竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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にほん あつい しぬ(遺言)


62.Hollow

「──────……」

 

 イヴの縋るような声が、空気に溶けて消える。

 

 『どうして?』

 『どうして助けてくれないんですか?』

 『貴方が、助けてくれるって言ったのに』

 

 いつか。

 どうしようもなく手遅れで、救えないままこの手で眠らせた少女の声が脳裏をよぎる。

 

「お、れは」

 

 手が震える。隠し持った銃が重い。フラッシュバックにも似た過去の記憶が、()()()()()()()()特務分室時代の光景が『正義の魔法使い』を責め立てる。

 魔術というものは恐ろしいもので、後戻りできないところまで人間を容易く変質させてしまえる。そうして救えない存在となった無辜の民を、今まで何度手に掛けて来ただろう。

 

 見つけなければと、連れ戻してやらなければとそればかりを考えていたが───もし、手遅れだったら?

 

 少年の異常な強さに甘えて、どこかで『きっと無事だ』と思い込もうとしてはいなかったか?

 そもそも、なにか……自分たちの知らない代償を支払っていたと、そう仮定したら。主のいない部屋で見付けた日記に遠回しに記されていたように、自ら破滅を望んでいたとしたら。

 ……ひょっとしたら、本当はもうなにもかも手遅れで。

 

 ()()()()()()だけならまだマシで。

 もし、この手で───()()()()()()()()()()、ような───ことに───

 

「……ごめんなさい、今のは忘れて」

 

 息を詰めたグレンの様子を知ってか知らずか───恐らくは見えないまま、イヴが気まずそうにそれだけを絞り出した。

 イヴとて、このようなことを言うつもりはなかったのだろう。時折感情的に理不尽な命令を下すこともあったが、イヴ=イグナイトという女性は本来は聡明だ。言って良いことと悪いことの区別程度はつけられる。

 

 再びの、何度目かの沈黙。

 二の句を継げずにいるグレンの前で、かつての上司が気怠そうな溜息を吐き出す。

 

「……もういいでしょ。もう私に構わないで。……これ以上、私に……八つ当たり、させないで」

 

 三度目はないと言うように。

 今度こそ、グレンの手を振り払って背中を向ける。

 

 その煤けた後ろ姿にかけられる言葉はなにもなくて、伸ばそうとした手は今度もまたすり抜けて、雑木林に消えていく背中を見送って───

 

「ん。グレンとイヴ、見つけた」

 

 ───不意に。

 

 瑠璃色の子栗鼠が、不器用な大人たちの前にひょっこりと現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「リ───」

 

 思いがけない人物の登場に、反射的に呼ぼうとした名前が続かなかった。

 呆気にとられるグレンの横を通り抜けて、肉体年齢の割には小さな手のひらがあっさりとイヴの手を取る。そのままちょこちょこと、小動物のような足取りで、リィエルはグレンのところまで歩いてきた。

 

 イヴの方は、突然リィエルに手を繋がれて驚いているのか、珍しくきょとんとした顔をさらしている。

 それを知ってか知らずか、眠たげな顔のままでリィエルがもう片方の手でグレンのシャツをくいと引っ張る。

 

「探した。あっちでみんな特訓? するって」

「特訓、って……」

「ん。打倒、模範クラス……って、みんな、やる気」

「ああ……そうか、俺がバカな賭け吹っ掛けたからか……」

 

 ガシガシと、毒気を抜かれて頭をかく。そうだった。元々、その対処……というか、やるべきことが山積みになった現状に頭を悩ませて、自分はこんなところをうろついていたのだ。

 

「……あのね、リィエル」

「ん、イヴも行こ?」

「……なんで私が行かなきゃいけないのよ」

 

 ため息をつく。グレンの次はリィエルか。つくづく、自分の元部下たちは人にちょっかいを掛けるのが好きなようだ。

 

「イヴ、どこか行こうとしてた」

「それは───」

「一人は、よくない」

 

 じっと、なにも考えていないような眠たげな瞳がイヴを見上げていた。

 下手な気遣いの色も下心も、リィエルの無垢な眼からは読み取れない。ただ純粋に、『それは良くないから』と、半ば直感的にイヴを捕まえている。

 

 ……調子が狂う。リィエル=レイフォードという少女は、こんなにも他人に関わろうとする人間だっただろうか?

