参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的31 雪花の選択

 深夜にも関わらず人の気配がある並中の敷地に入ると、それまで幻術で阻害されていた辺りの様子が見えるようになった。

 明確な目的を持って侵入を果たそうとする輩以外には並中の姿を視認できないようにする術だ。チェルベッロ機関には相当の腕を持つ術士がいるらしい。

 

 

 D(デイモン)君に勝るとも劣らないその腕前に感嘆していると、前方に一際明るく照らされた今宵の舞台が見えてきた。

 柵に囲まれ、両陣営も既に待機しているそこは…水が抜かれ、本来の役割は到底果たせぬプール。

 

 やはり勝敗を決めるのは戦闘か、と少々落胆するのは見逃して戴きたい。できればヴァリアー側の候補が私と同等の頭脳を持っているか、確かめたかったのだから。

 

 

 チェルベッロに先導されるまま足を踏み入れると、幾つもの視線が私に集中した。

 

 

「え……れ、レイちゃん…!?」

「なんでお前が…!」

 

 

 中でも感情が露わになっているのは、沢田君陣営の私と関わりがある面々。

 よく見てみれば、雲雀君にディーノ君、クロームちゃん達黒曜も揃い踏みだ。取り敢えず空気を読めてない風を装って愛想笑いを浮かべ、軽く手を振っておく。

 

 一部を除いて見る間にパニックに陥った沢田君陣営から、重苦しい重圧(プレッシャー)を発しているもう一つの集団に視線を移した。

 

 

 ゴテゴテした椅子に座し、玩具でも見るかのような目でこちらを見つめる男こそ、ボンゴレIX世(ノーノ)の息子、Xを2つ名に持つ男…XANXUS(ザンザス)

 

 チェルベッロに聞いてわかってはいたが、これまでの守護者戦は私の持つ知識通り終わったらしく、ルッスーリアやスクアーロ、マーモンの姿は見えない。

 

 

 そして、私のことを睨むように見つめる、ヴァリアーの隊服に身を包んだ燻んだ赤髪の青年。

 何処かで見たような面差しの彼が、私の戦う相手…つまり、もう一人の雪の守護者候補なのだろう。

 

 ふむ、面構えは悪くないな。

 何が何でもXANXUS(ザンザス)君をボンゴレボスの座に着ける、そのために戦うという気迫に満ち溢れている。

 

 それは、ボスに忠誠を誓う証だ。

 

 

 私が何故相手を見定めるような真似をしているかというと、それには私がした一つの決断が関係している。

 

 

 ボンゴレが司るのは『貝』。その役割は、その形を保ちつつも代を重ね、(トゥリニセッテ)の縦軸を構成することにある。

 

 故に、I世の守護者()X世(デーチモ)の守護者になる訳にはいかないのだ。

 “継承(受け継ぐこと)”を大前提とするのなら、私が再び守護者の座に就くことはあってはならない。

 

 

 そう…譲り渡すべきなのだ。

 

 私以来空いたままの椅子に座る資格を持つ、後進に。

 

 

 ───その証たる、このリングごと。

 

 

 

 小さく痛んだ胸を張り、沢田君達の方を通って戦場(フィールド)らしいプールへと進む。

 プールはガラスの箱ですっぽりと覆われ、中に積もった白い雪が床を隠している。

 

 

 『どちらが守護者になるかは既に決まっている』?

 そんな戯言、封じる手の百や二百、考えられてこその参謀だ。

 

 

 守護者の座への執着と呼べるものも、私には特にない。

 

 元々、私に与えられた守護者の名は称号的な意味合いが強かった。

 それでも嬉しかったのは確かだけれど、それには理由があった。

 

 

 みんなと同じ場所に立てたと、そう思えたから。

 

 

 私にとって、守護者である理由はそれだけ。

 

 同じ場所に立ちたいと、同じものを見たいと願ったファミリーはもういない。

 なら、私が守護者である理由は何一つとしてありはしない。

 

 

 無論、下手な輩を後継とする訳にもいかないからこうして見定めに来ているのだが。

 

 この騒動の後にはミルフィオーレとの世界の命運を懸けたた戦いが待ち受けている。その時に雪として(私のように)戦える人間であることは最低条件。

 その最低条件に満たなかった場合、は…まあ、仕方がない。ファミリーの中で一番の未熟者である私だが、それでも最低条件に満たない輩よりはマシだろう。それでも成長が見られたら、即座に譲り渡す気ではあるが。

 

 

「リボーン! レイちゃんがなんで…!!」

「オレに言うな。雪の守護者は初代以来不在で、ボンゴレの中でもブラックボックス的な扱いなんだ。予想なんぞできる訳ねーだろ」

 

 

 リボーン君の冷静な声に、沢田君が歯噛みしている。

 その周りにいる守護者らも、思わぬ人物に動揺を隠せず、不安げな視線を向けている。

 

