竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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今回はアッシュの出番控えめどころかほぼないんやで。すまねえ。


45.終焉の序章

 全ての役者はここに揃った。

 

 愚者は正義とその行動をともにし、天使はそれに寄り添う。

 

 白猫はひとときの眠りに誘われ、炎は情を切り捨てながら正義を追う。

 

 戦車と魔女はその身を癒すため、しばし活動を停止し。

 

 鋼の聖騎士は一人、学び舎に侵入して賢しき者たちを相手取る。

 

 英雄をなぞる少年は障害を蹴散らしながら、懐かしき学び舎へと歩を進める───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 イヴがシスティーナを保護し、いくつかの言葉を交わしていたその頃。

 

 唐突に警備官の追跡から解放されたグレンは、どこからともなく現れたジャティスと遭遇し───しかし戦うことはせず、大人しくその案内に従ってフェジテの街を歩いていた。

 本当なら今すぐにでもぶちのめしてやりたいが、奪還したルミアの『今は本当にフェジテが危ない』という言葉により、激情に震える拳を押さえつけてなんとか平静を保っていた。

 

 やがて、ジャティスの案内でたどり着いたのはフェジテの南地区にある古びた商館だった。既に廃館となったはずの建物内部には無数の死体が積み重なっており……それを積み上げた張本人であるジャティスは、死体には目もくれずに地下へと足を運ぶ。

 

 物がなに一つない不気味な空間。そこに、恐ろしく高度な術式が敷設されている。

 しばらくグレンはその法陣を眺めていたが、やがてその正体に思い至ったらしい。血の気が引いていくのを感じながら、絞り出すようにして法陣が示す事実を口にする。

 

「【メギドの火】……だと……!?」

「ああ、そうさ」

 

 慄くグレンを愉快そうに眺めて、ジャティスは足元の法陣をコツコツと杖で叩いた。

 

 そこに刻まれているのは『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)』。既にルミアの異能アシストを受けたジャティスによって解呪(ディスペル)済みだが、問題はそこではなく。この術式がマナを送り込む先だった。

 

「『Project:Frame of Megiddo』……通称【メギドの火】。正式名称は錬金【連鎖分裂核熱式(アトミック・フレア)】……こんなものが起動したら、フェジテは一瞬で生命のいない焦土と化すだろうね」

「なんでそんなもんがここに……ッ!? おい、いい加減に教えやがれ! フェジテで今、なにが起きているッ!?」

「落ち着けよグレン……幸い、君たちのおかげでそれなりに時間もある……ゆっくり、順を追って教えようじゃないか……」

 

 くつくつと、仄暗い笑い声とともにジャティスが顔を歪めた。

 【メギドの火】。S級とまで呼べる圧倒的な威力を誇るまさに戦略兵器であり、ジャティスの言う通り街一つ程度ならば容易に灰燼に帰すことができる大禁術。

 

 なぜ、そんなものがフェジテにあるのか?

 

「天の智慧研究会……彼の組織には、ルミア=ティンジェルを巡って二つの派閥があることを知っているかい?」

「……ああ。ルミアからはなぜか手を引いた『現状維持派』。そして、ザイードのようにルミアの殺害を目的とした『急進派』……それがどうしたってんだよ」

「そのザイードの捕縛で、組織の情報が相当帝国に割れてね。『急進派』は一気に弱体化。これ幸いとばかり、『急進派』を疎ましく思っていた『現状維持派』はあらゆる手段で彼らの粛清に乗り出した……」

 

 そして今回。放っておいても滅ぶような瀕死の状態に追い込まれた『急進派』は、それでもなんとかルミアを殺害しようと最後の手段に訴え出た───つまり。

 

「……【メギドの火】による、自爆テロ……?」

 

 呆然とつぶやかれたグレンの声に、ジャティスは笑みを深めることで返答した。

 【メギドの火】を起動させることで、ルミアをフェジテごと消し去ってしまう。それが、今回の事件の真相なのだと。自分の命どころか、街一つ丸ごと全てが犠牲になるかもしれない……そんな事態に、ルミアが沈鬱に顔を伏せた。

 

