竜殺しっぽい誰かの話。 作:焼肉ソーダ
「ひゃは、ひゃはははははっはははははは───!!」
ごうごう、ごうごう。
一面、炎が燃えている。
まともに食らえば、ただの人間などひとたまりもない熱量だ。
突っ込むなんて自殺行為。そうでなくとも、常人であれば炎への原始的な恐怖が身を竦ませる。
───
「燃えろ、燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ……燃えてしまえ、なにもかもあーっはははははァ───!!」
「フッ───!」
体表を舐める炎を、
少女たちが騙されていたこと、前へと進もうとする意志を利用されたことへの憎悪はない。その感情は既に十年前に燃やし尽くして残っていない。故に───剣を振るのはひたすら義務感、そして微かに残った感情と記憶のため。
逆袈裟に斬り裂こうと刃が踊る。狂人はそれを受け流し、最高出力で炎を撒き散らした。自滅さえ厭わぬ攻撃。それ故に強い。
だが───ああ、なにを灼こうという気概のないただの炎など!
「───ッ」
貫通して肌を焦がす熱を気合いで耐える。こんなもの、なんら脅威には成り得ない。
二度、三度、四度五度六度───七度。弾かれるそばから斬り返し、炎を裂きながらただただ敵の命を狙う。
一瞬の隙をついて狂人が剣の間合いから離れる。それに対して選んだ行動は投擲。赫き刃を殴り飛ばし、迫る炎で身を焦がしながら追撃とばかり蹴りを叩き込んだ。刃がどこかへと飛び去る───刹那、手中に生み出される短剣二振り。
手数で押し、剣を持った腕を仰け反らせる───短剣を放り飛ばし、偽りの主の許へと飛来する魔剣を掴む。
上段から振り下ろす。加減はない。疾く死すべしと、脳天目掛けて剣が堕ちる。
だが敵もさるもの、このままでは死ぬということぐらいはわかるのか、炎を撒き散らしながらもステップを踏んで刃から逃れる。獲物を見失った赫が地面を割る───その寸前に強引に方向を斜め上へと転換し、再び狂人の腹から両断せんと炎を割る。
しかしその頃には既に体勢は整えられている。古風な剣と赫き剣がぶつかり合い、ひときわ強く音と炎を放ちながらもお互いに弾き合う。
じゅう、となにかが焼ける音がした。自分の頬が灼けていた。……構うものか。
弾かれた勢いを利用して蹴りを放つ───避けられる。どうやら豪語する通り、剣に蓄積された本来の持ち主の技量だけは健在、かつ人外の領域らしい。
正直千日手だ。今の自分一人では拮抗が良いところ。……もう少し引っ張り出すか。
以前よりよほどスムーズにその選択肢が候補に上がる。どうせ残ったモノも少ないのだ、全て灼き尽くしたところで変わるまい───
「───アッシュ!」
声と同時、大気の壁が身体を包む。投げられた音に背後を向けば、そこにいたのは亜麻色を守るように立つ薄青色と、それを支える黒と銀だ。人らしい部分が無事を喜ぶ。
戦い続ける装置から、
一つ息をつき、バックステップで薄青色の隣へと。物言いたげな視線が四方八方から突き刺さる。居心地が悪い。
「お前……なんだよ、それ?」
「気にしなくて良いことだ、と言ったでしょう? それより、どうかしたんですか。わざわざ呼んだりして」
「気にしなくて良いわけあるか! ……ったく、大丈夫か?」
「魔術には強い……っぽいので。あの程度、耐えりゃなんとでも」
「……無理すんなって言ったよな」
「無理も無茶もしていませんよ。『可能なこと』は『無理』とは言いません」
「……。はあ~……」
なにか癇に障る発言でもあっただろうか。アシュリーが微かに首を傾げる傍ら、グレンは大きなため息を吐き出すと、それどころではないからと意識を切り替えたのか「まあ、いい。全然良くないけど、いい」と吐き捨てた。
「それより、あの女だ。放っといたらこの辺一帯焼け落ちちまう」
「同感。俺一人でもなんとかなるっちゃなんとかなりますが、そっちになにか手段でも?」
「……ねえな。バカやってるお前はともかく、俺やリィエルじゃあの炎を防げねえ。攻撃に転じる隙がほとんどないんだ」
「ふむ」
ならばやはり、自分が出張るしかないか?
