竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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本当は次話と一つだったのですが、普段の二倍ほどとクソ長くなったので分割しました。


8.たった一つの方法

 ───『アルベルトさん』という謎の指揮官を迎え入れた二組の勢いは凄まじいの一言に尽きた。

 

 元々グレン先生がいなくなって士気が落ちていたのか、順位は午前よりも下がっていたのだ。だが、フィーベルの発破───『グレン先生がいないときに負けたら、グレン先生に死ぬほど煽られるわよ』という一言で二組の士気(と書いて殺意と読む)は天元突破。

 グレン先生がいなければその程度と馬鹿にしてくる他クラスの存在もあり、二組の熱気は午前と同等、いや下手したら午前よりも遥か上をいくかもしれなかった。

 

 アルベルトさんもまた、半信半疑だった二組をその優れた手腕で導き続けた。今までの勝利は、二組全体の士気もそうだがアルベルトさんによる的確な指揮も確実に影響していた。

 二組は確かに自分の競技に集中して取り組み、練習を重ねてきたが、時間不足と実力不足、そしてなにより実戦経験───要するに戦術眼が欠けていた。今まではグレン先生のおかげでそれが補われていたのだ。だからこそ、二組は午前の部であれだけの活躍を残せた。普段だらけていても、実力は本物という評判をここでもグレン先生は見せつけていた。

 

 それだけではない。ここまでに生徒への作戦立案と指導を行っていたのもすべてグレン先生だ。いわば積み上げた信頼関係と意図を汲むだけの付き合いがあった。その代わりなど誰にも果たせない───誰もがそう思っていたのだ。

 アルベルトさんが、指示を出し始めるそのときまでは。

 

「おそらく次は北東に出る。シーサー、マークしておけ。アルフ、そこはビックスに任せて待ち伏せておけ。アッシュ、お前は西端にノーマル・フィールドを構築しろ」

 

 だいたいそんな感じの指示を合図だけで出してみせる。この合図はグレン先生との間で組み上げた『グランツィア』用のものだ。

 まるでグレン先生が直接指示を出しているような感覚。練習の感覚を思い出したのか、仲良し三人組は順調に相手───一組のノーマル・フィールドを片っ端から叩き潰していた。

 俺? ちょこちょこ『すぐに潰されるけどいやらしい場所にあるノーマル・フィールド』を延々積み上げては空いた時間に敵のフィールドを潰してるよ。

 

「む、ぐぐ……引き分け狙いのデコイだな!? さっきからウロチョロと小賢しい……!」

 

 なんかそんなセリフが聞こえたような気がする。もちろんアルベルトさんではない。対戦相手の一組担任、頭皮がピンチと密かにウワサのハー……レイ先生である。最近グレン先生が適当な名前で呼ぶもんだから俺も名前が怪しくなってきた。

 ……というか俺、もしかして順調にヘイトを集めてる? 心なしか選手からの視線も痛い。まあわかる。うざいよね、俺。さっきから『無視したいけど、無視できない』サイズのノーマル・フィールドをバカスカとまではいかないけどチマチマ作ってるんだから。でも完璧に囲っちまえばルール上、囲われた結界は囲った結界の得点に上乗せされるのでオッケーだったりする。

 

 ───それこそ、俺が張った結界を全部覆ってしまうようなデカい結界を張ったりすればね?

 

「お前たち! アブソリュート・フィールドだ! アブソリュート・フィールドを張れ! 格の違いを見せつけてやるのだ!!」

「やっべ」

 

 と、ここでちょっとわざとらしくこっちもノーマル・フィールドを構築してみる。あ、潰された。

 しかしこっちの目的は初めから奴さんがでっかいアブソリュート・フィールドを構築すること。サイレント・フィールドを仕込んでいるように見えないように最初っから散ってたからあちらさんはこちらの狙いは知らないはずだ。しかもこっちが申し訳程度に組んでる結界は一組生徒が頑張れば普通にアブソリュート・フィールドで囲ってしまえる場所にある。ハーレイ先生的にはここで丸っと潰しておきたいはず。

 

 ───で。

 

『さ……サイレント・フィールド・カウンターだーーーッ!!? プロでも滅多にやらない高等技術を、なんと二組が! あの一組に対して決めましたーーーッ!! そしてここで試合終了! 勝者は二組! 引き分け狙いと思われていた二組だァーーーッ!!』

 

