竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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感想欄に考察がきてたりしてとても楽しい……。そして今回は戦闘とポエム(?)多め。繋ぎなので目新しいものと面白みはないです。
色々と情報が錯綜してたりまだ出ていなかったりするから、掛け値なしにシリアス三昧しても許される九巻に早くたどり着きたい。

あ、序盤めちゃくちゃ読みにくいです。あしからず。


38.最近よくあちこち炎上してるよね

 ───夢を、見ている。

 

 ■■(学校)だ。■■■■■■■■(気難しそうな教師)■■■(教科書)を畳むのと同時、■■■■(チャイム)が鳴った。■■(授業)が終わったのだ。これからは■■■(昼休み)、要するに昼食の時間になる。今日の昼飯は()が作った弁当で、中学に上がるなり■■■(母さん)に習い始めた料理の実験台にするつもりらしい。

 弁当箱を広げた■■(ダレカ)が見ている前で、いつものように■■(誰か)■■(誰か)が一緒に話している。そこに■■(誰か)が合流したが、二人はさして気にしていないらしい。■■■■■■(いつもの光景)だ。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(──。今日は────で食べる約束だったな)? ■■■■■■■■■■■■■■■■(今日も俺の合図に返してくれたこと)■■■■■(嬉しく思う)

()……■■■(すまん)■■(──)■■■■■■■■■(あれ合図だったのか)

■■■(なぬっ)!?」

■■■■(なあ──)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(こんなお堅い────なんてほっといてさ)■■■■■■■■■■■■■■■(──のパスタでも食べに行かない)? ■■■■■■■■■■■■■■■■■(授業なんてほっといても大丈夫だって)

 

 ■■(誰か)はそう言って笑っているが、■■(ダレカ)と、誘いをかけられた■■(誰か)は知っている。昼休みが終わったあとの授業は■■(英語)だということを。つまりあの、とんでもなく親しみやすいが遅刻とサボりは許さない■■■■(──の虎)こと■■(──)先生だ。サボるとこってり絞られることになるだろう。

 そうでなくとも、■■(誰か)の言葉にショックを受けていた■■■■(────)がそれを許すはずもない。

 

■■(──)■■(貴様)! ■■■■■■■■■■■■■■■■■■(性懲りもなく──を悪の道に誘おうとは)■■■■■■■■■■■■■■(御仏が許してもこの────が)───」

■■(はあ)? ■■■■■■■■■■■■■(お前みたいなやつなんかより)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(僕と行く方が──も楽しいに決まってるだろ)

■■■(ったく)……■■(──)■■■■■(落ち着けよ)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(そこなら今度付き合うから──も騒ぐなって)

 

 どうどう、と■■(誰か)が二人をなだめている。

 それで落ち着いたのか、言い合っていた二人はお互い■■■■■(小学生男子)のように鼻を鳴らして一斉に顔を背けた。■■■(高校生)にもなってこんなガキっぽいケンカをするとは。

 間に挟まれていた■■(誰か)は困ったようにため息をついた。それを見て、■■(ダレカ)が愉快そうに笑って声を掛ける。

 特別親しいわけじゃなかったけど、■■■■■■(クラスメイト)なのだから話しかけることは変ではない。

 

■■■(いやー)■■■■■■(すげえな──は)■■■■■■(オレだったら)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(──の相手なんて速攻キレて務まらねーや)! ■■(お前)■■■■■■■■■■■■(ほんと妙なとこ寛大だよな)■■■■(実は菩薩)?」

■■■■(なんでさ)

■■(ふん)! ■■■■■(逆だよ──)■■■■■■■■■■■■■■■■■■(僕の方が──に付き合ってやってるんだ)■■■■■■■■(勘違いするなよな)

 ……■■(オイ)■■■■■■■■■(なに笑ってるんだよ)

()? ■■■■(ああいや)■■■■(悪い悪い)

 

 いきりたつ■■(誰か)に肩をすくめて、それでもこらえきれないようにしてやはり笑った。

 

「───■■■■■■(楽しいなあ)■■■■■■(って思ってさ)

 

 ■■(ダレカ)が笑う。

 心から幸せそうに。

 いついつまでも、この幸せな日常が続くのだと信じて。

 

