竜殺しっぽい誰かの話。 作:焼肉ソーダ
長らくお待たせいたしました。更新です。5ヶ月ぶりです。嘘やん。
誤字等あったらすみません……。
「はぁ〜……」
アルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の教室にて。
机に突っ伏しながら、カッシュ=ウィンガーは呻いていた。
「やっちまった……先生に迷惑かけたかったわけじゃねーのに……」
「ま、まあまあ……先生の性格上、遅かれ早かれこうなってた気はするし……」
「それはそうかもしんねーけど、そういう話じゃないだろ、これ……」
モゴモゴと、机に突っ伏したままでつぶやくカッシュ。フォローがフォローになっていないことには気付いていたのだろうセシルが、困ったように頬をかいた。
たとえ結果が同じであったとしても、その過程でグレンを矢面に立たせてしまったのは、紛れもなくカッシュなのだから。
それがわかった上で、セシルが薄く微笑む。
無茶苦茶で、グレンにも迷惑をかけたとしても、セシルの───学園の生徒たちの気持ちが多少なりと晴れたのは、あのとき彼らが立ち上がったからだ。
「僕は、カッシュの言ったことは間違ってないと思うよ」
「……けどよぉ」
「セシル、あんまりそいつを持ち上げるな。調子に乗るだろ」
「んだと!?」
ため息をつきながら厳しい言葉を投げたのは、カッシュと同じくマキシムに食って掛かったはずのギイブルだった。
眼鏡を押し上げ、すまし顔を崩さないギイブルにカッシュがいきり立つ。対するギイブルは教科書に視線を落としたままで、もう一度ため息をついた。
「……つか、お前には言われたくないぞギイブル! あいつに食って掛かったのはお前も同じだろ!?」
「ふん。君がうだうだとうるさいからだろ、この意気地なし」
カッシュの抗議をバッサリと切り捨てて、追いかけていた文字から視線を外す。
思いの外鋭い、責めるような目にカッシュがたじろいだ。それでも好き勝手に言われるのは我慢ならないと、しどろもどろになりながらも言葉を探して、もごもごと口を動かす。
「だ、だって先生が───」
「そうだよ。僕たちが無茶をしたから、先生が責任取って生存戦なんてやることになった。それが事実で、結果だ」
「う……」
───生存戦。
それが、マキシム=ティラーノの提示した、この学院の行く末を賭けた勝負だった。
裏学院……学院の設立者であるアリシア三世が遺したという広大なフィールドを用いたものともなれば、その難易度はかつてレオス=クライトスと行った生存戦とは比べ物にならない。
まして、相手は同じ学院の生徒ですらなく、景品にされているのはシスティーナではなくグレンの首だ。カッシュが尻込みするのも無理からぬ話ではある。
が。
「そう、結果はもう出てるんだ。なら決まったことにぐちぐち言ってても仕方ないだろう」
「ギイブル……」
「僕たちは、僕たちにできることを───僕たちがやるべきことをやるだけだ」
ぱたん、と教科書を閉じて眼鏡を押し上げる。
羽織っていたケープを脱ぎ捨てて、ギイブルは席を立った。向かう先は教室の外だ。
扉に手をかけて、視線だけで振り返る。
「……少なくとも、ここでああだこうだと言ってるのが君の
心底がっかりしたとでも言いたげにそう吐き捨てると、ギイブルは今度こそ教室を後にした。
あとに残されたのは、ぽかんとした顔のカッシュたちだけ。カッシュとセシルは顔を見合わせ、つい小声でささやきあう。
「……あいつ、なんか変わったか?」
「うん……積極的になったっていうか……前から負けず嫌いだったけど」
そういうのとは、少し違うような気がした。
リィエルが編入してきたときも似たような雰囲気をまとってはいたが、ここまで露骨でも積極的でもなかったはずだ。
「そんなにムカついたのか、あいつ……?」
「……どっちかっていうと、別のものに苛立っているように見えるわねぇ」
二組の面々がざわめく中。テレサだけは、どこか心配そうにギイブルの去っていった方向を眺めていた。
頬にたおやかに手を添えて、ため息にも似た吐息をこぼす。
「あんまり、無理をしなければ良いけれど……」
ギイブルのあの性格だ。いつもなら地頭が良い分、限界を超えるような無茶をして身体を壊すようなことはしないだろうが、今は二組の全員が気が立っているような状態だ。
どこかで心身のバランスを崩して、なにか問題を起こすようなことがないとも言い切れない。
テレサの懸念に、残っていた二組の面々がまばらに頷いて席を立った。
