今日も、何一つ変わらぬ日常が過ぎていく。
そこに一つの指輪が加わろうと、変わるものは何もない。
変わったのは私だけだ。
朝、リングを右手の中指に嵌めた。
軽く幻術を施して、そのまま学校生活を送ってみたが、うっかり落としてしまうようなことはなかった。
一年半前まで、毎日のように指に嵌めては緩いことを確認していたのに。
落としてしまうからと、鎖でネックレスのようにして首から下げているのが常だったのに。
みんなと共にいた頃の自分ではないのだと突き付けられているようで、心が軋む。
京子ちゃんの不安げな視線に浮かべた微笑みは、彼女らと別れた途端に剥がれ落ちてしまう。
何をしているんだ、
演技なんて得意中の得意、そうやって今までも偽り続けてきただろう?
どうにか足を動かし、自室まで辿り着くと、幾許もせずにディーノ君とロマーリオさんが訪れる。
部屋に入って来た彼は、戸棚の上に並べたぬいぐるみを見て頬を緩めた。何だと思っていると、「手芸が得意なんだな」と開幕にしては斜め上の発言が飛び出してくる。
「初っ端がそれか。…まあ、趣味の一つではあるよ。黙々と作業するのが好きなんだ」
手芸の類は得意な方だと自認している。エレナさんに教わったから刺繍やレース編みも出来るしな。
気恥ずかしそうに視線を逸らし、ローテーブルの上に乗せていた紫のネコを弄ぶ。
「というか、君は私のところに来て大丈夫なのか? 雲雀君はどうしている?」
「恭弥ならもうバッチリ仕上がってるから、心配いらねーよ。だが何処で知った? お前に家庭教師はいないだろ」
鳶色の目を鋭くするディーノ君に、用意していた答えを返す。
「家庭教師のことなら京子ちゃんから聞いた。それに風紀委員が根城にしている応接室に君らしき人が入って行ったと、一時期噂になっていたのでな」
「マジか」
「安心しろ、さすがに沢田君達が揃って休み始めたことと関連付けて考える者はいないよ」
まず問題ないとは思っていたが、雲雀君の修業も仕上がっているようで何よりだ。
「で? 君達は何をしに来たんだ? まさか
彼らのため、わざわざ淹れた紅茶のカップを傾ける。
茶葉も貰い物のいい物だからか、味はとてもいい。確かこれはアッサムだったか。銘柄問わず美味しく淹れる技術を習ったのもエレナさんからだった。
私の言い分に苦笑したディーノ君がロマーリオさんから何か受け取り、それをこちらに寄越して同じようにカップを傾ける。
おい、君に警戒心というものは無いのか? 私が毒でも入れていたらどうする気なんだ。
警戒心の欠如が著しいキャバッローネの10代目が寄越した紙の束は、ボンゴレに関する資料だった。
雪の守護者が初代しかいなかったからか、
ペラペラと紙をめくり、雪の守護者の情報を読み取る。
他のことには興味がない。というかボンゴレの成り立ちとか、ボスと守護者の役割とか、私はこの目で見てきたんだ。今更資料なんぞから学ぶことはない。
今気になっているのは
一通り読み終えると、何だか精神的な疲れが襲ってきた。仕方がない。色々と恥ずかしいことが書いてあって、下手なリアクションをしないように気を張ってたんだから。
天才的な頭脳を持つ軍略家。
ボンゴレ史上最高の参謀。
経験を重ねれば雨の守護者に並ぶかもしれない剣士。
なんで私こんなに評価されているんだ? 確かに頭脳戦じゃ負け無しだし、剣の腕も褒められたけど、過大評価が過ぎるんじゃないか?
むう、と唇を尖らせて、他の守護者の情報にも目を通す。
最後の、初代霧の守護者のそれには、あるべき人の名が欠けていた。
予測は、できていたけれど。
私は、守れなかったのか。
私は、取り零してしまったのか。
───私が守りたかった何もかも。
───
胸の奥、確かに灯る黒い炎が揺らめくのがわかって、一度強く瞼を閉じる。
ダメだ、
参謀たるもの、いつ何時たりとも冷静に振る舞え。
「…何故、沢田君なのだろうな」
一つ深呼吸をして、ディーノ君に資料を返しつつ呟く。
今知った現実から目を逸らすための逃避行動だという意見は、否定できない。
「他の候補者が死んじまったからだな。誰か一人でも生きてりゃ、ツナが候補に入ることはなかった」
「
ボンゴレボスの条件たる、
そうは言っても、
だが始まってしまった以上、止めることはできない。
唯一この状況を打破できる権力と情報を持つ
何ともまあ手の打ちようがない状況に落とし込んだものだと、
きっと沢田君は勝つ。
後は向こうが勝手にやるはずだ。親子の事情に、他人が首を突っ込む必要はない。
傍迷惑な親子ゲンカの終わりを見越して、大きく息を吐く。
これが終われば次は未来での戦いだ。
私のリングはボンゴレリングではないが、
「レイ、大丈夫か?」
「問題ないさ。それで? 色々と尋ねたそうだが、何から聞きたい?」
問われたのは、私に剣術の基礎を教えた人物のことと、スネグーラチカについて。
剣を教えた人物にはもう会えないんだと告げ、スネグーラチカについては実演する。
「こんなものだな」
「凄いな…」
一応彼をイメージして、未来の彼の
「お前が忠誠を誓った相手なんだが、そいつとお前の関係は?」
「…私の剣は、彼に捧げた」
キャバッローネにも武人気質の人間はいるだろうと思いそう告げると、途端にディーノ君の顔が真剣なものになる。彼はこの言葉の意味を正確に理解しているらしい。
「難しく考える必要はない。彼が沢田君達と敵対することを選ぶのなら、私も沢田君達の敵になるというだけのことだ」
まあ、そうはならんだろうがな、と苦笑を浮かべて見せる。
何と言ったって、沢田君は我らが
思い出して、猫のぬいぐるみを抱き締める。
伏せた瞼の裏には、大好きな
二度と戻らぬその時に、私の
捧げる相手も最早亡い、
・武人というより、騎士
指輪のせいでメンタルガッタガタ。そこに更に爆弾が叩き込まれた。守れなかったことを、知ってしまった。私が、いなかったからだ。そのせいもあってモノローグでも割とボロが出ている。
双剣の片割れを使うことは有り得ない。だって右の剣は、ジョット君に捧げてるから。左の剣は、彼に捧げたかった。
諸々の価値観が他者と違う中、恋愛に関しては身近に
・跳ね馬
剣を教えた人物について聞いた時に一瞬表情が抜け落ちて、その後で取り繕うように笑って「もう会えないんだ」と言われて、彼女の剣の師の死を悟った。そいつ以外の家族も全員死んでるっていうかお前が持ってきた資料に名前があるぞ。