黒曜編は5話くらいでサクッと終わらせるつもりだったんですが、それが不可能だということがプロットからの割り出しで判明いたしました。年内には終わらせたかったんだけどな…。
年を跨ぐことになりそうですが、どうぞお付き合いください。
流れるように超危険人物こと六道君の元を離れたが、今回の件の主犯たる彼を最終的に倒すのが沢田君とは言え、その前には雲雀君の助力もあった方がスムーズだ。
故に私は、本来であれば病院に救急搬送待った無しの怪我人を抱え敵陣の只中に留まるという、
黒曜ランドから離れようとしたら重傷を負っているはずの雲雀君の抵抗を受けてやむなく、とかじゃない。ないったらない。
しかし彼が下手をすれば命の危険すらあるのは間違いない訳で。
そのため、コンクリートの建物の影を隠れ場所に定めた私が一番にしたのは、シャツの袖やお腹周りという比較的無くても構わない布を拝借した折りたたみ式ナイフで裂き、包帯を作ることだった。
「…別にいいよ」
構うな、と言いたげにそっぽを向く雲雀君に、「それはできない」と静かに返す。
何であれ、応急処置は必須。
せめて血止めはしないと、失血死する可能性すらあるのだ。
通学鞄に突っ込んでいた予備のハンカチで傷口を圧迫し止血。更に細く裂いた元シャツを巻き、縛る。
あの時代、抗争で怪我をしても晴の炎を使える者がいなければ自分達でどうにかするしかなかった。そのため、ランポウ君でも簡単な処置は知っている。
というか私と
…考えてみると私って、結構スパルタなのか? 否定する材料が見当たらないのだが。
ぐだぐだと考えつつも手を素早く動かして包帯を巻きつけ、顔や手の小さな傷は鞄に入っていた絆創膏を貼る。放置すると菌が入る可能性もあるからな、万全を期して悪いことはあるまい。
「よし、終わったぞ。だがここから帰ったらすぐ病院に行き給えよ、あくまで応急処置なのだから」
見かけではわからないが、骨折している箇所もあるだろう。折れた骨が臓器に刺さって、というようなことにはなっていないが、治る過程で変なくっつき方をしても困る。私も医学は齧っただけな上、ここには碌に道具もないから下手なことはできないし。
「僕は頼んでない」
「そうだな、私も頼まれてなどいない。ただの自己満足だ」
そう言って
その心底呆れていると示す動作はアラウディ君もよくしていたもので、ズキリと胸が痛む。
それを隠すように、ワザと明るく声を出しながら鞄から処方箋を取り出した。
「ああ、そうだ。
「…そういうことは先に言ったら?」
文句はサラリと聞き流し、カプセルを開ける。中から出て来た蚊が雲雀君の頬に止まり、その後すぐフラフラと何処かへ飛んで行った。
それと入れ替わるようにやって来たのは、見覚えのある黄色い鳥。
「…何これ、ヒヨコ?」
「ヒヨコは飛べないぞ、雲雀君」
ぽすりとまるで落下するように雲雀君の髪の上に着地した黄色い鳥…未来のヒバードに、一応飼い主認定されるはずの雲雀君は鬱陶しそうな顔をした。
「確かにヒヨコに似ているが…丸っこい体に合わぬ長い嘴に大きな翼。自然界で生まれたにしてはアンバランスが過ぎる」
「つまり?」
「遺伝子操作か何かで、人工的に生み出されたのだろう。少なくとも、飼い主がいるのは間違いあるまい」
雲雀君の頭の上で寛いでいたヒバードを優しく掬い上げ、その丸い胴に埋め込まれた無機物を指す。
「恐らく小型カメラのレンズだ。逃げ出した私達を監視するため、ここに飛ばしたんだろうな。要するに、私達は奴らの目を掻い潜りここから出なければならんということだ」
「どの道全員咬み殺すんだ、問題ない」
整った顔に浮かぶ、獰猛な笑み。
草食動物がやってくるのを待ち構え、今にも飛び掛からんとする肉食動物を思わせるそれによく似た表情を───私は知っている。
「そうか。ならいい…と言いたいところだが、そう上手くは行くまい」
感傷を抑え、冷静さを保ちながら会話を続ける。
ここからは、ある種の賭けであり、勝負だ。
