竜殺しっぽい誰かの話。 作:焼肉ソーダ
一ヶ所ミスがあったのでちょっとだけ修正。ジャスティィスに惨殺された死体の位置が変わるだけなんで特に気にする必要はないです。
あとメッチャクチャ言われるからここに書いとくけどレイクさんの台詞はあれ、原作から引用してるやつなので俺の誤字ではないです。なんなら俺も意味わかってないです。原作者殿これどういう意味ー?(涙目)
フェジテの状況は混沌としていた。
突如爆発したフェジテ警邏庁舎前広場。そこで叫ぶ大罪人。
『テメェら腐った政府の犬どもに天罰だよクソッタレ! 文句あんならかかってこいや、このボケがぁぁぁぁあああああああ!!』
───天に向けて放たれる銃声、秩序の象徴に迫る爆炎。
なにも知らないフェジテの住民は、ただ逃げ惑い。
秩序を守る警備官たちは、度し難き犯罪者を追う。
そして。とある路地を抜けた倉庫街では、残骸と竜の戦いが静かに始まっていた。
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「───
真名、
ばちり。光が奔る。発生源は見ればわかる。竜を相手に啖呵を切った少年だ。
三割、いや馴染みきった四割から、一気に六割を突破する。七割にも届きかねない勢いで、目の前のソレはかつての願いを外れていく。
普通の学校の学生服にも似た黒い服。それを纏った少年が、剣を片手にこちらを睥睨している───
(───なんだ)
戦士としてのレイクの本能が、自身の危機を告げている。
数ヶ月前。かつて相対したものと、ソレは違うと。
「敵味方、識別不要───さっさと死ね」
少年の姿が霞み消える。長剣の輝きが、残像のように宙に残る。
───瞬間、走り抜ける悪寒。
「なに───?」
驚愕は一瞬。どういう筋力をしているのか、赫い刃が竜の力を降ろしたはずのレイクと拮抗する。
だがこのままでは膠着状態に陥る。そうなれば、構造上鍔迫り合いのできない少年の方が不利だ。そのまま刃を滑り落としてその手を両断すれば良い。
───が。
びし、と。なにかが軋むような音が、自身の手元から響いた。……今度こそ驚愕する。硬さに関しては他の追随を許さぬ竜の鱗が、微かにひび割れている───!
このままでは得物を失うのは自分の方だ。即座にそう判断し、脇腹に蹴りを叩き込もうと身体を捻る。
「ン───」
それをちらりと一瞥し、少年はその場を離れ───ない。足をその場に縫い付けたまま、更なる力をもって剣を堕とし続ける。炎のような輝きが剣を覆った。人外の膂力に地面がひび割れ、小さなクレーターを作り上げる。
一段階、レイクの身体が沈み込む。……信じられない。ただの人間が、ここまでの力を持てるはずがない……!
「言っただろう。英雄であれ怪物であれ、それはもはや人ではないと───」
───圧し負ける。
竜の力を持つはずのレイクの腕が震え、剣がじりじりと地面へと向かう。
走る亀裂は微かにではあるが、徐々に広がっている。これ以上は不利だ。ぱっと片手を離し、衝撃を地面へと押し付ける。捻ったままで静止していた身体を無理に動かし、全力の蹴りを叩き込んだ。
少年が咄嗟に構えた左腕と、近すぎたが故に余波を受けた脇腹にモロに衝撃が入る。腕を犠牲にしようとも、人間であれば胴体が弾けよう。だが、少年はそれさえ能面のような顔で受け止め───今しがた地面を叩き割った剣を振り上げた。軸足に力を込めてその場から離脱する。ぴ、と、竜の鱗と同等の硬度を誇る肌に薄く傷がついた。
そのまま大きく飛び退き、靴裏で地面を擦りながら減速───追撃が来る前に左手を掲げる。
「《■■■■》───」
獣の底吠えに似た呪文が、世界そのものに語りかける。人を外れた超常のものを滅さんと、路地に竜巻が巻き起こった。少年の身体を吞み込んで、周囲にあった建物ごと空へと打ち上げる。
ただ空へと昇る風、と侮るなかれ。竜巻とは文字通り、天に昇る手段である。
巻き込まれた瓦礫が、吹き荒れる暴風が、内に閉じ込められた存在を悉く粉砕する。
───たった一人の少年を除いて。
天から光が落ちる。流星のように空を裂き、それは真っ直ぐにレイクに向けて飛来した。
二振りの銀と一振りの赫が残像を残しながら駆け抜ける。空気を斬り裂いて進むそれを避けて、肉片になったであろう生き物の姿を探した。
あの状況で、まともに生き延びられる人間などそうはいまい。それこそ、竜のごとき耐久力を得た自分のような存在でもなければ───
「……化け物か」
つと、そんなセリフがこぼれ落ちる。人を外れた存在たる己が、人を外れた存在を前にして現実を疑った。
少年は肉片になどされてはいなかった。手に持った短剣と、空いた片手でなにかを描くことで起動した得体の知れない術式で生き延びていた。
