参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的34 明けぬ夜に、灯火を

 やっぱりこうなるんだな。

 

 胃の痛みと戦いながら、目の前の勝負を睨むように見つめる。

 

 

 私がプールで戦い、ジェラルド君を下してから丸一日。

 グラウンドを戦場(フィールド)として、雲の守護者の戦いが行われていた。

 

 いや、正確には既に終了している。

 

 

 あっさりやられた巨大な鉄塊(もとい)ゴーラ・モスカ。

 そして、XANXUS(ザンザス)君と戦い始めた雲雀君。

 

 だがしかし各人の行動の真意やその正体がわかっているから嫌になる。

 モスカの中にはボンゴレIX世(ノーノ)が囚われており、XANXUS(ザンザス)君はモスカ暴走の口実を作るために雲雀君を利用している。

 

 

 ───IX世(ノーノ)を助けなかったのは、フゥ太君同様損得勘定の結果だ。

 

 卑劣な手段で大切なものを失う恐怖を突き付けられたからこそ、沢田君はXANXUS(ザンザス)君に食らいつくまでに成長した。その過程はやはり必然のものであると、私は結論を出したのだ。

 

 

 狂ってるとでも、冷酷だとでも、どうとでも罵ればいい。

 私はより犠牲が少なく、よりよい結末を目指す。

 

 既に道はわかっている。後は、そこに辿り着くだけ。そこに至るまでの犠牲も全て私の計算のうち。

 それはいつだって変わらない。

 

 

 わかっているんだ。

 

 私は、世間一般で言うところの“善”ではない。

 そう言われるには───私の手は、血で汚れ過ぎている。

 

 

 犠牲を出さずに済むルートも見える。見えても、そちらには行かない。

 だってその先の結果はいいものではないから。

 

 ただ最良の結果をもたらす道だけを突き進む。救えたかもしれない、なんて甘えたことは言わない。

 だって救えるルートも見えていたから。

 

 

 かつての日々でも、参謀として、また雪として、様々なものを切り捨てた。

 家族以外はどうでもよくて()()()()()()()()から、いっそ機械的に。

 

 私が殺したも同然で、彼ら彼女らには私を憎む権利があるとも思う。

 

 

 それでも、私が足を止めることはなかった。

 

 それは、私が足を止める理由たり得なかった。

 

 

 故にこそ、私は冷酷なる吹雪と呼ばれたのだ。

 

 

 選択には責任が伴うと、理解している。

 

 それでも、最善にして最良たる未来を選び続ける。

 

 

 それが己に出来る最善だと、私は今でも信じている。

 私の選択が最善だと信じてくれた人達を、最愛の家族(ファミリー)を、信じている。

 

 

 ───私がいなくとも、きっと大丈夫だと。

 

 ───最善ではなくとも、最悪には陥っていないと。

 

 

 私の張り巡らした策は、彼らの助けになったはずだと。

 

 

 だからこれは、今また張り巡らす、策の欠片。

 

 手を翳し、小型の洋弓を創造(つく)り出す。

 矢を番え、ただ刹那の隙を待つ。

 

 活動を停止したはずのモスカから微かな駆動音が聞こえた瞬間、引き絞った弓弦から矢を放った。

 

 

 狙いは一つ、最もモスカに近い位置に埋められた地雷。

 爆発が起これば、雲雀君も近寄らない。

 

 フィールドに埋められた地雷が爆発し、爆風がこちらまで届く。

 標準も定めず矢鱈と攻撃するモスカは、既に暴走状態にあるのだろう。

 

 

 雲雀君が怪我をしなかったことで、大空戦でこちらが優位に立つ仕込みが出来たことに安堵する間もなく、観覧するメンバーを庇う盾を展開する。

 

 早くもひびの入った盾の効果を持続させるべく新たな盾を連続で展開したが、これでも沢田君が来るまで持つかどうか。

 私が創る氷の硬度は相応でしかない。鉄壁の防御なんて、約束のしようがない。

 

 

 それでもと、前を見据えた。

 

 

 唇に、右手(リング)を寄せる。

 

 左手で、(懐中時計)を抑える。

 

 

 大丈夫。

 大切なものは、全部此処にある。

 

 愛する人の想いも、家族との絆も。

 

 抱いた覚悟も、誇りも、誓いも───確かに刻まれ(憶え)ている。

 

 

 それなら、何も怖いものなんてないじゃないか。

 

 

 

 夜空を見上げれば、彗星の如く鮮烈に輝く鮮やかな灯火。

 

 予測した時間ぴったりに現れた彼のことは視線で追うに留め、防御に集中する。

 

 

 ()のマントの絶対防御や中華鍋にしか見えない(シールド)程じゃないが、私だってそこそこやるんだ。君の友達には傷一つ付けさせない。

 だから、行け。

 