どのみち、ギイブルの言った通り、ここでうじうじしていても仕方がない。カッシュが勢い良く拳を突き上げ、二組の皆を鼓舞するように声を張った。
「……よっし! ギイブルのやつにばっかイイ格好させるかよ! 俺たちも特訓だ!」
「「「おーっ!」」」
……それを。
部屋の隅にいたシスティーナは、どこか遠巻きに眺めていた。
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薄暗い室内に、無機質なノックの音が響く。
入りたまえ、という横柄な部屋の主からの許可のあと、理事長室に入ってきた人物は野暮ったい丸眼鏡の向こうから真っ直ぐ
良く言えば冷静な、悪く言えば冷徹な瞳がマキシムとかち合う。
じっと覗き込むような視線を向けた金髪の少女は学生服を身に着けてこそいるが、落ち着いた物腰はどこか学生服に見合わない風格を漂わせていた。
「失礼します、先生。『メイベル=クロイツェル』です。……どうしても伺いたいことがあって参りました」
「……、……メイベルか」
一瞬、不自然な間を置いてからマキシムが呟く。
少女───メイベルに向けていた視線を逸らし、書類にペンを走らせる。
用件があるのなら早くしろ、と言わんばかりの態度に、しかしメイベルは微塵も表情を揺らがせずに一つ息を吸った。
「……何故、『生存戦』などを?」
「フン……そのことか。簡単な話だ、この学院は反骨精神がすぎる。無論、この私にかかれば、あんな時代錯誤の連中などすぐにでも懐柔できるが───」
忌々しそうに、マキシムがすぐ近くの書類の束に目を滑らせた。無造作に投げ出されている紙には、学院の在籍者がリストアップされている。
自分に堂々とケンカを売った生徒二名、カッシュ=ウィンガーとギイブル=ウィズダンはまだ良い。
所詮は時代遅れの教育を受けてきた
事が済んだら見せしめも兼ねて然るべき処罰を与えるにしても、一番の問題はグレン=レーダスだ。
あの男が出張ってきたせいで、必要以上に話が大きくなってしまったのだ。
しかも昨今の活躍で、求心力も凄まじいときた。まさしく英雄だ。厄介なことこの上ない。正当な理由もなしに免職でもしようものなら、それこそ生徒が一致団結してマキシムのことを批判しかねない。
「それ故、正当な手段で真っ向から叩きのめす必要がある……まったく、リックも七面倒臭い教師を採用してくれたものだ!」
「……お話はわかりました。ですが、やはり『生存戦』……いえ、『裏学院』を使うのは、少々問題があるかと」
「ふむ? 『生存戦』は魔術師同士の力量を競い合う、最も優れた形式だ。その信頼性を高めるためにも広大なフィールドは必要不可欠だということぐらい、貴様ならわかるだろう。なにが不満だと言うのかね」
少女の遠慮がちな言葉に納得できなかったらしい。今度は言葉を選ぶように数秒躊躇ってから、メイベルは口を開いた。
「噂によれば、『裏学院』は……あのアリシア三世が作ったものだとか」
「なにかと思えば、そんなことか」
くだらない、と吐き捨てるようにマキシムが鼻を鳴らした。
それを意に介せず、メイベルが続ける。
「アリシア三世は非常に曰くの多い人物です。『裏学院』も、魔術学院のさらなる発展を願って作られた……という話ですが、なにか裏があるかもしれません」
「そんな噂なんぞで上層部は動かんよ。確かにかの女王アリシア三世は、崩御される前に数多の胡乱な逸話を遺したが……そんな保証も確証もない疑念で、裏学院という莫大なリソースを得ることを躊躇うことはない」
「しかし……」
「良いかね? これはもう決定事項なのだ。『生存戦』に関係なく、この学院は新たな敷地と設備、そして多くの生徒を受け入れられるようになる。本当に問題が起こりでもしない限り、誰にも止められんよ」
───『生存戦』を、ひいては『裏学院』の開放を取り止めるつもりはない。
マキシムの意向を変えられないと悟り、メイベルはそっと瞼を伏せた。
(このままでは、
だが、それを止める術はもはやメイベルにはない。
あとできることと言えば、件の対戦相手……グレン=レーダス率いる二組生徒を今のうちに叩きのめし、『生存戦』への意欲を削いで時間を稼ぐことぐらい。
(せめて、
ほんの少し前。
そこまで考えてから、それはあまりにも都合の良い話だと心中で首を振る。
(……なにか、手を打たなくては)
アリシア三世の負の遺産が解放されるのを、ただ黙って見ているわけにはいかない。
メイベルはそのために生み出されたものだ。そして、メイベルが目覚めた以上、
校舎の損傷具合のせいか、未だ大きく動けてはいないだろうが───マキシムが『裏学院』を開く手段を手にした以上は時間の問題だ。
