轟く轟音。
響く喚声。
飛来する鉛玉を斬りながら私が疾走するは、血に濡れた大地。
遙か彼方を駆ける家族の背を追い掛けて追い掛けて、ひたすらに追い掛けて───
もう少しで手が届きそうだというところで、私の眠りは腹に響く爆音によって妨げられた。
シャボン玉のように消えていく見慣れた、だがしかしもう見ることはない背を見つめ…そして一度目を閉ざせば、そこはもうあの砂塵舞う戦場ではなく、無機質なコンクリートの建物の中。
爆音で私と同じように目覚めたらしい雲雀君に肩を貸し、音源へと足を進める。鞄は置いてくることになってしまったが仕方ない。後で回収できるだろう。
「ぶっざまー♪」
上機嫌な城島犬と冷静そうな柿本千種。彼らに追い詰められているのは獄寺君。
並中生に攻撃を加えた彼らに、雲雀君から殺気が漂い始める。そっと腕を掴んでいた手の力を緩めると、彼はすぐに二人に襲い掛かった。
力量の差と油断していたことが重なり、呆気なく窓の外に落ちる二人。さすがに大怪我はさせたくないのだが、彼らはこの後六道君に体を乗っ取られる。彼の戦力を増強する訳にも行かないので放置だ。恨まないでくれ。
「ヒバリに…ドンヨリ女!」
お前も来てたのか! と叫ぶ獄寺君を助け起こし、沢田君の居場所を尋ねる。
話を聞くと、どうやら沢田君は私の知る通り、死ぬ気弾を使い切った状況で六道君に単身挑んでいるらしい。
獄寺君に気付かれぬよう息を吐く。
こう言うと何だか六道君が噛ませ犬のようなのだが、黒曜での戦いはこの後の困難に比べればウォーミングアップに過ぎない。
ここで追い詰められた沢田君がジョット君譲りの超直感を開花させることでようやく、次に控えたリング争奪戦でも戦える下地ができるのだ。
もう既に私の目的は達せられた。望まぬ結果ではあったが、あるとないとでは様々なものが異なる。得られた成果としては上等だ。
悪いが私は自らの平穏のためにも、彼ら自身の未来のためにも、今回は静観させてもらおう。
「…お前、なんでこいつのためにこんなところまで」
「さぁな。強いて言うなら、貸しを作るためか?」
問いはさらりと嘘で流し、獄寺君に肩を貸す。もう片方を雲雀君に貸し、沢田君の情けない声を頼りに彼らのいる部屋を特定した。
今にも特攻しそうな獄寺君を視線で黙らせ、中の様子を見て私の知る状況と齟齬がないと確認してから、二人に指示を出す。
「雲雀君、六道君の気を逸らしてくれないか? 獄寺君は沢田君を囲んでいる毒蛇をダイナマイトで一網打尽にしてくれ」
先程獄寺君から今戦っている敵の首魁の名を聞き出したので、遠慮なく彼のことをそう呼びながら二人に言うと、渋々ながら従ってくれた。
「遅くなりました」
ダイナマイトの煙が晴れた後のその一言で、沢田君が私達の存在に気付く。
特にここにいるとは思ってもみなかった私の登場に驚いているようで、驚愕の表情に曖昧に笑って返した。
でもその顔、やっぱりジョット君そっくりだな。私が本部の庭に氷の城を築いた時の彼の顔と瓜二つだ。
あれに関しては三徹でハイになってランポウ君の提案に乗ってしまった私が悪いが。あの時のことは控えめに言って黒歴史なので、できればもう誰にも触れて欲しくはない。…触れるも何も、覚えている人間なんて一人もいないか。
「わかったか骸。オレはツナだけを育ててる訳じゃねーんだぞ」
いや、君に育てられた覚えは微塵もないのだが。私にとっての
そうツッコんでいると、雲雀君がフラフラとした今にも倒れそうな足取りで先程投げたトンファーを拾い、構えていた。
「覚悟はいいかい?」
「これはこれは怖いですねぇ。だが今は僕とボンゴレの邪魔をしないでください」
骨を何本も折った、と全く悪びれることなく宣った六道君に、沢田君が悲鳴を上げる。最も辛いのは雲雀君のはずなのだがな。
彼はと言えば六道君を挑発している。おーい、わざわざそんなことしなくてもよくないかい?
