そして、13日後。
「今日も美味かったぞ」
「よかったです♪」
「今日はハルとイーピンが洗い物の当番ね、頼んだわよ」
「では私達は病室の二人の食器を下げて来よう」
「うん、行こっか!」
京子ちゃんと連れ立って獄寺君と山本君の病室に向かうと、既に二人の姿は無く。
「二人とも、何処行ったんだろう…」
「もう怪我も粗方治ったんだ、沢田君だけに頑張らせまいとしているんじゃないかな」
そうだね、と頷き食器をトレイに乗せた京子ちゃんの隣に並び、食堂までの道を歩く。
「レイちゃんも無茶はしないでね、まだ体調悪いみたいだし、雲雀さんのところの家事もしてるんでしょ?」
「わかっているよ」
この時代の私が彼と夫婦であるとは知らないものの、何となくは察しているのだろう京子ちゃんの言葉に、努めて笑みを浮かべ、返答した。
全く、どうして雲雀君の食事も作ることになったのやら。
知らぬ間にあることすらわからなかった外堀を埋められて、私室はこの時代の私のものを使っている始末だ。ちょっとどころじゃなくおかしいと思う。
更には夜寝ようかと布団に入ると、どうやって察知したのか雲雀君がやって来て、添い寝をしてくるのである。頭や背を撫でられたり子守唄を歌われたりで私が睡魔に負けてから寝ているらしく、ここのところ抱き枕状態で目を覚ますのが常だ。
アラウディ君もしょっちゅう私を抱き枕にしてきたし、私を寝かしつけるのも上手かった。何故そういった行動までアラウディ君に似ているのか。
「あ、レイちゃん!」
「どうした、沢田君?」
内心荒ぶりつつ食堂前まで戻って来ると、沢田君が駆け寄って来た。獄寺君達もいないので、もう修業をしにトレーニングルームに降りているものだと思ったのだが。
「リボーンが今日はレイちゃんも来て欲しいらしくて…」
なんかごめんね、と申し訳なさそうな沢田君にふるふると顔を横に振る。
「それは私と一緒に家事をする予定だった京子ちゃん達に言うべき言葉だ」
「私達は大丈夫だよツナ君。でもレイちゃんが無茶しないように見張っててね」
同性の私から見ても愛らしい笑顔にノックアウトされたらしい沢田君を置いて、食器をハルちゃんに渡してからエレベーターを目指す。
エレベーターを待っている間にようやく追いついた沢田君の頬が未だ緩んでいるのに、苦笑を漏らした。
「何するんだろうね…ラル・ミルチは今日から新しい修業をするって言ってたけど…」
「それは聞かなければわからないことが、意味のないことではないはずだ。一歩一歩着実に進めば、過去に帰る
本当に、未来での戦いは何か一つでもピースが欠けていれば即脱落だからな。積み重ねは大事だ。
…チョイス以降は割と超展開? ははは、それもそれまでのことがあってこそじゃないか、多分、きっと、メイビー。
「取り敢えず殴るのは勘弁して欲しーよな」
実感の篭った言葉に目を細めたところで、間の抜けた音が響いて扉が開く。
「よっ」
「おはよーございます、10代目!!」
「二人とも!!」
「今日からオレ達も修業復帰するぜ」
「羨ましいな…私はリボーン君から許可が下りていないんだ」
しばし歓談して時間を潰し、ラル・ミルチ、リボーン君が揃うと、“強襲用個別強化プログラム”の説明を受ける。
しかし、強襲用に強化って…ネーミングが物騒過ぎる気がするんだが。何かの拍子に京子ちゃん達に聞かれたらどう誤魔化すんだ?
そんなこんなのうちに山本君はリボーン君が、獄寺君は異母姉であるビアンキさんが担当と告げられ、ラルが沢田君の指導を下りると言ったかと思えば、紫の物体が高速で飛来する。
…いつの間に来たんだ。
後、ラルはもうちょっと沢田君やリボーン君の意見も聞いてやってくれ。
まあ、リボーン君もリボーン君で『試練』のことは雲雀君以外には秘密にしていたようなのだが。
え、私は何処で知ったのかって? 雲雀君が頼んでもいないのに情報漏洩したんだ。
「気を抜けば死ぬよ」
壁に足をつけて踏ん張っている沢田君が、目を見開く。
さりげなく頬を撫でる手を払い、やるべきことに集中しろと睨み付けた。
割と強い力で払ったのに涼しい顔のこの時代の私の夫に、最早睨む意味もないと溜息を吐く。
「君の才能を、こじ開ける」
正確に言うとこじ開けるのは君だが、才能を引き出すのはジョット君達歴代ボンゴレだからな。
ああ、思い出したら不安になってきた。
彼は、
「赤ん坊から聞いた通りだ。僕の知るこの時代の君には程遠いね」
積み重ねたものがないのだから仕方がない…と言いたいところだが、武器のスペック的な問題もあるので早々に解決した方がいいだろう。そうでなくては、
えげつないハリネズミの球針態に閉じ込められた沢田君に、私は最早エールを送ることしかできない。
「歴代ボスが超えてきたボンゴレの試練には、混じり気のない本当の殺意が必要だからな」
本当に、理不尽な試練だ。
…何を思って、ジョット君はこんな条件の試練を設定したのか。
