竜殺しっぽい誰かの話。 作:焼肉ソーダ
それはそれとして、『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』、ついに完結おめでとうございます! いやぁ、寂しくなりますね。
追想日誌はまだまだ続くとのことなので、これからも追っかけていく所存であります。
遠くで、なにかが響いていた。
それはどうも、罵倒のような、憤怒のような、そんな声だ。
聞き覚えのある声が聞こえたような気もしたが、きっとあの大馬鹿男だろう。
理想を語り、理想を貫き、そして現実との乖離に病んで自分の元を去った男。
……自分に果たせなかったことを、成し続けた男。
(くだらない……)
距離だけならばすぐそばで繰り広げられるその茶番劇を。
彼女はずっと、冷めた目で眺めていた。
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「唐突だが。諸君らの学院長、リック=ウォーケンは、昨日更迭処分となった。
本日より、アルザーノ帝国魔術学院の学院長はこのマキシム=ティラーノである。皆、心するように」
「───……は、ぁぁ───!?」
アルザーノ帝国魔術学院の学院アリーナに響き渡る、驚愕の声。
それは、たった今壇上の人物からもたらされたものだ。
学院中の講師や生徒をアリーナに集め、マキシム=ティラーノと名乗った男は、言外にこう宣言したのである。
ここはもう、私のものだ───と。
「てめ、今なんて言いやがった!?」
「聞こえなかったかね? 本日より、私がこのアルザーノ帝国魔術学院の学院長だ、と言ったのだよ。リック=ウォーケンは先の騒乱の際の責任を問われて更迭された。これは決定事項だ。以後、諸君は黙して私に従うように」
「はあぁぁ!? なんだよそれ、おかしいだろ!?」
「リック学院長に責って……有り得ないでしょ。なにかの間違いじゃないの?」
当然、そのような主張が素直に通るはずもない。マキシムの言葉を理解した端から、ざわめきが広がっていく。グレンでさえも例外ではなく、予想だにしない展開に目を白黒させていた。
騒乱の責? 今日からこの偉そうな男が学院長? そうだとして、なぜこれほどまでに唐突に───
「驚くのもわかるが、静まりたまえ。
……さて。この私が学院長に赴任した以上は、この化石じみた、時代遅れの運営方針は根こそぎ変更させてもらう」
「化石じみた運営方針の変更だぁ……?」
ようやくマキシムの言葉を飲み込んだグレンが呟く。
確かにアルザーノ帝国魔術学院は、遥かな過去に時のアリシア三世が建設した歴史ある学び舎だ。だが正直言って、化石じみた、などと言われても実感はない。
アルザーノ帝国魔術学院はグレンの目から見てもかなりの高水準で魔術を教える、世界でも最高峰の学院だ。多少の贔屓目が入っていたとしても、そこまで急な方針転換をしなければならないほど時代遅れだとは思えない。
そんなグレンの───いや、学院中にいる全員の疑念をよそに、マキシムは自らの思い描く理想を蕩々と語り始める。
「では早速、来期から行う改革について、諸君に説明しよう───」
───そうして、自称『この歴史ある学院に相応しい教育者』ことマキシムの語った今後の学院の方針は、端的に言えばこうだ。
(……『戦力に直結する分野以外の研究縮小と、徹底的な実戦主義───
そう。マキシムがやたらと熱っぽく、さも自身が絶対的に正しいと信じ切ったような顔で語った教育方針は、つまるところそういうことだった。
自然理学、数秘術、魔術の歴史を主に取り扱う魔術史学や魔導考古学は言わずもがな。一見『戦力』として必要に見える法医術ですら、マキシムは縮小するという。───軍事支援に必要な技術は既に足りているからだと。
