〈それでは大空のリング
チェルベッロの声を聞きながら、毒がもたらした熱に顔を歪め、霞む目で解毒の鍵となるリングが置かれたポールを睨んだ。
毒の種類がわかっているのだから解毒剤もこちらで用意すればいいかとも考え、バミューダ君達に助力を求めたのだがそう上手くは行かなかった。
象をも殺す猛毒の解毒剤など手に入れるのは困難を極めるし、第一本当にそんなものが存在するのかも怪しいと言われたのだ。おい何処でこんなものを手に入れたチェルベッロ。
「…頼む」
ようやっと零した言葉に返すように、氷で形創った白い蛇が鎌首をもたげて
30秒足らずでポールの上のリングを尾に絡めて持ってきた白蛇が、カチリとリストバンドにそれを嵌め込む。
解毒が成されたことを体調から確認し、少しふらつく体に鞭打って歩を進めた。
先程までの私同様息も荒く倒れ臥すジェラルド君の頭を一度撫で、リングを使って解毒する。
呼吸が落ち着いたのを確認してから、スネグーラチカで創り出した檻に閉じ込めた。
これは仕方のないことだ。今の私と彼は敵。ならば、捨て置くことこそが彼に対する侮辱となる。情こそなくても、私は彼を見ていない訳ではないのだから、何の対応もせず放置などしない。
「待て、よ」
「おい、無理に動こうとするな」
毒が抜け切っていないだろうに、無理に体を起き上がろうとするジェラルド君を制止する。
自分でも無茶だと悟ったのだろう、地に伏せたまま、それでも灰色の瞳にギラリとした光を湛えてこちらを見ている。
「オレが勝ったら、オレが雪なんだろ。なら、再戦と行こうじゃねえか」
「悪いがこちらにも都合というものがある。再戦はまた今度だ」
というか雪戦から三日と経っていないのに私に勝つつもりかい君は。私これでもスパルタ
そんな風に思いながら、檻へと向き直ってまっすぐにジェラルド君を見る。
「…君、そんなに初代雪の守護者のことが好きなのか?」
「たりめえ、だろ。オレんちじゃなあ、寝物語に初代ボスとあの方の戦いと、その後の交流を聞かされるんだ。ガキの頃から何べんも何べんも聞かされて、もう諳んじられる。これで憧れねえ方が、おかしいだろが」
サルトーリファミリーそんなことしてるのか、というツッコミは一旦脇に置いておき。
ジェラルド君の、嚙み締めるような言葉を咀嚼して。
(ああ、そうか)
何というか、彼に感じていた思いの正体が掴めた気がする。
知己の子孫だからとか、そういうのではなくて。
詰まるところ、彼は私と同じなのだ。
憧れたひとと、同じ場所に立ちたい。
そんな、純粋無垢な願い。
暗殺部隊がそれでいいのかとも思うが、彼が
「そうか。……そうかぁ」
改めて、己は謳われる側なのだと、そう認識する。
名を偽り、素性を隠し。
それでも私はあの日、第七の天候として認められた者なのだと。
みんな。私も、みんなと同じように、追い掛けられる側になったみたいだ。
「何だよ」
「いや、君みたいな子にそんなに純粋に憧れられて、初代雪の守護者も嬉しいだろうな、と思っただけだよ」
不機嫌な声に、へらりとした笑みを浮かべて返した。
私が家族と並び立つモノなのだと、そう認識してくれていることについては、礼を言おう。
途端にジェラルド君が凍りついたように固まってしまったのをいいことに、愛剣を腰に携え、プールから脱出する。
何故か出入口に鍵がかけられていたため、フェンスをよじ登るハメになった。
…彼のコートを着て来なくて正解だった、と思いつつスカートに付いた汚れを払い、足を向けた先にあるのは体育館。そう、私の持つ知識の中では30分ギリギリまで放置された、霧の守護者のいる体育館である。
尚、金属音が断続的に響いてくるグラウンドは素通り一択だ。
私は彼らの前を行く者ではあるが、そう簡単に手を貸したりはしない。
───私が無条件でこの力を振るうのは家族のためのみ。
初めて嘘偽りない笑みを浮かべられたと気付いたあの日に、私はそう決めた。
何処にいるのか捕捉される可能性を避けるためになるべく音を立てないように、そろそろと体育館の扉を開ける。後は右腕に絡みつかせていた白蛇が取ってきた霧のボンゴレリングを受け取り、クロームちゃんとマーモン君のリストバンドに嵌めればいい。
私に戦う
「クロームちゃん、動けるかい?」
「れ、い?」
「ああ。こういうのは六道君が言った方が様になるんだろうが…助けに来た」
緩く瞬きをするクロームちゃんに、微笑んで見せた。
解毒直後のマーモン君が動けないのをいいことにこちらも檻に閉じ込め、早急な離脱を図る。
と、
マーモン君が出来たのだから私にもやれないことはないだろうと、観覧席の赤外線発生装置に盗聴器を仕掛けておいたのだ。
観覧席のリアクションは私に筒抜け。そこから、現在の戦況も推察できる。
〈弾を推進力にしてやがる。これで機動力は並ばれたぜ〉
〈なんて奴だ、あんな動き2代目も7代目もできなかったはずだ〉
「…まずいな」
「え……?」
首を傾げるクロームちゃんに説明する暇もなく、頭上を睨み付ける。
展開されるのは、
多重展開したこの盾でも、防ぎきれるかどうか。一撃目は屋根を破壊することにリソースの大半が割かれるだろうからまだいいが、追撃があれば…最悪の事態も考えられる。
〈あの方向はやべーんだ〉
ノイズ混じりのリボーン君の呟きの直後、轟音が響く。
突然の揺れに倒れかけるクロームちゃんを支えながら、瓦礫と炎を防ぐべく更に盾を展開した。
「持ってくれよ…!!」
頼むから。お願いだから。
永遠にすら思える数瞬が過ぎ去り、ようやく視界が開ける。
無傷のまま残った盾は一枚のみ。本当に紙一重のところで繋がった命に、クロームちゃんが安堵の息を吐いた。
「行こう。いつまでもここにいてはいい的だ」
「うん…」
最後に監視カメラに視線をやってから、私達は体育館から脱出した。
・家族を尊敬はしてないが憧れはしてる
最年少という立ち位置もあり、ずっと追い掛ける側だった。今もそれは変わっていないが、ジェラルドの話を聞いて彼らにファミリーと同列に扱われていること、そして
育った環境と立場故、裏表のある人間にはまず猜疑心を向けるようにしている。逆にまっすぐで裏表がないと優しめな対応を心掛ける。家族以外と接するに当たって彼女が決めた【基準】はこの他にもあるが、ジェラルドはそれにいい意味で引っかかったので素直に話を聞いた。尚、悪い意味で引っかかったら即抹殺される。
・憧れ故に追い掛ける
彼がレイに彼の憧れの話をしてなきゃ最悪ボンゴレ壊滅(しかも創設者の一人によって)という控えめに言って地獄√が口を開けて待ってた。ナイスファインプレー!!