ぐるりと空中で回転する。地面を見据え、天地が逆しまとなった状態で銀の瞳がひたと自分を捉えている。燐光が散る。碧い光が灰の瞳に映り込んだ。
ズガン、とおよそ人の身では有り得ない衝撃音を置き去りに、瓦礫を蹴って少年が加速した。いつの間にか片手だけだった短剣は両の手にそれぞれ握られている。
燃え落ちる彗星のように、残骸が墜ちる。竜の喉笛を目掛けて奔るそれをもう一度なんとか躱し、剣を構えて通り過ぎていった背後の存在へと向けた。認識するより早く叩き付けられる衝撃。二度、四度、八度。一息ごとに衝撃は増え、ひび割れはどんどんと広がっていく。
……軋む音は、竜の鱗か残骸の嘆きか。己が天敵たる存在を相手取ったのだと気付いた頃には既に遅く、竜の剣は亀裂を走らせながらも主を守る───
是なるは竜殺し。
愛知らぬままに竜を殺し、悲劇を以てその生涯を終え、人理を守護する星となった遠い異界の大英雄。
例えその片鱗を再現しただけの灰といえど。
悪竜ならざるその身では、彼の前に立つのは自殺行為としか呼べぬだろう。
だが。
「ああ……良い、良い、良いぞ。感謝を述べよう、剣士よ……! お前は私になにを見せてくれる!? この戦闘千斗にしか役立たぬ我が身の末路を連れて来た
「お前の願いも矜持も俺には不要だ、ヒトのカタチを象る竜よ。成り損ない同士、果てまで堕としてやるから覚悟しろ」
「望む、ところ───ッ!」
それでも良い。もとよりこの身は破滅を決定付けられたままに末路を探すモノ。
むしろこれこそが、己の求めた果ての戦いに他ならない!
「《■■■》───ッ!」
唸る。うねる。炎が地面をのたうつ蛇となり、微かに身体を仰け反らせた少年ごとレイクを呑み込む。
制御しているとはいえ、掠める熱で肌は焼ける。構わない。この少年はそれに値する。
さあ、どうする。どう出る。太陽がごとき炎を体現するこの灰は、一体どのようにしてこの喉笛を搔っ捌く───?
「ふ、はは」
歓喜のあまり笑みがこぼれた。自然の具現たる炎を破滅の具現たる剣が両断する。魔力の煌めき。どうやったのかは与り知らぬが、この程度の苦境では、彼を止めるには至らない。
更に吠える。吠える。突風を以て少年を吹き飛ばし、氷塊を、真空の斬撃を生み出して差し向ける。それはまさしく世界からの拒絶。竜の意を受け、無数の暴威が命さえも奪いつくさんと吠え猛る。
だが、ああ。
世界からの拒絶など、既に彼は知っている。
「甘い───!」
氷塊を踏み付け、途端に弾けて掠める破片を剣の一振りで薙ぎ払い、空中で身体を捻りながら刃を引き戻して鎌鼬を裂いていく。
魔力を放出したことによる、音速さえ超えかねない前進。立ちはだかる悉くを粉砕し、赫を携えて灰が駆ける。
不利なのはレイク。圧倒的に。まともに受ければ、竜殺しの概念が忽ちその身を斬り裂こう。
「ああ───これこそ。これこそが……」
限界など知らぬ。鱗が割れ砕けようと、使い物にならなくなるそのときまで戦い続けろ。
目前に迫る『死』を見つめながら、嗚呼、と歓喜の唸りを上げる。
応じて、突き立つ柱。石畳を捲り、岩の柱が突き上がる。先端を尖らせたそれは容易に人の身を貫通してあまりある。
いくらか普通の人間より頑丈とはいえ、凶器そのものと化した大地には勝ち得ない。貫かれてその命を終えるだろう。
それを。あろうことか、中空で斬って捨ててみせる。
弾丸のように加速しながら、拳と魔剣で全てを叩き伏せて。
「───ッ!!」
「オォォオオォオオオオ───ッ!!」
竜の操る神秘を土くれへと還しながら、灰が駆ける。
片や義務感を。片や歓喜を。
それぞれまったく違うものを抱きながら、再び、残骸と竜がぶつかり合う───
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物語は愚者へと移る。
警備官を完全に敵に回したグレン=レーダスは、その圧倒的物量からなんとかかんとか逃げ回り、どうにか命を繋いでいた。
逮捕されるわけにはいかない。それは先行きが見えない状況で拘束されることを避けたいという思惑以上に、『次の課題だ』と言ってジャティスが提示したものが『自分が良いと言うまで警備官に絶対に捕まるな』というものだったからだ。今、ジャティスの手中にはルミアの命が握られている。……どれだけ意味不明でも、無視することはできなかった。
無論、この程度はかつて潜った修羅場に比べればかわいいものだ。だが苦境には変わりなく、安全な場所から飛ばされるシスティーナのアシストを受けながら、殺さぬようにとフェジテの街を駆け回る。
「うおおお……うざい、多い、めんどくさいッ!!」
『気持ちはわかりますけど、耐えてください! ……次、そこの十字路を左!』