相手はリボーン君。方法は至ってシンプル。雲雀君経由で情報を流し、彼の救出時に私が幻覚の存在に気付いたと思い込ませる。
もしこの勝負に負けたとしても、私には特に害はない。
現状、リボーン君は私を計りかねている。私という存在を無理に排除しない辺り、少なくとも沢田君に害を成すことはないと判断しているのだろう。
まあまさか、その判断すら私が張り巡らした糸の先に結び付けていたものだとは思いもしないだろうが。
こういう風に、日常を過ごしておきながらそれと並行して謀略の糸を張り巡らすのは、得意だ。
それでこそ、私は雪たり得たのだから。
「君がいた部屋にあった桜に偶然
「……存在、していない…幻?」
「その可能性が高いだろう。と言っても、私も未だ信じられんがな。幻を自由に見せることができるなど、聞いたことがない」
嘘である。めっちゃ聞いたことある。掛かった回数も片手じゃ足りない。それどころか多少なら使える。
恐らくそれがバレたらカミコロ待った無しだろう。全部終わった後生きてたらいいな。
「だが、もしその仮定が確かだとすれば、勝機はほぼ無いに等しいぞ」
「だから何?」
だから何、か。
……それでこそ、“孤高の浮雲”だよ。
「わかった。ならひとまず体を休めておけ。何かあったら起こすから」
「……」
そっぽを向いて眠りについた雲雀君の様子を伺い、私も目を閉じる。
だが、あくまで目を閉ざしただけ。頭は今も高速で回転を続けている。
仮定をしよう。
今まで回避の可能性を探り続けてきた、最悪の仮定だ。
例えば何らかの要因で、私が沢田君に、いや現ボンゴレに関わらざるを得なくなった場合。
関わらずに済むのなら、それが一番だ。
だが私にも個人的な目的がある。先程の検証で定まったそれの達成のためならば、何処まで許せる?
ジョット君の雪であると明かすこと。どんなメリットがあったとしても、これは論外でしかない。
今のボンゴレに縛り付けられるのは避けたい。古い傷を抉っても、ただ痛いだけだ。
なら、沢田君のファミリーとしての関係はどうだろうか。
レイ・オルテンシア・イヴではなく、松崎レイとしてボンゴレに所属する未来。
(最悪の中では、最善だな)
この一年弱、張り巡らしてきた糸。それを使えば、スネグーラチカのことも、ある程度戦う
沢田君達にも、クラスメイトの延長として接すればいい。
そういう未来の可能性としてなら、あの10年後の未来のことも受け入れられる。
まあ、10年バズーカを改良してまで過去に干渉したのに、肝心の入れ替わり時間が短くなっていることは不可思議だけれども。
ざっと読み取ったバズーカの弾の仕組みからして、入れ替わり時間は5分が基本。それが1分以下になっていた辺り、何らかの細工を行ったのは明白だ。
一体全体、あの未来の私は何を望んでいたのやら。
…入れ替わりを行った場合に肉体に出る影響を確かめていた、という線が濃厚だな。
あっさりと見つかった答えの意味は敢えて深く考えず、堪えきれなかったあくびを零す。いかん、目を瞑っているうちに眠くなってきた。
スネグーラチカで作った小鳥に周囲を見張らせているから、もし何かあっても安心だ。沢田君達が来るまで、と決め、私も鉄パイプを抱えて短い眠りに落ちた。
・お昼寝中
抵抗されないのは重傷を負っているせいだとしても、会話がテンポよく進んでちょっと驚いている。
『最悪の中の最善』が大好きな場所の成れの果ての有様をまざまざと見せつけられ、大空と認めるただ一人の意志が踏み躙られているのを直視することになる茨の道だとは理解している、つもり。尚それ以外にも茨は存在する模様。
どんなに痛くても、苦しくても、個人的な目的は達成したい。もうそれしか、理由がない。
・狸寝入り中
レイにヒントを出され、自分の中の
なんで狸寝入りしてるかって? …並中の生徒に、万一にも危険が及ばないように。自分じゃない誰かがそういう風に見ていた女の子が身近にいるからではない。ないったらない。