最早言葉を交わすことすら叶わぬ、
しかし、時間は無駄にできない。
修業の許可こそ出ていないが、雲雀君も何も言わないし、ある程度は構わないだろう。
履いているブーツに手を伸ばし、厚い底を外した。
姿を現したのは、スケート用のブレード。
トウの部分は一目で殺傷能力を持つと察せられるレベルで尖っている。
厚底はこれを収納するためだったんだよな。普段と目線の合い方が違くて、ちょっと違和感があるのだけが難点だ。
スネグーラチカを使った移動手段兼、攻撃手段。
そういう触れ込みでこの時代の私が用意していたものだ。
「……松崎、お前はずっとそれを履いていたと思ったが?」
一瞬あんぐりと口を開け、気を取り直して言外に京子ちゃん達の前でもこれを履いていたことを咎めるラルに、真面目くさった顔をして返す。
「昔の偉い人は言った。『バレなきゃいいのさ』と」
「誰だそんなことを言ったのは!!」
君の所属機関の初代トップもやった、『ボスって誰のこと?』とかいうボンゴレ史上屈指の名言を生み出したうちの雲だが。
元々何処かの国の諜報機関のトップだし、ボンゴレの初代守護者でもあるので昔の偉い人なのは間違いない。
因みにそう言った翌日、私がエレナさんと一緒に作ったお菓子が摘み食いされ、犯人は私と一緒にその発言を聞いていたランポウ君だった、というある意味私達らしいオチもついてきたりするが、それはそれだ。ランポウ君はアラウディ君が責任持ってとっちめてくれたし。
尚このブレードは恐らくアラウディ君リスペクトの代物である。彼も靴底に色々仕込んでたし。一番怖かったのは踵部分から飛び出てくるナイフ。諜報機関怖い。
「リングの炎を使う訓練はしないのか!?」
「炎レーダーに感知されずに戦える私が、わざわざ感知されるリングの炎を使った戦いをするメリットがないな」
スネグーラチカは死ぬ気の炎ではない。だからそれを使用し戦う私は、戦闘中であってもレーダー上に映らず、ステルス状態で居られるというメリットを持っている。
持っている雪のボンゴレリングも、ただのホワイトオパールの指輪だしな。
私の言い分に黙ってしまったラルを宥めるため、右手人差し指に藍色の石が飾られたリングを嵌める。
「まあ、心配するな。本当に必要となったら使うとも」
覚悟なんぞ、とうの昔に決めている。
『みんなと同じものが見たい』
だけど今だけは、この全てを塗り潰す。純粋に、ただ一つだけを考えろ。
沢田君達を、絶対に元の時代へ帰すんだ。
炎が灯る。
馴染みのある、透明度はそれなりに高いが小さい、藍色の炎が揺らめく。
私が既にリングの炎を灯せるとは思っていなかったのか、驚いた様子のラルを見つめ返していると、つんざくような悲鳴が響いて振り返った。
沢田君の、声だ。
「酸素量は限界です。精神的にも肉体的にも危険な状態だ…」
「これでは無駄死に以外の何物でもない! 直ちに修業を中止すべきだ!!」
それでも、止める訳にはいかないのがこの修業だ。そもそも、沢田君に対して混じり気のない殺気を出せる雲雀君が今更止めるはずもないのだが。
唇を噛んで氷を張って道を創り、球針態に滑り寄った。
「レイ」
「何もしないさ」
雲雀君に微笑みを返し、艶やかな紫の球体に手を触れ、額を着ける。
隔てられた中、朧げに見知った気配を感じて…それだけで涙が溢れそうになった。
……ねえ、ジョット君。君は、今のボンゴレをどう思っているのですか。
私は、どうしても受け入れられません。
ボンゴレは、守るための盾で在ったはず。
ボンゴレは、振り下されることなき剣で在れたはず。
いつの間にか、盾は消え。
飾りだった剣は、容易く振り下ろされた。
幾ら嘆こうと、悔いようと、私達の背負う『業』が消えることはない。
それでも、否だからこそ、託してみては
彼は平凡で、ドジで、マヌケで…正直、初めて会った時は容姿しか似ていないようにも思えた。
でも、その善性は、意思は、志は…───
───…君に、驚く程似ているから。
『オレがボンゴレをぶっ壊してやる!!!』
───炎が、灯った。
次々に、途切れることなく。
穏やかな炎が。勇ましき炎が。荒々しき炎が。
そして───懐かしき、優しい炎が。
・初代雪
業を背負う覚悟はとうの昔にしている。今のボンゴレが、家族の一人にとっての理想だとも理解している。それでも、かつてとの乖離を思っては悲嘆に暮れていた。大好きな大空の気配にまた少し持ち直す。
・今も昔も偉い人
多分コレ自分も昔の偉い人だと思ってるんだろうなぁ、とレイが地に足着いてないのを確認してしまい遠い目。沢田綱吉、僕が無理な以上君が頑張らないと、この
灯った炎の気配が懐かしくて、少し笑ってしまった。安心しなよ、見守るくらいはするからさ。
・初代ボンゴレ
来孫がボンゴレぶっ壊す宣言するわ
任せたぞ。だがそれはそれとしてレイのこと追い詰めてしかいないのどういうことだお前。