「じゃ、始めるぞ」
「お手柔らかに頼む」
気休めのように言った言葉に返されたのは、ニヒルな笑み。うーん全然期待できない。
私とリボーン君が相対しているのは、ボンゴレアジトのトレーニングルームの一つ。出入り口近くの壁際には雲雀君と草壁君、それにラル・ミルチの姿もある。
私は腰に
と、リボーン君が発砲。
飛来する銃弾は氷の盾を展開し防ぎ、私も手を一度振ってリボーン君を凍らせようとするが、飛び
続けて床に氷を張り、スピードを出して斬り掛かるも紙一重で躱され、銃弾を浴びせられる。
雨霰と降ってくる鉛玉は盾で凌いだが、リボーン君が今度は盾の上に飛び上ってきた。
「!! リボーン、それ以上は───」
遮蔽物がなくなり、更に高い位置を取れれば攻撃し放題。
そう思ったのだろうラルの制止の言葉が途絶える。
私がリボーン君の動きを先読みして、蹴りを叩き込んだからだ。
靴底に付けられたブレードは当然ながら金属製、オマケに
マトモに喰らえば命も危ういそれを、リボーン君は自ら盾を蹴り、宙に身を躍らせることで回避する。
リボーン君はレオンをパラシュートにし、私も側転して距離を取りつつ着地。
攻撃を避けるために氷の上を滑りながら、思考を巡らせる。
この場合、勝利条件として適当なのはリボーン君にこちらを攻撃できなくすること。
的が小さいし、射撃の腕が
運よく撃ち落とせたとて、レオンがいるから銃を補填されて終わり。二度目は許されないだろう。
(となると、一番いいのは拘束…ッ!!)
トウピックを氷に突き立て無理やりに方向転換、次いで盾を足場に跳躍。
刹那の滞空時間を逃さず、
私の動きに、リボーン君も当然のように反応を返す。
銃口が私へと向けられ、射られる矢の迎撃体制を整えた。
そして私が射った矢は、形だけの虚像。幻術の囮。
ブラフに引っかかったリボーン君の背後、展開後放置していた盾の一枚が再構成され、形を変える。
拘束するもの───縄、鎖…
(…手錠)
脳裏に思い描いた通りに、それは形創られる。
彼のものなのに。彼の武器なのに。
「っ、あ」
変わる。
私に
ヤバイまずい止めないと!!
転がるように着地して、右手を大きく振って。
転瞬、膨張し、四散。
「危なかった…」
気が抜けて、へたりと床に座り込む。
本当に危なかった。最悪このトレーニングルームが長期間の使用停止を余儀なくされていたかもしれない。そうなったら沢田君達の修業にも影響が出てしまう。
「大丈夫か?」
「ああ、問題ないとも。雲雀君達、も…大丈夫そうだな」
模擬戦の中止を悟ってこちらに歩み寄ってくる彼らに怪我はない。
計画への影響がないことを示すそれに安堵し、そういう風にしか物事を捉えられない己を苦く思う。
ここにいたのが
そんな意味のない思考を打ち切り、立ち上がる。
つでに髪の乱れなんかを手櫛で軽く整えていると、ラルから声が掛かった。
「松崎、今のはスネグーラチカの暴走か?」
「まあそうだな。安心しろ、二度同じことはせんとも」
「…結局スネグーラチカってのは何なんだ?」
リボーン君から出てきた疑問に、雲雀君を見やる。と、彼は首を横に振った。
成る程、この時代の私は情報の共有はしていなかったのか。白蘭に情報が渡る可能性を排除したかったのだろう。ならば仕方がない。
「この時代の私は研究結果から、死ぬ気の炎の類似例だと結論付けているな」
「死ぬ気の炎の?」
「ああ。二つの体質的な要因から、ここまで違いが出たんだ」
要因の一つ目は私の体に流れる波動。
そしてもう一つは、私が波動を直接外界に出力できる体質であること。
「私の波動は無色透明、それから微弱な霧。スネグーラチカは、無色の波動が微弱な霧の波動の影響を受けながら肉体から直に流れ出し、有幻覚同様実体を伴う現象となったものだ」
原理を知った今考えてみると、スネグーラチカの使い方が幻覚と似通っているのも納得しかない。原理的にはほぼ有幻覚だったのだ。
波動の微弱さ故に有幻覚の使用が最大の課題だった私だが、ある意味既に使いこなしていたとは。これ
また、現象となったとは言っても、ある一定の形だけを保つのは難しい部分がある。
ここでも鍵となるのは幻術の理論だ。
幻を現実に投影するだけでなく、それを映像化して戦闘などでの変化に対応する。
脳に過剰な負荷が掛かり、映像処理が間に合わなくなった場合幻は綻びるしかないが、私はその限界点がかなり高い。それこそ
だから先程のリボーン君との戦闘のように盾を複数展開して、移動のための足場を創って、更に手元の