さらにはマキシムの私塾の生徒を特権階級の『模範クラス』として入学させ、全生徒の手本にするなどとまで言い出した。
模範と言えば聞こえは良いが、要するに洗脳の類だ。模範クラスにはマキシムの育てた生徒が選ばれ、特権を得る。つまり、
そんな改革、通してしまえば間違いなく今の学院は崩壊する。
経営が、という意味ではない。
アルザーノ帝国魔術学院を生徒たちの過ごす憩いと学びの場たらしめるものが、だ。
「わかったかね? たかが生徒、未熟者の分際で自主性や魔術師としての知恵など無駄で無意味。諸君らはただ、私の〝正しい〟教育に従えば良いのだよ」
「待ってください。あまりにも横暴が過ぎます。一体なんの権利があってそこまでの理不尽を通そうと言うのですか」
「リゼ=フィルマーとか言ったか。君は知らんだろうが、理事会は既に私の味方だ。やり手を気取るのも良いが、それよりも先に取り潰されるだろう生徒会執行部のことを心配した方が良いのではないかな」
「な───本気ですか!? 私たちは魔術師である前に一学生、一人の人間です! その自主性を育み、重んじるのは教育機関として当然の……」
「聞こえなかったかね? 君たちに必要なものは魔術師としての力、ただそれだけだと、何度言えばわかるのかな」
嘆かわしい、とでも言いたげに首を振るマキシム。
そして、先陣を切ったリゼに続くようにして、講師や生徒から当然のように猛反発と質問攻めが起こる───が、マキシムはそれらを一切聞き入れない。
もはやどうあっても、己の考える改革を押し通す腹積もりのようだった。
正直、嘆かわしいのはお前の頭だと言ってやりたいグレンだったが、全校生徒の手前……さらに言うならこんな妄言を吐いていても一応は学院長となるマキシムに、そんな罵詈雑言を吐くことはできない。
ここでただ感情に任せて言葉を投げつけたところで、グレンのクビが飛ぶだけだ。
いや、それだけならまだ良いが、『学院長に楯突いた講師の受け持つクラス』などと難癖をつけられて、二組がマキシムの『模範クラス』に手ひどい扱いを受けることすら有り得る。
生徒たちのことを想うのなら、ここで下手に歯向かうのは避けるべきだ。
ここでグレンが学院から追放されたら、一体誰が、この先に待ち受ける悪夢のような改革から生徒たちを守ると言うのだろう。
(耐えろ……耐えろ、俺! 権力者に真っ向から嚙みついたって意味がねぇ、まずは機を窺っ───)
「そもそもだね。なぜ、私がこのような改革に乗り出したと思っているのかね?」
未だ収まらぬ騒動の中で。
出来の悪い生徒に言い含めるように、ふいにマキシムがそんなことを言い出した。
「先のフェジテを襲った騒動。諸君は、あれをどう考えている?」
「はぁ? どう、って……」
マキシムの言葉が指すのは間違いなく、一週間前に起きた『フェジテ最悪の三日間』だろう。
生徒全員が力を合わせ、多少の被害を出しながらもどうにか乗り切った試練……大半の生徒たちの認識はそんなところだ。
それが一体どうしたというのか。
……いや、そもそもあれは学院中の全員が力を合わせ、すべての力を出し切ったからこそ掴んだ勝利だ。
あの時あの場所にいなかった部外者のマキシムが、偉そうに講釈を垂れる余地は一切ない。
一切ない、はずなのだが。
「なにかね? 諸君のあの無様さは」
マキシムが、その一切ない余地を強引にねじ込んできた。
一瞬で会場内が凍り付いた。
誰もが言葉を失っていた。
奇跡的に───行方不明者こそ出たが、確定的な死者を一人も出さなかった彼らに向けられた言葉の意味が、全員、理解できなかった。
その沈黙をどう取ったのか、マキシムがなおも言い募る。
「校舎の半壊。多数の負傷者と無駄に消費された資源。これらの原因はすべて、根本的に無能な諸君にある」