六道君の右目の数字が四に変わると同時、瞳に灯る藍色の炎。
六道君が
交わる三叉槍とトンファー。響く金属がぶつかり合う音。速いが目で追えない程ではない。互いの武器にしっかり殺気が乗っていて、とても追い易いのもあるが。
「時間のムダです。手っ取り早く済ませましょう」
視界を薄ピンクに染め上げる満開の桜。フラつき始めた雲雀君に六道君は例の変な笑い声を漏らしているが。
残念、それはフェイントなんだ。
倒れると見せ掛けて六道君の懐に入り、一撃喰らわせた雲雀君に、私はニヤリと笑った。
雲雀君が体勢を立て直し、反撃を許さず強烈な打撃を喰らわせる。
あまりの衝撃に六道君は血を吐き意識を失い、彼の武器の三叉槍は三叉の部分と棒が離れ、地面に転がった。
「美味しいとこ全部持ってきやがって」
「遂にやったな」
「お……終わったんだ…これで家に帰れるんだ!!」
本当はこれからが本番もいいところなんだが…まあ、勝利の喜びに浸らせてやるか。
それよりも、と途中から無意識で戦っていた雲雀君を支え、横たわらせる。
「お疲れ、雲雀君」
「心配すんな、ボンゴレの優秀な医療チームが見てくれるぞ」
「…ボンゴレは凄いんだな」
ごっこ遊びなのに、と苦笑する。
リボーン君は取り繕うかと思ったが特に何もコメントしなかった。まずいな、山本君と同じで一般人
「その医療チームは不要ですよ。何故なら生存者はいなくなるからです」
六道君がこちらへ向けていた銃口を自身のこめかみに押し当てる。そして引き金を引き、彼は倒れた。
「Arrivederci」
一言、そう言い残して。
何ともまあ、呆気ない終わりだ。
だが、それが本当の終わりではないことくらい、私は知っているのだよ、六道君。
「遣る瀬ないっス」
「生きたまま捕獲はできなかったが仕方ねーな」
いや、生きているから。Arrivederciの意味理解しているか? “さようなら”だけじゃなく“また会いましょう”も意味に含まれるんだぞ? さっきの六道君の言葉はニュアンス的に“また会いましょう”だろう。
というか彼程の人間がここまで来て諦めると思うか?
「遂に…骸を倒したのね」
ホラ、言わんこっちゃない。
意識を取り戻したビアンキさん。その右目は一見普通に見えるが、幻術が掛けられている。幻覚だと見抜く目だけは
特技が役立ちその有用性を示す間にも、状況は悪化の一途を辿る。
三叉槍で傷付けられた獄寺君が憑依され、更には城島君や柿本君まで襲って来る始末。
だから九字を切った程度で六道君がやられるはずがないだろう!? 君は山本君のことを“野球バカ”とか言えないぞこのオカルトバカ!!
皮肉にも重傷なのが幸いして憑依されなかった雲雀君を引きずり、戦闘の邪魔にならない場所まで移動する。
そうこうしている間に幻覚の火柱が立ち昇り、技を奪い取る餓鬼道によりダイナマイトが爆発する。
ただでさえオンボロな黒曜ランドが更にボロくなっていく。
「オレは手ェ出せねーんだ。ツナが早く何とかしやがれ」
「無茶言うなよ!! オレの何とかできるレベル超えてるよ!!」
いや、案外何とかできるものだぞ。実際のところは何とかできなければ今後生きていけない、が正しいが。
本当に、何故
ジョット君、知っていたら教えてくれ。
遠い目で、王に届かぬ問いを投げる。
それでも現実が変わることはなく。まだまだ戦いは終わらない。
・ワーカーホリック幼女参謀
ふとした瞬間に、もう家族がいない現実を忘れる。そして思い出しては、自嘲する。
幻術使いが相手なこともあり、破れないけど存在を見抜けはするのも“今なら”かなりのアドバンテージを確保できることに気付く。今まで気付けなかったのは、主な相手だった