竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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7.ロクでなしと天使から狙撃手と脳筋へ

 絶体絶命。そんな言葉が良く似合う戦場だった。

 

「会いたかった、グレン!」

「な───リィエル!?」

 

 驚きへの返答は見惚れるような剣戟でもって行われた。

 跳躍、からの一閃。周囲への被害などお構いなしで振るわれる大剣は、衝撃波でさえ岩を砕いてなお余りある。

 

 対するグレンの返答は【ウェポン・エンチャント】を付与した拳による防御。

 だが、小さな身体のどこからそんな力が生み出されているのか。少女───リィエルの剣はグレンの腕を砕くことこそ叶わなかったものの、代わりに余波で石畳を粉砕し、グレン自身もまた斬撃と同時に襲い来る衝撃に身体を軋ませた。血反吐を吐きながら、最低限にダメージを抑える。

 

「くそ……この、猪が!」

 

 鋼の刃が腕から離れる。が、それは和解の合図ではなく至高の連撃の幕開けに過ぎない。

 二度、三度と振るわれる斬撃。直接当っていないはずの壁を斬り刻みながら、稀代の天才の剣がグレンを襲う───!

 

「話を聞け、リィエル……!」

「問答、無用ッ!!」

 

 幸い、リィエルの剣技は数年前同じ職場で働いていたこともあり熟知している。タイミングさえ外さなければ、なんとかグレンでも弾くことは可能だ───リィエルに対する防御に徹してさえいれば。

 だがそれだけでは足りない。建物の屋根からこちらを射抜く鷹の瞳。戦車と斬り結ぶ限り、愚者は彼の星から決して逃れられない。

 

 要するに、詰み。

 どこかから第三者が現れでもしない限り、グレンとルミアの敗北は必至。

 だが、このような状況で、敵の増援ならばともかく味方が増えることなど有り得ない。背後からの気配はすぐそこに迫っている。万が一アルベルトの狙撃を耐えきったとしても、後ろに増援が控えている以上切り抜けることは不可能だ。

 

 ───しかし。

 

 背後に迫っていたのは、グレンが想定していた人間ではなかった。

 

「誰───!?」

 

 真っ先にその存在に気付いたのはリィエルだった。

 

 グレンの後方、路地の角。そこから一つの影が飛び出てきたのだ。

 

 グレンに夢中で接近に気付かなかった───そんなミスに歯嚙みしながらも、リィエルの力量であれば敵がどんな存在であれ不用意に近付けば返す刀で斬り伏せられる。敵は無手。リーチの差がある以上、懐に入り込む前に斬り捨てられる。

 もし仮に敵が奮うのが魔術であったとしても、そのときはそのときだ。先ほどグレンの【アイス・ブリザード】に対抗するために付与した【トライ・レジスト】の効果はまだ残っている。大半の攻性呪文(アサルト・スペル)であれば気合いで耐えられる。

 

「お、らあぁぁ───!!」

 

 だが。

 

 放たれたのは、そのどちらでもなかった。

 

 最初に見えたのは小さな金属片───短剣から柄と刀身を省いたようななにか。仮に刀身がついていたとしても、鍔迫り合いを想定していないのだろう。鍔にあたる部分はない。

 しかし、鍔があろうとなかろうと、ただの金属片ではリィエルには傷一つつけられない。華奢な外見に反して特務分室でも一、二を争う頑強さを誇るリィエルは、()()()()()()()()()()で傷付くほど軟ではない。

 

 だから、リィエルも想定していなかったのだ。

 まさか、その金属片から刀身が()()()なんて。

 

「ッ───!?」

 

 乱入者は金属片を宙に放ると、それを拳で殴りつけた。

 ただの無価値な破片であったはずのそれは少年の魔力を汲み上げて鈍色の刃を形成する。

 

 これこそが少年の持つ魔術触媒───彼のほぼ唯一の武装。

 銘を、リジル、あるいはフロッティと云う。

 

 少年自身にも手にした短剣のいずれがその銘を得ているのかはわからない。その情報は彼の身の内には存在していないからだ。ただおぼろげに『そういうモノ』として認識し、利用している。

 

 とある英雄の霊基に刻まれた武装。

 その再現こそが、少年の持ち得る才能に他ならない。

 

「くっ───」

 

 今まさにグレンを斬り伏せようとしていた刃を翻し、リィエルは飛来する刃を盾にしてやり過ごす。一般的な金属よりも圧倒的な剛性と靭性を誇るはずのウーツ鋼で構成された剣に、決して小さくないヒビが入る。

 並大抵の武具では太刀打ちできないはずの鋼に傷をつけるなど、もはやお手軽に生成していい代物ではない。どう考えてもあれは名立たる名剣、一種の魔剣だ。

 

