参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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あけましておめでとうございます、今年も本作を宜しくお願い致します。

という訳で、お年玉代わりの隠し弾です。死ネタが含まれますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
誕生日にこんな話を投稿するとか、I世(プリーモ)に申し訳なくなってきた…(でも投稿する)。


隠し弾 いつか、何処かの世界線

「ヌフフ、またここにいるんですか、アラウディ」

「…」

 

 

 そう言ったD(デイモン)を、アラウディは睨み付けた。

 

 

「君こそ、暇なのかい?」

「可愛い末の妹の墓参りをして、何が悪いんです?」

「墓参り、ね」

 

 

 D(デイモン)のその言葉に対し、鸚鵡返しに繰り返し、不機嫌に鼻を鳴らす。

 

 

 この墓はカタチだけのもの。

 

 生死すらわからぬ、彼らの雪のそれなのだから。

 

 

 彼女が好きだった白い花の中に埋まる大理石の墓誌、その上に二つの花束が置かれた。

 

 D(デイモン)当人と、誰の分なのか。

 察しているアラウディは、何も言わずに立ち去ろうとして、振り返る。

 

 

 落ち着いて、何処か冷たさを持つ優しい声の「いってらっしゃい」が聞こえないのにも、もう慣れてしまった。

 でも、それでも、この場所に来る度彼は言うのだ。

 

 

「また来るよ」

 

 

 そして今度こそ、歩き出す。

 

 

 戻るのだ。今の己の居場所に。

 

 彼女が、最愛の雪が己に託した役割を果たすために。

 

 

 その胸元で、彼女と同じように細い鎖で胸に下げた、ホワイトオパールの指輪が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 若き10代目が推し進める、ボンゴレの解体。

 それに反対する過激派の面々が惨たらしい有様となって発見されたのが、一時間前。

 

 そしてその下手人は今正(まさ)に、D(デイモン)の目の前で息絶えようとしていた。

 

 

「まさか、生きてるうちに、自分の墓を見ることになるとは」

 

 

 白い大理石の十字架(墓標)に半ば背を預け、まだ少女と言って差し支えない風貌の女が、笑う。

 

 

「…発案者はジョットですから、文句は彼に言ってください」

「そうします。後は、アラウディ君にも言わないと、ですね」

 

 

 墓誌に刻まれた二つ目の名を愛しげになぞり、レイ・オルテンシア・イヴはその深い青の瞳を細めた。

 

 

「D(デイモン)君。妹の頼みを、聞いてくれるかい?」

「いいですよ、レイ。何が望みですか?」

「これ、処分しといてください」

 

 

 そう言ってレイが示したのは、彼女が首から下げた懐中時計。

 彼らが家族である、その証。

 

 何より家族を大切に思う彼女らしからぬ言葉に瞠目するD(デイモン)を、深海色(ブルーダイヤモンド)の眼差しが射抜いた。

 

 

「今すぐじゃなくて、いい。ほとぼりが冷めてからの方が、安全だと思うし。でも、X世(デーチモ)が24になる年になる前には、必ず処分してください」

「……わかりましたよ。君がそういうのなら、きっと意味があることなんでしょう」

 

 

 いつも(いつか)のように彼女の判断に信頼を示したD(デイモン)に、レイがクスクスと笑う。

 

 昔を思い出したのだろう彼女の隣に腰を下ろし、その頭を撫でてやる。

 

 

「よく眠れるように、子守唄でも歌ってあげましょうか?」

「や、です。雨月君の笛の方が、いい」

「ヌフフ、我儘な弟子ですねぇ、全く」

 

 

 いつかを思い出す遣り取りだった。

 

 彼女がまだ家族と共にいられて、彼の大切なものは欠けていない、そんな頃。

 幹部としての職務の合間や修業の休憩時間に、他愛もない話をした。

 

 

 ───これで場所があの懐かしい屋敷の裏手に広がる森で、手元に彼らの大切な女性が焼いたクッキーでもあれば、完璧だったのに。

 