「……ンなふざけた話があるかよ!?」

「勿論、そんなことは正義の執行者たるこの僕が許さない。だからこそ、僕はこうしてあくせく働いてるってわけさ。各地に敷設された『マナ活性供給式』を解呪するためにね。ご理解いただけたかな?」

「……つーことは、だ。お前、これを解呪する隙を作るために……あんなよくわからん課題を出しまくり、俺たちをオトリにしたってわけだな……!?」

「さすがの僕も、今回の一件の裏にいる連中を一人で相手取るのは厳しいからね。いやあ、助かったよ……実にね」

「テメェ……ッ」

 

 ぎり、と歯を嚙み締める。自分たちが必死こいて戦っている間、こいつは一人悠々と自身の目的を果たすために動いていた、というわけだ。

 

「そう怖い顔をするなよ、グレン。確かにシスティーナはジン=ガニスと交戦したが……無事に勝利を収めた。ま、トドメを刺すにはまだ未熟だったみたいだけどね。だけど心配はいらないよ。イヴが保護した」

「……イヴが? いや、あのジンと交戦して勝った……だと!?」

「ああ。だからこそ、僕は予定を早めて君にこうして接触した……〝読めなかった〟展開だけど、悪くない」

「おい、もう一人いただろ。テメェが巻き込んだ相手は」

 

 ふつふつと湧き上がる怒りと憎悪を抑え込みながら、グレンがそう言うと。

 

 ジャティスはなにが面白いのか、背中を丸めて肩を震わせた。……笑っているのだ。

 

「くくっ……ああ、彼のことだろう? わかっているさ」

 

 いかにも愉快そうに、ジャティスは笑う。

 

「大丈夫だよ。レイク=フォーエンハイムとやり合いはしたが……彼もまた無事だよ」

「……マジか?」

「マジさ。相性が良かったのか、それともアレでは相手にならないほどに強大な存在であったのか……どちらかは与り知らないけどね。しっかり、あの竜を仕留めてくれた。さながら現代に顕現した竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だ……どういう末路をたどるのか、今から楽しみだね?」

「…………」

 

 相変わらず、なにを考えているのか全くわからない。わからないが───ひとまずは二人とも無事であるらしいという事実に、胸を撫で下ろした。

 ……その一方で、仕留めた、というフレーズに心が痛んだ。あの少年は、また一つ普通から外れてしまったらしい。

 

「気に病むことはないよ、グレン。それが彼の本性さ……殺す殺さないの話をするなら些か遅い」

「……んなわけねーだろ。あいつは普通の……いや。普通じゃなくても、良識はあった。人殺しなんざしなくていいやつだったはずなんだよ……!」

「……まあ、そういうことにしておこうか?」

 

 やれやれ、と言いたげに肩をすくめた。殴りてえ、という本音はつぶやくだけに留め、堪えきれない感情は舌打ちに変えて吐き捨てた。

 

「さてグレン。これで、僕らがやるべきことは理解してもらえたと思う」

「……ちっ。わかってるよ。『核熱点火式(イグニッション・プラグ)』の解呪……だろ」

「ああ。僕も尽力したが……既に相当な臨界マナが送り込まれてしまっていてね。それを解呪しなければ……フェジテに未来はない」

「で、その期限はいつだよ」

 

 もう一度、舌打ち。

 それに、ジャティスはやはり笑って告げた。

 

「今日の日没。それまでにアルザーノ帝国魔術学院に敷設された法陣を解呪できなければ、あと数時間後に───フェジテは滅ぶ」

 

 そう笑う正義を。

 

 炎が───捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───三日も私をヤキモキさせたんだから、付き合いなさい。

 

 そう言って、私はボケっと突っ立ったままのアシュリー───アッシュを連れ出した。

 急いで着替えさせて、身支度をさせて。帝都の大通りに繰り出したのだ。

 

 ───なんで俺が。

 ───あんた、帝都に来てから一ヶ月ぐらいなんでしょ? ついでに色々、ちゃんと教えてあげるから。

 

 ぼーっとしてるバカの手を引っ張って、私も別に詳しいわけじゃない道をたどっていく。

 ふらふらと覚束ない足取りの少年は、そのうちちゃんと自力で歩くようになって、なにかを考え込みながら私の後ろでぶつぶつとなにかをつぶやいていた。

 

