己の果たすべきものに想いを馳せながら、体が麻痺し気絶した二人を俯いたまま受け止める沢田君を見て、ふと思い浮かんだ仮定は酷く暗い。
…もし、私がファミリーの誰かと戦うことになったら。
逃れる
私は剣士としての矜持を賭して戦い…そしてファミリーの命を奪ったその剣で、己の心臓を貫くだろう。
そのことに、微塵も躊躇はない。
薄暗い覚悟を胸に抱きながら、棒を手に起き上がった、こめかみから血を流す六道君と、額の炎を揺らす沢田君とが対峙している様を見つめる。
目に指を突っ込むというトラウマものの動作で第5の道・人間道を発動させた六道君の背後からはドス黒いものが立ち昇っている。
あれもまた
思い出したその光景に、冷や汗が背を伝う。
呼吸が浅く、早くなる。
あるじゃないか。あれと同等、いやそれ以上に禍々しい炎。
かつてこの時代なら黒マフィアに分類されるだろう悪徳ファミリーを潰した際に、
得体の知れない炎と
マフィアの世界で唯一絶対に守らなくてはならない掟。
その番人の、首領の名を。
(バミューダ・フォン・ヴェッケンシュタイン……)
恐怖と共に胸に深く刻まれたその名を、口の中で小さく呟く。
その名を持つ者は、かつて裏で知られた恐るべき力を持つ
それは恐らく、
かつて、それに似た噂は聞いたことがあった。
けれど詳しく調べることはなかった。
私の持つ知識にもそれに関する情報はあった。
だがその謎について、考えようとはしなかった。
何故か。
───ジョット君が、ストップを掛けたからだ。
嫌な予感がすると、関わるべきではないと。
その直感を、私達は信じた。それだけの話だ。
だが、断片的な情報であっても見当は付く。何ともまあ、酷い状況に置かれているものだ。
内心哀れみながら、炎を纏ったグローブで振り下ろした棒を曲げた沢田君に驚いているらしい六道君を見ていると、当のアルコバレーノであるリボーン君が問うてきた。
「死ぬ気の炎と
何故そこで私に話題を振るんだ、と顔をしかめて、今私が持ち得ていて不自然でない知識による答を導き出す。
「…名称と六道君の反応から見て、
「大正解だ。死ぬ気の炎はそれ自体が破壊力を持った超圧縮エネルギーなんだぞ」
「成る程、そのグローブは焼きゴテという訳か…」
「それだけじゃない」
うん、それだけじゃない。
それは他の炎では真似出来ない、大空だけの特権だ。
リボーン君の視線が逸れたのを確認してニンマリと人が悪いと評されそうな笑みを浮かべた私の前で、六道君の最終目的が暴露される。
彼が目指すのは、世界中を血の海に沈めるような大戦。
しかし最も優先順位が高いのは、やはりマフィアの殲滅らしい。
…彼の過去を考えれば当然ではあるが、もう少しどうにかならなかったのか、という思いもある。まあ私もそれなりにマフィア嫌いなのだが。あの時代、今の白マフィアを自警団、黒マフィアをマフィアと呼んでいたから、その影響だ。
その後も私の持つ知識と差はなく、私達への余波もそれ程なく。
大空の炎の推進力に翻弄され、更にはその調和の力でドス黒い
無事医療班も到着し、ランチアの解毒も間に合ったらしい。
その直後の六道君を案ずる沢田君の声に、もうそろそろだな、と鉄パイプを握り直した。
ボロボロの体で這いながら、それでも六道君を守ろうとする城島君と柿本君。
彼らが吐露したのは、初めて手に入れた居場所を壊されたくないという、子供染みた純粋な願い。
切実なその願いにすら微塵も揺らがぬ己の心に、苦いものが胸に広がる。
やっぱり私は、普通のヒトには成れないのだ。
心の揺れを抑えてしゃがみ込みながら、散らばった瓦礫の中に紛れる三叉槍の欠片でさりげなく指先を切った。
意識のない六道君との間に目に見えないパイプが繋がった感覚があるので、慎重にそれを編み変える。
今の主の状態を反映してか弱々しいそれが切れないように、目を瞑り、神経を集中させて解いていくと、私達の間にはか細い一本の糸のみが残される。
ここまで繋がりを細くしたのだから、憑依されることはないはずだ。されそうになったら私の方から切れる。
だが幾らか細くとも繋がりがあるのだから、運がよければ六道君の様子を垣間見るくらいのことはできるだろう。まあ私の様子を六道君に見られる可能性も孕んでいる訳だが。
今後のことを考えた一手を打つや否や、いきなり黒曜の面々の首に枷が付き、ゾッとするような冷気が漂ってきた気がした。
「“
いつか聞いたのと全く同じ内容の説明を、リボーン君が言う。
奴らの発する不気味な気配に、背筋を氷塊が滑っていくような感覚に陥りかける。
かつてと変わらぬその姿からは、何の情報も得られない。
なのに彼らは何故か私の方をチラチラと見ている気すらして、思わずスネグーラチカを発動させかけた。
落ち着け。落ち着くんだ、レイ・オルテンシア。
ボンゴレ雪の守護者たる者、
心の中で何度も呪文のように唱える。だが剣の代わりに鉄パイプを握る手は冷や汗で湿っている。これくらいは見逃して欲しい。
六道君達を引きずって行った
促され、沢田君に続いて外に出ると、救急車が3台程止まっていた。
公にはできないはずの事態の時ですら、これだけのことができる現在のボンゴレに鳥肌が立つ。
───本当に、ボンゴレは多くの富と権力を一手に握る大マフィアなのだ。
無意識に、辿る。この結果に辿り着くための、その過程を。
私がいなくなった後、何があればこうなるのか。
沢田君が筋肉痛という名の小言弾の負荷に耐えきれず地面に伏し、気絶した。それに続いてリボーン君も眠気に負け、意識を失う。斯く言う私も足元が覚束ない。これは久々の実戦だからか、それとも今思い至った事実から逃避しようとしているのか。
「済まない…建物の奥に、私の通学鞄があるんだ…」
「大丈夫です、我々が取ってきますから」
「そか…あり、がと……」
見知らぬボンゴレ医療班の人間に言われ、緊張よりも疲弊が勝ったのか、私は地面にしゃがみ込み、そして襲ってきた暗闇に身を任せた。
・自警団最高幹部
アルコバレーノの認識は『厄ネタ』。自分の持ってる情報だけでもヤベェとわかったがボスの勘のお陰で更に精度が増した。正直ツナ達にも関わって欲しくないが、ツナの家庭教師やれるのはリボーンだけだと思ってるのでその辺りは(今後口出しできる立場になったとしても)突かない。
ボンゴレがマフィアになった、と知ってはいても、経緯については今まで思考を止めていた。現代のボンゴレ関係者が