「大変だものねぇ〜〜!!」
大声で叫びながら店に飛び込んで来たのは、ジョット君より少し歳下の、ライムグリーンの天パの青年。
右目の下の稲妻のマークが示す通り、彼はジョット君の雷の守護者だ。
「何が大変なんです、ランポウ君…と、ナックル君」
続けて飛び込んで来た黒髪に
「レイ!! 究極に大変なのだ!!」
「や、だから何が大変なんです?」
ダメだ、この二人話通じない。
そのことを早々に悟った私は、喚く彼らを放って、ボンゴレ本部へと走ることに決めた。
私の服はおじいちゃんを亡くした一年前から変化していない。つまり常にズボンとシャツ、ベストといういつぞやのアラウディ君そっくりな服装。髪が短ければ男子に間違われるのは確かだ。
でも今日みたいなことがあるから、スカートなんて走り難いものを着ていられないんだ。つまりはボンゴレのせいだ。
運動神経のよさにモノを言わせて疾走する私の後ろから喧騒が追いかけて来るところを見ると、あの二人も本部に戻ることにしたらしい。いや、ただ私を追いかけてるだけだなこれは。
門番なんて不粋なものはいない自警団ボンゴレ本部の正門を突っ切り、玄関ホールに飛び込む。
諸事情あって場所を知ってしまった
「おっ。早かったな、レイ」
「私に、来て、欲しいんなら、せめて、話の通じる人を、遣いにしてください」
荒い息を整えながら
話が通じなくてここまで走ってきたのがわかったのか、変な笑い声を上げた変な格好の南国果実…
「レイはもう少し素直になった方がいいと思うでござるよ」
「私はこれでいいんですよ、雨月君」
ちょっとズレたことを言った雨の守護者・浅利雨月君にそう返した私は、端的に「さっさと事情を説明してくれないと帰ります」と脅し…ではなく告げて、ボンゴレの現状を教えてもらった。
情報は一番の武器。そして私にとっては、判断材料となるもの。情報がなければ、私は翼をもがれた鳥に等しい。
何でも、ジョット君が視察に行った街が敵に攻められているらしく。攻められていると言っても戦闘に発展している訳ではなく、街を通る街道が封鎖されている状態。
そして敵はジョット君の首級を要求している、と。
「で、その街がここだ」
机の上に地図を広げた
ちょうどボンゴレと他勢力の支配地域の境界線に存在する街。
「…取られると、まずいですね」
ボンゴレが勢力を伸ばしていく中で、戦力的な問題でどうしても手を伸ばせない地域も存在する。その街は、そんな地域と本部のあるこの街の間にあり、そこを取られると敵にボンゴレ本部を叩く機を与えることになりかねない。
けれども、敵はいつでも街を包囲し、ジョット君を殺すことが可能。
状況は非常に不利。
しかし私は、奪還は不可能ではないと判断。ここにはボンゴレの最高戦力が集っているのだから。
彼らを戦力として配置した場合の未来を脳内でシミュレート。複数試し、一番犠牲が少なく済む作戦を選択。
置き時計を見ると、まだ一分と経っていない。思考が加速する感覚は快くすらあるが、少しばかりズレが生じるのが嫌なところだ。
「
「中央の敵はどうするのです? 最悪街に攻め込まれますよ?」
「ご安心を、
強く言い切ると、
「雨月君とナックル君はその間、本部の防衛を。ボスを取り戻しに向かって本部を取られました、では洒落にもなりません」
「部下はどうする?」
「今回は極秘作戦として、部下の皆さんはお留守番です。…それに、これはチャンスでもあります」
何がチャンスなのかわからないのか、一様に不思議そうな顔をする守護者陣を、私は睥睨する。
「ボンゴレの動向はイタリアのみならず
ですが、ここで速やかにジョット君の救出? 奪還? を成功させれば、守護者の力を示すことができます。
更に、今後同じようにジョット君が一人のところを狙って攻めても、すぐ守護者が駆けつけるという予想がし易くなるので、敵対ファミリーへの牽制にもなる…いいこと尽くめです」
一つ一つ理由を並べられてようやく理解出来たのか、納得の表情を浮かべる6人。
もうちょっと早く理解できなかったのか、特に
「なので、皆さんは遠慮なく暴れてください!」
………などと力強く宣った私は、現在恥ずかしくてしょうがない状態に陥っていた。
「…アラウディ君、下ろしてください」
「ダメだよ。座るところもないし、それに君軽いから気にならない」