 

「……そういえば、なんでイヴがいるの?」

「今さらかよ!?」

 

 イヴのことをまじまじと眺めてからこてん、と傾げられた首についグレンが叫ぶ。……息苦しさは、多少だが薄れていた。

 

「あ〜、イヴは……あれだ、ちょっといろいろあってウチの講師になるらしくてな」

「ん。こうし? つまり、グレンと同じ?」

「……その響きはなんか、イラッとくるわね」

「俺だってお前の同僚とか、ちょっと気持ち悪くて鳥肌立つわ」

「なんですってぇ……?」

「やんのかコラ。こちとら先輩ぞ、おぉん?」

「むう。呼んでるって言ってるのに」

 

 重苦しかった雰囲気が変質していく中で、 リィエルだけがいつものように無表情のまま頬を膨らませる。

 三人はしばらくそうやって睨み合っていたが、リィエルの忍耐に真っ先に限界が来た。ぐい、と、捕まえたままだった腕を今度は両手で引っ張り始める。

 

「イヴも、先生になった? なら、やっぱりイヴも行こ」

「だから、私は……」

「だいじょうぶ。みんな、優しいから。イヴも、きっとここが気に入る」

「そうじゃなくて、私はこんなところに」

「ん。行こ」

「人の話を聞きなさいよ……ああもう、行く、行くから。わかったから腕を離しなさい、こら、リィエル……リィエル、ちょっと!」

 

 ずるずる、ずるずる。

 いつになく強引なリィエルに引きずられて、あっという間に深紅の髪が雑木林に紛れていった。

 

 あとに残されたのは、予想外の出来事に一人ぽつんと取り残されたグレンだけ。

 

「……はは、マジかよ」

 

 ()()リィエルが、()()イヴを連れ出した。

 誰の手も借りずに、自分の意志で。

 

「こりゃ、本気で自分が情けねえな……」

 

 妹分の成長を誇らしく思う傍ら、うじうじと湿っぽい自分のなんと情けないことか。

 

 ぴしゃり、と両の手のひらを頬に打ち付ける。

 肌を刺す微かな痛みが、暗くて重い思考の沼からグレンの意識を引き上げる。

 

(そうだ、決めただろグレン=レーダス。()()()()()()()()()()()()()

 こんなところで、『もしかしたら』に足を止めてる時間はねえぞ)

 

 誰かの帰ってくる学院(居場所)を守る。

 誰にも頼らなかった大馬鹿者を探し出す。

 

 それが、今グレンがやるべきことだ。

 

「……よし」

 

 ちょっとだけ服装を確認して、改めて、いつものようにだらしなく着崩してから。

 

 グレンは、日だまりに歩き出した二人の背中を追って地面を踏み締める。

 

 ───自分が想像してしまった『もしかしたら』。

 

 それが、限りなく正解に近いのではないかという予感から目を背けながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あーっ、やっと来た! 遅いですよ、先生っ!」

「まぁまぁ、システィ。先生もお忙しかっただろうし……って、あれ?」

「イ……イヴさん!? なんでイヴさんがここにっ!? わ、その服、うちの講師服ですよね!? もしかして、今日から赴任する戦術教官ってイヴさんなんですかっ!?」

「……なに、この子たち」

「見ての通り、青春真っ盛りのやかましい少年少女だよ」

 

 リィエルに連れられた先、二組の生徒に囲まれたイヴが呆気にとられたようにぽつりとこぼした。

 そんなイヴに、まるでスーパーモデルでも見付けたかのように群がる二組生徒たち。

 

 邪気なんてまったくない、嫌みも僻みも感じない、純粋な好意。

 姉や親友からしか向けられないと思っていた感情に、ついむず痒くなって小さく鼻を鳴らした。

 

