竜殺しっぽい誰かの話。   作:焼肉ソーダ

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前回から分割したものなので、すこぶる短いです。4000文字ちょっとしかない。
次話からストックがなくなるので定期投稿は難しくなると思われます。


9.打ち上げ? いいえ、残業です。

 ───セリカが、遮音結界を起動する。

 

 内側には、結界を起動したセリカ。そしてアルベルトとリィエル───否、【セルフ・イリュージョン】による変身を解いたグレンとルミア、そして帝国女王アリシア七世、英雄ゼーロスのみが残された。

 

「さあ、馬鹿騒ぎは終いにしようぜオッサン。あんたの忠義も陛下の意志も、俺はよ~っく理解してるからよ」

「戯言を……そこを退け、魔術講師! 時間がない、時間がないのだ……! わしのことなどどうでも良い、だが陛下だけは……ルミア=ティンジェル、貴殿だけはッ!!」

「だから、その必要はもうないんだよ───な、陛下」

 

 それまでずっと俯いていたアリシアが顔を上げる。グレンの手には一枚のアルカナ。それが意味するところは、アリシア自身が良くわかっていた。

 涙に濡れた顔で、ああ、と吐息をこぼす。

 

「セリカ。貴女の言う通りでした───」

 

 ちゃり、と。

 

 アリシアの首から、忌まわしい翠玉が離れて地面に転がる。

 

「ええ、いつもそうだった。グレンという魔術師は、そういう子でした……」

 

 ───ゼーロスが、地面に膝をつく。

 

 それを、アリシアは慰めるように微笑んで。

 

「ゼーロス。もう大丈夫。私はこの通り、なんともありません。だから、顔を上げて……ね?」

「陛下……おお、陛下……!」

「ほら、まだ仕事は残っていますよ。民に、この一件を伝えなければ……最後まで、私を守ってくださいますか? ゼーロス」

「───はっ。我が身命を賭して、必ずや」

 

 それを、グレンは横から眺めつつ、やれやれと息をついた。

 

「……ハッピーエンドはいいけど、この後始末、どうすんだろうな……」

 

 結界の外では、締め出された親衛隊の面々や事情を知らない人間たちが騒いでいる。これを収めるのは苦労しそうだ。だが、それもなんの憂いもなくなったアリシアがなんとかするだろう。

 

 もう母娘を隔てる誤解も、壁もない。黒幕だけは判明していないが、それは他の誰かが突き止めるだろう。

 

 こうして、魔術競技祭を巡る陰謀は幕を閉じたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 俺たちが蚊帳の外になっている間に、事件は解決したらしい。

 

 決勝に語るべきところはなかった。勝つべくして勝ったというか、確かに接戦ではあったけどフィーベルが勝った。そして決勝の勝敗と同時に決定する二組の総合優勝。

 『全員で出場』という、勝負を捨てたとしか思えない方法を採ったグレン先生の率いる二組が優勝した途端、やはり贔屓気味の実況が大興奮、賭けに負けたハーレイ先生大絶叫。全員でフィーベルを胴上げし、ついでにグレン先生がいないことにちょっとしんみりしたりもして。

 

 そして優勝クラスを表彰する段階になって、女王陛下の前にアルベルトさんとレイフォードが二組の代表として立った。そして変身を解除し───その正体、グレン先生とティンジェルの姿が現れた瞬間、突如女王陛下の周りに張られた結界に周囲はなにごとじゃー、と慌てふためいていたのだが、結界が消えた後に女王陛下に危機が迫っていたこと、それを勇敢な魔術講師と学院生徒が解決したこと。それを女王陛下自ら説明すると、騒いでいた奴らは沈静化。ついでに外で騒いでいた王室親衛隊も沈静化。

 

 二組は改めて女王陛下から勲章を賜り、そのお祝いとしてとある飲食店を貸し切りにして打ち上げをやることになった。

 

「よーしお前ら、よくやった! 今日は俺の奢りだ、好きに食え……あ? 事情聴取? 緊急会議!? なんだって俺がそんなもんに参加せにゃ……はいはいそうですよ、バリッバリの関係者ですよ!! くそっ、しょーがねえ、お前ら先行ってろ! 食いすぎるんじゃねえぞ、俺の金なんだからな!!」

 

 と言って功労者のグレン先生は退場。渦中にいたティンジェルもそれについていった。

 

 仕方がないので、グレン先生を胴上げするのは諦めよう……そんな雰囲気を吹き飛ばすように、カッシュが今回の件のお祝いとして件の打ち上げを提案したのだ。

 

「めっちゃメシがうめぇところがあってさ。せっかくグレン先生が出してくれるっていうし、みんなでパーッといこうぜ!?」

 

 ───それが三十分前の話。

 

 そして何故かその賑やかな打ち上げパーティーの最中。

 やったー、これで今日は人のメシが食い放題だー、と喜んでいた俺はというと。

 

「アッシュ! 三番テーブルからデミハンバーグ追加!」

了解(ラジャ)! 店長、さっきの注文三つ上がりました!」

「ありがとう! はいこれ運んで! 休んでる暇はないぞ、久しぶりの書き入れ時だ!!」

 

 嬉しそうに言う店長。上がっていく店内の熱気。

 そして、一応同じ参加者のはずの俺は、何故か延々と厨房で注文を捌いていた───!