考える横、涼やかに薄青色が通り過ぎた。
「……ん?」
「グレン。アッシュをお願い。……わたしが斬る」
「なっ……バカ、戻れリィエル! お前じゃ黒焦げ───」
「いぃいぃぃぃやああぁぁぁあああああ!!」
咆哮、突貫。
グレンの静止を振り切り、なにかに急かされるようにリィエルが走り出した。マリアンヌがゆらりと亡霊のようにそちらに目を向ける。
翻る大剣、ぶつかり合う刃と刃。そのまま得意の力尽くで押し破ろうとするが───炎が巻き起こり、リィエルを飲み込まんとうねる。
「うっ……!?」
「《大気の壁よ》───ッ! リィエル、無茶しないで、落ち着いて!」
「問題、ない……っ! はあああああッ!!」
システィーナが起動した【エア・スクリーン】で致命傷を避けたのを幸いとばかり、リィエルが猛攻を開始する。常よりもなお速く、なお重い。なにがそうさせているのか、リィエルの剣はいつもよりも強かった。駆り立てられるように、二度、三度と切り結ぶ。
が、やはり【トライ・レジスト】と【エア・スクリーン】だけでは限界がある。頼みの障壁はたちまち撫で斬りにされ、再びリィエルが炎の前に身を晒す───
「……無理をするな、レイフォード。焦げるぞ」
その寸前、その身を盾にするようにして少年が割り込んだ。霞む左手。一瞬だけ、炎から身を守る障壁が現れて消える。その隙にシスティーナが【エア・スクリーン】を張り直し、リィエルを保護した。
人一人燃やし尽くして余りある炎は、ほんの僅か、鮮やかな髪の先を灼き焦がすだけに留まる。一瞬だけなにか言いたげな顔をして、リィエルが再び剣を構える。火の粉が刃に反射して輝いた。割り込んできた少年からマリアンヌを引き離すように、再び咆哮して斬りかかっていく。
「う、ぁあ、ああ……」
───それを。
うずくまって見ている、一人の少女がいた。
────────────────────────
燃え盛る炎の中、私はうずくまっていた。
視界に映るのは一面の赤、赤、赤───。イルシアがかつて私の家を染め上げた、鮮血にも似た赤色が広がっている。
「あぅ、あ……あ、ぁああ……」
震える身体を押さえ付けるように、両腕をかき抱く。
武人の私と平時の私を切り替えるための眼鏡は、とっくに燃え落ちていた。
お前も戦え。一人でうずくまるな、その剣はなんのためにある───そんな理性の声が聞こえるのに、震えは止まらない。
怖い。怖い。怖い。
炎が怖い。血が怖い。全てを奪った死神の髪と同じ、赤が怖い。
立ち上がれない。目も耳も、なにもかもを塞いで逃げ出してしまいたい。
「いやだ……無理だよ……私には……。お父さん……ッ」
震える手で刀を握り締める。
今回も、きっと、この赤色は私から全てを奪っていくのだ。
私の未来も。誰かの未来も。ほんの僅か、だけど確かに感じていた友情も───。
「そう……そう、だ……イルシア……違う、リィエル……リィエルは……?」
よろよろと、地面を見つめ続けていた顔を上げる。……すぐに後悔したけれど、それでもやらなければならないことがあった。
謝らないと───もう、役に立たない私だけど。夢を取り戻せるという甘言に誘惑されて、違和感を抱きながらも本当のことを知ろうともせず、あまつさえ、友達だと言ってくれたあなたに剣を向けた私だけど。
せめて、それくらいはしないと。
父の剣の誇りを汚した報いを、私が受けるのは構わない。