「……察しの良い子もいるみたいだけど。改めて、今日から戦術訓練を担当することになったイヴ=ディストーレ従騎士長よ。……よろしく」

「お前らの何人かは、ちょっと前のあれこれで知ってるよな? パッと見ただの高慢ちきでいけ好かない貴族の嫁き遅れに見えるが、腕は確かだ。安心して良いだだだだだだ」

「なんであんたはそうデリカシーってもんがないのよ、この唐変木二号ッ」

 

 余計なことを口走ったグレンの足を思い切り踏みつけつつ、イヴががなる。

 一号も一号でかなりすっとぼけた男だったが、グレンのデリカシーのなさは本当に本気でどうかと思う。

 

 突然暴力行為に走ったイヴにぽかんとしている生徒たちに気付いて、誤魔化すように咳払いを一つ。

 

「……まぁ、軍人って言っても、左遷されたようなものだから。そんなやつに指導されたくないって言うなら、それでもいいけど」

 

 ふい、とうつむき、気怠そうに吐き捨てる。

 そもそも、先の戦いでは良いとこなしだったイヴだ。最前線を張っていた軍人が教官として学院に寄越されるなど、左遷以外のなにものでもない。

 

 このよくわからない雰囲気も、すぐに霧散するだろう───そう踏んでの、自嘲の言葉だったのだが。

 

「あの……イヴ先生」

「……なに」

 

 先生、という慣れないフレーズに奇妙な心地になりながらも、声を掛けてきた奇特な生徒に目を向ける。

 茶髪を短く切り揃え、上向きに撫で付けた少年だ。イヴが担当していた戦線とは別の場所で、学生隊として戦っていた生徒だった、と思う。

 

「俺……たち、今回の決闘……絶対に、勝ちたいんです」

「…………」

「グレン先生のクビがかかってるとか、自分たちの将来のためとか……理由はいろいろありますけど。今の、この学院を守りたいから」

「…………」

「あいつらがどんだけ強いのかわかんねぇけど、負けるわけにいかないんです。絶対、強くなんなきゃいけない。だから……」

 

 どこか思い詰めたような顔。

 強くならなければいけない。その言葉に、今回の戦いにかけるものとは違う、個人的な想いが見えた気がして。

 

 それにイヴがなにか言うよりも早く、歳の割に大柄な少年の頭が下がる。

 

「……ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします、イヴ先生っ」

「…………」

 

 勢い良く下げられた少年の頭と、それに引き続いて下げられるいくつもの頭を眺めながら、ぼんやりと物思う。

 

 自分はこれから、彼らを一端の戦士に鍛え上げなくてはならない。

 もしも、国際間の緊張が高まっている隣国と戦争になったとき、戦力として数えられるように。

 

 ……そう。戦うための、人間にしなくてはいけない。

 

(私は───)

 

 誰かの姿がフラッシュバックする。

 なまじ、力を持っていたがために戦う羽目になった幼馴染。ほんの一瞬だけ見えた、別人のように冷たい瞳。

 

 ───もうここにはいない、確かに居たはずの『誰か』。

 

「……私は」

 

 よく、彼がそうしていたように。目を閉じて、一つ息を吐く。

 ぐるぐると、未だ整理のつかない思考と感情を脇に追いやって、もう一度少年たちに向き直る。

 

 父から言い渡された職務である以上、イヴがなにを思おうと彼らに戦い方を教えなければならないことに変わりはない。

 ない、けれど。

 

「……私は軍人よ。『戦うための力』なら、いくらでも教えられる」

「…………」

「けど、忘れないで。あなたたちの師はあくまでもグレン」

 

 こんなことが───かつての友と同じはずの、ただの人間を教え、導くことが、なんの慰めにも償いにもならないとわかってはいるけれど。

 

「───力に呑まれないで。力に振り回されないで。グレンの教えてくれたことを、忘れずに学びなさい。

 それが()()できるのなら、私があなたたちを鍛えます」

 

