竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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むずかしい しごととげんこう りょうりつは(遺言)

というわけでお久しぶりですマジで。投稿のペースだけが取り柄だったのにそれも失いつつあるというかほぼなくなった焼肉ソーダです。陳謝。
本当は昨日上げたかったんですが某バーサーカーのエミュきつすぎて無理でした。一応言い訳すると仕事も始まりましてハイ……。一年かけてこれだよ!! 無理だよあのこ! 好きです!!

さすがに一周年企画を二周年突入するのは嫌すぎるということで急いでなんとか書き上げました。ので、ちょっと粗目立つかも。
違うんだ……ネタを集めてたら普通に小説が一本書けそうになったのが悪いんだ……。

今後の予定ですが、一旦番外編はここで切り上げていい加減滞っている本編の続きを書こうと思います。「IF√:炎の騎士」に関しては11巻が終わった頃に上げようかと。
本編滞りすぎてて進まないんで本当……。そうこうしてるうちにロクアカ終わりそうだし……。
あ、「IF√:炎の騎士」に関しては特に問題なく書けてるのでご安心ください。

本編続きに関しては間に合えば今週中にアップしようと思っているので、今しばらくお待ちくださいませ。

なんか滞ってる間に原作が進んでいろいろ判明したせいでアッシュの厄ネタ度がマシマシになっちゃったけど大丈夫!

最後はたぶんハピエンになるから!

……なるかなぁ!



追伸。
実は後輩と「8月中に更新できなかったらFGOで新作書くわ」という賭けをしました。
結果はご覧の通りであります。


57.IF/EXTRA:堕天の庭【後】

『───サーヴァントがいるっていうから来てみれば。知らないマスターのみならず、新規で召喚されたサーヴァントだったなんてね』

 

 冷たい視線が自分を貫いていた。

 蛇に睨まれた蛙のように、身体が動かなかった。

 慎ましやかでありながら華やかに目を引く赤い服。過度な装飾を省かれたにも関わらず煌びやかに流れる黒髪。

 

 恐ろしい。それもある。

 だけどそれ以上に、唐突に、優雅に現れた少女から目を離せなかった。

 その姿を()っている。

 それがすれ違う程度のもの(関係)であったとしても、興味の薄い、手の届かない高嶺の花だったとしても。

 

『ま、いいわ。やっちゃってランサー。それ、相当な厄ネタみたいだから。ブラッドバスの材料じゃなくて、もっと別の使い方をしましょう』

 

 視線と一緒に、氷点下を振り切るような殺意を向けられたことに気付いたのに、動けなかった。

 

 待った。待ってくれ。待ってほしい。

 見覚えがある。見覚えがあるんだ。

 ここにきて、ようやく、はじめて、オレがいた場所の痕跡が見えたような気がするんだ。

 

 君は、オレのことなんて知らなかっただろうけど。

 それでも、オレの、オレたちのいた場所(せかい)には、確かに君がいて───あの世界は、嘘なんかじゃ、幻なんかじゃなかったと。

 

 そう言ってもらえたような気が、してしまって。

 

『ご主人───ッ!』

 

 ……だから、そう。

 

 自分を助けてくれた、自分よりも強いはずの女の子に、いらない傷を負わせてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────★────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 ───走馬灯のような回想はそこで終わった。海の底にいるような、重い息苦しさで目を覚ます。

 真っ先に目に入ったのは、木目調の天井だった。チカチカとした白い灯りは開いたばかりの目には眩しすぎて、反射的に視界を閉ざしてしまう。

 

 何度かまばたきを繰り返して、ここまでの記憶を思い返す。

 確か、そう。なんていうかすごい命の危機だった、気がする……?

 

「……。夢……?」

 

 直前までの情景にあまりにもそぐわない景色に、思わず首を傾げてしまう。

 とりあえず情報を整理しようと、傾げた首をくるりと回して部屋……恐らく部屋……の中を見渡してみる。オレが寝かせられていたのはベッドであろうことぐらいはわかったが、それ以外の情報がなんにもない。

 

 見覚えのない、どこかあたたかみのある木造建築。

 やはり見覚えのない、保健室のような薬品棚。

 それから少しだけ見覚えのある、狐耳と赤い着物。

 

 ……狐耳、と、着物?