(錬金術? 詠唱がなかった。まだ手に隠し持っている……なら)

 

 驚愕は一瞬。思考は端的に。元より己の武器は使い捨てだ。グレンとの戦い(因縁の戦い)を一時中断し、リィエルは壁から大剣を錬成、無粋な乱入者の元へと駆ける。

 

 そうする間にも、乱入者の手元からは弾丸と化した名剣が空を裂きながらリィエルへと殺到していた。

 その数、四本。

 体捌きのみで二本を躱し、残る二本を先ほどとは違い剣の腹で叩き落とす。勢いをそのままに方向を変えられた刃は獲物を食い破ることなく、地面へと墜落して霧散する。

 完全に見切ったとは言えないが、こと白兵戦闘においてリィエルの右に出るものはそれこそ《隠者》のバーナードぐらいのものだ。真っ直ぐに飛ぶだけの攻撃など、例え視認が間に合わなくとも勘で避けられる。

 

 嘘だろう、と言いたげに少年の目が見開かれた。投擲にはそれなりの自信があったのだろう。事実、相手がリィエルでなければ完全に防ぐことは難しかったはずだ。如何なる術理か、少年の剣は弾速に近かった。

 

「ち───こりゃ、分が悪いかな……?」

 

 投擲でリィエルを捕捉することを諦めたのか、少年はくるりと手の中で二振りの短剣を弄ぶ。

 

「邪魔を───」

 

 追撃がないと悟った戦車が、少年の胴を両断せんと迫る。

 ダメ押しのように星の指先が少年へと向けられた。愚者の術ではその後に飛来するであろう二閃の雷条を防ぐことは叶わない。

 

「避けろ、アッシュ───!!」

「するなぁぁあああああああああああ!!!!」

 

 咆哮は同時。グレンの懇願が聞こえたのかどうか、少年は逆手に持った得物で鋼を迎撃せんと身を固くする。

 少年の武器であれば、リィエルの一撃を防ぐことはできるだろう。だがそれはあくまでも武器の性能だけを抽出して考えた場合の話。少年の技量如何では、藁束のように吹き飛ばされる。

 そしてリィエルの一撃に先んじて、アルベルトの指先から雷光が迸った。

 

 敗北は必至。例えグレンがその身を盾にしたとて、続く二射目を防ぐ術はない。

 

 お前の抵抗は無意味だったのだと、アルベルトの【ライトニング・ピアス】はその頭部を捉えた。

 

 今まさに、アシュリーを斬り飛ばそうとしたリィエルの後頭部を。

 

「きゃんっ」

「は?」

「え?」

「あれ?」

 

 三者三様の困惑と悲鳴が路地裏に小さくこだまする。

 それを全く意に介さず、グレンたちの敗北を決定付けるはずだった男───アルベルトは、今しがた己が昏倒させたリィエルの身体を担ぎ上げると、

 

「久しいな、グレン。───場所を変えるぞ、ついて来い」

 

 そう言って、相手の反応も確認せずに道の奥へと消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この馬鹿! 脳筋! 猪突猛進イノシシ娘ッ!!」

「いたい」

 

 ぐりぐりぐりぐり。

 

 グレン先生の手元でこめかみをぐりぐりされている青髪の女の子が、ぐりぐりに合わせて左右にぶらんぶらん揺れている。

 まるで振り子か何かのようだ。シュールなその光景からは、さっき俺を一刀両断しようとした化け物の姿はとてもじゃないが連想できない。

 

 一ヶ月前の事件は抜きにしても、久しぶりに死ぬかと思ったぞあれ。あのままやってたら確実に俺が死んでいた。

 まさかあれを対処されるのはともかく、叩き落とされるとは思っていなかった。まだまだ修行が足りないということだろう。

 

 ───この十七年で、俺が把握した武器(才能)は三つ。

 

 一つ。魔力を叩き込むことでどこかの誰かが使っていた剣を現世に生み出せること。ただゼロから作るとゴリゴリ魔力を持ってかれるので、魔術触媒でその負担を減らしている。

 正直、名前も知らない人間が愛用していたであろう武器を勝手に借りるのは気が引けるのだが、それはそれ。これも縁、ということで許してほしい。

 一つだけ『いくらでも』というわけにいかないものがあるが……あれは顕現させるだけでさっきの短剣なんて比じゃないくらい魔力をゴリゴリ持ってかれる。文字通りの切り札その1だ。

 

 そして二つ。なんでか竜にめっぽう強いということ。

 もう俺自身が竜特攻の概念を持っているような状態だ。なんで? と疑問は尽きないもののもらえるもんはもらっておくことにする。その節(ボーン・ゴーレム素手粉砕事件)は大変お世話になりました。

 

 最後の三つ目は……疲れるのでやりたくない。

 いや、疲れるというのは正しくないのだが……あまり好ましい感覚でもないことは確かなので、これに関しては無視。使えば便利なんだろうけど。

 これも、切り札その2としてとっておきたい。……これから訪れるのが、そんな贅沢を言っていられるような状況であれば良いんだけど。

 

 こんなことができるとわかったのは……何年前だったかな。

 明確な時期は思い出せないけど、バーナードの爺さんに初めて会った頃にはできていたような。……あれ? でもそれっていつだ?