 学校に通って。友人とバカをやって笑い合って。家に帰れば家族がいる。

 そんな、平穏で退屈な───けれど、かけがえのない毎日。

 (カレ)の愛した、帰るべき日常の断片(フラグメンツ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───目を覚ます。

 

 なにかを探すように、腕が天に伸びていた。

 

「───……」

 

 掲げた腕で目隠しをするように、瞼の上に横たえた。チラリと見えた時刻はまだ登校には遠い。

 

 今のは、なんだったんだろう。

 覚えはないのに、なにか、とても懐かしいものを見たような感覚。どうしてそんなものを見たのだろう。微かに残る記憶のどこかを刺激されたからだろうか。

 見える景色のほとんどが焼け落ちたように黒焦げだったけど、それでもあれは、忘れてはいけないなにかだったような気がする。

───忘れるな。

 あれはなんだっけ。

───忘れたのならば思い出せ。

 

 あそこにいたのは誰だっけ。

───思い出せないのなら、    

思い出せるまでなぞり続けろ。

 どうして忘れてはいけないんだっけ。

───(カレ)の抱いた願いを探し続けろ。

 

 どこにいけばなにがあるんだったっけ。

───それさえも果たせないのなら。

 

 ああ───俺は。

 なんのために、どこに帰りたいんだったかな。

───おまえ(残骸)に、生きる価値はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 なんだかんだで、短期留学が始まってから今日で十五日。予定されていた日程の最終日だ。

 日はすっかり沈んでいて、学生街の一角にあるオープンカフェで送別パーティーをしている真っ最中だった。

 

 グレン先生も俺と同じ日に男バレしていたり、なんてこともあったけど、概ね問題なく最終日までいつもと違う学院生活は遂行された。男バレについては『昔行った魔術実験の後遺症でお湯を被ると男になる』という言い訳で通すことにしたらしく、俺はその実験に巻き込まれたせいで同様の症状が出た……という話になった。無理がある。どこの娘溺泉(1/2)だ。

 昨日行われたテストでは、勉強の甲斐あってレイフォードは常に比べれば格段に良い点数を取っていた。ついでに今日聞いた話なのだが、エカティーナたちがまともに授業を受けるようになったおかげで授業と単位が成立し、レイフォードの退学は無事になかったことになったとか。

 

 いやあ、めでたいな。これで全部円満解決、完全無欠のハッピーエンドだ。

 ……なんでか嫌な予感がするんだけどね。

 

「……そういや、そのレイフォードは?」

「リィエル? さっき、エルザと一緒にどこか行ったわよ。あの二人、結構仲良かったみたいだし……積もる話でもあるんじゃない?」

「ヴィーリフと、か」

 

 ふむ。確かに仲良しだったし、そういうこともあるだろう。

 ……あるのだろうか?

 

「んー……」

 

 改めて考えてみる。

 

 ヴィーリフは意外と社交的だ。にも関わらず、なんでか派閥への参加や他者との関わり合いを避けている。

 そんなヴィーリフが、なんの接点もないレイフォードと仲良くしている。波長が合っただけといえばそれまでだが、『レイフォード絡みの企みがある可能性』を念頭に置いてみるとだんだん怪しく見えてくる。

 

(……ヴィーリフがレイフォードに、なにか目的があって近付いた可能性……?)

 

 そういえば、と。

 まったくイメージにそぐわないから忘れていたが、ヴィーリフと初めて会った日。どこかから飛んできた敵意を思い出す。

 

 あのときは勘違いだろうと流したが、あれが勘違いでないとすれば?

 

「……よし」

 

 積み上がった料理を脇にのけて立ち上がり、ぐるりと学生街を見渡した。

 太陽のない街は暗いが、街灯や月明かりのおかげで完全な暗闇にまでは至っていない。

 

「悪い。ちょっと俺も離脱する」

「え……アッシュも? いいけど、どうかしたの?」

「なに、最後だから街並みでも見ておこうと思っただけさ。……五分経っても戻らなかったら、探しに来てくれ」

「あ、ちょっと!」

 