空気が一段冷え込んだことに、果たして気付いているのかどうか。
静まり返ったアリーナ中の人間に向けて、ため息さえ交えながら言葉を続ける。
「君たちが無駄な授業を受けたりせず、魔術師としての戦う力を磨くことだけに邁進していれば、あのような醜態は晒さなかった」
誰もマキシムの言葉には言い返さない。開いた口が塞がらない。言い返せない。
ただ苛立ちばかりが募っていき、ささやかなざわめきがアリーナに広がっていく。
「わかるかね? そんな無駄で無意味な教育を施したリック前学院長の代わりに、この私が、君たちを効率的に、正しく優秀な人材に育て上げようと言っているんだ」
───これまでの、あの戦場にいた全員の学院生活をすべて否定して、マキシムはそう断言した。
話は終わりだとばかり言い切ったマキシムの眼下で、生徒たちが微かにざわめいた。
それが過激な暴言まで発展しなかったのは、それだけマキシムの言葉が衝撃的だったからだろう。
衝撃のあまり忘我していた、と言っていい。
睨み付ける彼らの視線などどこ吹く風と、マキシムが今度こそ、あらゆる不満を黙殺しようとその場にいた全員に背を向けた───その時だった。
「……ざけんな」
不意に、そんな声が響いた。
予期せぬ言葉に、その場にいる全員が静まり返った。それがあまりにも静かで、あまりにも重たい言葉だったせいだろう。
しん、と静けさが支配したアリーナを、人の波をかき分けて誰かが進んでいく。
その顔に憤怒を浮かべて、当惑している人々を荒々しくかき分けて。
「ふざけんな……ふざけんなよ、お前」
そうしてその人物は、やがてマキシムのいる壇上に進み出て───
バン、と。
手のひらを机に叩き付けて、正面からマキシムを睨んだ。
それは、グレン───
「ふざけんなッ!! 何様だよあんた!
「カッシュ!?」
そう。
カッシュ=ウィンガーが、ただの一生徒に過ぎない少年が、仮にも最高権力者となったマキシムに食って掛かったのである。
これにはさすがのマキシムも面食らったのだろう。自身に直接喧嘩を吹っ掛けに来た愚か者の姿に驚き、微かに目を見張った。
だが、マキシムがなにかを言おうとしたところで。
「悪いけど、それには僕も全面的に同意見だね」
「ギイブルまで!?」
またしても、そんな声が聞こえた。
眼鏡を押し上げ、ずかずかと普段に似合わぬ粗暴さで壇上に乗り込んだのは───こういうことに一番乗りそうもない、ギイブルだった。
まさかの援軍に、今度はカッシュまでもが瞠目した。まじまじと、慣れ親しんだ級友の姿を眺めてしまう。
だが、ギイブルが壇上から降りることはなかった。それどころか堂々とカッシュの横に立ち、呆れたような顔で口を開く。
「ギイブル、お前」
「僕たちが未熟だったことは認めるけど、それを赤の他人に批評されるのは我慢ならない。あのときあの場にいなかった時点で、そいつはただの役立たずだ。
それが我が物顔で学院にやってきて、あまつさえ好き勝手な改革に乗り出す? 馬鹿にするのもいい加減にしてくれ」
立て板に水のごとく流れる批判。ギイブルらしからぬ、直截的な物言いだった。
だが、それが生徒たちの心に火を点けたらしい。二組を中心に、波紋のようにざわめきが広がっていく。
どう考えたっておかしい。
こんなものは認められない。
……そんな意志が、全員に伝播していく。
「そうだ……そうだよな」
「俺たちが必死でやったことに、なんでこんな上から目線で文句を言われなきゃなんないんだ」
「しかも、勝手に私たちの学院を改革する? ふざけないでよ……!」
「そうだそうだ! 自分勝手もいい加減にしやがれ、このスットコドッコイが!!」
「かーえーれ! かーえーれ!」
「リック学院長を返せーっ!!」