気は進まないが、やるしかない。まずはグレンのクラスを徹底的に、抵抗の意志が完璧になくなるぐらいまで打ちのめさなくてはならない。
……自らの居場所を守るために奮起した彼らの想いを踏みにじるのは、心苦しいが。
「……わかりました。ありがとうございました、先生。それでは、私たちは『生存戦』に向けて準備をして参りますので、失礼いたします」
「ああ、期待している。……といっても、この私の『正しい』教育を受けた君たちに期待するというのも妙な話だがね」
やはり横柄な態度で会話を締めたマキシムに背を向けて、部屋から出る。
「……なんとかしなくては」
アルザーノ帝国魔術学院に隠された異空間、『裏学院』。
狂気に彩られた、アリシア三世の陰謀───それに蓋をするべく、メイベルは『級友』たちに提案を持ちかけるため、理事長室を後にした。
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各所で生徒たちの思惑が動き始めていた頃。
話を先導した、もはや学院すべてを背負った魔術講師───グレン=レーダスは、どうしてこうなったのかと天を仰いでいた。
「くそっ……どうなってんだ……こんなはずでは……」
気分転換にすっかり馴染みの味となったシロッテの枝をかじりつつ、学院の日陰でうなだれる。
やるべきことは山のようにあると言うのに、次から次へと問題ばかりが積み上がっていく。
これでは人探しどころではない。もしかしたらもうフェジテを出てしまったのではないだろうか、という疑念がよぎる。これだけ探し回って見つからないのなら、やはりそういうことなのだろうか。
焦っても仕方がないということはわかっているが、焦るなという方が無理な話だった。
セリカやリィエルのいるフェジテ内部ならともかく、街の外にまで出てしまったら『天の智慧研究会』に目をつけられてもおかしくない。
せめて、無事なのかどうかだけでも確かめたかった。
自分から去ったのだとしても、はいそうですかと忘れられるほど浅い縁でもない。
「……はぁ〜〜〜」
もう一度デカいため息をついて、シロッテの枝を投げ捨てる。
いずれにしても、今はできることをするしかない。見つけ出すのが急務なのは変わらないが、このままでは見つけたところで戻ってくるべき場所がなくなってしまう。
「しかも、相手はあのマキシムの教え子だろ? ちっくしょう、せめてセリカのやつがいれば……」
少し前からどこかへと行方をくらませている
差し当たっては生徒の指導だ。敵との戦力差を考えれば、どれだけ教えたところで足りないのだ。のんびりしている暇はない。
「いっそ、宿舎でも借りて合宿でも───んぁ?」
ふと、見慣れた緋色が視界にチラついて間抜けな声がこぼれた。
あの髪の色は。いやでもまさか。こんな場所にいるはずもないがあの燃え上がるような真紅がそのへんにゴロゴロいるはずが───
信じがたい気持ちでごしごしと目を擦って二度見した。
……見間違いではない。
「……って、あいつなにやってんだ!?」
覇気もないし生気もないが、やはり間違いなく彼女だ。
目にしたものが信じられなくて、思わず駆け出す。彼女は学院の裏庭の方で、一人ぼんやりと佇んでいる。
見慣れた髪をゆるくまとめて、見慣れない服装の元上司の肩を叩く。
別に会ったからといって嬉しくはないが、最後に見た姿が姿だ。せめて近況を聞くぐらいは構うまい。
「おい、イヴ!」
「…………」
返事がない。
肩を叩いたのにも関わらず、彼女───イヴがグレンに気付いた様子はなかった。ただぼんやりと、幽霊のように立ち尽くしている。
「……おーい? ……おいイヴ、イヴって!!」
聞こえなかったのか? と訝しみながら、今度はもう少し強く叩いて声を張り上げる。
とたん、イヴが弾かれたようにグレンを振り向いた。信じられないものを見たような、見たくないものを見てしまったような、そんな表情だ。
「…………なんだ、グレンか」
端正な顔を、まるで苦虫でも噛み潰したように歪めると、イヴは無気力な目でじとりとグレンを睨め付けた。
おかしい。こんな距離になるまでイヴが自分に気付かないなんて、絶対に有り得ない。
なんだ、なんていうあんまりな言いぐさに多少ムッとしたが、それよりもなによりも彼女の様子と、どうしてこんなところにいるのかが気になって、口を『へ』の字にひん曲げるだけに留める。
そんなことよりも、だ。
「なんでこんなところにいるんだよ!? つか……」