 

「む。目が覚めたか、ご主人(仮)!」

「うわぁ!?」

 

 びっっっっっっっっっっくりした。

 目が覚めたらすぐそばに女の子の顔があるとか、どういう展開なんだこれは!!

 

「痛むところはないか? 怪我は? モーニングコールは必要か!?」

「ない、ないです、起きてますっ、いいから離れてくれっ!!」

 

 ずいずいと迫る少女に、思わず後ろに逃げ出そうとしてあえなく激突。

 背後の壁に強かに後頭部と肘を打ちつけた。

 

 ちょっと、というか、かなり痛い。

 

「待っ……て、くれっ。落ち着いて、話、をっ」

 

 若干涙目になりながら、どうにかこうにかジェスチャーで少女を引き剥がす。

 幸い向こうも別に密着したかったわけではないらしく(当たり前なのだが!)、懇願すればあっさりと離れてくれた。……が、爛々とした黄金色の瞳は相変わらずオレをロックオンしている。

 

 一体なんの因縁があってこんな風にガン見されているのか。

 心当たりがまったくないぞ、ともう一度ここに来るまでの記憶を思い返して───

 

「───あ」

 

 見覚えのない景色、見覚えのあるような黒髪の少女、殺意を乗せた冷たい視線。

 それらから必死に、見知らぬはずの自分を守ってくれたのが、目の前の彼女ではなかっただろうか……?

 

「あんた、さっきの」

「うむ、記憶力に問題はなさそうなのだな! いかにもアタシがご主人(仮)(カッコカリ)のサーヴァント! クラスはバーサーカー、真名は───」

「待ちたまえ。我々の目の前で不用意に真名を暴露するのはよした方が良いんじゃないか、バーサーカー」

「……ん?」

 

 ベッドサイドで胸を張りながら、心なしかドヤ顔で自己紹介をしようとした少女───バーサーカー? の声が、突然割って入った低い声に遮られる。

 彼女でもなければ、当然ながらオレでもない。ということは、つまり。

 

「感動の再会を邪魔して申し訳ない。……私のことは覚えているかな?」

 

 そう言って部屋の隅にある扉をガラガラと開けたのは、やはり見覚えのある姿だった。

 

 ひとことで言えば、ハードロックというか。

 形容しがたい赤い(胸元ガバァ! 系の)服を着た男性と、紺色の学生服を着た少女は、ほんの少し前に自分と隣にいる彼女を助けてくれた二人組だ。

 

 あの時はそれどころではなくてロクにお礼も言えなかったが、あの後、ここに連れてきてくれた……の、だろうか。

 

「恩を着せるつもりはないが、その通りだ。私はアーチャー。こちらはマスターの……」

 

 岸波白野だ、と学生服の方が無表情に言葉尻を引き継いだ。ゆるいウェーブの長髪と整った顔立ちは普通に可愛らしい部類に入ると思うのだが、こう、歴戦の猛者感がなんとなくにじみ出ている気がするのは気のせいであろうか。

 いや、それはそれとして。自己紹介は大いに結構なのだが、今は聞き慣れない単語の方が頭に残ってしまう。新情報を叩き付けないでほしい。

 

 なにかこう、一般生活には似つかわしくないような単語が紛れていたような。

 そう、ええと。

 

「……サーヴァント……マスター? って、なに?」

「そこからか……まあ、見当はついていたが。端的に言えば、サーヴァントとマスターというのはだな、」

「金を稼ぐ者と家を守る者。つまるところ夫と妻の関係なのだな」

「待った、なぜ急に家庭的になるっ!?」

 

 アーチャーさんとやらの話をぶった切って凄まじい暴論が飛び出した───!?

 

 いやだって単語の意味的には主人と従者だよね!?

 オレでもわかる。そういう話では絶対にないだろう、これ!

 主人と従者、は何歩譲っても夫と妻、にはならないと思う!! オレ間違ってない!!

