………これ黒曜編に入ったら週一投稿になるかもしれない…。
今話は題でわかる通り、彼女が守れなかった“約束”の話となります。
麗らかな日差しの中、紫のリボンで髪を結って桜並木に向かって歩く。
しかし、私の気分は晴れない。ああ、憂鬱だ。春休み、という学生にとっては楽園も同然の時期なのに、何故私がこんなにも憂鬱な気分になっているのか。
今私は、おばあちゃんに頼まれ、お花見の場所取りに来ているのだ。
花見の場所のため、ボンゴレ
私は少しでも可能性があるのなら潰し、万全を期すタイプの人間だ。だが頼んできたのはお世話になっているおばあちゃん。色々な観点から見て断るに断れない。
しかし嘆きたくもなる。何故もう二度と会えぬだろう
慎重に慎重を重ねて動いてきたので、私はまだ雲雀恭弥との邂逅は果たしていない。これ以上、地雷を身近に感じたくはないのに…。
予測はしていたが、やはり今日だったか。重みが更に増す足を意志の力のみで動かし、彼らが騒いでいる場所まで移動する。
「何をしているんだ、君達は」
「あ、レイちゃん!」
「何しに来やがった、ドンヨリ女!」
「レイも花見に来たんだろ?」
足元に転がる学ランリーゼントの風紀委員は敢えて無視し、にこやかに問うてくる山本君に頷きを返す。そして獄寺君、その“ドンヨリ女”というのは私のことか? 私はそんなにドンヨリしているか?
内心ツッコんでいると、冷然とした声が耳に届いた。
「何やら騒がしいと思えば君達か」
ああ…来たのか。来てしまったのか。みんなに似ている
不自然にならない程度に三人から遅れて、声が聞こえてきた方へ顔を向ける。
そよ風に嬲られる濡羽色に、
鋭い瞳の青灰色が、澄んだアイスブルーを思い起こさせる。
肩にかけた学ランも、心なしか今も私の部屋のクローゼットにしまわれているトレンチコートに似ている気がする。
いずれ彼と同じ雲のボンゴレリングを手にするのだろう風紀委員長が、
そこにいた。
「…レイ、大丈夫か?」
リボーン君の声に、意識が現実に戻る。
花咲か爺さんの格好をしているリボーン君に、軽く頷いた。
まさか、警戒対象の彼にここまで接近を許してしまうとは。もうかなりの期間誰かと戦うこともなかったし、幻術も使っていない。鈍くなっているのだろうか。
リングの炎を使えば最悪
「見ての通り僕は人の上に立つのが苦手なようでね。屍の上に立っていた方が落ち着くよ」
少し意識を飛ばしている間に部下を伸していた
自由というか、苛烈というか…何故彼が風紀委員長でいられるかわからないが、恐らくあの強面の副風紀委員長の尽力のお陰なのだろう。
呆れていると、出来上がった男の声が聞こえた。
酒瓶片手に桜の木の後ろから顔を出しているのは、闇医者と殺し屋という正反対の職を兼業しているという
そう言えば、雲雀君が六道骸に敗北を喫したのは、彼のせいで“桜クラ病”という妙な名前の病気に
「おっ! かわいこちゃん発見!!」
考えていたら見つかってしまったようだ。まあ隠れる気もなかったが。私は今戦闘力皆無の一般人なのだ。
だが…好色そうな顔で飛びついてくる
男の急所を捉えるつもりで蹴りを放った脚だが、少し経っても手応えがない。
恐る恐る薄く目を開けると、桜の木の幹に頭をぶつけ、伸びているスケコマシが。
そして私の目の前には、トンファーを持った雲雀君。
「あ…ありがとう」
「別に」
一言返した雲雀君は、リボーン君と取引を始めた。というより、リボーン君の沢田君の名を借りた提案に雲雀君が乗った、と言ったところだが。
そして私が知る通り、その提案に反対するのは沢田君ただ一人。
頑張れ
私が心の中で野次を飛ばしていると、獄寺君
安心して持ってきたブルーシートを木の根元に敷き、完全な傍観体勢になる。だがしかしすぐに敗北する獄寺君。慢心はダメだぞ。続けて山本君もトンファーのギミックにやられる。油断も禁物だ。
死ぬ気弾を撃たれ、雲雀君にハタキで立ち向かって行くのは沢田君。何処から取り出したんだい、その掃除用具。そしてトンファーとハタキって明らかに強度が違うんだが、折れないのは何故だ。
そして、死ぬ気モードが解け───膝を突いたのは雲雀君。
ぶっ飛ばされたので
「約束は約束だ。なら精々桜を楽しむがいいさ」
負け惜しみ感たっぷりな捨て台詞を吐き、立ち去る雲雀君。これでようやく、私も一安心だ。