 若干二組贔屓の実況が会場に響く。

 ───完全に囲まれた結界(フィールド)は相手の持ち点になる。つまりハーレイ先生が頑張って作らせた結界は丸々こっちの得点というわけだ。かかったなヴァカめ!! とか言って高笑いしてやりたくなるけどこの後ハーレイ先生には給料三ヶ月分というペナルティが待ってるんだから勘弁してやろう。グレン先生じゃあるまいし。

 

 そして俺の出番はこれで終わりだったりする。

 全生徒に使い回しがない以上、出番は一回きりで終わりなのだ。

 

 というか残ってるのなんてあとはもう『決闘戦』くらいしかない。

 つまり、ついにフィーベル、ギイブル、カッシュの三人衆の出番というわけだ。

 

 ファイト一発。頑張れみんな。ティンジェルと帝国の未来は、割とみんなにかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 前にも言ったが、『決闘戦』のルールは割とスマッシュなブラザーズに似ている。

 相手を場外まで放り出すか、戦闘不能まで追い込めばOK。当然だが相手が降参しても勝利となる。

 

 ただまあ、あくまでも『魔術戦』なので肉弾戦は禁止。たぶん【フィジカル・ブースト】かけてぶん殴ったりしてもダメだろう。なんのために殺傷能力の低い学生用の呪文に留めているのか考えろバカヤロー、という話だ。

 そも、魔術の腕を競う大会で筋肉(マッスル)の腕で勝ち上がってどうすんのかという話である。

 

 ただし筋肉(マッスル)も無意味ではない。相手の魔術を素の肉体で耐えることができればそれは魔力の省エネルギー化、ひいては手数の増加につながる。もちろんそんなのはほぼ不可能なのだが、【トライ・レジスト】なんかを張っておけば結構耐えられたりもする。

 

 ……さて。それを踏まえて、うちの『決闘戦』の推移を見てみよう。

 

『さあ、煙が晴れていきます……どうだ、どうだ? ───健在! 健在です! 先鋒のカッシュくん、あの【ショック・ボルト】の(五連撃)を耐えきったーーーッ!!』

「《雷精の紫電よ》───!!」

『おおっと、対戦相手のアイザック君、ここでお得意の【ショック・ボルト】を返され……戦闘不能ッ! 先鋒戦、またも二組の勝利だァーーー!?』

「へへっ、アルベルトさんの言った通りだったぜ……! みんなー、勝ったぜー!!」

 

 無事に相手を下したカッシュがこっちを見上げてガッツポーズ。とりあえずサムズアップで返しておいた。

 

 と、このよーに我が二組は現在無敗。魔術の腕で多少劣るカッシュが何度か危なかったものの、概ね問題なく決勝までズンズンと駒を進めてしまった。

 

 しかし、バニッシュしきれない攻性呪文(アサルト・スペル)を【トライ・レジスト(属性ダメージ軽減)】と【フォース・シールド(魔力障壁)】と体捌き(気合い)でどうにか凌いだカッシュを見ていると、やはりガッツがあればなんでもできるというのはマジかもしれないという気になってくる。

 

「と、それはさておき」

 

 ティンジェルを助けるためのグレン先生の作戦を成功させるには、なんかよくわからないが二人が直接女王陛下の前に立つ必要があるらしく、そのためには二組が優勝する必要がある。

 もちろん、生徒全員にそれを話す必要はないし、うっかり話してしまった場合説明が限りなく面倒なことになるのでこれはあの路地裏同盟こと俺たち五人の間での秘密。かく言う俺も『グレン先生とティンジェルが女王陛下の前に立つ必要がある』こととその手段しか知らないのではあるが……ぼ、ぼっちちゃうわい。

 

 とにもかくにも、作戦成功のためにはこの『決闘戦』で一位をもぎ取らねばならんかったりする。

 そんでもって、次はその一位を決めるための『決闘戦』の決勝戦……なんかややこしいな。一位争奪戦に突入するのだ。

 

『おおーっと、さすが決勝戦。先鋒から白熱した戦いでしたが……ここでエナ選手の【痺霧陣】がカッシュ君を捉え───カッシュ君、動けない! 最後の先鋒戦で白星を収めたのは一組、エナ選手だーーーッ!!』

 

