竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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お気に入りが100を突破していました。皆様ありがとうございます……新作日間ランキングの方にも何度か載せていただいたようで感謝の念が堪えません。


6.魔術競技祭、開幕

 豪勢な飾り付けがなされた貴賓席から、やはり豪勢な衣装で身を飾った女性が現れる。

 艶やかな金髪、芸術品のような碧眼。とうに四十歳を越しているにも関わらず、衰えを知らぬアルザーノの白百合。

 

 柔和な顔立ちに穏やかな微笑みを浮かべる慈母のような彼女こそ、このアルザーノ帝国を束ねる女王、アリシア七世その人であった。

 

「───この良き日に、未来ある若き魔術師たちの奮闘を間近で目にできること、誠に嬉しく思います。それでは……皆様の健闘と、今日の魔術競技祭が良きものとなるよう、祈ります」

 

 そう激励の言葉を締めくくると同時に、魔術競技祭が開幕する。

 

 あらゆる面で前代未聞の祭典が、今日行われるのである───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一週間、生徒のバイト先のお情けでもらっていた夕食以外すべての食事を抜いていたグレンは、ささやかな空腹感を努めて無視しながら本日最初の競技───『飛行競争』の行く末を見守っていた。

 

 とはいえ、過度な期待はしていなかった。確かに生徒たち一人一人がそれぞれ最大限の戦力を発揮できるよう指導してはいたが、いいとこ平均より上にいけるかどうか、最下位でもおかしくはない……と考えていたのだ。

 

 いたのだが。

 

「……うっそー」

 

 思わずそんなセリフ(本音)がこぼれた。二組の成績は、グレンと周囲の期待を大きく裏切り───なんと三位。

 無論、ハーレイ率いる一組には勝てなかったが、それでも参加したロッドとカイが別段成績優秀者ではないことを考えれば、三位という結果は文字通りとんでもない快挙であった。

 

「すごい……もしかして、こうなることを見越して?」

 

 素直に尊敬の眼差しを向けるシスティーナ。

 

 勝負の裏に潜む様々な落とし穴と、二組が抱えていた幾つかのアドバンテージ。

 それに(試合の後に)気付いたグレンは、

 

「……と、当然だな!」

 

 そう言って、終わった後に見えてきたいくつものポイントをさも最初からわかっていたかのように語った。

 一瞬で尊敬の眼差しと、別クラスからの敵意を集めるグレン。

 特に、土壇場で負けた四組からのやっかみは凄まじく。だが今のが完全にグレンの策略だったと信じ込んでいる二組の面々は逆にそれに真っ向から対抗し、グレンをヨイショしつつ勝つのは自分たちだと宣言してみせる。

 

 上がるヘイト、上がるハードル、ついでに鳴り響く腹の虫。

 

(もういいから。もうやめて、これ以上俺をいじめないでくれ……ッ)

 

 グレンの悲痛なモノローグを拾うものは、誰一人いなかった。

 

 しかし、グレンのそんな心中など露知らず、魔術競技祭は順調に進んでいく。

 

 魔術狙撃───上位確定。

 

 暗号早解き───ぶっちぎり一位。

 

 他にも二組の生徒は成績優秀者に食い付き、それなりの好成績を収めていき、元から優秀な生徒は他を圧倒して上位をもぎとっていた。

 

 上がる順位、ますます上がるヘイト、天元突破したハードル、やっぱり鳴り止まない腹の虫。

 

 もはや天に愛されているのか嫌われているのかわからない有様だった。

 

 続く精神防御の競技でも、ルミアが危ういところを見せながらも見事去年の覇者を抑えて一位を獲得。午前の部だけであらゆる方向からの注目を集めたまま、祭りは午後の部へと移っていく。

 

「ああ……腹減った」

 

 ───約一名、肝心の指揮官の腹の虫は不服を訴え続けていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 グレン先生すげえ。

 

 それが午前中、俺が抱いた正直な感想だった。

 

