような瞳を向けている。

 ……だが、興奮した二人には通じなかったらしい。フランシーヌとコレットは、ピリピリした空気に割って入ったエルザを疎ましく思ったのか声を揃えて提言を拒絶し、あまつさえ反射的にであろうがエルザを突き飛ばした。

 

 運動はあまり得意ではないのか、踏ん張りきれなかったエルザの身体がぐらりと傾ぐ。

 その小さな頭が向かう先は鉄でできた硬い手すりだ。このままいけば衝突は必至、怪我を負うことは避けられまい。

 

 突き飛ばした二人もそれを理解したのだろう。さすがに顔色を変え、エルザの腕を掴もうと手を伸ばす───が、間に合わない。

 無慈悲にも、か弱い少女の姿がどんどん傾いていく───

 

「ん」

「……えっ?」

 

 ───あわや大惨事、という数歩手前で、幸運にもその背中を支える人間がいた。

 

 リィエルだ。瞬間移動と見紛うほどの速度でエルザの背中を支えられる場所まで移動し、激突を防いだのだ。エルザよりも小柄であるにも関わらず、しっかりと危なげなくその身体を片手一本で支えているのはさすがとでも言うべきか。

 

「怪我は?」

「な……ない、けど」

「ん。ならいい」

 

 短い言葉だけを残して、リィエルはささっとこの中では一番背の高いアシュリーに隠れるように元の場所へと戻ってしまった。人間的に成長したとはいえ、未だにグレンたちのような身近な人間以外と関わるのは苦手なのだろう。

 同じ学校に通う少女に怪我をさせかけた、という事実と気まずさを誤魔化すように、微妙な空気になってしまった車両の中でフランシーヌとコレットが言い争いを再開する。

 

「……ま、こうなったら呪文が飛び交うのも時間の問題ですし。この派閥対立(笑)(カッコワラ)に巻きこまれたくなければ、素直に後部車両への避難をお勧めします。では」

 

 言うだけ言って、すったかたーとジニーがフランシーヌのキンキン声に応じて乱戦に参加していく。

 

 先ほどまでの無気力で無表情な少女の姿はどこへやら、すっかり忠犬モードに様変わりしたジニーが拳を構えたコレットと激突する。

 

 呼応するように、周囲の少女たちも呪文を唱え始めて───

 

「て、撤退ィーーーッ!!」

「さんせーい」

 

 グレンがシスティーナとルミアを、アシュリーがリィエルとエルザをそれぞれ引っ張りながら後部車両へと退却していく。

 

 置き去りにされた車両からは、ひっきりなしに乱闘の音が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ちらり、と本から視線をズラし、窓の外を見つめる女性を覗き見る。

 

 こちらをじっと見ているイルシア(リィエル)とは違って、アッシュと名乗ったこちらの女性はなににも興味がないかのようにただひたすら流れる景色を眺めている。

 

(イルシアは彼女に懐いているみたいだし……まずは引き離すか、両方から信頼を勝ち取りたいところだけど)

 

 この様子を見る限り、周囲の人間には興味がないのだろうか? いや、先ほどの一幕ではイルシアに先を越されてこそいたものの、こちらに手を伸ばそうとしていた。小柄な分動きやすいイルシアが先手を取っただけで、あのままだったとしてもそのときはアッシュが自分を支えていたはずだ。

 

 興味がないように見せかけて、その実状況には気を配っている?

 

 いや、単純に個人に対する興味が薄いのか? 俯瞰している……というのが、もっとも適した言葉だろうか。

 

(……未知数すぎる)

 

 まったくと言っていいほど笑わないのもまた不気味だ。まるで氷か、そうでなければ機械のよう。

 困り顔も呆れ顔も見せるけれど、笑ったところは未だに見ていない。人間味が薄いのだ。感情がない、というわけではないはずだけど。

 

 じっと観察しているのは仇敵ではないけれど、目的を履き違えてはいない。私が討つべきはイルシア───リィエルと名乗り、姿を変えて、立派な軍人だった父を殺しておきながら、どういう手を使ったのか私が憧れた軍に所属している卑怯者だ。アッシュを討つ理由はない。

 この短い時間だけでもわかる。不気味に感じるところはあるが、彼女は間違いなく人格者だ。秩序を重んじ、善を尊び、悪を滅する英雄的な性質の人間だろう。少々、手段や口調が野卑だが十分に好ましい人物と言える。

 

 だがイルシアがアッシュと一緒にいる時間が長い以上、目的を達するには二人をどうにかして引き離さねばならない。でなければ巻き込んでしまう。説得してともに戦う? なしだ。自分の手で決着をつけてこそ意味があるのだから。

 

 で、あれば……さて、どうするべきだろう?