 ぐ、と足に軽く力を込めて走り出す。カフェが見えなくなった辺りで全力に切り替えた。そこそこに高い位置にある屋根に飛び乗り、もう一度ぐるりと街を見渡した。

 勘違いであるならそれでいい。何食わぬ顔で戻れば良いだけだ。杞憂であることを祈りながら視線をめぐらせ、おかしなものがないか目を凝らす。

 

 ───見えた。

 

「───……」

 

 意識を切り替える。まだよくは見えなかったが、暗闇の中、月明かりを反射して煌めくなにかがあった。見慣れた輝き。……刃だ。

 誰かが戦っている。外界から隔絶されたこの陸の孤島で、第三者が戦っているという可能性は限りなく低い。で、あるならば。

 

 息を吸って、吐く。十年前から握り続けた、誰かの記録を呼び起こす。

 

 足元から燐光が舞った。炎のように煌めく魔力を撒き散らし、周囲への被害もお構いなしに空を駆ける。

 

 ……あいにくと。

 数ヶ月をともに過ごした友人を見捨てるほど、まだ俺は人間らしさを捨てていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 駅前広場に広がっていたその光景は、予想外のものだった。

 

「───なるほど。理由はわからないが、裏切った、ということで良いのかな。エルザ=ヴィーリフ?」

 

 眼鏡を外したヴィーリフが、レイフォードに向かって構えていた刃をゆっくりとこちらへ向け直す。

 

 鍛え上げられた鋼の刀身。片方にのみ刃のついたそれは、切っ先から峰にかけて美しい波紋が描かれている。───刀、だ。

 

 本当、この学院では懐かしいものによく出会う。

 

 予感が当たっていたことに嘆息しながら、二本の短剣を構える。ヴィーリフはしばらく呆然としていたようだが、ややあって正気を取り戻したのだろう。無意識に構えた刃をもう一度正し、こちらを睨み付けている。

 

「……やはり、あなたが邪魔をしますか。アシュリー=ヴィルセルト……」

「やはり、ね。ずいぶんと買い被られたようだ。基本、俺はただの一般人なんだが?」

「御冗談を。一般人が、どうしてこの短時間でここにたどり着き、あまつさえ至極冷静に剣を構えられるというのですか」

 

 ……気にしてるんだからやめてくれ。

 これ以上否定されたら、さすがに心が砕けそうだ。

 

「そこをどいてください、アッシュさん。あなたまで斬る理由はありません。私の目的はそこのリィエル……いえ、重犯罪者のイルシア=レイフォードだけ。大人しくしてくだされば、こちらも無為に戦うことは致しません」

「ち、違う……エルザ、話を聞いて!」

「父と母の仇の言葉を、どうして聞く必要があるのですか」

 

 レイフォードの懇願を、まるで別人のように冷えた空気をまとったヴィーリフがバッサリと切って捨てる。

 ……話を聞く限り、どうもヴィーリフは両親をイルシア……レイフォードのコピー元に殺されて、その復讐のためにレイフォードに近付き、油断させてからこうして戦おうとした、と。どうやらそういうことらしい。

 

 見当外れの復讐心、とは言えないだろう。レイフォードはイルシアであり、だがイルシアはレイフォードではない。ヴィーリフが、レイフォードを仇と勘違いするのも無理からぬ話だった。

 愛であれ憎悪であれ、感情はあらゆるものを捻じ曲げる。願いも、知性も、正しい目も。噓偽りなく、文字通りにあらゆるものをだ。感情に突き動かされた結果、なにもかもを失った人間の話など掃いて捨てるほどに存在する。

 

 それを愚かだと否定することは、俺にはできない。

 

「どいて……どいてください。あなたに、その女を守る理由はないはずです。あなたは善を重んじる人間だ。私の両親を殺し、名前も姿も偽って軍に潜り込んだその女が、あなたにとっての『善』であるはずがない……!」

「それは見当違いもいいところだ。俺は善を『好み』はしても、善を『遵守すべき』とは思っていない」

 

 助けられるなら助けるべきだ。守れるのなら守るべきだ。そんな理性の働きは当然、俺にだって存在する。むしろある意味では最大の判断基準。敵か味方か、善か悪か。剣を振るうべきなのか否かの判断に、それは大きく関わっている。

