参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

19 / 87
土曜日なので滑り込みセーフってことで!! まだ週二投稿の目標は達成されている!!
………これ黒曜編に入ったら週一投稿になるかもしれない…。

今話は題でわかる通り、彼女が守れなかった“約束”の話となります。


標的17 桜、雲、夢、約束

 麗らかな日差しの中、紫のリボンで髪を結って桜並木に向かって歩く。

 

 しかし、私の気分は晴れない。ああ、憂鬱だ。春休み、という学生にとっては楽園も同然の時期なのに、何故私がこんなにも憂鬱な気分になっているのか。

 今私は、おばあちゃんに頼まれ、お花見の場所取りに来ているのだ。

 

 花見の場所のため、ボンゴレX世(デーチモ)一行は一対一(サシ)の勝負をすることになる。相手となるのは並中風紀委員長・雲雀恭弥。

 

 

 私は少しでも可能性があるのなら潰し、万全を期すタイプの人間だ。だが頼んできたのはお世話になっているおばあちゃん。色々な観点から見て断るに断れない。

 

 しかし嘆きたくもなる。何故もう二度と会えぬだろう家族(ファミリー)に生き写しな人物に会いに行かねばならんのだ。

 慎重に慎重を重ねて動いてきたので、私はまだ雲雀恭弥との邂逅は果たしていない。これ以上、地雷を身近に感じたくはないのに…。

 

 

 断頭台(ギロチン)の十三階段を登るような重い足取りで進んでいると、喧騒が耳に入る。

 予測はしていたが、やはり今日だったか。重みが更に増す足を意志の力のみで動かし、彼らが騒いでいる場所まで移動する。

 

 

「何をしているんだ、君達は」

「あ、レイちゃん!」

「何しに来やがった、ドンヨリ女!」

「レイも花見に来たんだろ?」

 

 

 足元に転がる学ランリーゼントの風紀委員は敢えて無視し、にこやかに問うてくる山本君に頷きを返す。そして獄寺君、その“ドンヨリ女”というのは私のことか? 私はそんなにドンヨリしているか?

 

 内心ツッコんでいると、冷然とした声が耳に届いた。

 

 

「何やら騒がしいと思えば君達か」

 

 

 ああ…来たのか。来てしまったのか。みんなに似ているX世(デーチモ)ファミリーの中でも、彼にだけは会いたくなかったのに。

 

 不自然にならない程度に三人から遅れて、声が聞こえてきた方へ顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 そよ風に嬲られる濡羽色に、白金色(プラチナ・ブロンド)が重なる。

 

 

 

 

 鋭い瞳の青灰色が、澄んだアイスブルーを思い起こさせる。

 

 

 

 

 肩にかけた学ランも、心なしか今も私の部屋のクローゼットにしまわれているトレンチコートに似ている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いずれ彼と同じ雲のボンゴレリングを手にするのだろう風紀委員長が、

 

 

 そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…レイ、大丈夫か?」

 

 

 リボーン君の声に、意識が現実に戻る。

 

 花咲か爺さんの格好をしているリボーン君に、軽く頷いた。

 

 まさか、警戒対象の彼にここまで接近を許してしまうとは。もうかなりの期間誰かと戦うこともなかったし、幻術も使っていない。鈍くなっているのだろうか。

 リングの炎を使えば最悪復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄に投獄されかねないが、今私の手元にリングはない。必然精度は落ちるが炎ナシでも幻術を使ってみるか。

 

 

「見ての通り僕は人の上に立つのが苦手なようでね。屍の上に立っていた方が落ち着くよ」

 

 

 少し意識を飛ばしている間に部下を伸していたX世(デーチモ)の雲。

 自由というか、苛烈というか…何故彼が風紀委員長でいられるかわからないが、恐らくあの強面の副風紀委員長の尽力のお陰なのだろう。

 

 

 呆れていると、出来上がった男の声が聞こえた。

 酒瓶片手に桜の木の後ろから顔を出しているのは、闇医者と殺し屋という正反対の職を兼業しているというDr.(ドクター)シャマルだ。

 

 そう言えば、雲雀君が六道骸に敗北を喫したのは、彼のせいで“桜クラ病”という妙な名前の病気に(かか)ったからだったか。カタギに手を出すって、それ大丈夫なのだろうか。主に“沈黙の掟(オメルタ)”関係。