 それからふと、

 

 ───そうだな。俺に教えてくれ、イヴ。そしたらちゃんと、覚えている(忘れない)から。

 

 そんな風に言って、今度は私の隣を歩き始める。

 一つ一つ、道の途中にあるものを確認するように眺めていって。『ああ、忘れてない』としきりにつぶやく友人を引き連れて、私はあちこちを散策した。

 

 姉さんのお気に入りのカフェに行って、パフェを奢らせたりもした。

 

 大きなサクランボの乗った、クリームたっぷりのパフェ。姉さんが食べているときは小さく見えたのに、いざ私たちの前に並ぶとそれはとんでもなく大きく見えた。

 仕方なく、それ一つきりで勘弁してやることにした。本当は、パンケーキも食べてやろうかと思ったが……まあ、さすがにかわいそうだし?

 

 ───味がする……。

 ───……パフェ食べて、感想がそれなの?

 ───え。ああいや、訂正する。こういうのを美味しいって言うんだよな。うん、大丈夫。覚えてる。

 

 ……こいつ、大丈夫か?

 当たり前のことを心なしかドヤっとした顔でつぶやく彼に呆れ果てる。前々からどこか抜けてるやつだとは思っていたが、想像の数倍ダメなやつかもしれない。

 

 ぺろっと二人がかりで大きなパフェを平らげてから、雑貨屋に行って色々な小物を見たりもした。

 

 ───そういえば、あんた。日記、ちゃんとつけてる?

 ───日記……あの本? ああ、つけてあったよ。ページがなくなったから、新しいのを適当に買って俺も書いてる。

 ───言い回しがいちいち変なんだけど。ふぅん……でも、そうね。新しい凝ったやつでも探してみる? ほら、これとか。

 ───そのメルヘンチックなやつは、さすがに……俺の趣味には合わないのではなかろーか?

 ───……なんで疑問形?

 

 そんな風に、一日を過ごした。また明日からはしばらく暇がなくなるから、最後の息抜きにはちょうど良い。

 なんで今日は、俺を連れ出したんだ。一日の終わり、昼と夜が混じり合う黄昏時に。そうとぼけた顔で聞いてきたバカの鼻先に指を突きつける。

 

 ───言ったでしょ?

 

 たった三日前のことも忘れたのかという苛立ちを押し込めて、もう一度。夕焼けを背に、言ってやった。

 

 ───私が。何度でも、あなたに───

 

 遠く、遠く。

 

 今はもう届かないいつかの思い出。

 

「……そんなの、どうだっていい」

 

 ジャティスが現れるだろう場所に眷属秘呪(シークレット)【第七園】を仕込みながら、私はその思い出を振り払う。

 

「私の価値はイグナイトの名誉だけ……そのためなら、なんだって切り捨てる……」

 

 父上の冷たい声と目が、私の心を縛り上げている。

 そうだ。一年前、セラを見捨てた私には、もうそれしか残されていないのだ。

 

 今さら、私が、イグナイト以外を優先することなんて許されない───

 

「さあ、来なさいジャティス=ロウファン。なにが起きても、あなただけは仕留めてあげる。たとえ、どんな手を使っても……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ジャティスとグレンが乗っていた馬車が、唐突に燃え上がった。

 

 同乗していたルミアの胴を掻っ攫い、グレンが地面を靴底で削りながら着地する。

 

 道中、なんの妨害もなくすんなり学院へ向かえていたと思ったらこれだ。御者はジャティスで、牽いていた馬もジャティスの人工精霊(タルパ)であったために大した被害はないが……馬車本体は、炎上したまま壁にぶつかって大破した。

 

「やれやれ……ここでくるか。まあ、〝読んでいた〟けど」

「ちっ……誰だ、このクソ忙しいときに……!」

 

 落ち着き払ってステッキを回すジャティスと、ルミアを庇いながら道の向こう側に立つ人影を睨みつけるグレン。

 

 傾き始めた太陽を背に、威風堂々と立っているその姿は───見覚えがあった。

 

「あら、ご機嫌ようグレン。裏切り者とのドライブはどうだった?」

「テメェ、イヴ……ッ!? 待て、これにはわけが───」

「わかってるわよ。いちいち騒ぎ立てないで。【メギドの火】でしょう?」

 

 至極冷静に言い捨てて、イヴが髪をかき上げる。その情報の早さは、さすがイヴと言うほかないのだが……なぜ、今ここに姿を現したのか?