 

 と、そんな困惑を悟ったのかなんなのか、赤い……派手な服の方がため息をついてはーやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。

 いささか語弊がある、と前置きしてからなぜかこちらを困ったような顔で見て、それから改めて口を開いた。

 

「サーヴァントとは、SE.RA.PH(セラフ)における戦闘代用ソースであり、マスターはそれを従え、聖杯戦争に参加したもの。……なのだが、その反応を見るにどうも知らないようだな」

「……あー、うん、なんの話だかさっぱりです」

「やはりな」

 

 首を傾げるオレの前で、どういうこと? とオレと同じように岸波が隣の男を見上げている。

 アーチャーさんはため息をつくと、頭が痛いとでもいうように自分の眉間を揉みほぐした。……推定自分のせいであろう、ということぐらいはわかるので、気苦労を背負わせてすまないと思うべきか、意味のわからない状況と嘆息に憤慨すべきかは悩ましいところ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということだ」

「……なんかよくわかんねぇけど。さっきのセリフと思いっきり矛盾してないですか、それ?」

 

 聖杯戦争とやらに参加している、というのがマスターの条件であるのなら、アーチャーさんの言う『聖杯戦争に参加していない』というのは、オレの主観からすれば正しいが定義としては矛盾している。

 だって知らないし。聖杯戦争とか。なにその物騒な宗教戦争っぽいなにか。あとセラフってなに?

 

 困惑がありありと表れてしまっていたのだろう。アーチャーさんは再度のため息。岸波の方も、そんなことが有り得るのか? みたいな目でこっちを見ている。

 三者三様に困惑する中で、ここまで沈黙を保っていたバーサーカーがぴっ、と狐耳と人差し指を立てた。

 

「要するに、だ。ご主人(仮)はたまさかこのSE.RA.PHを訪れ、珍妙なオモシロクイーンに襲われ、そしてなにやら奇妙不可解な戦いに巻き込まれたということなのだワン」

「うわー、わかりやすいけど納得したくねぇー……」

「……だいたい合っているが、端折りすぎだろう、君」

 

 でもだいたい合ってるし、と横合いから岸波が合いの手を入れる。

 アーチャーさん、三度目のため息。

 これはもしやなあなあで済ませてそのまま適当にGO、な感じなのかもしれな───

 

「仕方ない。一から説明するぞ」

 

 ……あ、説明してくれるんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────★────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして伝えられた話は正直なところ、眉唾物を通り越しておとぎ話のようだった。

 

「月の聖杯戦争、百二十八組のマスター(魔術師)とサーヴァント、万能の願望機、ムーンセル……」

「今は全員、聖杯戦争中の記憶を失っているがね」

 

 汝、己が最強を証明せよ───そんな謳い文句と共に開催された、()()()()()()を巡る争い。オレが巻き込まれたものはそういうもので、ここにいる人間は皆、電脳体というモノ……らしい。

 なるほど。正しく肉体を持ってここにいるわけではないのなら、オレが紛れ込んだ理由もまぁ納得がいく。いきたくはないが。

 

「で、サーヴァントってのは過去の英雄で、マスターと一緒にその聖杯戦争とやらを勝ち抜く相棒である、と……」

 

 『電脳体』とやららしい自分の手を握ったり開いたりしてみてから、ベッドサイドに突っ伏しているバーサーカーに目を向けてみる。こっちの視線に気付いたのかドヤ顔で返してきた。

 これが、英雄……? 英……雄……?

 

「アタシはそこんところ少しばかり特殊でな。ま、あまり気にするようなことでもなし。牛乳とチーズはなぜモトが同じなのにみんな違ってみんなうまいのかを吟味しようとも、どのみちグレイトうまいということしかわからんのと同じなのだな」

「いやそれ(原材料と加工後)は結構な違いだと思う……」

 

 加工後っていう立派な違いがあるじゃんよ。

 

「その……マスターってのは降りられないのか? 正直、オレとしてはこれ以上ヤバいもんに関わるのは嫌なんですが」

「それは……」

 

 ───無理だね、と岸波がバッサリ切り捨てた。……まあわかっちゃいたけど、無表情でぐっさり行かれるとメンタル的にきつい。泣いていい?