 だけどそれはそれとして、自分の心を優先する機能もまだ残っている。英雄じゃない。まだ俺はただの人間だ。人間である以上、感情に動かされるのは当然のことである。

 

「……こうなれば、あなたも」

「いいえ。リィエル一人に手こずるようなあなたでは、そこのお坊ちゃんとリィエルを同時に相手取るなんて不可能よ。……無様ね、エルザ。せっかく『大嫌いな叔母上』の手まで借りて、新しい人生をスタートさせるために頑張ってきたのにねえ?」

「───ッ、マリアンヌ!?」

 

 おっと、新たな乱入者。

 

 木陰から現れたのは聖リリィ魔術女学院の学院長ことマリアンヌ。……なんとなく話は見えた。

 ヴィーリフが求めたのか、それともマリアンヌが誘いをかけたのか。どちらかはわからないが、少なくとも今回の一件、発端はマリアンヌだと考えて良いだろう。なにがしかの目的があって、レイフォードを呼び寄せた。それはおそらく、間違いない。

 

 いつの間にか周囲には大量の女子生徒が並んでいて、完全に取り囲まれていた。この用意周到さから言っても、黒幕はやはり彼女か。問題は、その目的だが。

 

「目的? ふふ、そうねえ……。あなたたち、『蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)』って知ってる?」

「……は? あなた、なにを言ってるんです……? そんなの、ただの都市伝説で……」

「それがねえ、実在するのよ。現に私、構成員だったし? ま、昔ポカやらかしてこんなくっだらないお嬢様学校に封じられちゃったけど……」

 

 そこで、にたりと蛇のように笑んだ。

 命の危機だとか、そういうものとはまた違った気味の悪さが背筋を舐める。

 

「そこに、チャンスが舞い込んできたの。イルシアのコピー体……『Project:Revive Life』の成功例であるリィエルを実験サンプルとして捕えれば、もう一度組織に戻してやる、ってね」

 

 くるり、マリアンヌが腰に提げていた剣を抜く。

 それを皮切りに、周囲に突然灯る炎。がしゃりと鈍い音がする。……背後にいた、ヴィーリフの刀が地に落ちる音だと気付いたのは、振り向いたときだった。

 

「はぁ───、っ、はぁ───ッ……! う、噓で……じゃあ、リィエル、は……私に、持ち掛けた取引は……ッ!」

「もちろん噓よ!? 本当、バカよねあなたって! ……そんな風におバカなあなたは、私の実験サンプルがお似合いよ!」

 

 マリアンヌが、古びた剣を頭上に掲げる。周囲に炎が満ちる。ヴィーリフが身を震わせ、悲鳴をあげながらくずおれた。

 ……詳しいことはわからないが、いつぞやの決闘のときに付け加えられた炎熱系魔術の禁止という話からして、どうもヴィーリフは炎が苦手らしい。いや、これはもうトラウマと呼ぶべきか。ガタガタと震えながら身動きもできずにいるヴィーリフは、正直見ていて痛い。

 

 こっちが身構える間にも、炎は勢いを増していく。

 

 あっという間に辺りを包み込み、まるで街そのものを燃やし尽くそうとするように、剣から炎が迸る───

 

「……本当に」

 

 今日は、懐かしいものをよく見るなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なんだなんだなんだァ!?」

 

 突如街の一角から立ち上った炎の柱に、慌てたグレンが椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。

 もうすぐアシュリーがいなくなってから五分。探しに行こうかと思った矢先のことであった。

 

「くそ、なにが起きてやがる……! おい、白猫! ルミア! リィエル……は、まだいないか。いくぞ、消火活動だ! 月組は街の人たちの避難を!」

「わかりましたっ!」

「任せろ、先生っ!」

 

 システィーナとコレットが威勢よく返答し、ルミアとフランシーヌがしっかりと頷く。

 ばっ、とその場で散開する。グレンたちが向かうのは当然、火元である駅前広場だ。

 

「あいつ、まさかこれをわかってたんじゃねえだろうな……!」

 

 思い起こすのは一人の生徒。自称凡人、だが周りからしてみればどうしたって凡人ではない少年だ。

 

 色々な厄介ごとに巻き込まれる体質だとは思っていたが、まさかここでもなのか。

 

