標的38
重い溜息を吐く。
手元の携帯端末で幾度となく登録された特定の番号に電話を掛けているのだが、一向に繋がらない。まあ、それを承知でやっている訳ではあるのだが。
昨日にはリボーン君が訪ねてきていないかと沢田君から連絡があり、今日の午前中には沢田君と獄寺君を知らないかとハルちゃんから、そしてその数時間後笹川君から京子ちゃんの行方を知らないかとそれぞれ連絡が来たのである。
もう確定だろう。
連絡の取れなくなった面々は、この世界の何処にも存在しない。彼らは約10年後の未来にいる。
未来に行けば、一応は守護者としての立場を持つ私は否応なしに戦闘へ参加することになるだろう。チョイスに向けては幼いランボ君でさえ修業に参加したのだから。…あれを修業と言うのかに関してはノーコメントで。
未来での戦いは非常に苦しいものだ。
甘さを含む余地はなく、完全に命の遣り取りとなる。
それは別にいい。そんな戦いは幾度となく経験しているし、黒曜での戦いもリング争奪戦も根幹は変わらない。
だが、規模が違う。敵のボス・白蘭は
リボーン君とラル・ミルチの会話やメローネ基地攻略後に合流するバジリコン君の話も総合すると、世界の大半がミルフィオーレの手に落ちていると見て間違いないだろう。
私も、きっと本気を出さなければいけなくなる。
結末に至るまでに、一体幾つを切り捨てればいいのか。それ以前に、ファミリー以外のために私の力を振るうということが、未だ認め難い。
これは私の精神的な問題ではあるが、そこには沢田君達に対しての不安も含まれている。
私が、いざとなればファミリー以外を切り捨てることを躊躇わない吹雪が、
悔いても時は戻らない。失ったものが還ってくることはない。
全ての責を負うのは構わない、
そして、戦いの後半では白蘭と
ボンゴレ
だがしかし、問題点が一つ。
その戦闘形態たる
当然のように、私は彼らがそれらを使うところも見たことがある。
更には下らないことで言い合いになった末に互いにそれらを交わらせていると言う、威厳台無しな一場面も幾度となく目撃済みなのである。ジョット君なんてこの間のお盆でロメオボコるのにガントレット使ってたし。ホントいい加減にしてください。
彼らの象徴とも呼べる武器を、彼らによく似た別人が、彼らと同じように使う。
私も知らない拷問の一種だろうか。ならば喜べ発案者よ、効果は覿面だぞ。
もうどうしたらいいんだろう。いっそのことここで
ちょっと待て。
何か致命的な見落としがある気がする。
犠牲。ぎせい。ギセイ。犠牲?
犠牲なんて、何故出ると思った? だって
出るとしたら、本当にどうしようもない局面でとしか…。
『ユニもお前達を平和な過去に帰すために、命を捧げるつもりなんだぞ』
毎日のように聞くようになった家庭教師の言葉が、耳の奥で響いた。
ああ、そうか。ユニ、彼女なのか。
大空のアルコバレーノ。虹の姫君。
彼女が───いや、断定はよくない。まずは情報を集めるべきだ。
部屋を出て、階段を降りる。
靴を履いて人気のない路地まで移動し、闇色の炎を灯す。
そして一瞬後、降り立ったのはマフィア界の掟の番人こと
「やあ、バミューダ君はいるかい?」
「…向こうにいるはずだ」
「ありがとう、ジャック君」
突然に現れる私にも慣れたのか、声を掛けた
尚、ジャック君は数多くいる
他に可能性があるのはイェーガー君は当然として、バミューダ君に次ぐ古株であるアレハンドロ君、それからビックピノ君とスモールギア君のコンビ。
アレハンドロ君が子供としている人形が、どう見てもミルフィオーレのホワイトスペルに所属するジンジャー・ブレッドなる殺し屋だったのには驚いた。ファミリーが滅亡するような抗争で必ず目撃されるのも、彼らが人知れずファミリーを壊滅させていただけだとは。
天然の洞窟を利用した牢獄は、物音がよく反響する。
誰かの呻き声の上に靴音を重ねながら、バミューダ君を探し歩く。
投獄されている囚人達への同情心なんぞ、私の心の中には欠片も存在しない。
ここは法で裁けぬ者達の牢。
元々家族以外は生きていても死んでいてもどっちでもいい、否、どうでもいいけれど、こういう輩にはジョット君の理念というフィルターを通して尚価値を感じない。
六道君だけは彼と私双方に色々と事情があるからか、微妙にそこから外れた場所にいる。
だけどそれも、沢田君達のような一般的な人が抱く感情に比べると『薄い』んだろう。
だが、考えたところで私の
バミューダ君を肩に乗せたイェーガー君の姿を見つけ、思考を打ち切る。
「やあ、レイ・オルテンシア君。炎の補充に来た訳じゃなさそうだね」
「ああ、今日は情報提供だ。ボンゴレリングの
「こちらでも把握しているよ。まさかアルコバレーノのリボーン君までもが巻き込まれるとはね」
持ってきた情報は既に向こうも知っていたが、予測済みだった分徒労だという気はしない。