 さすがにこんな状況で泣かないけどもさ。

 

「……そうだな。マスターの言う通り、降りようと思って降りられるものではあるまい。聖杯戦争自体には参加していないといえども、サーヴァントがいる以上はマスターであることに変わりはない」

 

 そのマスターってのにそもそも心当たりがないんですけど!

 だめですか! だめそうですね!

 

「どちらにせよ、月の表側───聖杯戦争の会場に戻ろうとするのならば、我々はあの迷宮を踏破しなければならない」

「……よくわかんないけど、戦力としてカウントされるってことですか?」

「無理強いはしないが、期待はしている、というのが本音だな」

「素直ー……」

「ただ、今すぐにどうこう、という話でもない」

 

 もう理解の範疇を越えてきて、どうしたもんかとヤケになり始めたオレを気遣ったのかなんなのか、アーチャーさんがふいに話を切り上げた。

 え、と顔を上げてみれば、そこにあったのはやっぱり仏頂面だったのだが。岸波の方を見ても、無表情のまま頷くだけで。

 

「君も混乱しているのだろうし、ひとまずは私たちはこれで失礼するよ。また後で、君の話を聞かせてほしい」

 

 そう言って、岸波とアーチャーさんは去っていった。扉を閉める寒々しい音のあとに残されたのは、オレとベッドサイドにいる少女がひとり。

 ……えー。

 

「行ってしまったな」

「ここにきて放置プレイとは……」

 

 気を遣ってくれたことはわかるけど、ぶっちゃけいじめかな? という気持ちだった。

 説明役がいなくなったということは、現状について受け止めないといけなくなったってことだから。

 

「───マスター、か」

 

 はは、と乾いた笑いがこぼれるくらいには、やっぱり現実味のない話だった。

 願いを叶えるとか、聖杯戦争とか、サーヴァントとか、戦うとか。

 

「……ああ、くそ。意味わかんねぇ」

 

 みんな、好き勝手言いやがって。

 いい加減頭がパンクしそうだ。……なんて、そんな悪態をついても仕方がないのだけれど。

 

「守るとか、戦うとか、なんの話だよって……」

 

 ほんとにちょっとやめてほしい。

 少し前、目が覚めてはじめて認識した場所を思い返す。あんなところにまた行かされる? 彼女を戦力としてアテにして? まともな場所に戻るっていう目的のために?

 

 なんて、そんなの。

 

「意味、わかんねぇ」

 

 こちとら戦いとは無縁な一般人なのだ。多少おかしなコトになっていたとしてもそこは揺るがない。揺るぎようがない。なにせ、自分は戦うための努力も心構えもない。

 だというのに、戦うだの守るだのと言われても、いまいちピンとこない。

 

 いや、理屈としてはわからなくはないのだ。行くかどうかはともかく、あの敵性体ひしめくダンジョンに赴くのなら確かに、自分を守ってくれる存在はありがたい。

 そうでなくとも彼女は初対面だった自分を、成す術もなく殺されるところだったオレを救ってくれたのだ。それを疑うつもりはない。

 岸波たちだって、こんなおかしな場所からはさっさと脱出したいのだろうし、そのために協力するのだってなにも変な話じゃない。

 

 ……だから問題はそこではなくて、もっと根本的なことで。

 

「ご主人(仮)?」

「……そのご主人っての、やめないか。……そんな風に呼ばれる理由、ないし」

「なにをいう、ご主人(仮)はご主人(仮)では?」

「(仮)て。いや、そうじゃなくて」

 

 なんか違うと思うし。

 居心地の悪さについ、と視線を逸らしてみても、バーサーカーはそそっと先回りしてくる。

 

「ご主人(仮)」

「だからご主人はやめろって……」

「ご主人(仮)は、アタシが、契約だから仕方なくご主人(仮)を助けたと思っているのか?」

 

 純粋な瞳に、なんとなく気まずくなってもう一度顔を逸らした。

 彼女の質問への答えはYESだ。だってそうでなきゃ、理由がつかない。おかしいと思う。助けてくれたことへの恩義と、この気持ち悪さとは別の話だ。

 