 ここまでの無茶が祟ったのか、それとも単純な地力の差が出てしまったのか。

 惜しくも討ち取られたカッシュに『ドンマイ』のハンドサインを送り、続くギイブルに頑張れよとサインを送……あ、無視しやがったあいつ。でもキッチリ勝つ辺りがギイブルらしいというかいやらしい。仕方ないのでもう一度、今度はおめでとうのサインを……あいつまた無視しやがった。たぶん実際近くでやってたら『この僕が出るんだ、当然だろう?』とか言ってるんだろうな。

 

 さて。これで先鋒(カッシュ)で黒星が一つ。中堅(ギイブル)で白星が一つ。

 二組が勝利できるかはフィーベルにかかっているわけだ。

 

「つまりお前の試合結果がなんかこう、色んなものの運命を左右するわけだな。うん」

「……プレッシャーかけるようなこと言わないでよね。あと、色々ってなに」

「それはまあ、色々だ」

 

 具体的にはグレン先生の生活費とか、ハーレイ先生の生活費とか、ティンジェルの運命とか。

 

「フィーベルなら大丈夫だろ。ほら、適度なプレッシャーは能力を発揮するのに必要だって言うしな」

「そういうことじゃないでしょ、まったく……もう」

 

 と言いつつ、フィーベルはぺちぺちと自分の頬を叩いた。

 なんかよくわかんないけどマジで色んなものが自分の肩に乗っかってることを悟ったらしい。「よし!」なんて気合いの入った掛け声と一緒にぱしーんと拳を掌に合わせ、いざ討ち入りと言わんばかりに試合会場(リング)へと───

 

「フィーベル」

「なに? アルベルトさん」

「期待している」

 

 短い一言。

 

 フィーベルはそれに、見たことがないような笑顔を浮かべて。

 

 

「───任せて。期待以上の活躍、見せてあげるから」

 

 

 ずいぶんと頼もしい宣言をぶち上げて、今。

 二組最強が、決戦の舞台に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ───時はグレンとアルベルトによる作戦会議まで遡る。

 

「セリカは、女王陛下の前まで来いと言った」

 

 それがこの事態を解決する鍵であることは間違いない、とグレンは言う。

 

「根拠は?」

「あいつは意地悪はするけど、噓はつかねえ。こんな事態だってんならなおさらだ。だったら、俺が女王陛下の前に行けばなにかが起こることは間違いない」

「……わかった。信じよう」

 

 アルベルトが、短く返して首肯する。

 

「だが、実際何故王室親衛隊が動いたのかは謎のままだ。ルミア嬢───噂の『廃棄王女』の存在を知り、暴走したという線もなくはないが……」

「わざわざ女王陛下がいるところで、不敬罪を犯してまでする必要があるとは思えねえ。なにかがあるんだ、今回の事件には」

 

 王室親衛隊は、文字通り王室関係者を命懸けで守護する精鋭部隊。帝国の中枢を担う王室を護るその実力はもちろん、王室───とりわけ女王陛下への忠誠心に篤いことで知られている。

 そんな彼らが、女王陛下に対して強硬手段に出た。不敬罪として処分される危険を冒してまで。そこには必ず、今回の事件の裏が隠されているはずなのだ。

 

「けど、わからねえ……なんで俺が行けば解決するんだ? 大抵のことなら、セリカが自分でなんとかできるはず……なのになんで、ヘッポコ三流魔術師の俺なのか……」

 

 言っていてダメージを受けたらしい。途中からグレンの声が尻すぼみになる。

 唸っていても解決しないことは確かだ。だが、ある程度予測と対策を立てて行かねばいざというときの判断が困難なことも事実。

 

 せめて、王室親衛隊の暴走の理由───あるいは、セリカがグレンを求める理由さえわかれば───

 

「……よくわかんねーけど。セリカ……アルフォネア教授が、グレン先生が来れば解決するって言ったんでしたっけ?」

 

 焦燥の中、一同を支配した沈黙を打ち破ったのは、意外なことに『することがないから』とリィエルと地面に絵を描いて遊んでいたアシュリーだった。

 

「ん? ああ……正確には、『お前だけが、この事態をなんとかできる』だったか」

「ふーん……てことは、なんかあるんじゃないんですか?」

 

 木の枝をピッ、とグレンに向け、アシュリーは言う。

 

「アルフォネア教授にできなくて、グレン先生に……いや、()()()()()()()()()()()()()()ってのが」

 

 ───それはその通りだ。

 

