「そして、お知らせしなければならないことがあります」
「“雪の守護者”に相応しいとされる方が見つかりました」
綱吉がその存在を知ったのは、居候達を保護するため夜道を駆けた、その先でだった。
いきなり現れた、怪しげな二人組の女が告げたのだ。
───雪の守護者、と。
「何だと!!」
「本当なのか?」
ようやくその本来の役職を知った父親と、信頼する家庭教師が女達に尋ねる。どちらもピリピリとした空気を振り撒いており、気軽に“雪の守護者とは何だ”と問える雰囲気ではない。
しかし綱吉を含めた面々の困惑を悟ったのか、ボルサリーノをくいと引いたリボーンがその名を持つ存在について、語り始めた。
「……雪の守護者とは、初代ボンゴレに居たと伝わる守護者の通称だ。
氷や雪、冷気を操る『スネグーラチカ』と呼ばれる異能を身に宿したため、その名が付いたと言われている」
特異な能力を宿した人物。咄嗟に思い出されるのは、少し前に黒曜で激闘を繰り広げた六道骸らエストラーネオファミリーによる人体実験の被害者達だ。
「他のリング同様分割された“雪のボンゴレリング”は、初代門外顧問の頃から門外顧問機関に保管され、代々門外顧問のみが触れることを許された秘中の秘…忽然と消失したと報告されていたが、お前達が持ち去ったのか!?」
「いいえ、リングはあるべき場所へと行ったのです」
「リングを持つに相応しいとされた、二人の人物の元へと」
つまり、雪のボンゴレリングは自分達と同じように、守護者候補となった人物へと配られたのか、と綱吉はようやく理解した。
「しかし、どちらかは試金石に過ぎません」
「リングを持つに相応しい主は、既に定められています」
まるで未来を知っているかのような言い分ではあるが、何故か綱吉に疑問は湧かない。
───しかし、それが“正しい”と
「その二人ってのは誰だぁ!!」
「お答えしかねます」
きっぱりとしたチェルベッロを名乗る女の拒絶に、
「ボンゴレリング争奪戦の中でお二方に戦って戴き、その勝者を雪の守護者と認定いたします」
「所属や人間関係を鑑み、勝敗には関わらないものの仮に
チェルベッロの言葉で、リボーンや家光らは“雪のリングを持つに相応しい”とされる可能性のあるうち一方が、ヴァリアーに所属している可能性が高いことを悟った。
そして、綱吉と関わりを持つということは、綱吉側の候補が一般人である可能性も。
「ですが、名乗り出られるかはお二方へ一任しました」
「露骨な探りなども自重した方がよろしいかと」
最後の一言は明らかに自分へ向けられていると悟った家光は、口許を歪めた。
家光とて一人の親。息子の安全のため、やれることなら全てやりたい。
息子側の候補がマフィアと何の関係もない可能性を考慮した上で、門外顧問としての権力を使い彼若しくは彼女を探し出し、他の守護者同様家庭教師をつけて鍛えようと思っていたのだが…先手を打たれた形になる。
しかし“今の”彼は知らないが、チェルベッロの言葉に引き下がったのは最善かつ最良の判断だった。
もしも雪の守護者候補を探り出し、
「ご納得戴けたようで幸いです」
「それでは明晩11時、並盛中でお待ちしています」
「さようなら」
その言葉を言い終えた刹那、パッとチェルベッロは姿を消す。
「リボーン、雪の守護者って…」
「今日はもう遅い。また次の機会にでも話すぞ」
結局、話は雪の勝負の夜まで持ち越しとなった。
故に、彼らは知らない。
愛する
───ただ、一人を除いて。
◇
“雪の守護者”の存在を知ってから、6日後の夜。
その前日の勝負の後、次が雪の戦いだと告げられた綱吉達の胸中には、不安が渦巻いていた。
チェルベッロの発言から、雪の守護者の資格を持つ一人が綱吉の知人の誰かということは確定している。
その誰かは、本当なら無関係でいられたはずのマフィアの戦いに巻き込まれ、命の危機に晒される。これまでの戦いから言って、今夜の勝負も生命の危険が付き纏うことになるのは間違いない。
しかも自分達のように家庭教師が付き、戦う
「辛気くせー顔すんじゃねーぞ。お前らが気になってた雪の守護者について、話してやる」
リボーンがそう告げたのは、指定された時間から20分前の並盛中、そのプールに設置された観覧席の中だ。
プールを間に挟んだ向かい側から、時折ヴァリアーの幹部達がこちらを見ている。
観覧席の中にいるのは綱吉と守護者達、そしてディーノに連れられやって来た雲雀と、クローム達黒曜の面々だ。
「まず大前提として、雪の守護者は元からいた訳じゃねぇ。その座は、後から造られたんだ」
「後付けってことっスか…?」
「ああ。
───マフィア黎明期、ボンゴレを創った初代ボスは、世界各地を旅し、気に入った人間を次々スカウトしてリングを渡し、彼らを守護者とした。