 

 そんな思いが届いたはずもないが、来るなりモスカを圧倒する沢田君に驚嘆の声を漏らして見せる。

 

 ひと月。たったのひと月だ。

 あの黒曜での戦いから今までに過ぎた時間はそれっぽっち。

 

 なのに確かな成長を遂げた彼に感じるモノなんて、()()()()けれど。

 

 

 故に、ただ前を見据える。

 

 退くことは、許されないから。

 前に進むしか、ないのだから。

 

 

 そして、とうとう。

 

 

「な、なんと…」

「中から人が!?」

 

「9代目…!?」

 

 

 破壊されたモスカの中から、IX世(ノーノ)が現れた。

 

 

「9代目へのこの卑劣な仕打ちは実子であるXANXUS(ザンザス)への、そして崇高なるボンゴレの精神への挑戦と受け取った!!」

「な!?」

「しらばっくれんな! 9代目の胸の焼き傷が動かぬ証拠だ!! ボス殺しの前にはリング争奪戦など無意味!!

 

 オレはボスである我が父のため、ボンゴレのために…貴様を殺し、仇を討つ!!」

 

 

 XANXUS(ザンザス)君の言葉はまるで刃のようだ。

 沢田君の心を折るために、ここまでやる必要があるのかとすら思う。

 

 

(いや、必要だな)

 

 

 大空とは総じて、そう簡単に折れてくれるタチの人間じゃない。

 

 

 しかし、『崇高なるボンゴレ』と来たか。

 

 今のボンゴレが崇高だと、彼は思っていると、そういう訳か。

 

 

「クソくらえだ」

 

 

 そう、小さく吐き捨てた。

 

 

 ボンゴレの始まりは、街を守る自警団。

 コザァート君の助言を受けたジョット君がG(ジー)君と共に創設した、自警団。

 

 そして彼が気に入った人間を次々にスカウト、とある巫女(シャーマン)より託されたリングを渡したのが、大空を彩る天候の名をそれぞれ冠す、守護者の始まり。

 

 

 その成り立ちを、すぐ近くで見てきたからこそ。

 彼らと共に、その道を歩んだからこそ。

 

 私は、受け入れられない。

 

 

 半ば無理やりに、引きずり込まれたけど。

 苦難も、少なくはなかったけど。

 

 確かに、楽しかったんだ。

 今でも、大切なんだ。

 

 あの日々を守るためなら世界だって敵に回してみせる、そう言い切れるくらいには。

 

 

 なのに、かつての面影を遺したまま、変わり果てていて。

 

 その変化を受け止めることはできても、肯定だけはできない。

 

 

 肯定してしまったら、あの日々はどうなる?

 あの日々を、間違っていたと否定するのか?

 

 そうしたらあの日々は、大切な思い出ではなく、哀しい記憶(過去)になってしまう。

 

 

 それは、ダメだ。それだけは、嫌だ。

 

 

 零れ落ちかける激情を心の奥底に封じ込め、他の面々と共に沢田君の様子を見守った。

 

 燃えるような橙を湛えた瞳が、XANXUS(ザンザス)君を見る。

 その姿が、瞳に宿る色が、どうしようもなくジョット君に、私が剣を捧げた王に、私達の大空に似ていて、目を細めた。

 

 

 君は、君達はまだまだ未熟だ。

 だから迷っていい。道なんてない方向にだって進んでいい。

 

 安心しろ。道を指し示したり、背中を押すくらいはしてやるから。

 

 

「お前に9代目の跡は継がせない!!」

 

 

 沢田君が叫び、そして開催が決定された大空戦。

 

 ヴァリアーとの戦いの、終着点。

 

 

 明けない夜はない、その言葉の正しさが示されたようで、苦く笑った。




・多分未来編での白蘭よりやべー女

 メンタルが発狂ギリギリのラインで固定されたので落ち着いているように見えるだけ。心の何処かがずっと『私のせいだ』と自分を責め続けている。何かのきっかけで転がり落ちたらやべーことになる。
 選ばなかった未来のことは語らないが、そうして切り捨てたもののことを忘れたこともない。罪悪感を感じるかは別とするが、それでも全部己の責任として背負っている。
 尚、9代目を切り捨てたのはマフィアボンゴレへの嫌悪とかではない。そういうものは元々持たない分排除も容易いし、そもそもそんな瑣末なモノに振り回されるようでは雪は名乗れない。

 メンタルクソヤバ状態なため、モノローグで自分に言い聞かせるように維持し続けてきた化けの皮が剥がれてきている。
 それはかつて、家族と共にいられた頃のエミュレート。これ以上何かを失うことを拒む、彼女の抵抗の一つ。





 好きの反対は、嫌いではなく無関心。彼女にとって、本当の意味で家族(好きなもの)の対極にあるのは───
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