 イヴのことだ。【メギドの火】の存在を知っているということは、既にその状況も最後の『核熱点火式』の場所も把握しているに違いない。イヴはそういう人間だ。いつの間にか、どこからか正確な情報を入手しては戦果を挙げていく……そういう魔術師なのだ。

 

 やたらと名誉と手柄にこだわるいけ好かない冷血女。それがグレンからの評価であるが、しかし同時にグレンはその実力や聡明さを認めてもいた。

 そのイヴが、【メギドの火】を放置して自分たちの前に姿を現した。今はどう考えたって【メギドの火】が最優先事項であるにも関わらず。

 

 ……なにかがおかしい。フェジテの未来を考えるのならば、イヴは今頃アルザーノ帝国魔術学院にいなければならないはずなのに───

 

「……まあ、いい。事情を知ってるんなら話は早え。協力しろ、イヴ」

「ふん……」

 

 どこか嫌な予感を覚えながら、グレンがそう言うと。

 

 イヴは、じろりとグレンを睨んで。

 

「……なに言ってるの? 協力するのはあなたの方。……そこにいる裏切り者を、今、ここで、私たちで倒すのよ」

「───。……は?」

 

 一瞬。信じられないセリフを聞いたグレンの頭が真っ白になった。

 

「お前、なに言ってんだよ……?」

「聞こえなかった? 私に協力なさい、グレン。私たちが優先すべきは、特務分室の名誉を貶めた裏切り者……そこにいる《正義》の確保、もしくは抹殺。【メギドの火】なんて二の次よ」

「バカか、お前……?」

 

 心底失望した、と言わんばかりに吐き捨てる。

 【メギドの火】が二の次? この状況で? どれだけ解呪に時間がかかるかもわからない【メギドの火】を放置して、今ここでジャティスを捕らえる?

 

 有り得ない。そんな選択肢、絶対に取るべきものじゃない。むしろ真っ先に排除するべき選択だ。

 

「……まさか、この期に及んでまだクソくだらん手柄にこだわってやがんのかよ!?」

「う、うるさいわね。【メギドの火】を放置するなんて誰も言ってないわ。ただ、今はそこのジャティスを───」

「現実を見やがれこのバカ野郎!? そんな時間はどこにもねえんだよ! ジャティスなんざほっといて【メギドの火】を止めに行く! それが最適解だろ!?」

「───ッ、千載一遇のチャンスなの! ようやく、あのジャティスを罠に捉えたのよ!!」

 

 なにかに焦ったかのように、イヴが釈明を始める。だが、その姿は……グレンの知る、冷酷ながらも常に正しく合理的な采配を行う娘の姿ではなく。

 

「この周囲一帯は既に私の【第七園】の領域ッ! もう万が一にも、ジャティスに勝ち目はないの! だから……だから、手伝いなさいグレンッ! 【メギドの火】なんて、そのあとでも十分対応できる……できなきゃいけない……ッ!!」

「ンなわけねえだろ!? お前は知らないかもしれねえが、ここまでの『マナ活性供給式』ですら真っ当な手段じゃ解呪に数日はかかる代物だったんだぞ!?」

 

 昔のグレンは、血も涙もないイヴの作戦に反発したことが何度もあった。人質を切り捨てることを前提とした作戦でさえ、イヴは平然と立案する。だが、それに反発したのはグレンが『全てを救う正義の魔法使い』に憧れていたせいでもあった。

 その意地を省けば、イヴの作戦はどれもこれもが筋の通ったもので。効率と味方の被害だけを考えるなら、いつだってイヴの作戦が最上だった。

 

 だが───今回のコレは違う。どう考えたって、グレンの方が正しい。

 