 大丈夫。何にせよ、大事にはならないさ。

 その思いを込めて、そっと微笑んだ。

 

 

「……レイは一般人だろ? ただでさえヤベーってのに、相手はあいつかよ…」

「ディーノさん知ってるんですか!?」

「ああ…直接会うのはこれが初だが、噂ならよく聞くぜ」

 

 

 耳に意識を集中させ、小さな声を拾い上げる。

 どうやらリボーン君やディーノ君達は相手のことを知っているようだ。

 

 

「アイツはジェラルド。サルトーリファミリーの元次期ボス候補…現ボスの子なんだが、ヴァリアー入隊を機に自分から候補から外れた、とんだ暴れ馬だ」

「先祖伝来の槍を使い戦場で暴れ回っていたことから“狂った一番槍(ランチャ・パーツァ)”と呼ばれていると、聞いたことがあります」

 

 

 耳に届いた情報に、息が止まりかけた。

 

 道理で見覚えがあるはずだ。彼は私が命を救い、その後親交を持ち、果てには子の名付け親にまでなった男…ドン・サルトーリの子孫なのだから。

 しかもジェラルド…私が名付け親になった赤子と、同じ名とは。

 

 

「サルトーリファミリーってのは、初代ボスが雪の守護者に一騎討ちで敗北したことをキッカケにボンゴレの軍門に下ったんだ。恐らく、奴が雪の守護者の座に懸ける思いはオレ達以上だぞ」

 

 

 え、嘘だろ? もしかして私判断誤ったか??

 

 戦々恐々としながらも誘導に従い、フィールドに降り立つ。

 ジェラルドから15m程間を取って佇むと、入り口が閉ざされた。

 

 設置されたスピーカーらしき物やハリケーンタービンのような機械に、もしや嵐戦のようなタイムトライアル形式かと考えを巡らしていると、「おい」と低い声がかけられる。

 

 

「オレはXANXUS(ザンザス)様の創る最強のボンゴレに守護者として仕え、 初代雪の守護者(あの方)に受けた恩を返さなきゃなんねーんだ…殺されたくなきゃ、さっさとそのリング寄越しな」

 

 

 ……色々と言いたいことはあるが…まず一つ、言わせてくれ。

 

 初代雪の守護者(それ)私なんだが?!

 

 

 おいドン・サルトーリ、貴殿の子孫が暴走しまくっているぞ!? 恩を返すどころか恩を仇で返しているんだが!?

 いや、そもそも貴殿に返されるような恩が見当たらない! 子供の名付け親になったのがそんなに嬉しかったのか!?

 ダメだなんかもう頭が痛い! 頭痛が痛いとはこういうことを言うのか!! 来て10分と経っていないが、もう帰りたくなって来た! 早く帰って寝たい! 今日のことなど全て悪夢だと思ってしまいたい!!!

 

 

 頭を抱えたくてどうしようもなくなっていると、更に爆弾が投下される。

 

 

「今夜のフィールドはご覧の通り、雪の積もったプール全体となります」

「設置されているのは吹雪を起こすよう特殊改良を施されたスノー・ハリケーンタービンです」

「また、スノー・ハリケーンタービンは開始から5分で一斉に爆発致します」

 

 

 …泣いてもいいかな。X世(デーチモ)がいなければ泣きたかったんだが。

 

 

「!! 何だと!?」

「レイちゃん達はどうなるの!?」

 

「ご心配なく。耐爆ガラスを使用しているため、観覧席には影響を及ぼしません」

「間違いなく候補者様方に致命傷を負わせる威力ですが、爆破の心配はないでしょう」

 

「なんでそんなことが断言できるんだ!」

 

「雪の守護者は、()()()()()()()()()()からです」

「本来であれば5分も要りません」

 

「随分な期待だな…」

 

 

 ディーノ君の言う通りだ! こんなにも過剰な期待を寄せられたのは生まれて初めてだぞ!?

 

 

「雪の守護者の役割とは、

 

 

『ファミリーを導き、

 

 

敵を凍てつかせる

 

 

 

 

冷酷なる吹雪』」

 

 

 

 

 何より知っている。

 

 誰より理解している。

 

 そして、憶えている。

 

 

 そう断言できる。

 

 

 だってそれは、私の在り方。

 

 レイ・オルテンシア・イヴの、在り方。

 

 

 道をつけるのだ。

 みんなが、ファミリーが望む場所へと。

 

 排除するのだ。

 道を阻む全てを、冷酷に。

 

 

 それが『()』の存在意義(レゾンデートル)だと、そう定めたのは他ならぬ私。

 

 そして、私ならばそれを果たすことができると、我が最愛のファミリーは信じてくれていた。

 

 

「その条件に当て嵌まる方であれば、この事態の早急なる収束も即座に図られるでしょう」

 

 

 …今になって、ようやく理解できた。

 

 これは挑発だ。

 私の覚悟と誇り(プライド)を踏み躙る、下劣極まる挑発なのだ。

 

 

 私のことをナメているのか?

