光が溢れ、飛び
その手のグローブは、ボンゴレリングの力が宿され、明かりを受けて蒼穹の如く輝いている。
「少しだけ僕の知ってる君に似てきたかな。赤ん坊や
殺気が、放たれる。
今の今まで抑えていた分も、辺りに撒き散らされているのだ。せめて非戦闘員のフゥ太君には当てないで欲しいのだが!?
殺る気満々な雲雀君なのだが、ここで残念なお知らせだ。
今の沢田君は急激に出力の上がる
スピードが出過ぎて自爆するとか危ないので止めて欲しいのだが、この機能が無いとメローネ基地攻略の鍵である
特攻したかと思えば雲雀君の懐から
今後のことを全く考えていない彼にじとりとした目を向ける。クソ、全然気にしていない。
「
───偶然だ」
「それって…何となくできちゃったって…ことですか?」
「そういうことです」
ニュートンが万有引力を発見した時のリンゴや、ノーベルがダイナマイトを発明した時の珪藻土に染み込んだニトログリセリンなど、偶然がひらめきを誘発して世界的な発見や発明に繋がることは少なくない。
しかし、それらは簡単に起こるはずがないのだ…本来ならば。
「こと
十中八九、ほぼ間違いなく、白蘭の仕業だろう。ジョット君と同じく、リングに選ばれた適合者である彼の能力であれば、偶然の誘発など容易いことだ。
雲雀君が開匣した
名前を呼ばれたので、渋々…本っ当に渋々、エレベーターまで氷を張り、その上を滑って雲雀君の背を追う。
「…どうだった、沢田綱吉は」
「徐々にではあるが、確かに成長しているよ。喜ばしい限りだ」
エレベーターの中で掛けられた言葉に、偽りない本心を返す。
『試練』を超えたというだけでも、これからの作戦への影響が異なる。それだけでなく、彼が…私の王が、
「本当に…喜ばしいよ」
◆
暗闇の中、六花弁の白い花が降り落ちてくる。
綱吉は、その花の名を知らない。
雪と謳われる少女の好む花だということも、何も。
けれど、咄嗟にその花を受け止めて。
転瞬、視界の全てが塗り替えられる。
夥しい数の人が集まった大広間。
真正面に掲げられた、ボンゴレの紋章が縫い取られた旗。
その中心で───跪く少女と、その前に立つ青年。
青年はボンゴレ
外には蒼穹が広がり、青年と少女は逆光で黒く染まる。
まるで御伽噺の一場面のように、幻想的な光景。
左膝をついた少女が、何かを
儀礼用の直剣。優美な装飾の施された氷細工のそれを、
鈴が転がるような声で、彼女は言った。
それはまるで、愛しい者に愛を
『───此の身は貴方の剣。
この身は貴方と共に。
その背に負う業を、私も背負いましょう。喩えそれが、どれ程重くとも。
我が身の全ては、貴方のために。
その志揺らがぬ限り、
その志潰えぬ限り、
私は貴方の“雪”であり続けましょう───』
『───その覚悟、その誇り、しかと見た。
これより、その身は我が剣であり、いつ
しかし、その心はファミリーを拠り所とするに
いつか、優しく儚く、美しいその心を守護するに値する者が現れたその時には、
その心は其の者のものであるが故に───』
現れるかもわからぬ“誰か”のことをわかっているかのように、大空が告げる。
その言葉を受け、少女の捧げる剣が変化する。
冷気が渦巻き、そして形を新たにする。
いつの間にやら腰に提げられたものと対になる、双剣の一。
優美な意匠はそのままに片刃の剣となったそれを、
対の剣は、それぞれ心と体。
喩え心が自由であるのだとしても、その忠誠は大空に捧げられるのだ、と。
彼女は示したのだ。
それは、いつかの断片。
遠い遠い御伽噺の、その一欠片。
◆