 ……ひどい話だ、と自嘲する。自分はその大切だった約束一つ思い出せないのに、生徒たちにはそれを強いるなんて。

 それでも、自分は大切なものを───なによりも守るべき『契約』を示す言葉を、これしか知らない。

 

 生徒たちはしばらく、まばらにお互いの顔を見つめ合っていたが。

 ひとつ頷くと、一斉にイヴを見た。

 

「……これから、よろしくお願いします!」

「───……」

 

 曇りのない眼。真剣に、イヴの言葉を受けとめて、自分たちに果たせるかどうかを考えてから、もう一度告げられた了承の言葉。

 

「な? 素直な良い奴らだろ」

 

 どこか誇らしげなグレンの声。

 その言葉を噛み締めて、

 

「……ええ、よろしく」

 

 胸に空いた穴を風が撫でるような感覚に、それだけを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早速だけど、と前置きしたイヴは、まず最初に生徒たちの自尊心をへし折ることにした。

 

「はじめに言っておくけど。このままじゃあなたたち、100%負けるから」

 

 身も蓋もないとはこのことである。

 あんまりにもあんまりな言いぐさに、生徒たちの間にざわめきが広がる。

 

「ひ、ひゃく、ですか?」

「そ、100%」

「け、けど、これでもグレン先生に教えてもらう前よりだいぶ強く……」

「……そうでしょうね。彼、魔術に関する知識と教え方だけはズバ抜けてるもの。だけど……あなたたち、自分の力だけで実戦を経験したことは?

 授業なんて生ぬるいものじゃなく、誰の手も借りずに戦ったこと、ある?」

「……!」

 

 それを言われて、生徒たちが黙り込む。

 当たり前の話だが、()()()()()()()などたかが一学生である彼らが持ち合わせているはずがない。

 

 それに、確かにグレンは『魔術の扱い方』を懇切丁寧に教えてはくれたが、『魔術での()()()』は頑なに伏せている。というより、遠ざけている。

 むしろ、そういった面を強く押し出して授業を行っていたのは、前回の『生存戦』を仕掛けてきたレオス=クライトスだ。

 

「なら、手っ取り早く例示してあげましょうか? ───先の学院防衛戦。あれはあなたたちの実力そのものだった? 装備は? 戦略は? 戦術は? 誰かのサポートは? ……それを加味して、本当に自分たちを『強い』と言えるのなら、私の授業は必要ないわ」

 

 先の学院防衛戦とは、言わずもがな《炎の船》の一件だ。

 そこでの自分たちはどうだっただろうか。生き延びたことに気を取られて、自分の実力で勝ったかどうかを忘れてはいなかっただろうか。

 

 短い沈黙のあと、誰かが苦々しげに『ああ』、と頷いた。

 

「……イヴ先生の言う通りだな」

「ええ。悔しいですが、その通りです。わたくしたちの実力で勝った、なんて、とても言える戦いではありませんでしたもの」

 

 本来使えないはずの軍用魔術。予め硬められた防御。軍人の補助を前提とした戦略。決められた行動を繰り返すだけの戦術。

 これだけ揃っていてもなお、岩巨人を破壊したあの一撃がなければ持ち堪えられたかどうかわからない。

 これを『自分たちの力』だと自惚れているのなら、手の施しようのない愚か者だ。

 

 それを踏まえた上で、まだもう一つ理解できないと言ってギイブルが眼鏡を押し上げる。

 

「たしかに、僕たちは弱い。それは認めましょう。ですが、確実に負ける……というのは納得しかねます」

「ふうん。それはどうして?」

「ただの学生というのは、模範クラスの連中も同じでしょう? 僕たちだけが一方的に負けるとは、少々考えにくいのですが」

 

 ギイブルの発言はもっともだ。

 マキシムの教え子とて、条件は同じはず。模範クラスなどと大層な名前を掲げたところで、学生には違いないのだから。

 

 しかし、イヴの顔色は涼しいままだ。隣にいるグレンもまた、発言こそしないがイヴの発言を受け入れているようだった。

 

