目が醒めるとそこはいつかと同じ病院で、検査入院だった私は一泊することにはなったものの、すぐに家に帰ることが出来るらしい。
検査も一通り終わり、暇を持て余した私は屋上を目指して階段を登る。
白いシーツがはためくその場所で、柵に背を預け、空を見上げた。
ジョット君。ボンゴレは、変わり果ててしまったよ。
いや、もうないのかもしれない。
私の帰る場所だったボンゴレは、もう何処にもなくて。
あるのは、同じ名前を持った別物。
そんな風に簡単に考えられる程、都合のいい頭はしていない。何と言っても作戦参謀だからな。
今のボンゴレも、確かに私達の跡に続いている。
私はボンゴレに仕えてたんじゃない。
君に忠誠を誓ってた。
私は、みんなが好きで、みんなが一緒に居られるあの場所が好きだっただけ。
君達が一緒なら、そこがボンゴレじゃなくたってよかったんだよ。
だから───今のボンゴレに、懐く情なんて有りはしない。
その変化を、肯定することは決して有り得ない。
あの日々を否定することだけは、何人たりとも許さない。
新たな決意を胸に伸ばした手は、当然だが何も掴むことなどなかった。
◇
それからリボーン君に問い詰められることもなく一夜を過ごし、家に戻った私は休んだ分を取り戻すべく勉強を始め…なかった。
正直なところ並中は難関校という訳でもないのでテストの問題も簡単だ。ある意味確認作業的というか、ある程度の暗記ができれば余裕で満点が取れる。
目を閉じて六道君と私とを繋ぐ糸に集中するも、得られる情報はない。まだ意識がない状態なのか、それとも接続が悪いのか。
瞳を閉ざしたままあらゆる可能性を視野に入れ探っていると、感じた強烈な
手を一振りしてドアを氷で覆い、封鎖。
椅子の背に手をかけ、急所となる首をできるだけ晒さないように振り向くと、予想通りの姿が悠然と佇んでいる。
創り出した
この程度で退いてくれる相手だとは思っていない。でも、何もしないでいるというのも私の剣士としての矜持が許さなかった。
相手に動きが見られないので、短く問う。
「……何用だ、
答える声は、無い。
黒のシルクハットとマントを身につけ、至る所に包帯を巻いた不気味極まるその姿からは、相も変わらず何も読み取れず、何の変化もない。
いや、かつてや一昨日との違いが一点だけ。
背の高いその人物の肩に、同じ格好の赤ん坊が乗っている。両者の違いは一つ、赤ん坊の方がしている透明な、中に黒い澱みのようなもののあるおしゃぶりのみ。
思考が加速する。
アルコバレーノに関する予測は真実であると判断していい。それに基づくと、
「そう警戒しないでくれ、レイ・オルテンシア・イヴ君」
「なっ…」
こちらの情報、私の正体がバレている。
情報は最大の武器だと知るからこそ警戒を強める私を前に、再び赤ん坊が口を開く。
「取り敢えずその剣を下ろしてくれ。僕達は君と戦いたい訳じゃないんだ」
「その前に、一つ。君がバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインか?」
私の口から出た言葉に、赤ん坊は驚いたように沈黙した。そして、頷く。
「よく知っているね。君のボスから聞いたのかい?」
「ああ、その通りだ」
そう返しながら
「いきなり訪ねておいて申し訳ないが、場所を移そう。ここでは安心できない」
「何に対して不安を感じているかは知らんが、場所を移すのには賛成だ」
背の高い
禍々しいそれに向かって歩き、促されるまま炎の中に身を進める。
黒く先の見えないそれは、かつての平穏な日々が一変した時、私が見たものに酷似してはいたが、何故か触れると落ち着いた。
心の底に溜まっていた澱みを掬い取られたような気分になりながら炎を突っ切ったその先にあったのは、教室が収まる程の大きさの空間。洞窟らしく、何処からか風が唸る音がし、白いタイル張りの床以外は岩で覆われている。
そのど真ん中に置かれた丸テーブルに添えられた椅子に座ると、バミューダ達もその対面の椅子に座った。
「それじゃあ話そうか。勿論、ここで聞いたことは他言無用だよ、レイ・オルテンシア君」
「承知している。第一、正体を隠しておきたいのに
「それもそうだね」
この程度の情報ならば開示しても支障はないと判断し、頬杖をついて言った言葉に、(包帯で隠れていて表情が伺えないため、雰囲気だけだが)バミューダは笑ったらしかった。
「招いておいてなんだが、まずは君の話が聞きたい。何故、12歳の誕生日のひと月後、失踪したはずの君がここにいるのかを知りたいんだ」
「それなりに長くなるぞ?」
「構わないさ。
協力関係、か。マフィア界の掟の番人が、何を望むのやら。
しかしここで黙っていても私にメリットはない。そう判断したからこそ、洗いざらい話すことにした。
黒い渦に呑み込まれ、気が付くとこの時代の並盛にいたこと。
存在するはずのない“松崎
今は松崎
全てを聞き終えたバミューダは何を言うでも無く、「次は僕の番だ」と話し始めた。
「これから話すのは、君なら察しているとは思うが
そこからバミューダが語ったのは、彼らの来歴。私の予測の、裏付けとなる情報。
幾らか、私の知らないものも含まれてはいたが。
「………つまり、君らは元アルコバレーノで、自分達に呪いをかけたチェッカーフェイスなる人物に対する復讐を目論んでいる。そのために私と協力関係を結びたい、と」
情報の確認のため、噛み砕き、重要な部分だけを要約する。
動揺することもない私の様子に、バミューダが感心したように声を上げる。
「さては、既に大半を予測していたね? さすがは神算鬼謀と謳われたボンゴレ作戦参謀だ」
「…君に言われても褒められた気がしないから止めてくれ」
何と言っても相手は世代の開いたジョット君ですら知っていた伝説級の人物なのだ。頭脳戦で負けてやる気は微塵もないが、賞賛を素直に受け取れるかと言われたらまた別になる。
「訊きたいことがありそうだね」
「当たり前だろう。
取り敢えず───
───何故、私にその話をした?」
・神算鬼謀の作戦参謀
ファミリーの中では一番
ほぼ独力でアルコバレーノの秘密と
・最初の復讐者
シモン絡みのアレコレを話した瞬間友好的な態度は望むべくもなくなると察している。なのでそれだけは話さないようにしないとな、と思っている。