それでは第三章、開幕です。
標的27
「うーん…」
どうしよう。本当にどうしよう、ジョット君。
アンティーク調なオフホワイトの地に水色の小花柄が可愛らしい、ひと抱えはある巨大サイズのテディベアのお腹に手を回して抱いたまま、ベッドの上を唸りながら転がる。
因みにテディベアは私の手作りだ。並盛に来たばかりの頃、少しでも気を紛らわせたくて、型取りを始めとする全ての工程を一人でこなした。
着々とシリーズも増え、今取り掛かっているのは薄紫のドットが散らされたネコのぬいぐるみ。
作りかけのそれを始め、他にも何処か
だがしかし、そのぬいぐるみを生産した時よりも今はもっと疲れている。理由は一つ、リング争奪戦である。
いや、厳密に言うと違う。ヴァリアーと同時期に登場し、中々のインパクトがある組織・チェルベッロ機関のことである。
チェルベッロとはイタリア語で『脳』と訳される。それだけでも意味深なのに、
そして彼女らは、
色々と予測できることもあるにはある。
というかだからこそ悩んでいる。
さすがにこれが事実だとすると色々とまずいのだ。主にバミューダ君達が。
酷使が過ぎたのか痛みを訴えて来た頭を押さえて起き上がると、机の上に放置していた携帯電話にメールが届いていた。ハルちゃんからみんなで遊ぼうとのお誘いだ。
冷静になるためにも休憩を挟むべきだろうと、了承の意を返信しようとしたところで、はたと思い至る。
これ、スクアーロが襲撃してくるのでは?
危なかった。私ともあろう者が、自分から巻き込まれに行くところだった。
大変申し訳ないのだが、ハルちゃんには体調が思わしくないため断る旨を送信。アリバイ作りも込みで布団の中に潜り込み、目を瞑った。
◇
沢田君達がスクアーロからの襲撃を受けた数日後。
この数日、私が何をしていたかと言うのは一言で表せる。
普通の学生らしく過ごしてました。
尚、結局チェルベッロのことについては知らせていない。【私】という存在の成り立ちにも関わってくることなので秘密にしていた方がいいと判断した。有事の際に切れるカードは多いに越したことはないし、彼らの情報管理で本当にチェッカーフェイスを欺けていると確信が持てないのも理由の一つである。
今日も今日とて普通の学生らしく過ごした私は、さて寝ようかと立ち上がった瞬間に感じた気配に、体が一気に戦闘態勢に移行するのを感じた。
ふぅ、と深呼吸を一つ。
ふと視線をやった姿見に映る私は、瞳を剣呑に細めた剣士の顔をしていた。
気配から敵意は感じない。敵になるはずはない者にすらこう反応してしまうのなら、殺意など向けられた瞬間相手に斬り掛かって殺してしまいそうだ。
抑えるようにしなくては、と思いながら勢いよく窓を覆うカーテンを、次いで窓を開ける。
ちょうど私の部屋の窓の下にある、張り出した屋根の上に立つピンクの髪に浅黒い肌、目元を黒い仮面で隠す二人の女性に、私は静かに微笑んだ。
殺気を出しているにも拘らず、彼女らは動じない。
まるで、昔の己を見ているようだ。
ただ人形のように言われるがまま生きていた、家族に出会う前の私を。
その成り立ちと在り方に少しばかりの憐れみを抱いていると、右に立つ女性が言った。
「…貴女様が松崎レイ様で、間違いないでしょうか」
否定してもいいことなどないので頷くと、左の女性から何かを差し出された。
ケースだ。
見覚えしかない紋章があしらわれ、高級感を漂わせる小さなもの。
「それより、夜も遅いのに何の用だ?」
何が入っているか予測が付いてしまうからこそ、平静を装って問いかける。
幸いにして、彼女らはすぐに説明を始めた。
イタリア最大規模のマフィア・ボンゴレのこと。
ボンゴレの後継者を決めるべく、並中で行われるリング争奪戦のこと。
明日の夜から守護者は一人ずつ、戦わなくてはならないこと。
そして───雪の守護者についても。
「───もう一度、言ってもらっても?」
「はい。貴女様は、初代以来存在しなかった雪の守護者となり得ます」
「しかし貴女様だけでなく、もうお
「そのため、リング争奪戦のルールに則ってレイ様ともうお
最後の言葉と共に、左の女性がケースを開ける。
ベルベットのクッションに埋めるようにして固定されていたのは、月光を浴びて様々な色の光を宿す乳白色の石を
見覚えのあるそれは、見覚えのない姿になって再び私の前に現れた。
心做しか震える手で、リングを手に取る。
楕円だったオパールは真半分に割られ、リング本体も上下に分割され。永い歳月を経た証か、細かな傷が刻まれている。
唯一の救いは、切断面が滑らかなことだろうか。まっすぐだし、これなら合わせた時もしっかり嵌りそうだ。
「便宜上、ヴァリアー所属の候補者様が
「どちらが守護者となるかは既に決まっているからです」
「…そうか」
守護者になり得る人間が二人いると言っておきながら、そのどちらが守護者になるか決まっていると抜かすか。
何とも矛盾した物言いだが、咎めはすまい。
彼女らは、本当に何も知らないのだ。その、守護者になるか決まっている人間が誰かすら、知らない。情報を握っているのは彼女達の上だ。
「沢田様に名乗り出られるかはご自身の判断にお任せします」
「我々は相手の方の名を告げることはありませんが、同様にボス候補の方にも貴女様の名は告げません」
こくりと頷いて、窓とカーテンを閉める。
普通に考えれば、雪の守護者になるべきと定められているのは、私だ。
初代雪の守護者。
このリングの、本来の持ち主。
雪の守護者が
みんなが、門外顧問になったアラウディ君が、私ではない誰かを雪とすることを拒んだのだろう。
私以外に、その在り方を体現できる人間はいないから。
私以外に、務まるはずがない役目だから。
けれど、もうそのみんなはいない。
何もかもどうでもよくなってきた。
変わり果てた姿で手元に帰ってきた大切なものは、今の私自身を表しているかのようで。
大空を失った天候に、何の意味があるだろう。
思考が向かっては行けない方へと転がり落ちていくのが、自分でもわかる。
ベッドサイドのランプを
丸い形が伝える冷たさで、頭を冷やす。
ぼんやりとした灯の中、蓋に刻まれた紋章をなぞる。
そして蓋を開けると、モノクロの写真が私に微笑みかけた。
彼らが見せる穏やかな表情に、私も束の間の安息を得る。
辛くなると、繰り返すルーティンだ。
写真の中の彼らを見て、大丈夫と告げる。
大丈夫、私は折れないよ。
だって、誓ったじゃないか、ジョット君。
───君の志潰えぬ限り、私も折れないと。
・天候の一つでしかない
黒曜でボンゴレが変わり果てたことを直視し、そして今また爆弾を送り付けられた。彼女にとって雪のボンゴレリングは、家族の一人から贈られたプレゼントであると同時に、他ならぬ家族と並び立つ存在であると認められた証。命と同等のたからもの。それが変わり果てた姿で手元に戻ってくるのは、時間の流れを突き付けられることと同義だった。
守護者って続投可なのか…? 本人の心情はともかく、先例があるのでルール的には可と思われる。尚先例は信頼する
・明らかに普通の人間じゃないお姉さん達
原作でどういう存在なのか明言されなかったため、諸々の設定を捏造するしかなくなった人達。マジで何なんだこいつら。