アリーナ中に響く、マキシムに対する痛烈な批判と拒絶。
始めこそあっけに取られていたが、やがてその大音声に耐えかねたのだろう。
「黙りたまえッ!!」
ガン、とマキシムが勢いに任せて机を蹴りつけた。
机が倒れる音に、再びアリーナが静まり返る。そこで落ち着いたのか、新学院長は改めて生徒たちを睥睨した。
まずは───そう。
目の前にいる、この不愉快な二人の生徒を叩き伏せねばならない。
「───さて。どうやら不満もあるようだが、これは決定事項だ。あまり乱暴な手段に出るのなら、こちらも対応を考えなくてはならない」
「ぅ……な、なんだよ。退学にでもするってのかよ」
後先考えていなかったカッシュがさすがにたじろぐ。
カッシュにとって、この学院に入ること───そして立派な魔術師になることは、イコールで結ばれた夢だった。
それが突然退学になるかもしれない、などと言われては怯むのは当たり前だ。当たり前だが、それでも退くことは今さらできなかった。
ぐ、と拳を握りしめ、彷徨わせかけた視線を前に戻す。
誰かに助けてもらうのを待つなんて、そんなことはできないと言うように。
「退学にでもなんにでもしてみろ! どっちみち、お前なんかが学院長になったこの学校なんて俺たちの───」
「言葉を慎みたまえよ。君は君自身だけでなく、君の講師にまで被害を広げるつもりなのかな?」
「な……せ、先生は関係ないだろっ!?」
思わぬ話の展開に、カッシュの声がひっくり返った。
これはカッシュのワガママであり、暴動であり、グレンにはなんの咎もないはずだと。
「あるとも。これからこの旧態依然とした学院を改革すべきこの私に向かっての数々の暴言、暴力行為未遂。それらはすべて君の講師の責任だ。監督不行き届きというやつだね」
「は、ぁ!? 違っ、先生は関係───」
「ない、などとは言えんよ。講師は生徒に責任を持つものだ。無論、私の生徒はこんな短絡的かつ浅慮な行為には走らないが……」
途端に不安そうに揺れるカッシュを見下ろし、内心でほくそ笑んだ。この生徒の講師は、よほど慕われているのだろう。
こういったタイプには、懐柔よりも脅しがキく。
「まあ、順当に行けばクビ、かね?
君のせいで、君の恩師が職を失うことになってしまうなぁ」
マキシムの言葉に、さっとカッシュの顔色が青褪める。
自分がどれだけ軽はずみなことをしたのか、ようやく理解したらしい。
自分が被害を被るだけならまだ良い。どの道こんな改革は絶対に認められない。だが、自分のワガママで恩師であるグレンに累が及ぶのは───
「せ、先生……」
「───カッシュ、怯むな」
どうすれば良いのかと言葉に詰まったカッシュの背中を軽く叩いたのは、他ならぬギイブルだった。
退くな、逃げるな、と。ちらと向けられた瞳が語っていた。
「!」
「こういう強硬策でいけるのは、せいぜい僕たちみたいな木っ端に対してだけだ。見せしめとしては効果があるかもしれないけどね。
……なにより、グレン先生をここで免職させたら二組が暴動を起こす。システィーナやウェンディみたいな有力貴族のいる二組を丸ごと切るなんて芸当、さすがに踏み切らないはずだ」
……そう言い切るギイブルの手が微かに震えていることに気付いたのは、恐らく隣にいたカッシュだけだっただろう。
ギイブル=ウィズダンは聡明だが、決してこのような手段に出るような人物ではなかった。それがわざわざ、後先考えずに壇上に上がったことの意味を、果たしてどれだけの人間が理解できたか。
ギイブルとて、わかっているのだ。こんな勝手な行動に出たツケが、一体どこに回ってくるのか。
こんなコトをするつもりではなかった、と小さな声で毒づいた。
だが、それでも───
「僕たちは、あんたなんか学院長だとは認めない」
真っ直ぐに。
目の前の