鬱陶しげにグレンに向き直ったイヴの姿をまじまじと見て、つい言葉に詰まる。
数日ぶりに会ったイヴは、最後に見たときとはまったく違う姿だった。服装が違うから、ではない。そんな些細な違和感では打ち消せないほど、憔悴しているのが見て取れたからだ。
「お前……ちゃんと、メシ食ってんのか?」
「……うるさいわね。なんで私があなたなんかに心配されなきゃいけないのよ」
つん、と言い捨ててそっぽを向く。その態度は今まで散々見てきたいけすかないイヴそのものだったが、どうにもやはり覇気がない。
帝都からやってきたのだとすれば、甘く見積もってもフェジテにやってきたのはここ数日の話のはずだ。旅の疲れと言えばそれまでだが、仮にも特務分室の室長ともあろうものがそんなものでここまで露骨に調子を崩すはずもない。
まして、イヴは身だしなみには相当気を遣う方だ。そのイヴが、旅の疲れごときでこんな風になるだろうか?
(心配すんなって方が無理だろ……鏡見ろっつーの)
それを言っては余計にこじれるのは目に見えているので言わないが、調子が狂う。
誤魔化すように舌打ちをして、
「で、なんでこんなとこにいんだよ。……っていうか、なんだその格好。この前来たときは軍服だっただろ」
「……はぁ。あなた、相変わらず空気も読めない上に察しが悪いわね。最悪。……クビになったのよ」
「なんだとテメェ……って、は?」
「だから、クビよ。クビ。わかんない?」
ぼそぼそと、気だるそうな声でぶつけられた罵倒に思わず反応しかけて、そのすぐあとに続いた言葉にぽかんとなった。
クビになった? 誰が? どこを?
……イヴが、特務分室の室長を?
確かに、よくよく見ればイヴが着ているのはアルザーノ帝国魔術学院の講師服だ。だが、だからといって軽々しく飲み込める話ではない。
「……おいおい、嘘だろ」
「好きでこんな嘘つくわけないでしょ。ついでにイグナイト家も勘当されたから」
「はぁ!?」
自嘲するように吐き捨てたイヴに、今度こそ言葉が出なかった。
イヴがイグナイトという血筋───家柄、その名誉にどれだけ執着していたかは知っている。知っているからこそ、イヴの言葉が信じられなかった。
同時に、かつてのイヴからの変貌ぶりにも納得がいってしまった。友人を喪い家からも見放され、さしものイヴも平気でいられるはずがなかった、ということだ。
……こんな形で、彼女の弱さを知りたくなどなかったが。
「……だから、今の私はイグナイトでさえないってわけ。笑いたきゃ私のいないとこで好きにすれば?」
「い、いや、さすがにおかしいだろ! そりゃ、お前はめちゃくちゃ感じ悪いし冷酷非道だし嫁き遅れだしジャティスのときはめちゃくちゃ妙なことばっかしてたけど、だからって突然追い出されるなんて───」
「ああもう、ほんッと最悪ねあなた!! ともかく! もう私はあなたの元上司でもなんでもないの! わかったら私のことは放っといて!」
伸ばされたグレンの腕をヒステリックに叫んで振り払い、はっと我に返ったように目を逸らした。ばつの悪そうな顔をそっと背けて、微かに痛みの走った腕を力なく降ろす。
わずかな沈黙。
グレンが呆けた顔でなにも言えずにいるのを流し見て、イヴは今度こそグレンに背中を向けた。
「……もういい? じゃ、私……行くから」
素っ気なく言い捨てて、校舎の方へと踵を返す。
それを、グレンは見送るしかなくて───
「おい、待てよ」
───つい、もう一度手を伸ばしていた。
あれだけ手酷く拒絶されておいて、まさか手を出すとは思っていなかったのだろう。……それとも、気配に気付かなかっただけなのか。あっさりとイヴの腕はグレンの手の中に収まった。
ぐい、と振り解こうとする腕を強引に引き留める。
目だけで人を殺せそうな視線で睨み付けられたが構うものか。……今、このイヴを一人にはできない。
「離して……離しなさい! 離してよッ!」
「誰が離すか! そんな───」
そんな、泣きそうな顔をしているくせに。
強がって、自分の気持ちがわからなくて、どうしたら良いかわからないような顔をしているくせに───放っておくなんて、できるわけない。
「……とにかく、落ち着けよイヴ。なにがあったのか知らんが、そんなにヤケっぱちになるこたねえだろ。……あー、その、なんだ。正直気は進まんが、愚痴ぐらいなら聞いてやるから」
確かに、グレンはイヴが嫌いだ。ジャティスの次くらいには不俱戴天の怨敵だと言ってもいい。
だがだからといって、こんな姿が見たかったわけでもなければ、突き放す気にもなれない。
(なんつーか、似てるんだよな……)
それは一体、誰に?