 いやだって、俺とそう変わんない成績のやつらが軒並み好成績かっさらってってるんだもん。これで興奮しないとかあるだろうか。いやない(反語)。

 去年はぼけっとしながら眺めるしかなかったのもあってここ数日『生徒にお情けでメシをたかる講師』というレッテルを貼られたグレン先生の株は急上昇していた。レッテル自体は剥がれてないけど。

 

 ただ途中で『精神防御』担当してた講師はあれ大丈夫か? 方向性が違うとはいえグレン先生以上のヤバい奴だったよーな気がするのだが。あれか。今まで露見していなかっただけなのか、純粋に優秀だから切れないのか。どっちだ。

 あとなんか貴賓席に見覚えのある人が立ってるように見えるんだよな……。あれエレノアさんじゃないか? 最近うちの店にごくまれに来ては高いメシと高い酒注文していくお得意様。でも彼女が立ってたのってあれ女王陛下の席の近くだよな……? 見間違いかな。

 髪が黒いってことくらいしかわからなかったし……たぶん別人? もし本人だったらエレノアさんは女王陛下のメイドさんってことになるけど、そもそもそんな人がうちの店に来るだろうか。でもめっちゃ高いワインをホイホイ頼んじゃうしなあ。

 

 うーむ……初めて来たときも仕事のついでだったって言ってたし、女王陛下の側仕えの人がフェジテに来る用事とかないだろうから別人かね、やっぱり。そんなやんごとない身分の人が店に来るたびにわざわざ俺をご指名するはずもないし。基本一般人だからね、俺。

 でも接客してると時々不穏な気配を感じるのはなんでだろう。エレノアさんに懸想している男客の視線かもしれないけど。夜にバイトを入れている都合上、俺が顔を合わせるのは主に成人した男性客。その中にエレノアさんに惚れ込んだ野郎がいてもおかしくはない。

 

「……っと、昼飯、昼飯……」

 

 弁当もいいけど、こういう日には外で食べるのが一番だというのが俺の持論。誰かに振る舞うならともかく、楽しい日になんで一人さみしく自分で作ったメシを食わねばならんのか。

 もちろん誰かが振る舞ってくれるならそれが一番良い。要するに自分のメシでなければ良いのだ。この世には付加価値というものがある。誰かが作ったという事実は、たとえその理由がなんであれ嬉しいものだ。

 

 というわけで現在プログラムは昼休み。俺は適当な場所で昼飯を食うべく辺りをうろついていた。

 そういえば学院の近くに多くて安いみたいな店があったよなー。うちの店はここからだとちょっと遠いし、たまには新鮮さを求めて行ってみるのも良いかもしれない───

 

「……ん?」

 

 なんか、今、女王陛下みたいな人影が見えたような。

 思わず首を回して振り返り、目を凝らしてみるが……それらしき人影は見当たらない。

 

「……気のせいか」

 

 そう結論付け、カッシュから聞いていたレストランへ向かって歩を進めること二分。十字路を曲がり、まだ見ぬ食事のメニューを考え、鼻歌なぞ歌いながら歩いていると。

 

「……んん?」

 

 なんか、今、物々しい服を着た人影が見えたような。

 思わず首を回して振り返り、目をごしごし擦ってみるが……それらしき人影は見当たらない。

 

「……俺、疲れてんのかな……?」

 

 ここ一週間は競技祭の練習に加えてグレン先生にメシを作っていたから、思っていたより身体は疲れていたのだろうか。

 物々しい人物は女王陛下がご来臨なさってるんだから護衛かなんかがいたのだとしても、女王陛下を見間違えるなんて不敬かつ有り得ないにも程がある。

 

 首をひねりつつも歩いていると、いつの間に到着したのかそれらしいレストランが目の前で口を開けていた。

 

「……ま、今日が終わったらまた前の生活だし」

 

 そうなったらゆっくり休もう。

 特別賞与が入ればグレン先生も落ち着くはずだし、少しは余裕が戻るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……あの男は……」

 

 アシュリーが店に入るのを確認してから、男は細く息を吐き出した。

 

 彼の名はアルベルト=フレイザー。帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士団特務分室の執行官ナンバー17、《星》を拝命する魔術師だ。