だけど、未来へ向けて歩き出して、みんなに追いつこうと必死に頑張っていただけのあなたを───私の的外れな私怨で傷付けたことだけは、謝らないと。
「……ぁ」
そうして、顔を上げて───気付いた。
リィエルが、薄青色の髪をなびかせながら剣を振るっていた。炎の中、まるで瑠璃のように煌めきながら。
炎に身を焦がされながら、それでもなお必死に歯を食いしばって戦っている。……そのすぐ近くには、リィエルが懐いてしきりに気に掛けていた人の姿があった。
アッシュと名乗る少女……いや、今は少年。私が怖くて仕方なくて震えている炎の中に飛び込んで、当たり前のように剣を振るうくすんだプラチナブロンドの、氷のような剣士。
……それを、炎から遠ざけるようにして。私の、初めての友達が戦っていた。
戦わなくて良いように。全てを灼き焦がす炎から守るように。
───エルザ。守るために剣を振るいなさい。人を活かす剣を振るいなさい───
「……お父、さん」
かつて、父から聞いた言葉が蘇る。
守るための剣。
今のリィエルのような、剣を振るえと。
(───そうだ)
せめて謝らないと? ……なんて言い草。
謝ったところで、この罪は濯げない。
己が行動によって被った罪は、言葉ではなく行動で贖わねばならない。
ならばお前がすべきことはなんだ。
父の剣を汚し、友情を汚したお前がするべきことは───
───鞘を、握る。
「……リィエル!」
両の足で、立つ。
今度こそ、正しく父の剣を揮うために。
今の今までうずくまっていた私の声に、リィエルが驚いたように視線だけで振り向いた。
無理をしないで、と。その瞳が語っている。
「いいの……違うの。私、にも……。私にも、守るための剣を、振るわせて……!」
「……。エルザ」
「許されないことをしたって、わかってる……。今さら、手伝うなんて、都合が良いってわかってる……! だけど、それでも、私は───」
「エルザ」
遠いはずの場所から聞こえた確かな声に、身体がこわばる。
静かに、淡々と、リィエルはいつもの無表情で───
「……信じてる」
そう言って、背中を向ける。一度は命を狙った私に。
無防備な背中を見せる。それは、剣士にとって最上級の信頼のあかし。
「……うんっ」
声はまだ震えている。
ちゃんと会話をしているように見せかけても、未だ身体は炎の記憶に怯えている。呼吸さえもうまくできない。めちゃくちゃに鼓動が暴れている。
だけど───ああ。あれだけの信頼を寄せられて、どうしてなにもせずにいられよう。
(今度こそ。あなたの、隣で───!)
原初の誓い。
守るための剣……それを思い起こさせてくれた、大切な友人のために。
憧れた父に教わった全てを、今。
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動けない。
なぜかレイフォードがこっちを邪魔するような形で動き回っているせいで、あの狂人のところまでたどり着けない。
(……なに考えてるんだか)
興醒め、というのが近いだろうか。
時折、隙を見てはぽいぽいといつものように短剣を投げてみてはいるものの、牽制程度にしかなっていない。
「アッシュは下がってて。わたしと……エルザが、なんとかするから」
「なんとかするってお前な」
ここで下がれと言われて、はいそうですかと素直に引き下がるほど……あれ、なんだっけ。
むしろ逃げていいと言われたら、逃げたくなるのが『普通』なのでは?
なんだって俺は、必死こいて戦って───?