 

「くそっ、なんで俺が!」

「ヴィルセルトくん! 手を休めない、どんどんいこう!」

りょーかいぃ(なんでさ)!!」

 

 こういうとき、店長は一切容赦がない。休日出勤させられた俺の気持ちを考えてほしい。ただでさえ今日は色々とあって疲れたというのに!

 

「大丈夫大丈夫、もう少ししたら波も落ち着くだろうから。そうしたら上がってくれて構わないよ。安心してくれ、休日出勤のボーナスも弾むから」

「まあ、それなら……って、そんなことなら最初っから俺抜きで厨房回してくださいよ!」

「ははは、無理無理。ヴィルセルトくん手際いいからねー、こういうときはこき使わないと」

「俺の人権は!?」

「お給料ならあるよ」

「ちくしょう、ありがたく頂戴します!!」

 

 うわー、となんだかこみ上げてくる涙を拭う暇もなくハンバーグを成形してヤケクソのように手のひらに叩きつける。泣いてないもんね、玉ねぎが目にしみただけだしっ。

 

「おいアッシュー、デミグラスハンバーグ遅いぞー。まだかよー」

「ええい、黙れこの大食らい(馬鹿カッシュ)! 注文してからまだ数分しか経ってねえだろ、座ってろ!!」

「おーいアッシュー。こっちのステーキ盛り合わせおかわりー」

「あ、こっちのムニエルもー!」

「てめぇらよりにもよってメインディッシュばっか平らげやがって……!! 野菜も食え、野菜も!!」

 

 勢いのままに整えたハンバーグをフライパンで焼き上げ、その間に少しずつ他の料理の支度をする。一応俺以外の厨房担当もいることにはいるが、みんなそれぞれの仕事で手一杯だ。

 

「ねえアッシュ、これって飲んでも良いやつ?」

「飲み物はあっちのオッサンに言え! あとうちにあるやつは基本商品だ、飲んだら飲んだだけグレン先生に請求がいくってことだけは覚えておけよ!」

「わかった。じゃ、適当に……えーと、すみませーん!」

 

 俺がなんとかハンバーグを完成させている間にも、宴会は盛り上がっていく。

 魚に肉と、とにかく育ち盛りどもは遠慮がない。なんでこんな日にメシを作らねばならんのか。

 

「はー……あ、お疲れヴィルセルトくん。あがっていいよ。ここまでくれば、あとはこっちの面々だけで回せるからね」

 

 そう店長から言われるまで、結局俺は働き通しなのであった。

 ようやく開放され、エプロンを外して空いたテーブルの上に放り投げる。仕事着は大事に扱えと口を酸っぱくして言われているが、この混雑だ。今日くらいは許されるだろう。

 

「あー、くそ……みんな好き放題食い散らかしやがって」

 

 宴会場のテーブルには様々な料理が並べられている。半分くらいは俺が作ったものだ。改めて、作らされていた量の多さにげんなりする。

 

「なーんで打ち上げで、手前で作ったメシを食わにゃならんのだ……」

 

 皿の上に多く余っているものから選んで口に運んでいく。

 ……自分のメシだ。それ以上でもそれ以下でもない。自分で作るメシというのはうまい・まずいとかいう領域を完全にオーバーフローしたなにかである。いわばただの物体X。自炊というのは究極的に、栄養補給の作業でしかない。

 

 俺に散々作らせといて、肝心の野郎どもはすっかりテンション上がって食事から別の方向へとシフトしている。要するにデザート、ドリンクをお供にした思い出話のターンだ。デザートは俺も作れるが、さすがに店長が哀れんだのだろう。厨房では別の料理人がせわしなく働いていた。

 やってらんねー、と机の上に放置されていた瓶を手に取り、コップに注いだ。まだまだデザートを腹に入れるような気分になんてなれないし、メインディッシュばかり作らされたせいで近くにあるものは軒並み俺のメシだった。自分の手が入っていないものなんてこのジュースくらい。せめてこれくらいはいいじゃないか、なあ? と誰にともなく言い聞かせて一気飲みする。甘い芳醇な香りの後に、独特な苦みが舌を刺した。

 

「……ん?」

 

 待て、これジュースだと思ったけど違うな?