「……ふん、良いだろう。どの道、理事会は全会一致で私の味方だ。
諸君らは所詮、烏合の衆に過ぎない……そんなことは、先ほどまでの騒ぎようでわかっているだろう」
「…………」
「たかが一生徒である諸君らにできる抵抗などたかが知れている。今日のところは見逃してやろう。だが、あまりにも目に余るようならば、その時は───」
───たった二人の勇者になにかを言い渡そうとしたタイミングで、唐突にマキシムが言葉を途切れさせた。
カツカツと、響く足音。
講師に与えられる上着すら羽織らずに、シャツにスラックスというシンプルな出で立ちのまま、面倒くさそうに歩み寄ってくる人影を認めたからだ。
それは、そう。
先の『フェジテ最悪の三日間』で、最強最悪の魔人に決定的なトドメを刺した、学院きっての英雄的人物。
カッシュとギイブルの顔が、一瞬で明るくなる。
無謀な行動に出たことへの罪悪感を塗り替えるほどの、高揚感。
絶望的な状況でも絶対になんとかしてくれる。
そんな期待に応え続けた、英雄。
「ハッ! な~にが正しい教育だボケ。
このグレン=レーダス大先生様の授業の方が億万兆倍マシだね! わかったらとっとと家帰っておねんねしてな、このタコ!!」
───グレン=レーダスが、本来あるべき展開から、ほんの少し遅れて参戦した。
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「だ、誰だ貴様はっ!?」
「え? 俺のことをご存知ないとかマジ? どっからどう見てもフェジテの今をときめく、スーパーウルトラロイヤルな最高魔術講師ことグレン=レーダス大先生様だろ。目ェ節穴っすか?」
「な───」
予想だにしなかったどストレートな暴言に、マキシムがあんぐりと口を開ける。
未だ年若く、自身の立場を理解していないような生徒たちから言われるのならともかく、自分の
ぶっちゃけ、アルザーノ帝国魔術学院を舐め腐りすぎである。
「き、貴様がグレン=レーダスか! 問題講師とかいう、あの───」
「へっ! 気付くのがおっせーんだよこのクソハゲ! 自分が赴任する学院の講師の顔と名前と生年月日と今日の星座占いの順位くらい覚えとけってんだ! ちなみに俺は今日最悪でした! 今決めました!!」
……これが、グレン=レーダスという男か、とマキシムは眩暈さえ感じていた。
赴任から十一日間、講師と呼ぶことさえおこがましい授業を行っていたにも関わらず、なぜか学院に居座り続けている人物。
どんな汚い手を使ったのか、女王陛下の覚えもめでたい。
学院を襲う数々の難事の解決にも一役買ったという、胡散臭い魔術講師!
「すいません、先生、俺……ッ!!」
とうとう出てきてしまったグレンに、カッシュが半ば涙目になりながら謝罪する。
ある程度の目算はあったギイブルとは違い、完全に場当たり的な行動だったカッシュの自責の念は重たいものだったのだろう。
……いや。
ギイブルとて同じだ。なんだかんだと言っても、結局は我慢が利かなくなったから、カッシュの横に立ってしまっただけ。目算があったなんて、後からの言い訳だ。
……だってそうでなくては、グレンから目を逸らしている理由がない。ただ、素直に謝罪するには少し難しい性格だっただけなのだ。
それがわかっているから───そして、小賢しい理屈で耐えようとしていた己をぶん殴りたい気持ちをしまい込んで、グレンが二人の肩を叩く。
本当なら、グレンが真っ先にやらなければならないことだったというのに。
「……気にすんな。お前らが行かなかったら、俺がこのハゲの顔面ぶん殴ってたところだ。それより……悪いな、守ってやれなくてよ」
「そんな……俺だって、先生のこと、なんも考えてなくて……!!」
「気にすんなっつーの。あとは俺に任せとけ」