 

 まだまだ時間は十分にある。短期留学は二週間。それだけあれば、イルシアだけを誘き出すことは可能だろう。

 もう一度、ちらりとアッシュの横顔を覗き見る。……いつの間にか、彼女は眠っていた。ここまで長い旅路だったというし、他の面々もイルシアを除いて既に眠ってしまっているのだから、なんらおかしなことではない。

 

 いや、それよりもイルシアだ。二人だけで語らう時間というものはなかなかに稀有である。

 

 小動物かなにかのように無垢な視線を受け止めて、眼鏡をかけたままの私は言葉を選んで憎い仇に声を掛ける。

 

 ───いつか私が、この手で父の気高さと強さを証明するのだと、それだけを胸に抱いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───雪景色を見た。

 

 ただ一人立ち尽くす、強く気高い英雄を見た。

 

 父の剣を鍛え直し、父の仇を倒し、ついには悪竜現象(ファヴニール)まで打ち倒した大英雄。

 

 立ちはだかるもの全てを破滅へと導くその姿に、子どものように憧れた。

 それだけの力があれば、守れぬものなどなにもないと。

 

 知らぬ間に、眠りのようにもたらされる密やかな終わりなど、決して迎えはしないだろうと───

 

 ……だけど、オレはその英雄に憧れはしたが、成りたいとは思わなかった。

 

 自分は凡庸な人間だったから、眩く輝く(英雄の姿)は眺めるだけで良かったのだ。

 

 英雄は笑うものではなく、只人の笑いを守るもの。

 

 オレは笑っていたかったし、英雄譚にも興味はなかった。

 

 守るために英雄に成る、とか。

 もう失わないように戦う、とか。

 

 そんなことは選べない、ただの無力なヒトであったのだ。

 

 ───そんな現実(理想)は、もう灼けてしまったけれど。

 

 失い(一度目)喪い(二度目)灼き尽くされた景色(一面に広がる喪失の炎)の果て。

 

 ただ降り積もる灰は、かつての理想(幻想)を探し続ける。

 

「あんたなら、そうはならなかったのか」

 

 炎の館。

 

 燃え上がる神の牢獄に、英雄が対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 寝て起きたら目的地の敷地内に到着しててすげービビったでござる。

 

 駅前の宿屋で一泊し、肉体的な疲れとか精神的な疲れとかをスッパリ癒してから、一時的に通うことになった学院目指してみんなで歩く。

 

 道中にあった生徒のための街は想像以上に華やかで、フェジテとはまた違った趣きだった。

 便利だよね、趣きがあるって言葉。うん、趣き趣き。

 

 だがそれはそれとして、グレン先生が指摘した通りここは陸の孤島。息が詰まりそうという意見にも同意せざるを得なかった。

 

 正直、女子校ということにさえ目を瞑れば学校生活であることに変わりはないのでそこまで嫌というわけではないのだが、このぐらいになるとさすがに場違い感が勝つ。

 肩身も狭いし。もう今回の俺はグレン先生たちにくっついていくしかない。問題はなるべく起こさない……そう……必要なのはステルス機能、気配遮断スキルなのだ。間違ってもフェジテの面々にしているように反射的に煽ったりしてはいけない。もう手遅れか。

 

 学院長室で聖リリィ魔術女学院の学院長であるマリアンヌさんに歓迎の言葉を受けたあと、俺たちはフィーベルから最後の確認を受けていた。

 

「いい、リィエル。うっかりみんなのことを斬ったりしたらダメよ。お利口さんにしてないと、留学が失敗しちゃうかもしれないから」

「ん。……グレンも、友達を作れって言ってたし、がんばる」

「アッシュは問題を起こさないように。絶対に首も突っ込まないで」

「待った。異議を申し立てるぞフィーベル。俺はそんなトラブル大好き人間ではない」

「トラブル寄せては突っ込んでってるでしょうが! 自覚しなさい!」

 

 そんなことはない。ないよ?

 あっちから来るんであって俺自身はごくごく普通の日常生活を望んでいるよ?