「私が気にします」
四人乗りの馬車の中、私はアラウディ君の膝の上に座るハメになっていた。今の私は肉体年齢は6歳でも、精神年齢はそれを大きく上回っていると自負している。恥ずかしくない訳がないだろう。
羞恥に悶える私を放って、
「アラウディ、こいつそんなに軽いか?」
「軽いよ、ホラ」
「わっ」
何の断りもなく、ひょいっと持ち上げられる。
軽いことを表現したかったのはわかるが、私のメンタルに深い傷を負わせるかもしれないことも考慮して欲しかった。
「…レイ、ちゃんと飯食ってるか?」
「食べてますよ、三食きっちり」
訝しげな顔で訊いてくる
本当だ、きっちり食べている。一人暮らしだからといって好き嫌いなんてしていない。
正直に言っても中々信じてもらえず、むくれているとまさかのアラウディ君に
「では、作戦通りにお願いします」
「おう、任せとけ」
たった二人ずつとはいえ、発見されれば街に突入される可能性も無きにしも非ず。けれど今回は私がいる。そんなことには絶対にならないと、断言してやろう。
四人がそれぞれ散って行ったのを確認して、私は“相棒”を創り上げる。
流氷のような色合いの毛並みを持つ、
フェンリルを駆りながら道沿いの家屋を見ると、どの家も真っ昼間にも関わらず雨戸を閉めている。更に、住人の姿も見られない。
街全体に厳戒態勢が敷かれているのだろう。
そのまま急ぐと、間に合わせのお粗末なバリケードの前に陣取る住人の集団がいた。腕に覚えのある者を集めたのか、各々武器を手に取っている。
その中に、一際目立つ金のツンツン
「やる気のようですが…出番は与えませんよ」
バカバカしい程にいい勘で私がやって来るのがわかったのか、振り向いたジョット君の表情はとても嬉しそうで。
その頭上を、フェンリルが跳び越える。
バリケードを背にフェンリルから飛び降りると、眼前に広がるのは夥しい人の群れ。バリケード越しでよく見えなかったが、どうやらバリケードを挟んで睨み合っていた様子。
なんという危険な手に出ているのか、と呆れながらフェンリルに手を翳した。
と、その体を構成する氷が収束し、細長く変形する。
刹那ののちに私の手には、小柄な私でも振り回せるほどに細身の、両刃の剣。
その色は、刀身から柄までフェンリルと同じ青みがかった白で統一されている。
闖入者が明らかに武器とわかる形状のものを手にしたことで、敵もようやっと動きを見せるが…。
「遅いです」
言いながら敵に剣を向け一閃───
───はせず、目の前の地面に突き刺した。
私の奇行に敵は硬直しているが、その隙が命取り。いや、本当に命を取る訳ではないが。
突然だが、私の“
幻覚は頭で
私の能力は、同じように
ただ、私は創れるものが限られている。
“氷”か“雪”。
冷気を伴うそれらでなければ、私は創り出せない。
私はこの謎の能力を『スネグーラチカ』と呼称している。呼び名がなければ扱い難いからな。
スネグーラチカというのは、ロシア版サンタクロースの孫娘の名前。彼女は雪に命を吹き込まれて生まれた存在らしく、ぴったりだ。
話を戻すと、別に無動作であっても能力を発動させることはできる。
だがその特性上、目印や合図のようなものがあると段違いにやり易くなる。この能力を自覚してからの試行錯誤により、私はそれに気付いた。
要は六道骸が幻覚を発動させる時、三叉槍の柄で地面を打つのと同じだ。
冷気が漂い、霜が降り、そして凍りついていく。
私としたことが言い忘れていたが、冷気も多少であれば操ることは可能。決まった形がないからか、難しくはあるが。
あっという間に人の形をしたオブジェが数百完成。大丈夫、殺してはいない。コールドスリープ状態なだけだ。
「す、すげぇ…」
「あんだけの敵を…」
バリケードの後ろから何やら騒ぐ声が聞こえるが、ジョット君の一言で場の空気が変わった。
「凄いだろう!! あいつがボンゴレの作戦参謀のレイだ!!」
「……は?」
たった一言だが、効果は覿面。
どちらかというと畏怖の色が強かった声が、一気に歓迎ムードの歓声に変わる。
恐慌状態に陥る可能性もあるにはあったから、いい判断であることは認めよう。だが…何故作戦参謀と言った? 『ボンゴレの』だけで味方だということはわかるだろうに。
あれ、これまさか、既成事実を作るつもりか?