だが雪の守護者は違う。ボンゴレが創られてから同じようにスカウトされた身だったらしいが、与えられた地位は守護者でなく、作戦参謀だった」
「その後、戦いで大きな功績を残し、それを踏まえて守護者の地位が与えられたと言われている。だから雪のリングも、便宜上雪のボンゴレリングと呼ばれてはいるが、その実は初代雪の守護者が身に付けていた指輪だ」
リボーンと、それに続くディーノの言葉に、綱吉達は感心した。それだけのことを成し遂げた初代雪の守護者も、そんな人物をスカウトした初代ボスも畏怖せざるを得ない。
「お前ら、カンケーねーみてーな顔してるが、つまりお前らは歳下に負けたってことだぞ?」
「歳下って…」
「初代雪の守護者は子供だったのか!?」
「その通りだ。初代雪の守護者は、お前達よりも歳下の少女だったと言われている。
目立つことや人前に立つことが苦手だったとも言われている彼女が初めてボンゴレの同盟ファミリーボスの前に正式に姿を現したのは、雪の守護者になるにあたっての宣誓式の時のことだ。
そこで、10歳にもならない幼い少女の姿を見たと、何人もの参加者が書き残している」
「まあでも雪の守護者はガキだったからか、戦場にはほぼ出なかったんだけどな」
「戦わなかったのか!?」
「戦いもしたが、大抵は本部なんかを守るための防衛戦だな」
「じゃあどーやって守護者の務めを果たしてたんスか?」
「頭を使ってたんだぞ」
トントン、とリボーンがボルサリーノを被った自身の頭を指す。
「作戦参謀に就任した当初から軍略や野戦指揮のみならず、政治的な立ち回りまで熟知し知略を駆使してファミリーを導いていたそーだ。肩を並べる程の頭脳を持たなければ雪たり得ない、と言われてこれまで雪の守護者がいなかったくれーだからな」
その凄まじさ、恐ろしさは想像力をどんなに働かせようと断片的にしか思い描くことは出来ない。ただただ敵に回してはいけない人物だということだけがわかる。
そして詳細を知るリボーンには、生徒達の想像を超えるものが見えていた。
ボンゴレが勢力を拡大し、大マフィアへとのし上がっていくのは
そういった働きが出来る可能性があるのは、綱吉の知人の中にも一人しかいない。
半ば唖然としている弟分とそのファミリーに苦笑したディーノが、新たな情報を投下した。
「しかし、初代雪の守護者は謎に包まれていると言ってもいい。今までリングを受け継ぐ資格を持つ人間がいなかったのもその一つだが、一番の理由は彼女の失踪だ」
「失踪…って、行方不明になったってことですか!?」
「そうだ。彼女の行方は、とある大きな作戦を成功させた後から
「この時の初代雲の守護者の様子は凄まじかったらしいぞ。何人もの部下がその鬼気迫る空気に気圧され、失神したと言われている」
何を思ったのかリボーンが追加した情報で、周囲の視線が雲雀に集まる。
雲のハーフボンゴレリングを持つ彼は何を思っているのか、ふいと視線を逸らした。
「確かに、初代雲の守護者は初代雪の守護者のことを人一倍思っていたらしい。雪のボンゴレリングが門外顧問機関に保管されていたのは、門外顧問になった初代雲の守護者がリングを私的に管理していたためだとも…」
「ええ、その通りです」
ディーノの話に同意したのは、今来たばかりのバジルである。彼は自分の所属する組織の名が出てきたため、堪らずに口を挟んでしまったらしい。
「初代門外顧問の頃より門外顧問機関の拠点として使われていた屋敷の書斎に厳重に保管されているのを、拙者も確認しています」
「そーなるとあのチェルベッロとかいう奴ら、どうやってリングを持ってったんだろうな」
「拙者にはわかりかねますが、あの警備体制を潜り抜けたのですから並大抵の手段ではないはずです」
逸れていく話を聞きながら、綱吉はプールへと視線を向ける。
───11時まで、後10分。
・現門外顧問
彼にリングを渡される流れも考えはしたのだが、彼の行動全般がレイの地雷を踏み抜いて「罪のない守られるべき人々も巻き込まれ、ボスの理想を今度は自分が踏み躙ることになる」と自重していたボンゴレ壊滅√に突き進むので断念。あんまりにも今の彼女と相性が悪過ぎる。
・10代目候補
自分のひいひいひい祖父さんがファミリーにした少女の話を聞いた。まさかクラスメイトが当人だとは思ってもいない。
・雲の守護者候補
自分じゃない自分の執着っぷりが逸話として残ってて引いた。そして私的な物でしかなかったはずのリングが職場でずっと管理されていたことにも引いた。が、自分の所有物を勝手に扱われている部分もあるので若干キレそうでもある。
後その場合、家光のチェルベッロへの追求の言葉を聞いたら間違いなくキレてた。代々門外顧問のみが触れることを許されたって、“僕”は“僕”以外ではあの