 

 

「おっ! かわいこちゃん発見!!」

 

 

 考えていたら見つかってしまったようだ。まあ隠れる気もなかったが。私は今戦闘力皆無の一般人なのだ。

 

 だが…好色そうな顔で飛びついてくるDr.(ドクター)シャマルに、思わず目を瞑って回し蹴りを繰り出したのは不可抗力だと思う。だって気持ち悪かったんだ。あのままだったら女として大切な何かを失っていた気がするし。

 

 

 男の急所を捉えるつもりで蹴りを放った脚だが、少し経っても手応えがない。

 恐る恐る薄く目を開けると、桜の木の幹に頭をぶつけ、伸びているスケコマシが。

 

 そして私の目の前には、トンファーを持った雲雀君。

 

 

「あ…ありがとう」

「別に」

 

 

 一言返した雲雀君は、リボーン君と取引を始めた。というより、リボーン君の沢田君の名を借りた提案に雲雀君が乗った、と言ったところだが。

 

 そして私が知る通り、その提案に反対するのは沢田君ただ一人。

 頑張れX世(デーチモ)、今後君に降り掛かる苦難はこれ以上だ。こんなところでへこたれるな。

 

 

 私が心の中で野次を飛ばしていると、獄寺君VS.(バーサス)雲雀君の勝負が始まった。どうやら私は沢田君陣営としてカウントされているが、戦わなくてもいいらしい。よかったよかった。

 

 安心して持ってきたブルーシートを木の根元に敷き、完全な傍観体勢になる。だがしかしすぐに敗北する獄寺君。慢心はダメだぞ。続けて山本君もトンファーのギミックにやられる。油断も禁物だ。

 

 

 死ぬ気弾を撃たれ、雲雀君にハタキで立ち向かって行くのは沢田君。何処から取り出したんだい、その掃除用具。そしてトンファーとハタキって明らかに強度が違うんだが、折れないのは何故だ。

 

 そして、死ぬ気モードが解け───膝を突いたのは雲雀君。

 

 

 ぶっ飛ばされたので奇病(桜クラ病)に感染させたらしいDr.(ドクター)。これが原因で雲雀君が生命の危機に陥ると知ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。

 

 

「約束は約束だ。なら精々桜を楽しむがいいさ」

 

 

 負け惜しみ感たっぷりな捨て台詞を吐き、立ち去る雲雀君。これでようやく、私も一安心だ。

 

 罪悪感が湧き上がるのは、彼が似ているからだ、と思っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───イ

 

 ──レイ

 

 

「レイ・オルテンシア? 大丈夫か、ボーっとしているが」

「え、あ、はい、大丈夫です。体調も万全です」

 

 

 上座の所謂(いわゆる)お誕生日席に座る、不安げな表情のジョット君に速攻で返し、ナイフとフォークを握った手を再び動かす。

 

 

「で、何の話してましたっけ」

「おい、本当に大丈夫か?」

 

 

 ジョット君から見て右側の席、私より3つジョット君に近い席に座るG(ジー)君が、胡乱げに視線を向けてくる。真向かいに座るエレナさんも手が止まっているし、隣の席のアラウディ君からの視線が痛い。本当に大丈夫だ、少しボーっとしてただけだから。

 

 

「桜だ。博識なお前なら知っているだろう?」

 

 

 ああ、そうだ。遠い異国の地にて春の風物詩とされる、一時のみ美しく咲く儚き花。それについて、G(ジー)君の向かいの席の雨月君が話してくれていたんだった。

 

 

「───なぁ、行ってみないか。ここが落ち着いたら、全員で雨月の故郷へ、桜の咲く頃に。それで、みんなで花見をしよう」

 

 

 ジョット君の言葉に誘われるように、想像してみる。

 

 淡い色の花が咲き誇り、その花びらが舞い落ちる中。

 みんな揃って花見と洒落込む、私達の姿を。

 

 

 ───それは、きっと。幸せな光景だ。

 

 

「凄くいいわ、ジョット!」

「オレ様団子が食べたいんだものね!」

「究極にいい案だ!!」

「君は稀にいい提案をしますよね、稀に」

「本当にな」

「まあ、いいんじゃない」

 

 