 

 ───まあ、いいか。

 気にしなくて良いことは、気にしないに限る。

 

「さて……まずはこちらの非礼を詫びよう。その女は少々視野が狭くてな。敵と見るととにかく突っ込んでいって斬り捨てたがる」

「あ、えーと……はい」

 

 淡々とした口調でそう言ったのは藍色がかかった髪の毛を伸ばした男の人だった。……見覚えがある。昼休みのときに見かけた人だ。

 

 で、このでこぼこコンビが誰かと言うと。

 

「そっちのチビが帝国宮廷魔導士団特務分室、執行官ナンバー7《戦車》のリィエル=レイフォード。で、そっちの仏頂面が執行官ナンバー17《星》のアルベルト=フレイザーだ」

 

 グレン先生の他己紹介によると、なんとこの二人はグレン先生の同僚だった現役の軍人さんらしい。え、てことはグレン先生ってやっぱり軍属だったの?

 いや軍隊格闘術なんて使ってるんだからそうなんだろうとは思ってたけど、まさかガチモンの仕事人だったとは。人は見かけによらないというか。いやはやいやはや。

 

 と、俺の沈黙を不信と受け取ったのか、グレン先生が苦々しい顔でなんとか弁明する。

 

「……急に襲われて信じられねえとは思うけど、一応、信じられる連中だ」

 

 信じられないです。

 と言ってしまうのは簡単なのだが、一応アルベルトさんにはレイフォードを止めてもらったという実績があるし。レイフォードは───

 

「わたしが敵に正面から突っ込む。

 次にアルベルトが敵に正面から突っ込む。

 最後にグレンが敵に正面から突っ込む。

 ……どう? わたしの高度なさくせ」

「却 下 だ、この大馬鹿野郎! てめぇは辞書で『作戦』の意味を引き直してこい、このチームワークゼロ娘!!」

「いたい」

 

 ……うん。あんな感じでお仕置きされてるのを見ると、どうしたって敵意が消えるというか。

 

 あのアホみたいにデカい剣と、若干……少し……かなり……突撃脳筋思考なことに目をつむれば、レイフォードはごく普通の女の子に見えるせいもあるだろう。

 前もって言っておくと、決してロリコンではない。

 

「俺が言うのもなんだが、肝据わりすぎだろ……まあ、それはいい。んで? 帝国軍の切り札サマが二人も揃って何の用だよ? 状況から察するに、ルミア……いや、王室親衛隊に関するゴタゴタだろうが」

「……ん? 王室親衛隊?」

 

 それって一体どちら様?

 

「はあ!? お前、相手が誰かもわからないのにケンカ売ったってのか!?」

「いたいけな少女に手を出す犯罪者集団かと……」

「おま、王室親衛隊ってのは女王陛下を始めとするお偉いさんたちの護衛だぞ!? 名前の通り王室を関係者を命懸けで守護する超・精鋭!! なんでケンカ売ったんだよ!?」

「あはは……先生が言えたことじゃないような気が……」

 

 ここでティンジェルの辛口コメント。今のセリフから察するに、先生は正体を知りつつもティンジェルのためにケンカを売ったということになる。

 なんていうか……先生、相変わらずやるときだけはやるよなぁ……。

 

「お、俺はいいんだよ。なんたって、今の俺はお前の教師なんだからな。……お前は大人しく、お姫様みてーに俺に助けられながらキャーキャー言ってればいいんだよ」

 

 なんか聞きようによってはクズっぽいことを言って、ラブコメチックにぽん、なんてティンジェルの頭を撫でるグレン先生……イチャイチャは余所でやってくれませんかねえ。

 

 ともあれ、グレン先生とアルベルトさんは現状の情報交換と作戦会議を開くらしい。で、俺とティンジェル、レイフォードは暇つぶしに地面に絵を描いて遊んでいる。なぜってそりゃーやることがないからである。