狼や蛇など生き物の形を取らせた場合には、私の無意識の『生き物なのだからこうあるべき』という思考が反映されるのかそれらしい行動を取ることもあるが、これも基本的には私の指示を忠実に実行するのみ。
ここまでを説明し、一息吐くとリボーン君が言った。
「だが、精神的に不安定になると一気に暴走しちまうんだな」
「…まあ、感情に直結してるところがあるからな」
自分でも欠点である自覚はあるから目を逸らし、髪に結い止めたリボンをいじりながら答える。
沢田君達も覚悟の強さに炎圧が左右されている。それと似たようなものだ。
普段は外に放出する口を閉じており、必要に応じて口を開け、使用する。
そして口が閉じていない時に感情が揺さぶられたり、感情からの作用で口が緩んでしまったりすると、先程のように暴走するという訳だ。
暴走の原因は、家族に起因する感情。
それ以外は私にとって、暴走の危険がある程に成り得ない。
だってそれ以外は、実質的に“偽物”と言ってもいいものだから。
切り捨てる時だって躊躇いなんてしない、それだけのもの。
私がおかしいことなんて、私自身が一番よく知っている。
わかっていたから、取り繕ってきた。
私だって、君達みたいに生きたいよ。
「波動であるからには、リングの炎としても扱えそうだが?」
「肝心要の出力機関たるリングが存在しないからな…難しい、という他ない」
効率的な運用手法を潰され歯噛みしているラルには悪いが、私は「不可能」とは言っていないんだよな。
とは言ってもアテがあると言うだけで、どの道今すぐ使えるようにはならない。
加工やら何やらで少々入手困難な素材が必要で、この時代でスムーズに集められる人物に準備を頼んであるのだ。
後はそこまで沢田君達が辿り着けるかどうかで、私が新たな力を手にできるかも変わってくる。
彼らがそこへ辿り着けるように、またそれ以降のためにやらねばならないことを改めて脳内でリストアップしながら、私の評価を定めたらしいリボーン君に視線を向ける。
「レイに家庭教師はいらねーな」
「だろうな…リボーン相手にあそこまで喰らいつけたんだ、オレとしても異論はない」
そう言ったリボーン君に、ラルも同意を示す。
予測はできていたが驚いたような素振りを見せた私の横、当然だと言いたげに頷くのは雲雀君。何故そんなにも自慢げなのだ。
「ツナ達は伸び盛りだが、レイはそうじゃねえ。もう伸び切って、戦闘スタイルも安定性がある。面白くねー」
リボーン君の言葉に苦笑いする。
最終防衛戦力扱いだったところもあれど、最高幹部の一人。主戦力の一人に安定性がなくてどうするんだって話なんだが。
「それじゃあ沢田君達を指導する側に回った方がいいかい?」
指導方針にブレが出るからあまり大人数でやるのもよろしくないとは思うが、人数が多ければその分多角的に見ることができるのも事実。
だからそう言ったのだが、リボーン君は悩む素振りを見せた。
「レイ、お前には予測して先回りするくせがある。そうだな?」
否定する理由もないので頷きを返す。
私の最大の武器はこの頭脳。
ならばファミリーとの差を埋めるべく、それを使うのも道理。
予測した攻撃を躱し、予測した隙に剣閃を叩き込む。
先程リボーン君にもやったが、行動を先読みし、罠でも置くように攻撃を仕掛けるのは私の
ただしこれを使っても
「あれはお前だからできることだ。ツナ達に教えるんじゃねーぞ、ただ変なくせがつくだけだからな」
「わかっているよ」
そこまで周りと自分の差が見えていないと思われているとは、少々心外だ。
ジョット君達と会っていない頃でも、そのくらい気付けていた。気付けていたからこそ、私はジョット君と会うまで周囲から怪しまれずに過ごせていたのだから。
「体調のこともある、が…山本やツナの模擬戦の相手が欲しいのも事実だ。引き受けてくれるか」
確かに体調面に不安はあるが、その程度なら問題ないだろう、と頷いた。ちらりと視線をやった雲雀君は非常に不満げだったが。
・割と普通に強い
持ち得ている波動は無色透明と微弱な霧、後天的に変質した夜の3種。無色の波動に関しては雲雀を優に超えるレベルを誇る。が、現状炎として出力できるリングがないので宝の持ち腐れ。
現在の安定性は幼い体での完成形とでも言うべき状態。肉体的に成長すればもっと強くなる望みはあるが、短期間では不可能な強化であるためリボーンも口には出さなかった。
霧の波動が強ければ
基本人を呼び捨てにしない派であるにも拘らずラルを呼び捨てにするのは、その所属機関設立に携わった者としての見栄と意地。こんなんでも初代守護者だ、というのを忘れないようにするためでもある。