最後にぽん、と泣き出しそうなカッシュの頭を叩き、胸を張ってマキシムと対峙する。
生徒たちが自分の居場所を守るためにここまで体を張ったのだ。
どうして、我が身かわいさで退けるだろう。
「さーて……こんだけ見りゃわかるだろうが、ウチは絶対にテメェみてーなのを学院長たぁ認めねえ。んなアホの極みな改革も許さねえ。
つか、不満のある生徒に対して退学をチラつかせての脅しはフツーに大人げなさすぎだろ。
へっ、と肩をすくめて宣うグレンの姿は、完全にいつも通りだ。
いつも通りすぎて逆にイラつくというか、むしろこの状況下では一周回って頼れる背中にしか見えない。
「ヒューーーーー!!」
「グレン先生カーッコイイー!!」
「もっと言ってやれ、グレン先生ーッ!!」
大人が出張ってきたことで、生徒たちの盛り上がりも最高潮になっていた。
もはや完全に反乱軍かなにかのノリだ。グレンさえ出てこなければバラバラな、ただ不満をぶつけるだけの烏合の衆で済んだものを……と、歯ぎしりしながら反乱軍の旗印を睨み付ける。
計画が丸ごと白紙になってしまった。
これからこの反発を治めて懐柔するなど、マキシムが何人いても足りないだろう。
「ぐ、く───」
だが、ここでヒートアップしてしまえば相手の思うつぼだ。
深呼吸を繰り返し、なんとか言葉を選び出す。
「……グレン=レーダス……。良いだろう、認めよう。どうやら確かに、先進的な私の改革を受け入れるには、この学院は
先進的……?
斬新の間違いでは? と、その場にいる全員が疑問符を浮かべたことは無視し、マキシムが改めてグレンを見下ろした。
「だが、だからと言ってどうするね? 先にも言ったが、既にこの学院の全権は私が握っている。君ごとき木っ端の講師がどうにかできる余地など、もはやどこにもないのだよ」
「…………」
今度は、グレンが黙り込む番だった。
実を言うと───マキシムの指摘は正しい。
グレンにとって権力は、びっくりするほど縁がないものの一つである。
こと経営という面において、重要視されるのは魔術師としての実力よりも学院という組織を運営する能力であり、その方面における実績なぞグレンは持ち合わせていない。
正確に言えば、グレンの活躍───要するにコネやら貸しやらを駆使しまくれば、ギリギリ、なんとか突っつけるかもしれないが……それで変わるものなどたかが知れている。
(さて、どうしたもんか……)
厳密には。
手段は、一つだけある。
魔術師であるのならば逃げられない、互いの誇りを賭けたもの。これさえ通れば、傍若無人の限りを尽くすマキシムにすら通用する一手が。
だが、それは───
「…………」
もう一度、ちらりと背後を振り返る。
自分たちの学院を守るため、進み出たカッシュとギイブル。
その後ろでグレンを見守る、何人もの生徒たちと───言葉にはできないまま、縋るようにグレンを見る講師たち。
誰かが命懸けで守った、学院のすべて。
(なら、答えは決まってる)
自分のクビと
───すぱぁん! と、スナップを利かせて手袋を投げつける。
これが、自分たちの答えだと言うように。
「───いいぜ。やってやる。
決闘を申し込むぜ、マキシム=ティラーノ!! チップは俺のクビと、テメェの学院改革計画ッ!!
俺たちを潰せるもんなら、かかってこいやこのクソ野郎───ッ!!」
【悲報】主人公、二話連続で出番なし。
そういえば、時折イメージソングというか、この曲を思い出す、みたいなコメントを感想欄でいただきます。ありがたい限りです。
ちなみに個人的にはアッシュは『月と花束』がドンピシャだと思っています。『THIS ILLUSION』はイヴかな。
追伸
アンケート締め切りましたー。ありがとうございます。
幕間/Zeroがぶっちぎりで、ちょっと驚き。