戦え。戦わないと。お前は戦うが故の───
「……あれ」
炎の揺らめきで、少し視界が揺れたらしい。
金属同士がぶつかる音で、消えかけた意識を引き戻された。……なにか考えてた気もするけど、まあいいや。切り替え切り替え。
どうやらヴィーリフがどうにかしてくれるらしいので、とりあえず足止めに徹すれば良いのだろうか。ああいや、それをしてたらレイフォードがめっちゃ邪魔してくるって話だった。
さっきからあちこちで燃えてる炎は本当、どうということはない。ちょっと熱いだけの、ただの火だ。
「レイフォー───」
「やぁぁああああああッ!!」
近付けねええええええ。
なんなんだ本当。戦うなと、今になってそう言われたところでどうしようもないのに。
時折、炎に巻かれそうになるレイフォードに魔術でサポートを飛ばしてやる。意地でも退かないつもりらしい。だが熱を気にしながらではやはり動きにくいのだろう。マリアンヌの剣が空を裂いてレイフォードの柔肌を目掛けて滑る。
「俺のことも、忘れてねえだろうなッ!?」
……それを、横合いからグレン先生が弾き飛ばした。どうやら火消しも避難も終わったらしい。拳銃を片手に、炎の剣をかいくぐってその動きを封じている。防御呪文が消えるたび、フィーベルが的確にかけ直していく。
さすがの連携だ。俺はいらないな、これ。
まあ、もとよりどこにいてもオマケ扱いされる俺だから。
この世界に必要ないというのは、まったくもってその通りなのだが───
「───あ」
呆けた瞬間、巻き起こる炎の津波と、それを斬り裂く風の刃。
ヴィーリフだ。あれだけ過去のトラウマに震え、怯えていた彼女が、炎の波を斬り裂いていた。
二つに割れた炎の中を、黒と青が駆けていく───
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───何度目かもわからない、『それから』の話をしよう。
あのあと、マリアンヌ学院長はグレン先生に伝家の宝刀【マジカル☆パンチ】で吹っ飛ばされ、ばぃんばぃんとゴム毬みたいに跳ねて気絶した。
当然身柄は拘束されて緊急逮捕。尋問にかけたが一切の情報ナシ。取り巻きの女学生たちは思考を極端にする魔術が使われた痕跡があったので情状酌量。晴れて自由の身になったのみならず、今回の一件で学院の閉塞的な環境が問題視されて新しい学院長が派遣されるのと同時、改革に乗り出す予定だという。
晴れ渡る空の下、アルザーノ帝国魔術学院に向かう鉄道に乗り込む。
グレン先生は月組の女子から熱視線を向けられ、青春時代っぽくレイフォードとヴィーリフが別れを告げ、キサラギからはまた今度会ったら前に話した『クソ不味い』里の兵糧をご馳走しますと言われ、ついでになんかヴィーリフからじとっとした視線をいただいた。なんでさ。
そして現在。行きに乗ったのと同じような個室席。
そこでなぜか、俺は犯罪者かなにかのよーにみんなに取り囲まれていた───!
「あの……なんなんです、これ? みなさんお顔が怖いデスヨ?」
「ん。アッシュ、また無茶した」
「できたんだからいいじゃん……」
「よくない。すごく不安だった」
「そりゃどーも……」
むすっとした顔で言われてはわけがわからなくとも反抗はできない。男尊女卑とか男女平等とか、そういうのはぶっちゃけこういうときには存在しない。女子の笑顔が曇った瞬間、男子のヒエラルキーは圧倒的に下位に位置するのだ。
「そうだぞ。……お前、あんだけのことやっといて反動がないとかそんなわけねーだろ。グレン先生様の目は誤魔化せんぞ。吐け。おらキリキリ吐け」
「尋問するならカツ丼ください。……じゃなくて」
椅子から身を乗り出して、じーっと顔を覗き込んでくるグレン先生を押し戻しながらもああ、なるほどと合点がいった。グレン先生はどうやら、俺が分不相応な力を使っていたことに気が付いて心配してくれているらしい。
確かに、ああいう『自分の度を越えた能力』には大抵デメリットがあるのがお約束だ。グレン先生の【イクスティンクション・レイ】などが良い例だろう。言わんとしていることはまあわかる。