罪悪感が湧き上がるのは、彼が似ているからだ、と思っておこう。
◇
───イ
──レイ
「レイ・オルテンシア? 大丈夫か、ボーっとしているが」
「え、あ、はい、大丈夫です。体調も万全です」
上座の
「で、何の話してましたっけ」
「おい、本当に大丈夫か?」
ジョット君から見て右側の席、私より3つジョット君に近い席に座る
「桜だ。博識なお前なら知っているだろう?」
ああ、そうだ。遠い異国の地にて春の風物詩とされる、一時のみ美しく咲く儚き花。それについて、
「───なぁ、行ってみないか。ここが落ち着いたら、全員で雨月の故郷へ、桜の咲く頃に。それで、みんなで花見をしよう」
ジョット君の言葉に誘われるように、想像してみる。
淡い色の花が咲き誇り、その花びらが舞い落ちる中。
みんな揃って花見と洒落込む、私達の姿を。
───それは、きっと。幸せな光景だ。
「凄くいいわ、ジョット!」
「オレ様団子が食べたいんだものね!」
「究極にいい案だ!!」
「君は稀にいい提案をしますよね、稀に」
「本当にな」
「まあ、いいんじゃない」
エレナさんに続き同意を示すのはランポウ君。その向かい側のナックル君も暑苦しく同意し、エレナさんの右隣に座る
「レイはどう?」
「まさか行かないなんて言わないんだものね?」
「ランポウ、そりゃ脅しだ」
ランポウ君が色々言っているが、考えるまでもない。
「勿論行きます、絶対行きます」
「よし! じゃあレイ、旅行の計画を立てるのは任せたぞ!!」
「はい!?」
いや、どうしてそうなった!? 私は行きたいと言っただけなのだが!?
「レイはそういうプランニングも上手いだろう? どうだ、レイ以上に素晴らしい旅行計画を立てられると思う者ー?」
挙手は0。中には顔を背ける者までいる。当たり前だ。だが…これは酷くないか!? 恨むぞ、一生恨むぞ!
「あーもう、わかりましたよ! 立てればいいんでしょ、立てれば!!」
エレナさんの期待に溢れた視線に耐えられず叫んだ後で、頬を膨らませて茹で野菜を頬張る。
「ただし皆さん、怪我しないでくださいね! 病気にも
野菜を飲み込んでからもう一度叫ぶと、返ってきたのは力強い同意の声。
雨月君に何があるのかと訊いたり、はしゃいでいる
本当に嬉しそうで、楽しそうで。
永遠にこの時間が続ければいいとすら思う。
「…よかったね、レイ」
「はい! 楽しみです!」
心なしか嬉しそうに唇を緩めて、頭を撫でてくれたアラウディ君に満面の笑みでそう返し、目を開けると。
「うわっ!! レイちゃん、いきなり起きないでよ…」
琥珀色の瞳を見開いた沢田君が、驚いて後ろに退がった。
「人なんて誰しも起きる時は突然じゃねーか」
「そりゃそうだけど…」
リボーン君との会話を聞き流しながら何度か瞬きして、これが現実であると認識する。
………ああ、そうか。
あれは夢。
いつかは醒める、泡沫の幻。
夢なら、醒めないで欲しかった。
幻なら、
はらりはらりと舞い散る花びらを目で追っていると、肩を軽く叩かれる。
「レイちゃん、ありがとね。私達も一緒にお花見させてくれて」
「いえ、二人きりでは味気ないと、祖母とも話していたので」
礼を言ってきたのは沢田君のお母さん、奈々さん。
あの後合流したおばあちゃんとも相談し、沢田一家と花見をしたのだ。勿論ビアンキさんのポイズンクッキングは食べていない。
「…散る桜が、そんなに気になるか?」
声をかけてきたリボーン君に、頷く。
「なんだか、雪のようで、な」
「確かに似てるな」
私が、司る天候。
7番目の、天候。
私の、象徴。
それに、似ている。
「でも…少し、淋しいな」
花見は、賑やかだった。
でも…みんなが一緒でなければ、どんな喧騒も静寂に等しい。
美しいはずの花も、色褪せて見えるんだ。
会いたいよ、みんな。
また、みんなで笑い合いたい。
叶うのなら…この、儚く優しい花の下で。
・約束を守れなかった
最近はもう感覚が麻痺してきていたが、初の雲雀との接近遭遇に放心状態まで行った。この後クラス替えでツナ達と離れられず絶望する。
約束が、叶うなんて思ってない。一瞬後に誰が欠けてもおかしくない。最悪な未来への分岐点はそこら中に転がってる。でも、それでも───
───叶えばいいと、願ってしまった。