「おい、アッシュ! いんのか、いるなら返事を───」

 

 炎が乱立する街並みを抜け、【フィジカル・ブースト】も併用して駆け付けたグレンの声に返るものは、刃と刃が激突する音。

 

 見れば、アシュリーと───なぜかマリアンヌが、お互い長剣を手に切り結んでいる。

 リィエルとエルザの姿もあった。地面でうずくまるエルザをかばうように、リィエルが他のクラスの生徒と戦っている。

 

 正直、わけがわからない。

 わけがわからないが───グレンの視線は、炎を気にも留めずに剣を振るう、一人の生徒へと注がれていた。

 

 赫。赫い剣だ。この灼熱地獄にあってなお、その赫は炎を受けてひときわ強く輝いている。

 

 見ればわかる。業物だ。見たことのない剣ではあったが、それぐらいはわかる。

 

 炎を斬り裂き、古風な剣を弾き、時折短剣も交えて。

 

 冷酷なまでに冷めた表情で。機械的なまでの太刀筋で。少年は妖女と戦っていた。

 

 ……誰だ、あれは?

 

 ふと降って湧いた疑問に、足が止まった。

 

 いや、それどころではない。加勢せねば。状況はわからないが、ただの生徒にいつまでも戦わせるわけにはいかない。

 

「あっははははははははは───!!」

 

 マリアンヌが哄笑する。それに呼応するように、剣から炎が噴き上がる。……なんらかの魔導器か。起動済みである以上、グレンの【愚者の世界】は使えない。

 だが問題はそこではなく、その圧倒的な熱量だ。さすがにいつぞやの魔人には敵わないが、それでもB級軍用魔術程度の威力はあるだろう。

 

 まともに受ければ、黒焦げになって燃え尽きる。

 しかし、それを───あろうことか、見えているはずなのに少年が突貫する。

 

「バカ、死ぬぞ!?」

 

 【トライ・レジスト】を付与してはいるようだが、それでもなお至近距離で食らえば重度の熱傷を負うだろう。それがわからないはずもないだろうに、あの少年は剣を構えたまま速度を緩めない。

 

 ───と。

 不意に、剣を持っていない方の手が霞んだ。

 

「──────」

 

 なにかを描くような仕草のあと、一拍遅れて魔力障壁が現れる。……あの一瞬で展開した? 有り得ない。無詠唱であるにも関わらず、あれだけの速度で魔術を起動させるなど、それこそセリカぐらいにしか行えまい。

 アシュリーは至極当然、と言わんばかりにそのまま剣と剣を嚙み合わせる。リィエルにも劣らない剛力をもって振るわれる長剣は二度、三度とマリアンヌの炎の剣とぶつかり、甲高い音を響かせながら空を斬る。

 

 その速度、まさに神速。

 卓越した剣技を誇るリィエルや、そのリィエルの剣を見慣れたグレンでなければ、なにが起きているのか理解さえできなかっただろう。

 

 ───なんだ。あれは。

 以前、アシュリーの才能を評したことがあった。憑依召喚(ポゼッション)。凄腕の剣士の亡霊でも、その身に降ろしているのだろうと。

 

 だが、違った。どう見たって、あれはそんなレベルを超えている。

 

 人間の領域を超えた剣技───あれはまさしく、『英雄』と呼ばれる存在が揮う剣技だ。

 

 そんなものを降ろしているのか? 武器の記録ごと? 有り得ない。そこまでの許容量はアシュリーの才能では賄えない。

 そもそも、セリカ並みの魔術だってそうだ。あれだけの術を行使できるなんて聞いたことはないし、それだけの才能はなかったはずだ。

 

 ……なにが起きている? 答えのない疑問が脳内を駆け巡る。

 

 と、ギィン、とひときわ高い音を響かせて、アシュリーが大きく後退した。どうやら弾かれたらしい。全身に軽い火傷を負いながら、燃える街並みの中で大きく息をつく。

 

「……あれ、先生。いたんですか」

 

 呆然としていたグレンを前に、実にケロリとした顔で今気が付いたと言わんばかりに剣を構え直している。

 

 その姿はいつも通りだ。……不気味なほどに。

 