 事件の渦中にあるティンジェルはギリギリ作戦会議に参加できないこともないが、一切の経緯と裏事情を知らない俺は同じく一切の情報を忘れたらしいレイフォードと遊ぶしかやることがないのだ。

 

「アッシュ。なに、それ?」

「んー。ドラゴンモドキ」

「モドキ」

「マジモンのドラゴンは俺も見たことない……はずだから、半分くらい想像。なのでモドキ(再現率推定50%)

 

 本音を言うと早いとこフィーベルが待ち構えているであろう競技祭に戻りたいのだが、ここまできたらことの成り行きを見届けてからでないと俺もフィーベルも安心できない。ティンジェルを連れていくことができない以上、理由をキッチリ説明しないといけないし。

 そして残念ながら俺に絵心はあんまりなかった。なんかこう……立ち上がっただけのトカゲみたいなのができた。ちなみにレイフォードはあまり絵は描かないようで、延々と『の』の字を書いていた。あー、でもわかるわー。単純作業してるとなんか楽しくなってくるんだよね……。のののの……ののののの……。

 

「……。なにしてるんだ、お前」

「……『の』の大量生産?」

 

 俺たちの『の』の字を書きまくるという単純作業は、作戦会議を終えたらしい呆れ顔のグレン先生がツッコミを入れるまで続いたのであった。

 

 ところでドラゴンの肉っておいしいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレン先生が立てた作戦を一通り聞いた俺は、現在二人とともに競技祭会場へと戻ってきていた。

 

「本当にうまくいくんです?」

「うまくいかせる他ない。お前たちには期待しているぞ」

「……ステルスぅ」

 

 隣を歩く藍色の髪の男性───しかし先ほどとは違ってごく普通のスーツに身を包んだ『アルベルトさん』。

 その先ほどまでとは違う語り口に思わず意味不明のつぶやきをこぼし、もう一人───『レイフォード』を挟むようにして会場へと到着する。

 

「あ、やっときた!! ちょっと、遅いわよ三人と……も……?」

 

 あー、案の定フィーベルが混乱している。そりゃそうだ、グレン先生とティンジェルを連れて帰ってこいと頼んだ相手が、見ず知らずの二人組を連れてきたのだから。

 合ってるのなんてお互いの性別くらい。どういうことだと詰め寄るフィーベルに、アルベルトさんは淡々と語る。

 

 その内容は、簡潔にまとめるとこうだ。

 

『俺はグレンの古い友人で、今グレンは手が離せないから代わりに指揮を預かった。そして、どうか二組が優勝を勝ち取ってほしい』

 

 なんていうか一ヶ月前の一件といい、見知らぬ第三者に『今は手が離せない』とか言われること多いよね、グレン先生。今回に限っては多少毛色が違うとはいえ、この調子では来月にも『グレン先生は今手が離せない!』とかって誰かに言われそうだ。

 

 まあ、そんな不確定な予想はともかくとして……クラスには動揺が走っている。そりゃそうだ。いくら正式な許可証を持ってるからって、学内に突然現れた部外者に総指揮を任せてくれなんて言われても納得できるはずもない。

 試しに俺が色々弁護してみるが、俺にそっち方面の才能はなかったらしい。事態が悪化することこそなかったものの、好転することもなく。ただ気まずい沈黙が流れただけだった。

 

 なのでここは、対フィーベル最終兵器にお願いしよう。

 

「……お願い。信じて」

 

 たったそれだけの言葉と一緒に、『レイフォード』がフィーベルの手を取り握りしめる。

 その言葉と握られた手ですべて……とはいかなくてもおおよその事情を察したのか、フィーベルが振り返ってみんなに発破をかける。

 

 結論から言うと、なぜかグレン先生へのヘイトが上がった。

 不思議ー。

 

 ───さて。

 指揮官の穴は埋まり、落ちかけた士気はフィーベルが上げてくれた。優勝する必要はあるが、それは端から確定事項。

 要するに───

 

「さあ、魔術競技祭の再開だ!」

 

 こっから先は、いつもと変わらないお祭り騒ぎ。

 

 せっかくここまでやってきたのだ。最後まで、俺たちの存在を魅せつけるとしよう───

 

「……いや、あんたたちがいなかっただけで競技祭はとっくに始まってたんだけど」

 

 アーアーキコエナーイ。




この情報のあやふやさはデミ・サーヴァントが一番近いかなぁ、と書いてて思いました。真名不明、かつ宝具不明の序盤のマシュみたいな。
件の魔術触媒(笑)のビジュアルはシグルドさんが叩き売りしているあの短剣から刀身(第三再臨だとエメラルドになってる部分)をぜんぶ省いたやつです。殴ると刀身が生えます。普通に魔力を流すだけでも生えます。
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