 無論、ただの魔術師ではない。帝国軍の切り札とまで称される特務分室のエースを務める、正真正銘の凄腕だ。

 

 そんな男がこんな路地裏でなにをしているのかと言えば、それは彼()に下された任務のためであった。

 

「アルベルト。……気付かれた。敵?」

「いや……確かに気になるが、敵ではないだろう。人目もある。手は出すな」

 

 もう一人の仲間───帝国宮廷魔導士団特務分室の執行官ナンバー7、《戦車》のリィエル=レイフォードが壁に手を添えているのを見て、アルベルトが釘を刺す。

 ここで重要なのは、リィエルという少女にとって壁に手をつけるという行為は立派な戦闘準備であるということだ。彼女はその気になれば今この瞬間にでも壁から武器を錬成し、猪のごとき勢いであの少年にケンカを売るだろう。

 

 だがアルベルトの見立てでは、多少気になることはあるものの、今のところあの生徒に構っている暇はなかった。

 よしんば敵であったとしても、現段階で怪しい動きは見られなかった。気にする必要はない、とまでは言い切れないが、表立った行動を起こすことが憚られる現状ではなにか行動を起こす必要もないだろう。

 

「敵なら斬ればいい」

「敵かも判らんと言っている。……グレンが生徒として抱えていることを考えれば、限りなく白に近いだろう」

「グレン……」

 

 淡々と、無表情で宣うリィエル。だがその名前が出たときだけ、なにか言いたげに幼さの残る顔を歪めている。

 対するアルベルトは、もはや見るべきものも語るべきこともないと言わんばかりに遠見の魔術で王室親衛隊の監視に戻る。

 その横で、何かに気付いたと言うように、リィエルが件の店へと向かって歩き出そうとする。その後ろ髪を、アルベルトが容赦なく掴んで引っ張り強制的に止めた。

 

「何をする気だ、リィエル」

「あの人はグレンの知り合いで生徒。そう聞いた」

「そうだな」

「なら、あの人を追えばグレンに会える」

「…………」

「……ん。頑張る」

「頑張るな」

 

 びんっ。リィエルの後ろ髪が再び引っ張られる。

 

「痛い。離して、アルベルト」

「少なくとも、今回の俺たちの任務に奴は関係ない。グレンもだ。いいな? 任務(王室親衛隊の監視)を優先しろ、リィエル」

「ん……わかった」

 

 無表情のまま、リィエルがアルベルトを振り返り───やはり無表情のまま、ぐっ! と親指を立てた。

 眩暈がするかと思った。

 

任務(グレンと決着をつけること)を優先する。任せて、頑張ってくるから」

「頑張るな」

 

 びぃんっ。

 険しい表情を崩さぬまま、アルベルトが再び容赦なくリィエルの後ろ髪を引っ張った。

 ───絶対に、あの男には一発くれてやらねば気が済まない。

 私怨のようなものを覗かせながら、アルベルトは密かにかつての戦友を思い浮かべて現在の相棒を引きずっていった。

 

「……うーん? やっぱりなんか視線を感じるような……気のせいか?」

 

 レストランの窓際の席では、大盛りのナポリタンをパクついていたアシュリーが、きょろきょろと辺りを見回していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 まとわりつく視線から逃げるよーに(気のせいだろうが)食事を終え、そそくさと競技場へと戻ってきた。が、周囲を気にしすぎたせいか午後の部はもう始まっていた。

 視線といえば、途中で見かけた物々しい人たちのことだ。一瞬でいなくなってしまったが、それにしたってなんかカタギじゃなさそうな雰囲気だったけどなんだったんだろうか。やっぱり見間違いかなにかだったのだろうか。いや、むしろそうであってほしい。ただでさえ疲れてるっぽいのに新しく面倒ごとが増えるのはごめんだ。

 

「ただいまー。……なにむくれてんだ、フィーベル」

「うっさいわね」

「機嫌も悪いときたか……」

 

 微妙に頬が赤く見えるのは、要するにいつも通りめちゃくちゃブチギレて頭に血が上った名残だろう。

 で、そこまでフィーベルがキレるやつといえば一人しかいないわけで。

 

「……と、グレン先生は?」

「ルミアのとこ。……色々あったみたいだから、ちょっとお願いしたの」

 

 色々、のあたりでフィーベルが貴賓席に目配せ。ああ、なるほど。ティンジェルの元々の親御さんは女王陛下だって話だっけ。

 大方、なんかしらの理由で女王陛下と接触したけど、複雑な事情とかが邪魔をしてティンジェルはもやもやの真っ最中、気分が乗らなくてどこかに逃避行中ってところか。

 

 ……あれ、じゃあもしかして道中の陛下って見間違いじゃなくて本物?