「あ、ああ……お前、それ……」

「ンなことどうでもいいでしょ。今重要なのは、あのババアがなんかしてくれちゃってることですよ」

「そうだが……おい、大丈夫なのか?」

 

 それは戦況だけではなく、常識的に有り得ない状態を思ってのことだった。

 常人にそれは負担が大きかろう、と。そういう思いがあっての問い。

 

「……? あー、大丈夫大丈夫。気にしなくて良いことなんで。それより、街の避難を……」

「もうやってもらってる。白猫たちもじきに合流するだろうが……ちょっと待て、どこに行く気だ!?」

「どこって。あのバーサーカーを叩き斬りに?」

 

 やはりコロッと答える。その目に恐怖はなく、ただ現状を把握し、必要なことを行うというだけの意志があった。

 

 その姿で確信する。

 どう考えたって普通じゃない。

 こいつを『ただの凡人』とか言ったやつは絶対バカだ。

 

「先生?」

 

 気遣わしげな声で現実に引き戻される。

 

 ……なにを考えているのか。眼前にいるのは戦いを厭う自身の生徒だ。落ち着け、グレン=レーダス。お前のすべきことは一体なんだ?

 

「……いや、なんでもねえ。白猫もじきに来る。無理はするな、いいな?」

「そうさせてくれる相手ならいいんですけどね。……それよか、ヴィーリフの方を気遣ってやってください。結構、ひどいトラウマがあるみたいなんで───と、失礼します」

「あ、おい!?」

 

 エルザを狙い始めたマリアンヌを押し留めるためにだろう。会話もそこそこに、再び地を蹴って加速する。

 ごう、と風が吹き荒れる。……なにがなんだかわからないが、どうも迷っている場合ではないらしい。

 

 見れば、リィエルの周りにいた女子生徒は全員が気絶している。あのままでは炎に巻き込まれかねない。……避難が先か。

 燃え移った火を消すために途中で別行動に移ったシスティーナたちが今はもどかしい。今さらながら、聞きたいことが無数にあった。

 

 【トライ・レジスト】を付与して、自身も炎の中に飛び込んでいく。

 

 アシュリーを見つめるリィエルの瞳が、やけに不安そうに揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 燃える。

 

 家が、街が、ごうごうと燃え盛っている。

 

 懐かしさを覚えながら記憶を手繰る。今までに見た炎は、さてどんなものだったか。

 

「全て……全て燃えてしまえええええええ!!」

 

 剣を握ってから、マリアンヌは正気を失ったように喚いている。

 その度に、こちらを燃やし尽くそうと炎が迫るが───大したものじゃない。炎は得意分野だと自負している。耐えるのも、起こすのも。

 

「───温いな」

 

 ギン、と。

 赫色の魔剣を振るいながら、そんな言葉がこぼれた。

 

 目の前には狂気のままに炎を撒き散らす一人の女。高笑いをあげながら剣を振るうその姿は、もはやただの狂人だ。

 

 だが───どうも脅威に思えない。肩透かし、というやつだ。

 なにかご高説を垂れながら抜いたから、どんなものかと思っていたのだが。

 

「この程度の炎で全てを燃やすなど笑わせる。街一つ、星一つ、村一つでさえも───全てを灰にするには到底足りるまい」

 

 ただの狂気で、一体なにが燃やせるというのだろう。

 

 肌を焦がす炎は、微かな記憶に残る熱には遠く及ばない。

 悪意もなく終末もなく憎悪もない炎ごとき、歩みを止めるには至らない。

 

 一度目の炎はほとんど見ていただけだった。───けれど、あれこそが地獄というものだろう。

 二度目の炎は夢の中で。───微睡みの中、知るはずのなかった炎の海を確かに見た。

 三度目は───さて、どこでだったか。

 

 遠くで誰かが叫んでいるが、なに、大したことはない。

 

 この程度の炎であれば、耐えればどうってことはない。

 

「───どうせなら。

 神も世界も灼き尽くす程度の気概を見せろよ、人間」

 

 つぶやき、剣を握り直す。

 

 熱に浮かされたまま、地面を蹴って駆け出した。




なんでさ:『昔』の知り合いの口癖。

主人公は主人公なので設定モリモリです、実は。主に経歴が。
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