「フェジテが吹き飛ぶんだぞ!? 俺の我儘で救う救わないっつってるんじゃねえ、文字通り全部が吹き飛ぶんだ! それがわからねえお前じゃないだろ!?」

「そんな───そんなこと……ッ!」

「白猫やルミアだけじゃねえ、アッシュだっているんだぞ!? 昔馴染みじゃなかったのかよ!! あいつらのことも見殺しにする気かよ───()()()()()()()()()()()()()!!」

「───あ……」

 

 ……言ってから、しまった、と口をつぐんだ。

 

 セラの話は……実質、この二人にとっては触れてはいけない話題、暗黙のルールだった。

 それを、最悪の形で叫んでしまった。だが、吐いた唾は吞めない。呆然と立ち尽くすイヴに、グレンができるのは。

 

「……なあ。お前がなんで、そこまで固執すんのかはわからねえけどよ……今は、【メギドの火】を優先しようぜ……?」

 

 静まり返った路地で、正しい選択肢を改めて提示することだけで。

 

 ───言葉に詰まったイヴの背後、学院の方向から天に向かって幾条もの閃光が奔り、空を紅に染め始める。【メギドの火】の『二次起動(セミ・ブート)』───破壊の序曲が、押し黙るイヴの背後で立ち昇る。

 これがお前の選択の果てにあるものだと、そう告げるように。

 

「……命令よ、グレン。私に協力しなさい」

「断る」

「……何度も言わせないで。命令よ」

「何度も言わせんな。お断りだ」

「~~~ッ」

 

 もはや語るべきことはない、とでも言うように。

 

 グレンはルミアとともに、イヴの横をすり抜けて去っていく。

 

「……せめて、死ぬなよ?」

 

 そんなセリフがイヴの耳に届き……あとに残されたのは、《魔術師》と《正義》の二人きり。

 

「くくくっ……あっはははははは───!! 見事にフラれたねえイヴ=イグナイト!? 当たり前だよねえ、『正義の魔法使い(グレン)』は人の救いを求める声に応える者だ! 自ら地獄に突き進む愚か者を救うなんて、そんなのは『(偽善者)』のすることさ!!」

「───ッ!! ジャティス……ッ!!」

 

 呪い殺しかねないほどの激情を込めて、イヴがジャティスを睨み付ける。

 それをジャティスは涼しい顔で受け流し───蔑むような、哀れむような視線を返す。

 

「くくッ……ああ、哀れな君への慈悲だ。今すぐ尻尾巻いてとっとと逃げろ。二度と僕の前にそのツラを見せるな、最弱の魔術師……」

「なん……ッ」

「もしくは───徹底的に絶望の淵に落とされたいと言うのなら、別に相手をしてあげても構わないけど?」

 

 山高帽を被り直しながら、そんな風に言ってのける。

 

 最弱? 私が? 既に【第七園】を起動し、近接魔術戦闘において最強となった《紅焔公(ロード・スカーレット)》たるこの私が?

 

 なんという侮辱だろう。イヴの眼に、ようやく意志が灯る。手のひらに火球を生み出し、逃げ場はないと告げるように四方八方に炎の柱が燃え上がる。

 

「ふん……どこからそんな自信が出てくるのかわからないけど。よっぽど死にたいようね、あなた」

「……やれやれ。弱いものいじめは趣味じゃないんだが……まあ、いいよ?」

 

 退路を断たれてなお、ジャティスの表情に焦りはない。

 

 それどころか、愉快そうに顔を歪めて。

 

「そんなに絶望したいと言うのなら、相手になってあげよう。……せいぜい、自分を救う英雄が現れるのを祈るんだね───」

 

 言葉と同時、爆炎が路地を包み込む。

 

 《魔術師》と《正義》の戦いが、フェジテの一角で勃発し。

 

「───……あっちか」

 

 血に濡れた誰かが、その炎を見上げていた。




リィエル「セリカ。どうしたら動ける?」
セリカ「うーん……そうだな。しこたま飯でも食えばいいんじゃないか?」
リィエル「ん。わかった」
セリカ「……リィエル、待て、それって不味いと評判の軍用食ん"ん"ーーーッ!?」
リィエル「(もぎゅもぎゅ)……システィーナの家のごはんと、ルミアのごはんと、アッシュのごはんと、食堂のごはんの方がおいしい……」
セリカ(クソ不味いレーションを口に突っ込まれてむせている)
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