「まずい…もの凄くまずい……」
「どうしたの、死にそうな顔して」
掛けられた声に振り向くと、そこには心なしか不安げな面持ちのアラウディ君と、その他3名が。
彼らが近付くのにも気付かない程、私は考え込んでいたらしい。
先程の『ボンゴレの作戦参謀』発言を聞いていたのか、
…いや、違う。
「これが目的でしたか」
「え?」
「私に敵を制圧させ、その流れで既成事実を作る…素晴らしい策略です」
つぅ、と
「恐らく、ナックル君とランポウ君は何も知りませんね。アラウディ君と雨月君は一度は宥めたものの傍観。
不穏な空気を察知して幻覚で姿をくらませようとした
「ジョット君、
怒りのままに叫んだ瞬間、三人の体が大小の雪玉で覆われる。顔だけは出ているものの、雪が硬くて脱出はできないだろう。
「ま、待ってくれレイ!」
「これどうにかしなさい!!」
「つかなんで呼び方格下げされてんだ!」
抗議は無視して、氷の剣をオブジェ目掛けて一閃。
拘束が文字通りに溶けた彼らに、声を掛ける。
「こんにちは、ボンゴレに仇なす皆さん。突然で申し訳ありませんが、投降か逃亡か、どちらかお好きな方を選んでください」
何が起きたのかわからなかったのか。少しの間茫然としていた彼らは、視線を交わすと指揮官と思われる人を筆頭に武器を捨て始めた。
「さあ、アラウディ君にランポウ君、帰りましょう」
「え、でもあいつらどうするんだものね?」
ランポウ君が指差す先には雪だるまの三人と投降してきた敵の皆さん。
「雪は最悪死ぬ気の炎でも溶かせます、脱出後は諸々の手続きをやってもらいましょう」
私を嵌めてくれたんだ、雪だるまにするだけが罰だと思ったか。
敵を味方に引き入れると色々と忙しくなるし、もし納得できていない人達が反乱を起こしてもあの三人がいるなら過剰戦力だ。
自分で立てた計画の完璧さを脳内で自画自賛していると、馬車の中でのようにひょいっと持ち上げられた。
「あ、アラウディ君!?」
「…手、冷たくなってる」
私を片腕で抱き抱えて、空いている手で私の手を頬っぺたに触れさせたアラウディ君。君は本当に、どこまでも私を子供扱いしてくれるな。
「…まあ、氷に触っていましたから」
手袋でも有ればよかったんだが、生憎今回はそこまで気が回らなかった。そんなに急いでしまうなんて、私もジョット君の大空気質に惹かれてしまっているのだろうか。
そう、と短く返したアラウディ君に、帰りの馬車の中でも行きと同様膝の上に座らせられたのは言うまでもないだろう。
・嵌められた
とっても不機嫌、でも結局受け入れている辺り損得勘定はできる。
多分結果がわかっていても助けに行った。それだけ自警団ボンゴレの面々には情がある。
・嵌めた大空
拒否られ続けたからファミリーに相談して強硬手段に出た。
ちゃんと懐に入ってくれて、信頼もされているのがわかったので満足。
レイがなまじ頭がいい分、いつ自分の“無自覚な怪物”的なところに気付くか割とヒヤヒヤしてた。気付く前に身内に引き入れられたので一安心。