 

 ふと気になってラベルを見る。刻まれた銘は『リュ=サフィーレ』。なんのことはない、ただの高級ワインである。

 

「……誰だ、ンなもん頼んだやつ」

 

 よくよく見れば、同じボトルがあっちこっちに転がっている。明らかに値段を度外視した注文の仕方だ。これを全部一人で飲み干したのだとすれば、その犯人は確実に酔っている。

 

「ったく、誰だよこれ開けたやつ。在庫あんまねえんだぞ、いい加減に───」

 

 と、俺が席を立ったそのときである。

 

「あ~っしゅ~~~」

 

 妙に甘ったるい猫なで声───否、むしろ仔猫の鳴き声を思わせる声が俺の名前を呼んだ。

 ていうか、噓だろ。聞き覚えがあるなんてもんじゃないぞ、この声!?

 

「おい、フィーベ」

「あ~、いたあ! も~、どこいってたのよお。おそいっ」

「お前らがバカスカメシ頼むからだろ……って酒くさっ」

 

 一体何本開けたのか、フィーベルは完全にできあがっていた。片手には未開封のリュ=サフィーレの瓶。こいつが犯人か、と悟ると同時、ひったくるようにして瓶を回収した。

 

「あ~ん、かえしてぇ!」

「バッカお前、これがいくらすると思ってんだ! というか水飲め、水!」

「ひょれぇ、すごーくあまくておいひいのー……なんかふわふわするしぃ」

「そりゃ酒だからな! いいから水飲めってのこののんべえ!!」

 

 水の入ったコップを無理やり握らせる。

 これ以上散財されてはグレン先生の給料がまたドン底まで落ちこんでしまう。そうなればまた夕飯をたかられるのは必至。なんとしても阻止せねばならん……!!

 幸い、開けた瓶の数と注文された料理から察するに特別賞与+αが飛ぶだけで済むはずだ。ギャンブルでまたスッたりしない限りは、だが。

 

「も~、ひぇんひぇーもあっしゅも、なあんにもいってくれらいんらもん……れもぉ、らんかあるんらろっておもっひぇ、きかなかったの……えらい?」

「あー、えらいえらい。めっちゃ助かった。だからあとはグレン先生に褒めてもらえ」

 

 未だ姿の見えない担任にすべてを丸投げし、没収した瓶を開ける。どうせ注文してしまっているのだ、この一本くらいは構うまい。

 しかしその間にも、酔っ払いがなーなー言いながら絡み付いてくるので飲みにくいったらありゃしねえ。

 

「……フィーベル、くっつくな。しなだれかかるな。ティンジェルが見たら泣くぞ」

「えぇー……らって、ふたりともこないんらもん……」

「俺は代わりかよ」

 

 酒はあまり嗜まないのだが、アルコール特有の苦みはなんというかクセになりそうだ。素直にうまいとは思えないが、悪くはない。

 いい加減にひっぺがさなくては面倒なことになりそうだ、と酔いの回ってきた頭でぼんやり考えていると、店の入り口から来客を告げる鐘の音が聞こえた。ここで新しく来る人間なんて決まりきっている。

 

「あーーーッ!? お前ら、なにどんちゃん騒ぎしてんだよ!! 控えめにしろっつっただろーがッ!!」

「あ、グレン先生。お疲れ様です!」

「システィ!? うわぁ、真っ赤……酔っぱらっちゃったんだね……」

「よ。お疲れさん、二人とも。早速だけどこの飲んだくれをどーにかしてくれ」

 

 途中で合流したティンジェルにフィーベルをパス。予想出費額に震えるグレン先生にワインボトルをパス。俺は自分のメシを胃に流し込む作業をリスタート。

 

「ま、俺もこれからメシなんで。食いましょ。味は俺が保証します」

「……お前、もしかして今日も働かされ……いや、食うわ。ヤケ酒だ、付き合ってくれアッシュ」

「喜んで」

 

 コップとコップを合わせて乾杯の合図。

 男二人の晩餐会(周りは騒がしいが)も良いだろう。どうせ後片付けにも駆り出されるのだろうし、グレン先生の気が済むまで付き合おう。

 

 ───そうして、あっという間に夜は更けていく。

 

 狂騒は静寂へ。非日常は日常へとそれぞれ戻る。

 この一日が終われば、明日からはまた元通りの毎日が始まるのだ───

 

「……ああ、疲れた(楽しかった)な」

 

 窓から夜空を見上げてつぶやく。

 

 水の入ったグラスには、不気味なほどに白い月が映っていた。




店長
穏和かつホワイト経営者だが時折笑顔で強引かつブラックを疑う働かせ方をする。アフターサービスはする。

なお後片付けにも予想通り駆り出された模様。ボーナスはめっちゃもらった。
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