 エレナさんに続き同意を示すのはランポウ君。その向かい側のナックル君も暑苦しく同意し、エレナさんの右隣に座るD(デイモン)君とG(ジー)君も手厳しいことを言いながらも満更でもなさそうだ。そして基本「興味ないな」で全てを流すアラウディ君まで同意。

 

 

「レイはどう?」

「まさか行かないなんて言わないんだものね?」

「ランポウ、そりゃ脅しだ」

 

 

 ランポウ君が色々言っているが、考えるまでもない。

 

 

「勿論行きます、絶対行きます」

「よし! じゃあレイ、旅行の計画を立てるのは任せたぞ!!」

「はい!?」

 

 

 いや、どうしてそうなった!? 私は行きたいと言っただけなのだが!?

 

 

「レイはそういうプランニングも上手いだろう? どうだ、レイ以上に素晴らしい旅行計画を立てられると思う者ー?」

 

 

 挙手は0。中には顔を背ける者までいる。当たり前だ。だが…これは酷くないか!? 恨むぞ、一生恨むぞ!

 

 

「あーもう、わかりましたよ! 立てればいいんでしょ、立てれば!!」

 

 

 エレナさんの期待に溢れた視線に耐えられず叫んだ後で、頬を膨らませて茹で野菜を頬張る。

 

 

「ただし皆さん、怪我しないでくださいね! 病気にも(かか)らないでくださいね! 絶対みんなで行きますよ!!」

 

 

 野菜を飲み込んでからもう一度叫ぶと、返ってきたのは力強い同意の声。

 

 

 雨月君に何があるのかと訊いたり、はしゃいでいる家族(ファミリー)

 

 

 本当に嬉しそうで、楽しそうで。

 

 永遠にこの時間が続ければいいとすら思う。

 

 

「…よかったね、レイ」

「はい! 楽しみです!」

 

 

 心なしか嬉しそうに唇を緩めて、頭を撫でてくれたアラウディ君に満面の笑みでそう返し、目を開けると。

 

 

「うわっ!! レイちゃん、いきなり起きないでよ…」

 

 

 琥珀色の瞳を見開いた沢田君が、驚いて後ろに退がった。

 

 

「人なんて誰しも起きる時は突然じゃねーか」

「そりゃそうだけど…」

 

 

 リボーン君との会話を聞き流しながら何度か瞬きして、これが現実であると認識する。

 

 

 ………ああ、そうか。

 

 

 あれは夢。

 

 いつかは醒める、泡沫の幻。

 

 

 

 夢なら、醒めないで欲しかった。

 

 幻なら、(うつつ)と思い込ませて欲しかった。

 

 

 

 はらりはらりと舞い散る花びらを目で追っていると、肩を軽く叩かれる。

 

 

「レイちゃん、ありがとね。私達も一緒にお花見させてくれて」

「いえ、二人きりでは味気ないと、祖母とも話していたので」

 

 

 礼を言ってきたのは沢田君のお母さん、奈々さん。

 あの後合流したおばあちゃんとも相談し、沢田一家と花見をしたのだ。勿論ビアンキさんのポイズンクッキングは食べていない。

 

 

「…散る桜が、そんなに気になるか?」

 

 

 声をかけてきたリボーン君に、頷く。

 

 

「なんだか、雪のようで、な」

「確かに似てるな」

 

 

 私が、司る天候。

 

 7番目の、天候。

 

 

 私の、象徴。

 

 

 それに、似ている。

 

 

「でも…少し、淋しいな」

 

 

 花見は、賑やかだった。

 

 

 でも…みんなが一緒でなければ、どんな喧騒も静寂に等しい。

 

 美しいはずの花も、色褪せて見えるんだ。

 

 

 

 会いたいよ、みんな。

 

 

 また、みんなで笑い合いたい。

 

 

 

 叶うのなら…この、儚く優しい花の下で。




・約束を守れなかった

 最近はもう感覚が麻痺してきていたが、初の雲雀との接近遭遇に放心状態まで行った。この後クラス替えでツナ達と離れられず絶望する。
 約束が、叶うなんて思ってない。一瞬後に誰が欠けてもおかしくない。最悪な未来への分岐点はそこら中に転がってる。でも、それでも───

 ───叶えばいいと、願ってしまった。



I世(プリーモ)ファミリーの席順は標的292の扉絵より。あそこの一番手前にレイ、エレナがそれぞれ座っております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。