「んじゃ、お前の修業再開すっぞ、山本」
「ああ」
雲雀、草壁、そしてレイが去った後のトレーニングルームで、リボーンと山本がそんな会話をする。
「沢田、お前も休んでいる暇はないぜ。一刻も早く
そう言いながらクレーターの中心に伏す綱吉に近付くラルだが、途中で綱吉が鼻提灯を作り、スヤスヤと気持ちよさげに眠っているのに気付いた。
「…仕方ない奴だ。あの試練の後だ…無理もないな。
───とでも言うかと思ったか!!」
「へ?」
ラルのビンタを頬に受け、強制的に目覚めさせられる綱吉を見て、外野の二人は好き勝手言っている。
「ラルさん凄いスパルタ…」
「ってかツナ教えるの降りたって言ってなかったか?」
ランボの笑い声が響き、リボーンが予想通りな古馴染みの行動にいつもの笑みを浮かべるという、馴染んだものに近い光景を横に、ようやくビンタから解放された綱吉は腫れ上がった頬をさすった。
「あ…そーだ、レイちゃんもう帰っちゃった?」
「雲雀と共にな」
「何か訊きたいことでもあったか、ツナ」
「いや…そういう訳じゃないんだけど……もしかしたら、レイちゃんなら何か知ってるかと思って」
そう呟いた綱吉が、琥珀色の瞳を閉ざす。
その瞼の裏に蘇るのは、気絶するように眠っていた間に見た、夢。
いや、夢と言うには現実味が有り過ぎる、過去。
(あの女の子…レイちゃんに、よく似てた)
容姿などではなく、その在り方が。
凛と前を見据え、その剣を守るため振るう、清廉なる雪花。
それはとても美しく、誇り高く。
そして───儚い、在り方だ。
「…あのさ、リボーン」
「どーした、ツナ」
「初代雪の守護者って、どんなひとだったのかな」
脈絡のない生徒の言葉にも、リボーンはニヤリと笑って答えを返した。
「そう多くは判明してねー。人に有らざるチカラを操り、頭脳は明晰。吹雪のように苛烈かと思えば、粉雪のように慈悲深い。
ただ、ファミリーを愛していたことに間違いはないだろう」
その名を後世に残すことをよしとせず、歴史の闇に沈んだ少女。
墓誌にすら刻まれることはなかったその名の手掛かりとなるのは、一通の書類に記されたサインのみ。
───Ray.O.E.
それが、儚き雪花が唯一残した、存在の証明である。
・名前が残ってない
リング争奪戦時にディーノから渡された資料でその辺りも把握済み。死亡扱いで墓まであるのはちょっと直視したくなかったが、空っぽのはずの墓に眠る
宣誓式で予定にない返しを宣ったボスにどうにか返答したことがある。終了後、重要な式典で変なこと言わないでください!! と脛を蹴り飛ばしたこともある。それでも今思い返すとファインプレーだな、となっている。いやだってあのまま進めたら自覚した時変に拗らせてただろうし。
・やる気が削がれた
『あいつ』とは勿論ジョット。血縁があるし似てもいいけど、仕事ほっぽり出すのだけは真似しないでくれる? 夫婦の時間が減るから。
名前に限らずレイの情報が消えていっているのは把握していたが、特に防止策などは打たなかった。理由は主に独占欲。
・双剣の片割れを捧げられている
雪の守護者就任の宣誓式の様子を来孫に見せた。『こいつオレのだからな? 正体早めに勘付かないと色々手遅れになるぞ?』と無言の忠告をしてる部分も有り。
宣誓式時点では雲のあれこれにも気付いていなかった。なのになんであんなことを言ったのかと言えば、可愛い末妹に女らしい夢を諦めて欲しくなかったから。自分の未来を決める、選択の余地を残しておいてあげたかった。百五十年も経ってから全力で後悔することになるとは、さすがの超直感も教えてくれなかった模様。