「あいよォ!!」
システィーナの指示のもと、全幅の信頼とともに地を駆ける。
背後からはひっきりなしに銃声と怒声、足音が響いている。
「クソ……これだけ統制されてるとなりゃ、こりゃ背後になんかあるな……?」
悪態をつきながらも、グレンは彼らを殺さない。
それは『グレン』としての矜持であり、超えてはならない一線だ。
殺せば良い、と楽な道を提示する正義の声を振り切って、走る。走り続ける。
グレンが握られているのはルミアの命だ。グレンに命令を聞かせるためだけにさらったのかは不明だが、少なくともその事実は揺るがない。
もどかしい現実に歯嚙みして、せめてできることを、と思考を巡らせる。
今気がかりなのは、ルミアももちろんだが自身の知らぬ間に『ゲーム』とやらに巻き込まれたらしい教え子のことだ。
……全てを理解したわけではない。どこかへ帰りたがっていたことと、身に余る力を揮っていることしかグレンにはわからないのだ。
日記をいくら流し読んでも、それ以上の情報は得られなかった。……察するに。あの日記は、正しく全てを記録するためのものではなく、彼にとってなにか重要なものを記録しておくためのものだったのだろう。
それは例えば。彼がそう在りたいと願い願われた、日常の形とか。
(……アッシュ……)
嫌な予感がする。具体的にどうなるとまではわからずとも、それだけははっきりと感じ取れた。
───走り続けるグレンの耳に、はるか彼方で響く轟音が届いた。
足は止めず、音の発生源に視線を向ける。その方向にあるのはフェジテの倉庫街だ。建物の隙間から、竜巻やらなにやらがチラリと見える。どう考えたって自然なものではない。
魔術だ。それもかなり高度な。……いや、規模とその傾向から言って、もしかすると普通の人間が揮うものではないかもしれない。
だが今このフェジテで、そんななにかと戦うような人物など心当たりは一人しかいない。───あそこにいるのか。アシュリーが。
「くそっ……白猫! 倉庫街の方に遠見の魔術を───」
『む、無理です! 今、一瞬でも視点をズラしたら先生が追い込まれてしまいます……!』
「知るかッ! それよりアッシュだ、俺はこの程度どうとでも……!」
『こらこら。そう焦るなよ、グレン……君はもう少し、彼のことを信じてやれよ』
ジャティスの声が、焦るグレンの神経を逆撫でする。
『彼が本気で戦うつもりになれば、君ですら敵うか疑わしい。それぐらいのモノを秘めているからね、彼は。いやはや、これが敵に回らないことを祈るしかないね。くくく……』
「お前、あいつになにさせるつもりだよ……!?」
『おっと。勘違いしないでくれよグレン。彼は最初から殺すときは殺し、生かすときは生かす人間だよ? 僕が強制しているんじゃあない』
「この状況を作り出したやつがなに寝惚けたこと言ってやがる……! あいつはただの生徒だッ! テメェの勝手な都合で巻き込むんじゃ」
『本当に、アレを普通の人間だと、そう言えるのかい? グレン』
一瞬、グレンが口ごもる。
普通ではない。それは確かに、ほんの数日前にグレンが抱いた感想だからだ。
『それに、協力してくれと言ったら実に素直に頷いてくれたよ? 一度は命を狙った僕にこうも簡単に協力するなんて、ずいぶんとわかりやすいじゃないか』
「……どうせ、お前がなんか脅迫したんだろ」
『いいや? 僕はただ、このままではフェジテが失われると告げただけだ。……わかったかい? フェジテというカタチ。より正確には『学校』という枠組みさえ守れれば、彼はそれでいいのさ。例えなにを犠牲にしてもね』
「お前はなにを知ってるんだよッ!? いいから黙れよ、クズ野郎……!」
例え、ジャティスの言う通りあっさりと協力要請に頷いたのだとしても。
それでも、ジャティスが彼を再び戦いへと誘ったことに変わりはないのだ。
『……そう怒るなよ。どうせ思い入れも薄いだろう? それより自分のことを心配したらどうだい?』
「……地獄に落ちろ」
『くく……まだまだ元気みたいでなによりだよ……』
それきり、声は途絶えた。ジャティスもジャティスの方で、なにかやることがある……ということだろう。
どうせロクなことではあるまいが。
舌打ちを嚙み殺す。……どの道、現在の状況ではアシュリーを捕捉したところでなにもできない。逃げ回るだけで精一杯のグレンには、不穏な一言を残して消えた少年を救う術はない。
───もういい。もういいじゃないか。いい加減、楽になれば良い───
(お前がなにを探してたのかは知らねえ。……知らねえが。まだ諦めるな、アッシュ……! 帰る場所なんかどこでもいい、フェジテだってどこだって。……だから、まだ。まだ諦めるな、頼む……ッ!)
