三時間クオリティなのでいつもより雑だし短い。
親愛を示す3回のノックに、ジョットは入室を促す声を掛けた。
「ジョット君ッ、後
ドアが開けられるなり響く、子供特有の高い声。
無理やりに着せられている少女趣味なスカートを歩き辛そうに捌きながら入室したのは、ジョットがボスであるボンゴレファミリーに於いて作戦参謀の任に就く、齢7つの少女。
特徴的な髪型の
「いつにも増して不機嫌だな、何があった?」
「
この時点でオチが読めたジョットと
常より紅潮させた頬を膨らませる彼女は、幼い少女だからと言って侮っていい相手ではない。
敵の裏を突く作戦を当然のように立案し、ありとあらゆる者を無慈悲に凍えさせる吹雪にすら例えられる、最年少の幹部。それが彼女、レイ・オルテンシアだ。
「そしたら
「うん」
「ちょうどよくランポウ君がいたので仕切り直したのですが、途中から泣きじゃくってチェスどころではなくなり」
「うん」
「ランポウ君の泣き声を聞いてやってきたナックル君に相手をしてもらっていたら、序盤で頭の使い過ぎかフリーズし」
「うん」
「その次に相手をしてくれた雨月君は微妙に将棋のルールが混じり、最終的には笛を吹き始め」
「うん」
「最後アラウディ君が付き合ってくれていたのですが、私が何処に駒を進めるか考えている間に席を立って戻ってきませんでした」
「当然の結果じゃないか?」
素直な感想を宣ったジョットを、レイはキッと睨み付けた。
「…逃亡の仕方がそっくりな辺り、
「あの二人がいるところで言うなよ?」
「わかってますよ、私はバカじゃありません」
ジョット達に吐き出して落ち着いたのか、チェス勝負のことは諦め気味らしいレイと
「じゃあオレが相手をしよう! 書類ももう終わったし!!」
「え、ジョット君もう書類片したんですか? 明日は大嵐では?」
「真面目に街の連中に警戒を促そうかと思ってる」
「相棒と参謀が酷い」
泣き真似を始めたジョットだが、その言い分には一理あった。
ジョットは尋常ではない勘のよさを持つ。彼なら、レイの相手も可能と言えば可能だろう。
偶にはガス抜きも必要だろうと、二人は顔を見合わせて頷き合った。
結局、ジョットとレイのチェス勝負は本来式典などにのみ使用される大広間を構成員で満員にし、その白熱っぷりは長らくボンゴレの語り草となった。
◆
そして、約百五十年後。
『大なく小なく並がいい』という文言を盛り込んだ校歌の通りに平凡な、日本のとある中学校。
その一年の教室で、波打つ黒髪の少女が友人に話し掛けた。
「レイってチェスとかやったりしないの?」
「急にどうしたんだい、花ちゃん」
「あんた頭いいし、そういうの得意そうだなって」
「確かに、レイちゃんなら国際大会でも上位になれる気がする!」
天然気味な友人の純粋な言葉に照れたのか、耳を赤くした
「チェスは、7歳の時に一度やったきりだな」
「何かあったの?」
「いや、年上の知り合いが道具を持ってきてくれたからやってみたんだが、知人の悉くを負かしてしまって。私じゃ誰も勝負にならないということが判明したから、それ以降やってないんだ」
ええ、と驚く友人達に「もう先生来るぞ」とそれぞれの席へと戻るよう促し、少女は窓の外、雲一つない青空へと視線を向ける。
かつてのチェスの勝負は、ほとんどが途中終了というあんまりな結果に終わった。
彼女の頭脳の異常さを知らしめるだけの、結果だった。
だから彼女は、チェスが嫌いだ。
でも、最後の勝負だけは。
大好きな大空と手加減無しで戦って、本当にギリギリで勝ちをもぎ取ったことだけは。
かつての帰る場所が変わり果てる程の歳月を経て尚、彼女の大切な、思い出の一つだった。
・まだ参謀だった雪花
こういう風に思い出を支えにして何とかやっていってる。