 助けてもらったことはありがたいと思っているし、その強さをすごいとも思っている。だけど、それを『オレを守るために使う』と言われるのは居心地が悪い。

 

 そういうのは、もっとすごいことに使うべきだ。

 オレを守る、じゃなくて。たまたまそこにいたから助けただけだったなら、まだわかったのに。

 

 理由もなく、ただそういう関係になってしまったからこれからもオレを助けるなんてのは、どうしても無駄なことのように思えて仕方ない。

 嬉しいとか頼もしいとか、善い悪いとかの話ではなくて───ただ単純に、見合わないから居心地が悪いのだ。

 

「……それは違うぞ、ご主人(仮)」

「違うって、なにがさ。……いや、オレが勝手なこと言ってるのはわかる、けど」

「違うとも。サーヴァントは基本的に、マスターの使い魔となることが仕事だ。応える理由はもちろん様々だが───」

 

 自分は違う、というように首を横に振る。

 細かいことは考えなくて良いと、満面の笑顔で胸を張る。陽光のような金色の瞳が、ただきらきらと煌めいていた。

 

 ああ、だめだこれ。

 この言葉を聞いたら、きっとオレはダメになると、そんな確信があった。

 

「ご主人は、アタシを()んでくれた。ご主人にそのつもりがなくてもだ。アタシはその声に応えたいと思ったから、こうしてご主人の元へ馳せ参じたのだ」

「オレが……呼んだ?」

「おうとも。───他のサーヴァントはどうだか知らぬが、アタシにはその事実だけで十分だ。なので遠慮なく頼るが良いぞ、ご主人(仮)。

 まぁ、正式な契約はまだだがな! そこはそれ、多少のフライングは大目に見よう!」

「───……はは」

 

 彼女の語る理由は、やっぱりオレにはまるっきり覚えのないものだった。

 

 呼んだとか契約だとか、そんなことをした覚えなんて、これっぽっちもありはしない。

 オレはただ、()()()()を終わらせたくなくて───嘘にしたくなくて、なかったことにしたくなくて、みっともなく叫んだだけなのに。

 

(そんなことをしたって、なんの得にもならないのに)

 

 それでも、覚えのないそんなことのために、彼女はやって来てくれた。

 

 それはとても居心地が悪くて。

 だけど、なにもわからない今は。

 

 ───ああ、ほら。やっぱりダメになってしまった。

 

「……わかった。わかんねぇけど、わかった」

 

 そんな風に、なんにも裏のないような顔で。そんな風に、真っ直ぐな言葉をもらってしまったから。

 少しだけなら、お先真っ暗でももがいてみようなんて、そんな風に思えるようになってしまった。

 

 ぺちん、と自分の頬を叩く。意識を切り替えるように、瞼を閉じてから目を開けた。

 

「要するに、オレはなんちゃらいうモンに巻き込まれて、どうにかするにはあんたに守ってもらうしかなくて、あんたもそれに異論はない、と」

 

 それなら仕方ない。

 仕方ないから、受け止めることにする。

 

「あー……オレを守るっていう字面は、しっくりこないけど」

「んー。そうは言っても事実なのでな。そも、要らぬと言われてもアタシとの契約を破棄した瞬間にご主人(仮)はマストダイ、まな板に乗るまでもなく焼き魚になる運命(さだめ)。どの道クーリングオフは棄却するぞ、ご主人」

「は?」

 

 まじ? と恐る恐るバーサーカーを見上げてみると、そこにあったのは相も変わらず煌めく笑顔。

 

 まじ? と、そんな風に呆然としているオレの目の前、ベッドの上に立ち上がった少女は赤い着物を翻して、それが当然であるかのようにオレに向かって右腕を差し伸べた。

 

「では改めて───サーヴァント、バーサーカー。真名を野生の狐タマモキャット!