無責任な祈り。今まで見てこなかったのは誰だと理性に嘲笑われながらも、そう思わずにはいられなかった。
……この騒動が終わったら。ちゃんと話を聞いてやろう。
一人は怖い、と言って仲間から離れることを嫌がったリィエルのときのように、抱えるものに気付けなかった、自分の責任でもあるのだから。
昔のグレンならどうでもいいと切って捨てただろうが、今のグレンにはそんなことはできない。
だって。今のグレンは教師なのだ。
迷える生徒を導く、かつての夢に胸を張って誇れるような人間なのだ───
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その頃。
フェジテの水面下で暗躍する正義は、フェジテの警備官が集うはずの詰所の一つに忍び込んでいた。
「ふう……グレンとアッシュのおかげで、こうも簡単に忍び込めた。あの二人にはお礼を言わないといけないなあ。ねえ、ルミア?」
「…………」
ルミアは答えない。ただじっと、敵意のこもった瞳でジャティスを見据えている。
建物の内側には惨憺たる光景が広がっていた。グレンの捕縛を暗示魔術を用いて煽動していたユアン=べリスという名の天の智慧研究会の構成員を拷問の末に慈悲もなく───本人にしてみれば『罪から解放してあげた』ということでむしろ慈悲深いのかも知れないが、ともかく恐怖を与えるだけ与え、情報を絞り出せるだけ絞り出されてジャティスに殺された人間の死体が転がっていた。
常は滅多に人を罵倒することのない聖女のようなルミアでさえ、この狂える正義には敵愾心とともに罵倒の言葉を浴びせずにはいられなかった。それがたとえなんら心に響かないものでも。
「そんな顔をするなよ、ルミア。これは『正義』の執行なんだ。唾棄すべき悪を裁き、尊い無辜の民を救うためにその身を粉にして働き続ける……ふふ。僕と君って、案外似たもの同士じゃないかな?」
「戯言を……ッ」
「そうかい? 僕は『絶対正義』のためなら全てを捧げる覚悟だよ。この命さえも惜しくはない……人類から悪という癌を取り除けるのならね。……君も同じだろう、ルミア=ティンジェル。君は、君の真なる願いのために───君の真なる願いを殺し、聖女として振る舞える。ほら、一緒じゃないか」
「───っ!?」
ずぐり、と自身の歪みを抉られたような衝撃があった。
致命的な歪みを、今、この狂人に指摘されてしまった……そんな感覚。
───手放すな。まだ、失われていないのなら。
そんな言葉が、不意に蘇る。
……あの風変わりな友人は、今はどうしているのだろうか。
また自分のせいで、巻き込まれているらしいけれど───どうか、無事でいてくれるだろうか。
(先生……システィ……リィエル……みんな……)
どうか、無事で。
どうか。
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あらゆる想い、あらゆる陰謀を吞み込みながら歴史の奔流がフェジテで渦巻く。
ある者は狂気を。ある者は信仰を。ある者は矜持を。ある者は祈りを。ある者は願いを。
それぞれに信じるものを掲げながら、英雄と怪物と人間が群れ集う。
「……はあ、最悪。平々凡々どころかただの無能が雁首揃えて騒いじゃって、みっともないったらありゃしない」
そして、ここに。
「まあ、いいわ。……今度こそ仕留めてあげる、ジャティス=ロウファン。イグナイトの誇りにかけて……絶対に……!」
炎までもが、介入する。
「あのバカも、グレンも陰謀も。全部知ったことじゃない。父上の期待に、私は応える。そうでなきゃ、私に価値はないんだから───」
───ずきり、と。
楔で押し込められた、遠い
物語開始時点:?割
ジャティス戦:3割
魔人戦:3.5割
~マリアンヌ戦:4割
現在:7割弱