チェッカーフェイスへの手掛かりを見逃さないためにも、現アルコバレーノの動向は常に把握しているだろうとは思っていた。
「恐らく私も、しばらくの間連絡が取れなくなるだろう」
「待ってくれ、君なら対抗策くらい打てるだろう? 何故抗いもせず巻き込まれることを是とするんだい?」
連ねられる疑問に、バミューダ君、と目の前の赤ん坊の名前を呼ぶ。
「人の身では抗い切れない流れというのは、確かに存在するよ」
「……そうだったね」
響いた言葉には、どうしようもない納得と諦観と、隠そうとして尚隠しきれぬ激情が滲んでいた。
なんと言っても、ここにいるのはその流れに飲まれ、翻弄されるしかできなかった被害者ばかりなのだから。
「それに、この騒動には
私のその言葉に黙ったバミューダ君は、しばらくしてから「了解したよ」と答えた。
「ついでに教えて欲しいのだが。万一の事態に陥ったアルコバレーノの救済手段、正確に言えば蘇生法は存在するか?」
予想外の問いだったのだろう、息を詰めたバミューダ君に、悪戯っぽく笑って言葉を続ける。
「あくまで推測だが、この騒動でアルコバレーノと深く関わることになるだろうと思ってね」
「成る程ね、それでアルコバレーノについての見識を深めようと、そういうことか」
「理解が早くて助かる」
話が通じる相手というのはいいものだ、感じるストレスが少ない。
「大空のアルコバレーノが命の炎を燃やせば、他のアルコバレーノの蘇生が叶う」
「ほう。だが、相応の代償もありそうだな?」
「その通り。蘇生が叶ったとして、大空のアルコバレーノが生きている保証は何処にも無い」
「成る程…」
知識の中のリボーン君の言葉通りの代償。
バミューダ君もこう言うということは確定でいいだろうし、覆すのも不可能なのだろう。
「ある意味ではそれが、大空のアルコバレーノの運命なのかもしれないね」
「…運命、か」
呟いて、目を伏せる。
人に依るのではない、元から定められた流れ。
それを運命と呼ぶのなら、私達にとってその流れを決定している存在は一つしかない。
そしてそうである以上、私はそんなものを受け入れる訳にはいかない。
知りたいことは知れたため、
人気のない路地裏から商店街の通りに出て、家への道を辿りながら、さりげなく背後に視線をやった。
やはり、
万一を考え、片時も手放したくない懐中時計は身に付けているし、雪のボンゴレリングだって右手の中指でいつも通りに輝いている。
もう逃れられない。身勝手なものだが、戦い抜く理由もできた。
故に、体から力を抜いたその瞬間。
よもやボンゴレ関係で依頼を受けた
一瞬気が逸れ、直後。
何かが空を切る音と、情けない悲鳴。
これは入江正一のものだろう。
それよりも、と辺りを素早く見渡すと、目に飛び込んできたのは───
───呑気にラーメンを啜る、年齢不詳の和装の男。
その姿で私の前に現れたとしてもおかしくはないと、そうわかってはいたけれど。
それを今、表情に出す訳にはいかない。
故に目を見開き、一拍後。
爆発音と同時に辺りがピンクの煙で覆われる。
何故か体に力が入らない。
喉からせり上がってくるものを吐き出せば、幾度となく見た紅が視界を染めた。
口の中に広がる鉄の味に、眉が寄る。
体中が痛くてしかたがない、視界が霞み始めたこれはよくない兆候だそうきゅうにたいしょしなければ
───落ち着くんだ、レイ。ゆっくり深呼吸して。
その声は、喩えるなら砂糖菓子のように甘やかで。
遠いところから響く声に従うと、少しだけ楽になった。
───いい子だ、僕のレイ・オルテンシア。
何処もかしこも痛くて仕方ないのに、その全てがどうでもよくなる程に、愛おしい。
夢幻だとわかっていて、それでも今だけはその幻想に縋っていたい。
恋は盲目。その言葉の意味を、我が身で以て知る。
(───アラウディ君)
吐息と共に外に出したその名は、果たして声になっていたのだろうか。
・色々な意味でやばい
リボーンからの評価が確定したことで動けるようにはなっているが、彼女なりに危惧するところもあり未来には行きたくなかった。宗教的なタブーを物ともしなくなった辺り精神的にはもう限界。
無駄に鋭いが故にユニの最期に思い至ったが、姉のように慕った人の最期に察しがついてしまっている今の彼女にとってはただの地雷だった。好き合ってる人同士が死に別れるの地雷です!!!(クソデカボイス)
ただ、実際には心中だと知ったら諸々から阻止したい気持ちと個人的な羨望がごっちゃになって情緒が酷いことになる。もう一つ言うなら、最期の最後とは言えちゃんと
・ラーメン好き
いってらしゃい、レイチェル。■■■と■■■の似姿たる君よ。
彼女のことは生まれる前から知っている。例えその途中に
それはそれとして、幼い頃と比べて随分と人間味が増したね? そこが少し不安だったのでわざわざ隙を作らせた。