 

「意外だな。フィーベルが行くんじゃなくて先生に頼んだのか」

 

 気付いてはいけないことに気付いてしまったような気がしたので話題を切り替える。気になるといえば気になっていたことだ。フィーベルはここぞというとき以外はグレン先生を頼らないというか、信頼しているんだかいないんだかなかなか難しい態度をとる。

 にも関わらず、大事な親友がもにゃっているときに───言い方は悪いがどこの馬の骨とも知れないグレン先生を差し向けるというのが、少し意外だった。確かに、グレン先生はティンジェル……というより素直な女子生徒には優しいが。

 

「……ルミア、グレン先生になんでか懐いてるでしょ。それに、私じゃ遠慮しちゃうだろうし」

「遠慮……心配かけたくないって?」

「そう。あの子、抱え込みがちだから」

 

 さすが、長いこと一緒にいただけはある。

 だが距離が近すぎる故に、言いたいことが言えない……いや、ティンジェルの性格では言えないとも認識してはいなさそうだ。妙なところで謙遜、というか遠慮しすぎるところがあるというのは俺たちでも知っていた。そこを奥ゆかしいと盲信する男子生徒もいることにはいるのだが。

 

 人間社会にいる以上、ある程度本音を飲み込むことは重要だ。だがティンジェルはそれが行き過ぎている、ように思える。言いたいことがあるなら一度フィーベルととことん殴り合ってみれば良いんじゃないだろうか……というのは周囲の勝手なお節介か。

 いや、そうなったらティンジェルが爆発する前にフィーベル自身が聞き出すだろう。あれこれ想像を巡らしたところで所詮は部外者、想像に過ぎないものでなんやかんやと口を出すのはやめておいた方が良い。当人たちを見る限り、ティンジェルがフィーベルを疎ましく思ってたりしているようには見えないし。

 

 しかし、そうなると気になるのはグレン先生とティンジェルの動向だ。フィーベル曰く、ティンジェルを連れ戻すだけなら、もう戻ってきていても良い頃なのだという。

 

「出番が控えてるっていうのは承知の上なんだけど……ちょっと探してきてくれない? グレン先生がルミアの好意につけこんでいやらしいことを考えてないとも言えないし」

「俺はその発言にどう対応したら良いんだ? ……ともあれ、了解した。確かにそういう理由なら、俺が出張るのが良いだろうな」

 

 フィーベルは送り出した手前行きにくいだろうし、他の誰かに頼もうにもティンジェルが戻らない理由からして、うっかり無関係の人間が聞いてはいけない会話───要するに女王陛下の話とか、を聞かれても困る。

 そうなると、唯一フィーベル以外で事情を知っている俺が適任なのだ。たぶん。

 

「そういうこと。間に合わなさそうなら無理しなくていいから」

「はいはい。俺の出番はだいぶ後だし、少しくらいなら大丈夫だろ」

 

 『グランツィア』は午後の部のそこそこ終盤だ。それはひるがえって高得点を狙えるから絶対にサボってはいけないということなのだが。

 

「ま、大丈夫でしょ」

 

 人探しの才能とかは別にないけど、あの二人が揃っているならそれなりに賑やか……いやフィーベルがいないから怪しいか。

 とにかく気分転換の定番といえば中庭か、そうでなければ学外の散歩だ。まずはその辺に向かってみよう───

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───いや、あの二人が揃ってるなら賑やかになってるかもなとは言ったけどさ。

 

 それでもこれはなくない? と、見事二人を見つけた代償として俺は路地裏を駆け抜けながら思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 グレン先生とティンジェルを見つけたところまでは良かったのだ。

 もしかして俺には人探しの才能があるのでは? などとふざけたことを考えながら二人に声をかけようとしたとき、それは起こった。

 

 グレン先生、撲殺。

 

 いや血は見えないし死んではないと思うのだが、なんか物々しい人たち───ああ、昼間に見かけたのとは別の人たちだが、がなんかティンジェルに手を出そうとしてるっぽい。なんだ? 犯罪組織か?