 

 どちらともなくそう思っても、どちらも口には出さなかった。

 

 それはただの夢想でしかない。

 夢想とわかって縋る程、彼らは弱くない。

 

 少なくとも、そんな弱いところを互いの前で見せる訳には、いかなかった。

 

 

 これから逝ってしまう妹を、心配させたくなかった。

 これからも独り生きる兄を、悲しませたくなかった。

 

 

 時間が過ぎていく。太陽が天高くに輝くようになる。

 時が過ぎる度、レイの反応は遅れ、声は弱々しくなった。

 

 

「───わたしもきみも、バカですね。こんな、とおくまできて」

 

 

 ふと零された泣きそうな声は、もう切れ切れで。

 

 

「ああ、でも───みんな、バカでした、ね」

 

 

 それが、最期だった。

 

 

 百五十年間、幾度となく見た虚ろな瞳が、D(デイモン)を見上げている。

 

 瞼をそっと閉ざしてやれば、もう眠っているようにしか見えなくて。

 

 

「おやすみなさい。私達の雪花」

 

 

 もう聞こえないとわかっていて、それでもそう囁く。

 

 そして抱き上げて、墓地の出入り口へと歩を進めた。

 万が一にも、初代雪の守護者との関係を疑われることがないようにするためだ。

 

 

 不意に、もう血の気の失せたレイの頬を、雫が濡らした。

 

 

「雨、ですかね」

 

 

 空は晴れている。

 いっそ憎たらしい程に澄んだ青に、綿を千切ったような雲が浮かんでいる。

 

 だからきっと、天気雨だ。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

『◎月 ▲日

 

幹部11名が惨殺死体となり発見される。

 

監視カメラの映像から下手人は10代目の中学時代の友人・■■レイであると特定されるも、三時間後に死体で発見。

犯行に及ぶ前に遅効性の毒を服毒していたものと推定される。

 

下手人の死体は10代目の意向により、共同墓地に埋葬される見通し』

 

 

 そう書かれた報告書を、全身白い男は投げ捨てた。

 

 

「やっぱここのレイちゃん“も”死んじゃってたかー」

 

 

 そう言ってマシュマロを食むその姿からは、悲壮感など微塵も窺えない。

 目的の人物が、既にこの世の者ではないと知ったにも拘らず。

 

 だが、彼には生死など関係ないのだ。

 

 

 彼女が生きている世界は、まだある。

 

 自分以外の『プレイヤー』である二人とは異なり、どんな世界にも必ず存在するとは言えないが、それでも彼女の存在を確認できた世界は、まだある。

 

 

 だから、構わない。

 

 “代わり”は、まだまだ数があるのだ。

 

 

 そうして、ボンゴレを壊滅させたことで揃った7³(トゥリニセッテ)を眺め、男はうっそりと笑った。




・いつか、何処かの雪花

 “あること”を知れなかった結果限界が来て凶行に走った世界線。でも敵(白蘭)に情報を遺さないように立ち回っている。いつか必ず“選ばれた世界”のX世(デーチモ)達と私がとっちめてくれるからな!
 尚彼女の死に白蘭は関係ないので、白蘭が斃されたら生き返るとかそういうことはない。死者が本当の意味で死者になった。これは、ただそれだけの話。


・いつか、何処かの亡霊

 何の因果か妹を看取ることになった。
 可愛い妹分兼弟子の頼みとは言え、あの懐中時計の破壊は躊躇われた。期限ギリギリまで悩んだ末に、彼女の亡骸の代わりに百五十年前の彼女の墓、の傍に埋める。代わりですけど、これで一緒ですよ、アラウディ。


・いつか、何処かの浮雲

 雪花の墓に眠っている。
 事件後、「門外顧問機関(CEDEF)本部で恨みがましい目をこちらに向ける彼を見た」との目撃情報が多数寄せられる。


・マシマロ大好き悪魔

 レイの秘密には気付かない。けれど彼女の存在に興味を持ってはいる。
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