「ない。ないです。少なくとも今回の一件での反動は一切」
「……本当か?」
「なんで疑うんですかねえ……。俺がそこを誤魔化すような人間だと思います? ごく普通の凡人ですよ、俺は。ありふれた、どこにでもいる、そんな人間です」
───口にした言葉が、ひどく空寒い。
正しいのに正しくない。その感覚を覚えるより前に、無理やり思考を断線させた。
「……ったく」
一応、それで納得してくれたらしい。ぶすーっとした顔で、グレン先生は椅子に腰を下ろした。
事実だ。今回、なくしたものはなにもない。なにかあったとしても、それはなくしたものと混じったものに、区別がつかなくなったぐらいだろう。
それでもなおじーっと見てくるレイフォードの目が痛い。つ、と窓の外に視線を逸らす。
「アッシュ君、また無理したの?」
「してない。無理じゃないことならした」
「そういうの、屁理屈っていうんだけど知ってる?」
「……うっせーやい」
心配そうな顔をしているティンジェルと、レイフォードに負けず劣らずじっとりとした目を向けてくるフィーベルからも視線を逸らした。
「……あんまり無理すると、心配だよ。アッシュ君も、私たちの仲間でしょう? たくさん巻き込んじゃってるから、せめてなにかあったらちゃんと教え……」
「なにもないよ」
遮るように、口にした。
どうしてか、前は笑って流せた言葉が今は痛い。……そういえば、最近はちゃんと笑っていたっけ。笑顔を浮かべられる自信が、今はなかった。
がたごとがたごと、どこか気まずい雰囲気のまま列車が揺れる。
隣の席に座るレイフォードが見てくるのを認識しながら、それでも意地のように外を見続けた。どこか遠くへ視線をさまよわせる俺をどう思ったのか、それとも諦めたのか。レイフォードが、ぽすりと肩に小さな頭を預けてくる。
「……帰ろう。フェジテに」
───懇願のように囁かれた声に返す言葉はなく。
日は高い。
────────────────────────
ああ、肩凝った。色んな意味で。
あのあと、結局俺の肩を枕にして寝こけてしまったレイフォードをグレン先生に引き渡し、『本当に大丈夫なんだろうな』という視線を頂戴しながら俺は帰路へと就くことになった。
色々なことがありすぎて、正直もうへろへろだ。動き続けるための活力がないというか、そんな感じ。
「日記……日記書こう。家に、帰って。それで全部、問題ない……はず、だし」
帰ったところでなにもない。なにもなくとも、あそこは俺に許された安全地帯にして舞台装置。
まずはそこに戻らないと、なにもかも始まらない。
「……帰ら、ないと」
疲れが出たのだろう。ふらふらと、足元が覚束ない。
「思い出して……帰らないと……あれ……?」
意味のないつぶやきに首を傾げる。帰るのと、思い出すのと、どっちが先だったっけ。なにがしたかったんだっけ。
見慣れた路地にノイズが走る。商店街のような、雪景色のような、片田舎のあぜ道のような風景がダブる。なにを見ている?
「───まあ、いいか」
気にしないでいいことは、気にしないに限る。
気にしなくても良いことを、気にしているだけの余裕はない。
一言、つぶやいて頭を振る。それでまともな思考が戻ってきたのだろう、多少足取りも視界もまともになる。
「帰ろう……」
とにかく、なんていうか、疲れた。
帰って、眠ってしまおう。
終わるにせよ続くにせよ、眠ってしまえばあとはあっという間に過ぎていく。
一冊目。十年前、イヴから忘れっぽいからともらった日記帳。ページをめくる。
パラパラとページをめくって、閉じた。二冊目以降には目もくれず、最新のものを取り出してざっくりと『疲れた』とだけ書きつける。明日でもいいだろう。明日があればの話だが。
大丈夫。大丈夫だから、もう少しだけ、もう少しだけ探してみよう。
なんのためかわからなくても。もう少し。
───もう少しだけ。ありもしないものを、探していよう。