 末永くよろしくな、ご主人!!」

「………………」

 

 ふかふかとした毛皮に覆われた右手と握手を交わしてから、思い出したように停止していた思考を巡らせた。

 そういえば狂戦士(バーサーカー)ってなんなのさ、とか、タマモキャットというのは本名なのかとか。

 

 いろいろあるけど、今は───

 

「……おう。よろしく、バーサーカー」

 

 今だけは。

 わからないなりに、ちょっと頑張ってみようと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────★────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───これはそんな、有り得なかった月の記憶。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「なんだ、批評がほしいのか? やめておけ、お前のような凡愚には正論屁理屈いずれにしても一銭の価値もない。だがまぁ、言えることがあるとすれば───」

「……あるとすれば?」

「なにがあってもお前の人生は実につまらん三流脚本にしかならん。それこそ隕石が落ちるか世界が滅ぶかくらいの不運がなければ話題にも登らず記憶にも残らん、まさに凡作だ。たまの慰めに読む人間がいるかいないかといったところだろうさ」

 

 薄っぺらな憐れみさえ伴いながら、作家はそう結論付けた。

 お前の存在に価値はない、と。嘲笑か憐憫か、その真意がいずれであるにせよ───

 

「感情的になって行動し、後からすべてを失い後悔するタイプの非常にありふれた人間だ。間違っても復讐者(アヴェンジャー)になぞなるな、つまらんオチになる」

 

 

 

 ☆ ☆

 

 

 

「待った───ぁ! そんな泥棒猫に騙されないでください、センパイっ! わたしが、正真正銘、本物のグレートデビルことBBちゃんです!」

「マスター、気をしっかりもってくれ。現実から目を逸らしている場合ではないぞ」

「───なるほど。

 で、この事件を起こしたのはどっち?」

「そこの狂ってる方のAI(ニセモノ)です」

「確かに皆さんを裏側に落としたのはおしゃまでかわいいBBちゃんですが、こんな面白みのない陣取り合戦にしたのはあちらですぅー!」

「あいわかった、要するにどちらも敵なのだな!」

「……どちらも乙女の秘密を利用している時点で、味方として見る選択肢はありませんが」

「珍しく意見があったわね。ええ、ホント、どっちにしたってアレは敵。さんっざん恥をかかされたんだもの、一発叩き込んでやらなきゃ気が済まないってもんよ!」

「……。前から思ってたけどさ。そんなキャラだったのか、ミス・パーフェクト……」

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

「アナタだけは()()()()()()()()

 だって表側からアナタを排斥したのはBBたちでも、聖杯戦争の篩でもなくて───」

「───いい。わかってる」

 

 わかりたくは、なかったけど。

 それでも歯を食いしばって、嘲るような食虫花の視線に顔を上げる。

 

「それでも。まだ終わったわけではないのなら───」

 

 自分は戦える、と。

 ───真っ直ぐに、胸を張って。こんな自分を助けてくれた、彼女の声に応えたいから。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 それはこんな、有り得なかった月の記憶。

 

 裏側の廃棄場に棄てられた、とある仲間はずれたちの話。

 

 どこにも行けない、月にさえ見放された、未来のない主従の話。

 

 別の場所に放逐されたはずの誰かが、要らないと言われた誰かと出会った。

 

 

 

 ただ、それだけの物語。




【書ききれなかったCCC編メモ】
・魔術師としては下の下。そりゃそう。
・この後シンジに会ってしまいめっちゃくちゃダメージを受ける。友人に似ている気がするけど顔も名前も思い出せない。そもそも向こうは自分を知らない。当たり前のこと、だけど。
・キアラは苦手だからと避けてる。正しい。
・ミス・パーフェクトがピックアップされてるけどヤツはどっちかというと弓道部の主将の方が好き、らしい。どっちかというと、ね。



もいっこ追伸。アンケ取って普通に低かったしいらんかなと思ってたTwitterアカウント、結局作りました(→https://twitter.com/Y_Soda_Hameln)。
主に小ネタ投げるのと進捗報告用ですが。

2ndアニバーサリー本当にどうしましょうかねー……。
この作品のことは伏せたまま知り合いに聞いたらCPイチャイチャしてるのが良いと言われました。

え、本編ド修羅場なんだけど……?
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