───きっと、
それに、イヴは───アシュリーの、大事な友人だったはずなのだ。
それを泣かせたままで放っておいたら、今度こそ、本当にアシュリーに顔向けができない。
これ以上失うわけにも、失わせるわけにもいかないと。
半ば贖罪のような気持ちで、咄嗟に口走ったグレンを。
「……なに、その目」
信じられないものでも見たかのような呟きが、イヴの口から転がり落ちていた。
グレンの見下ろす先、一人ぼっちの───なにもかもを間違え続けた少女が、呆然と
「なに、自分にもわかるみたいな、顔、してるのよ」
乾いた声。真っ白に漂白されたような表情に激情が走った。
掴まれていた腕を力任せに振り払って、怨敵を見るような目で睨みつける。
「ふざけないで……ふざけないでよ! あなたになにがわかるの!? あなたなんかに、私のなにが───っ!」
「イヴ……?」
「わかるわけないじゃない、あなたなんかに! 正義の魔法使い様に、私のなにがわかるっていうのよ!?」
「な……ふ、ふざけんな!! 黙って聞いてりゃ、辛いのがお前だけだとでも思ってんのかよ!? 第一、俺は正義の魔法使いになんか───」
「嘘つき!!」
「───っ!?」
堰を切ったように、言うべきでないと戒めていた言葉が溢れる。
それだけは言わせないと、泣き出す間際のような声で。
「嘘つき、うそつき、うそつき……!! ちゃんと守れてたくせに、わかったようなこと言わないで……!!」
「守れてた……? マジでふざけんなよお前、俺が……俺が今まで、一体なにを守れたって、」
最大級のトラウマを踏み抜かれてカッとなった。
勢いのままイヴの胸ぐらを掴み上げて、
「───っ、セラが! どれだけ幸せそうにしてたかも、知らないで……ッ!!」
───続いた言葉に、力が抜けた。
「楽しそうだったじゃない! 笑ってたじゃない! 幸せに……して、あげられてたじゃない……!」
縋るように、呪うように、襟に伸びたままのグレンの右手を掴む。
あるいは。
「違うのよ! あなたと私じゃ!!
私じゃダメなの! 私には傷つけることしかできなかったのに! なのに、あなたが同じみたいな顔しないでよ……!!」
血反吐を吐くような、掠れた声で叫ぶ。
助けられて、守られて、なにもできなかったのはいつだって自分の方で。
親友も、幼馴染も、自分で殺してしまったようなものなのに。
最期まで、大切な人の傍にいたグレンとなんて、ぜんぜん、違うのに。
「……ねぇ……なんで?」
最後の最後。
八つ当たりだと理解して、それでも堪えきれなかった本音が顔を出す。
「正義の魔法使いなんでしょ? ずっと、なにに裏切られても、それを張り通してきたんでしょう?
なのになんで、あいつのことだけは」
言ってはいけない。それは確実に、お互いを傷付けるだけの言葉だ。
自分本位で身勝手な、最低の言葉だ。
それでも───
「なんで、助けてくれなかったの……?」
───どうして、と。
涙の代わりに、小さな声が風に散った。
イドを膝に受けまほよコラボを脳天にぶち当てられ死んでいた。
まほよ2はよ。