 助太刀するべきかとポケットの中をまさぐっていたが、俺がなにかするより先にグレン先生が復帰、物々しい人たちの背後から強烈な光を焚いた。そしてそのまま逃亡。しかもなんと姫抱っこである。誰も見てなくて良かったなグレン先生……下手したら学院で密かに書き込まれているという『夜道に気を付けろよリスト』に名前が載るところだったぞ。もう載ってるかもしれないけど。

 

「……いや、なんでだよ!?」

 

 ちらりと時計を盗み見る。競技までは十分な余裕がある。追いかけていっても問題はないだろう───連れ戻せるかは甚だ疑問だが。

 犯罪組織(仮称)はさっきの閃光で目がくらんだのか、グレン先生たちを追いかける様子はない。仕方ないので見つからないように別方向から追いかけることにした。

 

 なんにしても、まずは話を聞かないと。

 フィーベルにありのままを伝えたら午後の競技に身が入らなくなっちまう。

 

「って、足はやっ」

 

 どうやら【フィジカル・ブースト】も併用してるっぽかった。ガチの逃げだ。

 仕方なくこっちも限界ギリギリまでスピードを上げる。これまた自慢ではないがなんというか身体能力には自信があるんだ。

 

 幸い、犯罪組織(仮称)───ええいまだるっこしい! もう犯罪者でいいか。犯罪者どもはこっちに追いついてきていないようだ。肝心のグレン先生は路地に入ったようだが、この辺の地理であればある程度は把握している。

 いつの間にかさっきまで捉えていたはずの姿が見えない。となるとあっちにある曲がり角か。

 

「会い……た……レン……!」

 

 ……なんか知らない声と一緒にすごい音が聞こえた気がするんだけど。

 具体的にはどかーんという爆音、もとい地面やらなにやらが破壊される音。

 

 まさかあの犯罪者ども、別働隊を……? それはまずい。グレン先生はなんか意外という言葉では足りないくらい何故か強いけど、いくらなんでも囲まれたらどうしようもない───!

 

「……行くしか、ないか」

 

 ポケットに手を突っ込み、先の事件から補充した魔術触媒の数を確かめる。五、十……二十。それだけあれば、ひとまず戦闘には堪え得るだろう。

 

 覚悟を決めて、グレン先生がいるはずの路地に踏み込む。

 

 ───そこに広がっていたのは、予想外の光景だった。

 

 魔術でも使ったのか、路地の壁には霜が下りている。見るも無残な破壊の跡。石畳を始めとして、路地のあちこちにひび割れという言葉では済まないほどの傷が刻まれていた。

 恐ろしいのは、それが魔術の跡ではなさそうだということ。素手でグレン先生が対峙している相手───自分よりも少し年下に見える少女が手に持った大剣を振るう度、石畳はめくれ、壁は切り崩されていく。衝撃波だけで大気が震えた。

 

 対するグレン先生は防戦一方……否、防戦さえもままならないようだった。

 先ほどから大剣を拳で弾くばかり。淡く光の灯った拳には【ウェポン・エンチャント】が付与されているようだが、魔術による強化とグレン先生の拳闘をもってしても捌くのがやっと───むしろ、捌くことさえ難航しているようにも見える。

 

 このままではいつ押し切られるかわかったものではない。

 本当はもっと情報が欲しいところだが、グレン先生のピンチには代えられない。壁の影から様子を窺う時間は終わりだ。

 一つ息を吐いてから、ポケットに収められた魔術触媒───金属片を手に握り、迷いなく戦場へと飛び込んだ。

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