隠しカメラのない校舎の陰に身を隠し、まず行うのはこれからの戦略考案だ。とは言っても、ある程度は事前に立ててあるのだが。
「クロームちゃん、単独で行動出来るかい?」
「うん、大丈夫……他の人を、助けに行くの?」
「ああ。こればかりは別れて行動した方が効率がいいと思ってな…」
正直に言うと、彼女を単独で行動させるのには不安が残る。
まだリングの炎の存在を知らず、有幻覚を創れない彼女では物理的なダメージを与え
…だが、この提案をした以上、クロームちゃんは絶対に一人で、出逢ったばかりの
「クロームちゃんには笹川君と山本君のところへ行って欲しい。他の面子はどうにもアクが強いから、私が担当する」
二人を指名したのにも訳がある。
この危機的状況で
獄寺君だと
「この二人なら君のこともすんなり受け入れてくれるはずだ。動ける敵が解放される可能性もあるから、先に笹川君の方に行って、その後山本君のところに行って欲しい。もし混戦状態になっていた場合には、出来るだけ全員で固まるようにしておいてくれると有り難い」
笹川君の対戦相手・ルッスーリアはベッドに縛り付けられていた。怪我の程度も重いようだったし、解毒したところで動けるようにはならないだろう。
先に山本君のところへ行こうとした場合、
「わかった、レイは嵐の人達のところに行くの…?」
問い掛けに、一つ頷く。
取り敢えずはベルフェゴール君撃破の手助けをするつもりだ。彼を野放しにしておくと形勢逆転される確率が上がるからな。
そしてその後───ヴァリアー隊の殲滅に動く。
「幸運を祈る」
「無事でいて」
最後に交わした言葉にも、性格や考え方が滲んでいて苦笑するしかない。
今後もこういった形でどうしようもない差を感じざるを得ないのだと思うと、何とも言えぬ苦いものが胸に広がった。
でも、そうやって
───本当は、こんな風に生まれつきたくなかったけど。
小走りに建物の影を移動するクロームちゃんを見送り、こちらも行動を開始する。
と、その刹那、爆発音が二重に響き渡った。
イヤホンから聞こえるのは、バジリコン君や
〈確かに
同意しかないよ、リボーン君。
タイミングよくモニターが切り替わり、ベルフェゴール君のリストバンドからリングを弾いた雲雀君と、彼が自力で倒したポールが映された。
ただ、束縛を嫌うが故に。
ただ、孤高であるが故に。
それ故に、『雲』の在り方は───
〈何ものにも捕らわれることなく、独自の立場からファミリーを守る孤高の浮き雲!!〉
雪のボンゴレリングに、彼が贈ってくれたホワイトオパールの指輪に、視線を落とす。
この想いを、彼はきっと誰にも言わなかったのだろう。
誰にも言わずに、ただこの指輪に刻み込んで。
(狡いですね)
本当に、狡いと思う。
こんな風に伝えられたら、嫌でも自覚してしまう。
───心を引き裂くような恋をした。
甘くて苦くて、柔くて痛くて、満たされるようで満たされない。
世間一般の基準では恋と呼べるのかもわからない、どうしようもない代物。
これが、私が得る最後の
君達が私に与えてくれた、今や
けれど私の中に確かに存在するそれの、最後の一つ。
できるならもっと早く、君達と一緒にいられたうちに気付きたかった。
それならきっと、ただ優しい思い出にできただろうから。
いや、彼はそうして欲しくないから、こんなことをしているんだろうか。
思い出なんかにして欲しくないから、こんな酷いコトをして、私に瑕を刻んでるんだろうか。
本当に、狡いひと。
指輪を、左薬指に嵌めようかとも思ったのです。
でも、止めた。
そうするのは、君がいいから。
君の手で、私の左薬指に嵌めて欲しいから。
胸がずっと痛い。
だけど、これに君も耐えたのですよね。
これは、私が君に与えたのと同じ痛みなのですね。
それなら、私も耐えましょう。
君とお揃いなんだ、悪くはない。
だけど、次に誰が身に付けるかもわからない
こういうのは直接、若しくは互いしかわからないような手段で伝えるべきでしょうが。それに関しては
その“いつか”が、なるべく早く来てくれるようにと祈って。
思考を切り替えるために息を一つ吐き、目を細めた。
「何やら面白そうなことになっているな」
「
「君、何しに来たの?」
鋭い視線は努めて無視し、カツッ、カツッと意識的に足音を響かせる。
そして、左手の剣を一閃。
それだけで、ベルフェゴール君の周囲に浮かぶ独特な形状のナイフが地に落ちる。
タネがわかっている手品程、簡単に暴けるものもない。
「私はこれで。愉しんでくれ給え」
アドバンテージを崩され焦りを露わにするベルフェゴール君に背を向けて立ち去りかけると、雲雀君が声を掛けてきた。
「なんで僕に知らせたんだい?」
「…ベルフェゴール君は君の手札を知っているのに、君がベルフェゴール君の手札を知らないのは不公平だろう?」
人を喰ったような笑みを浮かべて言い切り、今度こそ立ち去る。
空を見上げて激しくぶつかり合う
『彼の似姿が無様を
なんて、身勝手なんだろう。
愛おしくて、大切で。
告げる先を亡くした想いは、気付かぬうちに歪んでしまったのだろうか。
零れ落ちかける雫を指先で拭い、靴音が高く鳴る程強く歩を進める。
目指す場所は校舎裏手。人気のないそこはヴァリアー隊の侵入経路の確率が高いと、一年以上前から目を付けていた場所だ。
ほら、もうこんなに。
行動を読まれているとも知らずにヴァリアーの隊服を纏った50人が侵入し、着々と襲撃の準備を進めている。
「悪いが、そこまでにしてもらおうか」
校舎を挟んだ向こう側では、鮮やかなオレンジが明滅を繰り返している。
ノッキングするように不規則な炎は、プラス状態と0地点を行き来して、マイナスになるタイミングを計っている証。
死ぬ気の零地点突破。
私のスネグーラチカとは似て非なる、炎すら凍らせる氷。
私にも馴染みのある技だ。目にした大半が本部で大ゲンカを始めたアラウディ君と
これは、
死人を出すつもりはないが、邪魔立ては許さない。
「───さあ、上手く踊ってくれ給えよ?」
・
それはそれとしてリングにメッセージ刻むことないだろ、と思っている。他人に見られたら恥ずかしいし。尚門外顧問機関で保管されていた間はずっと分割状態だったので、ギリギリ誰にも気付かれてない。
ファミリーがケンカおっ始めたら大抵の場合は野次を飛ばしつつ観戦する。弱いから止めないというか止められない。事実に基づいた合理的判断なのに観戦していたことを怒られるのもワンセット。
先天的に精神の感情を司る部分が欠落している。唯一の例外は家族。彼らと共に過ごす世界だけが、鮮やかに色付いていた。
家族以外に感情を向けられないことを自覚しているから、ツナ達
・
自分ではない自分の想いがその想い人に
同族嫌悪で仲が悪い霧とケンカをしては凍らされていたので、ノッキングする炎に微妙にトラウマを刺激されている。
今となってはこの世界でたった二人の、彼女の精神性について知る人物。今日も取り繕ってる。よく飽きないね。
演技ではない、自分ではない自分に向けてくれたあの笑みが見たい、なんて。そんなことを心の片隅で思っている。