 『このまま戦えば、絶対に二組が負ける』。

 その結論を、この二人は疑いもしていない。

 

「……なぜですか。僕たちが奴らに及ばない理由があると?」

「それは───」

 

 と、そこで不意にイヴの声が途切れた。視線だけを後ろに向け、『来たわね』と小さく呟く。

 気が付けば、二組しかいなかったはずの広場にはいつの間にかマキシムの連れてきた模範クラスの面々が揃っていた。

 

 野暮ったい丸眼鏡を着けた少女───メイベル=クロイツェルが、ニタニタと下卑た笑みを浮かべる模範クラスの一歩前に出る。

 

「こんにちは。二年次生二組の方々ですよね?」

「……そうだけど」

 

 澄まし顔のメイベルに、敵愾心を剥き出しにしたカッシュがぶっきらぼうに答えた。メイベルの思惑は読めないが、その後ろに控えている模範クラスの生徒たちはどう見たってロクな用事で来たとは思えない。

 嘗められている。そう実感するのに、さほど時間は必要なかった。

 

「私は模範クラスのメイベルと申します。今日は、皆さんにひとつ提案を、と思いまして」

「提案?」

「ええ。───正直、私は『生存戦』なんて時間の無駄だと思うんです」

 

 メイベルの言葉に、一気に場がひりついた。

 時間の無駄。それが意味するのは、奇しくもイヴが告げた言葉と同じだった。

 

 すなわち───

 

「……俺たちじゃ、どうやったって勝てないって?」

「そうです。ですから、無駄な時間を過ごすことになる前に、私たちで『試合』をしませんか?」

「試合……? 僕たちと、その……君たちが戦うってこと?」

「はい」

 

 カッシュの威圧もどこ吹く風とばかり、短くセシルの言葉に首肯する。その場の思い付きや、単なる馴れ合いではないことは明白だった。

 一体なんの目的で───そう訝しむ生徒たちに、冷え切った表情のままで、メイベルが告げる。

 

「お互いの実力差がわかれば、無駄な抵抗をする気も失せるでしょう?」

 

 淡々と、さも当たり前であるかのように。

 涼やかにケンカを売ったメイベルに、模範クラスからは嘲笑が上がった。中には、二組の女子を景品扱いする者まで現れる始末。

 

 まともに『試合』をする気なんてまるでない。向こうはこちらをオモチャとしか思っていない。はっきり言って、性格が悪いとしか思えない。

 ……こんな奴らに、この学院をめちゃくちゃにされるのか? と、小さな声で誰かが言った。

 

 その場にいる全員の心を代弁したような囁きに、カッシュが一歩前に出る。

 

「───上等だ」

「カッシュ!?」

「どのみち、戦わなきゃならないんだ。だったらここで一回やり合うのは悪くない話だろ」

 

 拳を打ち合わせて己を鼓舞する。こんな連中が大きい顔をしているというだけで、腸が煮え繰り返りそうだった。

 この学院を───仲間たちをなんだと思っているのか。ここで過ごした時間を、教えてもらったことを、ここまで虚仮にされて。どうして、引き下がっていられよう。

 

「決まりですね。なら、審判を───」

「私が務めるわ。この場で一番、公正な立場にあるのは私でしょう?」

「……では、お願いします。ディストーレ戦術教官」

 

 慇懃に礼をして、メイベルが模範クラスの元に戻る。イヴは相変わらずやる気のなさそうな顔で、やはり投げやりにルールを提示する。

 その背後。イヴの名を聞いた瞬間に、模範クラスの囁き声に明らかに侮蔑の色が乗ったのを無視しながら。

 

「……ルールは各クラスから一名ずつ選出してのサブスト。非殺傷の呪文を軍用魔術として扱う……まぁ、オーソドックスなものね。……それじゃあ両組、一名ずつ前へ」

 

 先は見えていると。

 そう言いたげな顔で。

 

「それでは───はじめ」

 

 イヴが、戦いの火蓋を切り落とした。




冒頭の『少女』は、若干セリフが違うけれど追想日誌3巻のカーミラさん。
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