 グレンを名指しで求める以上、セリカはグレンにできるなにかを、あるいはグレンという存在そのものを求めている。

 だが、大陸最高峰と名高い第七階梯(セリカ)にできなくてグレン(三流魔術師)にできることなどと言われても、そんなものは思いつかない。セリカが魔術に関しては文字通りの化け物であり、天才であり、なんでもありの万能だということは、ともに過ごしてきたグレンが一番良く知って───

 

「───いや」

 

 不意に、グレンの脳裏を閃きが走った。

 

 あるじゃないか。セリカでは再現不可能な、グレンにしかできないことが。

 

「なるほど……そういうことか! だからセリカじゃダメなんだ、()()()()()()()()()()()()()()()から!!」

「なに? どういうことだ、説明しろグレン」

「単純な話だ。今も昔も、俺にしかできないことって言ったらこれしかねえ」

 

 言って、グレンが取り出したものは───愚者のアルカナ。

 グレンの固有魔術(オリジナル)、【愚者の世界】を発動するための───

 

「早い話、セリカは俺になんらかの魔術の発動を阻害させたいんだ。なにかが起きた後ならセリカがいればなんとでもなる。だが、手出ししてはいけない───()()()()()()()()()()()()()()()()場合、セリカは役に立たねえ。あいつの得意分野は殲滅だからな」

 

 そして、グレンはそういったものによく使われる術式を知っている。

 手出ししてはいけないが、魔術の起動さえ阻害すれば問題のないモノ。

 つい最近、生徒にも教えた───

 

「───()()()()()

 

 条件起動式とは、魔術の発動に『○○をしたら××する』という条件をつけるものだ。

 その昔、暗殺などに用いられたこの条件起動式は、条件を満たした時点で問答無用で効果を発揮するために防ぐことが非常に難しい。

 

 だが、条件起動式で起動するものも所詮は魔術。

 【愚者の世界】であれば、魔術の起動工程……五つある内の四段階目、実際に魔術を動かす魔術起動(スタートアップ)を封殺することができる。【愚者の世界】は、世界の変化を許さない。それがたとえ意思のない単なる魔導器によるものであってもだ。

 

「条件起動式っていやあ、呪殺具につきものの悪名高い術式だ。で、王室親衛隊が必死こいてルミアを狙ってる……問題はなぜルミアを狙うかじゃなく、王室親衛隊がそこまでして動かなければならなかったのか……」

「……そうか。王室親衛隊の役割は女王陛下の護衛。当然、女王陛下の命はすべてに優先される───自分たちの命と誇りよりも」

 

 否、誇りにかけて、誇りを汚してでも動かねばならなかった。

 

「つまり、今回の事件は……大胆なことに、女王陛下を人質にとったルミア抹殺計画ってワケだ!」

 

 確証はない。少々突飛な発想と言われても仕方がない。だが、そう考えれば辻褄が合うし───なにより、グレンの直感が『これが正解だ』と囁いている。

 すべてが逆。王室親衛隊はルミアを殺すことそのものが目的だったのではなく、敬愛する女王を救う手段としてルミアの命を狙ったのだ。そして真犯人は、その忠誠心を利用して今回の事件を企てた。

 

「そうなりゃ話は早え。さっさと女王陛下のところに馳せ参じて、俺がコレ(【愚者の世界】)を起動すれば全部解決だ」

「しかしどうやって女王陛下の許へ往く心算(つもり)だ。周囲は王室親衛隊が固めている。本当に女王陛下が条件起動式による呪殺具に縛られているならば、意思の疎通は危険を避けるという意味でも難しいぞ」

 

 そう、一番の問題は解決していない。即ち、肝心の『どうやって女王陛下の元へグレンを連れていくのか』、が未だに不明瞭なのだ。

 

「……いいや、問題ねえよ。幸い、今日は魔術競技祭。それも前代未聞の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつーこれ以上ないチャンスだ」

 

 そして王室親衛隊は、女王陛下が優勝クラスの講師と代表生徒を表彰するときだけは一切の手出しができない。

 自分たちの名誉が汚されることは許容できても、女王の威信が汚されることはあってはならないからだ。

 

「では、お前は───」

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あのゼーロスと王室親衛隊を出し抜くにはそれしかねえ」

 

 それが、グレンの考えた『作戦』。

 行く末によっては帝国の未来を左右する、ルミアを救う唯一の方法だった。




セリカ「私のヒントも役に立っただろ?」
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