 

 どれだけの間、参謀として、剣士として戦ってきたと思っている───!!!

 

 

 

 ガリ、と音が聞こえる程に歯を噛み締める。

 抑えきれない感情が冷気となって体から溢れ、徐々に外界を侵食していく。

 

 

 落ち着け。

 

 今私がここにいるのは、後継たるに相応しいとされた青年を見定めるため。

 

 冷静さを保つのだ。

 

 

 大きく深呼吸すると、肺を凍てつく空気が刺した。

 馴染みのある感覚が、一気に思考をクリアにしていく。

 

 

「…なあ、(アマ)

「何だ」

 

 

 ジェラルドの声に、静かに返す。敵とはいえ、初対面の女性(レディ)(アマ)と呼ぶのは戴けないが。

 

 

「アンタさ、人を殺したことあるか?」

 

 

 あるよ、たくさん。

 

 私達は譲れぬものを背負い、血に濡れながら光を目指し駆けていたのだから。

 

 

「見るからに弱そうだな。掴んだだけで折れそうだし」

 

 

 これでも鍛えているし、歴代ボンゴレの中でも私を含めたI世(プリーモ)ファミリーは最強(トップ)クラスだと自負しているのだが。年齢的な問題から他のみんなに劣るのは否定しないが、それでも侮られる程弱くはない。

 

 

「リングを差し出せ。

 

───そのリングに相応しいのは、オレだ」

 

 

 

 ………君は、そのリングの由来を理解しているのか?

 

 

 それは、私の大切なひと(アラウディ君)が贈ってくれたんだ。

 

 私に似合うだろうと、選んでくれたんだ。

 

 

 

 私の───大切な、宝物なんだ。

 

 

 

(ああ、もうダメだ。

 

───堪え切れない)

 

 

 目の前が真紅に染まる。溢れた冷気が、敵を攻撃するべく形を成そうとする。

 

 

 リングを、渡したくない。

 

 相手の態度に触発されたものであれ、それは確かに私が秘めていた激情だ。

 家族に起因するが故に嘘偽りない、みんなの灯す炎のように鮮烈な───“本物”の感情だ。

 

 

 それでも、思考が完全に怒りで染め上げられることはなかった。

 

 当たり前だ。

 だって私は、ボンゴレの作戦参謀で、ジョット君の雪の守護者なんだから。

 

 

「そうか」

 

 

 伏せていた顔を上げる。

 知己の面影を残す青年をまっすぐに見つめ、口を開く。

 

 

「ならば───奪ってみせろ」

 

 

 今の彼には任せられない。

 今の彼に、雪としての振る舞いは難しい。

 

 私が雪であるまま。

 

 それが、一番いい選択だ。




・かつて、吹雪とも雪花とも謳われた守護者

 自分が大切なファミリーのために定めた在り方を挑発の材料に使われた時点でキレかけだったが、そこに対戦相手の言葉も加わり完全にプチッとなってしまった。それでも今後のあれこれに関する予測を立てた上での選択。
 尚後進に対する要求難度はハチャメチャに高い。今後起こること(未来編)を知っているのもあるが、それ以上に“守護者=ジョット以外のファミリー”の方程式が確立してしまっているため。正直ジェラルドの不合格は必然だった。


・知己の子孫(槍使い)

 赤毛に灰色の瞳。多分原作だと大空戦後の後始末()部隊に配属されていた。雪の守護者への憧れとXANXUS(ザンザス)の理念への惚れ込みから実家を継ぐのを蹴ったやべー奴。幸い父の弟が継いでくれるというのでその辺りは必要以上にゴタつかずに済んだ。
 チェルベッロにリングの片割れを渡されてすぐスクアーロに報告、「相手方に情報を与えないようにしたい」という意見具申が認められ、これまでの戦いはレイ同様観戦していない。こういう注意の払い方ができる辺りが『雪』たる候補と見込まれた所以。
 口調はともかく容姿や服装はお嬢様系なレイとの対比でヤンキー系キャラにしたかったため、最初期の獄寺を参考にしたところイキってるみたいな感じになった。違うんだ、明らかにか弱い女の子が相手だったからビビってリング渡してくんないかな、みたいなイタリア紳士的考えが裏にあったんだ。尚か弱い女の子の正体。
 顔を上げた対戦相手の雰囲気が強気な言葉に相応しく様変わりしていて警戒を強めている。


・知己の子孫(武器はグローブ)

 彼的にはレイは京子と同じ枠なので盛大に慌てている。擬態してるだけで血と硝煙の世界に肩まで浸かってる君のひいひいひい祖父さんの守護者なので安心して欲しい。
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