 

 学院に襲来したテロリストに、たまたま遭遇しちゃったキメラの群れに、たまたま敵だったエレノアさんに、家から出たらコンニチハした謎の生ける屍に、そいつらに誘導されて遭遇した変態に、出口を探してたら偶然遭遇した魔人に。

 

 ほら、羅列してみても概ね俺のせいじゃないじゃん。

 偶然、それに抵抗できるだけの手段があっただけで。

 

「……一般人はもっと逃げ惑うものなんだけど」

「いやあ……ほら、抵抗しないと死ぬような状況だったし……」

「はあ……まあ、いいわ。とにかく問題を起こさないこと! いいわね!」

「へーい……」

 

 不承不承頷くと、それでフィーベルはひとまず納得してくれたらしい。うむ、と一つ頷いてからグレン先生にもいつものお説教をかましている。

 

 ところでマリアンヌさんからうさんくさいオーラが漂ってるんだけどそこんとこどうなんだろう。

 

 今回の話は最初っからきな臭いと言えばその通りではあるんだけど。

 

「ま、腐ってもお嬢様だ、そうそう酷いことにはならない……と、言い切れたら楽だったんだがなあ……」

 

 がしがし、と長くなった髪の毛をかきむしりながらグレン先生。

 マリアンヌさんですら『グレン先生の担当クラスは問題アリ』とぶっちゃけトークをしてしまった二年次生月組。その内情は未だ不明だが、どーせ面倒くさいことになるに違いない。

 

「せめて、普通に授業受けるくらいはできりゃいいんだけど」

 

 どこにも届かなさそうな祈りをソラへと投げつつ、俺たちはグレン先生のあとについて教室内へと侵入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おーっほっほっほ! なかなかに良いお味ですわね!」

「よっしゃ、いい引きっ! チップを十枚レイズだぜ!」

「きゃーっ、フランシーヌお姉さま、素敵……!」

「コレット姐さん、そりゃないですよおー!」

 

 なるほどー。問題ってそういう意味だったかー。

 

 教室の東西に分かれて、授業中にキャッキャウフフと実に楽しそうにお茶会とゲーム大会をしているエカティーナとフリーダ……の二人を中心とした二つのグループを見ながら、俺は密かな納得の念に内心でため息をついた。

 蒸気機関車内でもかち合った『白百合会』と『黒百合会』のトップが同じクラスに在籍している。それだけでもう面倒には違いない。

 

「ああもう、お前らうるせぇぇぇええええぇええええええ!? 真面目に授業を受けやがれ、このスットコドッコイどもが! いい加減にしねえとお尻ぺんぺんの刑に───」

「部外者のあなたは黙っていてくださいましっ!」

「すっこんでろ先公! さっきからごちゃごちゃうるせーんだよっ!」

「ぎゃああああ!?」

 

 あ、グレン先生が吹っ飛んでいった。なんかほっこりするな。いつも通りの毎日って感じで。……飛んできた呪文の量と敵意は比にならないが。

 

 まあ、やたらと頑丈なグレン先生だ。大丈夫だろ。

 

「その……ごめんなさい、皆さん……はるばる遠いところから来てくださったのに、こんな有様で」

「ヴィーリフが謝ることじゃないとは思うが。……でも、本当にすごいなこれ。どの辺が秩序なのか是非とも聞いてみたい」

「あー、それはですねー。このおバカお嬢様たちは伝統的に今を『朝のお茶会』と定めてまして。他にも授業そっちのけで家庭教師を呼んで開かれるお勉強会とか、伝統を守ることそれ自体には忠実なんで、その辺りが秩序(笑)らしいです」

「……あんた、キサラギ……だっけ?」

「です。覚えてもらえててありがたいですね」

「名前はともかく、そこまで露骨な棒読みをするやつを忘れるのはなかなかに無理があるぞ」

 

 レイフォードとはまた別ベクトルの不思議ちゃんとみたからな。

 

 それはそれとしてキサラギって苗字が東方っぽくて俺はとても好みです。

 

「それはどうも。家名からわかると思いますが、これでも一応東方の技を継いだ『シノ───」

「ちょっと、ジニー! 早くお茶のおかわりを!」

「はっ! ただいま参ります、お嬢様!」

 

 しゅばっ、とこっちが見惚れてしまうぐらい鮮やかな変わり身(性格的な意味で)を披露してさっさとエカティーナの方に参上するキサラギ。すごい。色んな意味で。

 

 しかしこのままでは授業にならない。授業にならないとなにが起こるかといえばレイフォードの単位が認められない。故に、気に入る気に入らないはおいておくにしてもこの状況はどうにかせねばならないのだ。

 

 ちら、とグレン先生を流し見る。……あ、あれは強行突破の構えですね、わかります。

 

「どぉぉぉっせいやぁああぁぁああああああ!!」

 

 こちらもこちらで無駄に惚れ惚れするような見事な動きで生徒たちの広げていた諸々を処分していく。ティーセットは蹴っ飛ばすことで台無しにし、トランプなどは窓から投げ捨てて回収不能に。

 

「ふぅっ……廃棄物処理は気持ちいいなあ……!!」

 

 爽やかな笑みを浮かべるグレン先生。

 

 今回ばっかりは全面的に同意である。




この辺はなぞるしかできないので派手に動くのはもうしばらく後かな……。
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