参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的46 彼らのように、手を引いて

 今日の天気は霧のち晴である。

 そう───10年前からやって来たクローム髑髏と、この時代の笹川了平が、並盛地下アジトに辿り着いたのだ。

 

 

 それ自体は吉報だ。二名時代が違うが、ボンゴレ守護者が再び集ったのだから。

 

 だが───笹川君が持って来た情報は、それを上回る衝撃を与えてあまりあるモノだった。

 

 

 『ミルフィオーレ日本支部(メローネ基地)強襲』。

 

 それが笹川君を通じボンゴレ首脳が指示してきた、作戦だ。

 決行予定日は5日後。守護者が揃ったことでリボーン君が最初に出した条件こそクリアしたが、体調不良などで全力が出せない者もいる。

 

 沢田君は、決断を迫られていた。

 

 

「おい、ビアンキさんが怒ってたぞ」

「…ほっとけ」

 

 

 廊下の隅で、拗ねたように顔を背ける獄寺君。

 どうやらストームルームでの修業に耐えかね、逃げ出して来たらしい。

 

 

「…なぁ、獄寺君」

「んだよ」

「私がしているのは山本君や沢田君と模擬戦をするくらいなんだが…君はどんなことをしているんだい?」

「…アネキの(ボックス)アニマルのサソリを、この(ボックス)達を使ってストームルームの中で破壊するっつー修業だ」

 

 

 見せられたのは、未来での彼の代名詞となるSISTEMA(スィステーマ)C.A.I.(シーエーアイ)

 やはり、使いこなせてはいないようだ。

 

 

「…何だか意外だな」

「何がだよ!」

「君はいつもテストでいい点を取っていて、勉強が得意だろう?」

「お前に勝ったことはねーけどな」

「でも僅差、若しくは同点じゃないか。…話が逸れたな。とにかく、てっきり君は机に向かって何かしているんだと思っていたんだ」

 

 

 獄寺君が目を見張る。

 本人だけでも、冷静ならすぐに気付けたと思うのだが。今回は背負うものの大きさと、異母姉への敵愾心で見えなくなっていたらしい。

 

 

「未知の兵器を手にしたんだ、いきなり使いこなせるはずもない。それがわからない君でもないだろうから、実戦じゃなくて、まずはその(ボックス)での戦い方を構築するところから始めると思っていたんだが」

 

 

 まあ結果論になるが、彼が最終的にそれで未来を戦い抜いているところからして、それが正しかったのだろう。

 この時代の獄寺君は入れ替わりの計画を知らされていなかっただろうが、彼がSISTEMA(スィステーマ)C.A.I.(シーエーアイ)を戦闘で使うことを前提にした上でこの計画を知っていたのなら、過去の自分のため、その仕組みを理解するところから始めるよう手を打つのは想像に難くない。

 

 それが人間関係のアレコレも手伝って、余計に拗れたのが今の状況。最悪だな。

 だが獄寺君は習得が早いタイプだから、強襲までには十分間に合わせるだろう。

 

 

「……取っ掛かりが掴めた気がするぜ。あんがとな、レイ」

「おや珍しい」

 

 

 まさか体験するとは思ってもみなかった、獄寺君が沢田君以外へと素直に気持ちを伝えるという途轍もなくレアな状況に、一瞬作っていた表情が何処かへ行って、ただ感慨を表すための何の飾り気もない言葉が零れる。

 

 それを見て目を見張った獄寺君は、悩むように口を開いた。

 

 

「おま、えは10代目の、オレ達のこと……」

「沢田君や君達が、どうかしたかい?」

「…いや、何でもねえ。強襲するとなったらお前も出るんだ、足手まといにならないようにしとけよ」

 

 

 そう言い置いて足早に資料室の方に向かう背を見送りながら、ふむ、と首を傾げる。

 

 

(疑われた、と見るべきか)

 

 

 私が色々と隠しているのは、少し考えればわかること。そこから、私が本当に味方なのかという問いに派生するのも予測済みの事象ではある。

 

 確かに私は、沢田君達にとって純粋な味方ではない。

 そもそも少々私的な目的への道をつけたい故に築いた協力関係である上、未来に来てからはこの時代の私達の計画に沿って動いている。

 

 けれど今となっては、その理由の中に沢田君達への好意がない、とは間違っても言い切れず、さりとて全てを話す訳にもいかない。

 

 わかり易く味方だと示せるのは、やはり実績。

 この時代の私からの預かり物もあるし、メローネ基地では少しばかり派手に動くとしよう。

 

 

「さて、と…」

 

 

 獄寺君は何とかなったし、後は沢田君という特大の爆弾を解体しに行くか。

 

 伸びをして、エレベーターに乗り込む。また何の代わり映えもしない廊下に降り立つと、緊迫感を孕んだ声が響いていた。

 

 

「どちらの地獄を選ぶかだ。甘い考えを捨てろ」

 

 

 地獄。確かに間違ってはいないんだろうが、その言葉は鋭すぎる。幼くて未熟な彼の心を引き裂くのは容易いだろう。

 

 

「レイちゃん…」

「…沢田君、少し話をしよう」

 

 

 ラルが去った後、二人で廊下の床に座る。

 できればこの話はしたくないんだが…まあ、仕方ない。

 

 

「…私には、大切なひと達がいるんだ。もう、会えないんだけれど」

「…」

「でも、忘れることなんてできない…とても、大切なひと達なんだ」

 

 

 忘れる、なんてできやしない。

 

 今の私を形作ったのは彼らだ。

 彼らと出逢わなければ、私はもうその時点で私ではなくなる。

 

 

 私とて、己の歪さは理解している。

 その最たるモノが、“家族(ファミリー)以外への情の薄さ”だ。

 

 いや、情が薄いとは少し違う。

 元々は情すらない。

 

 

 私が感情というものを発露させたのは、ジョット君と出逢ってから。

 それ以前の私は感情を知らず、ただそれらしく装っただけのお人形。

 

 心の動きなんて無かった。人の情動なんて理解できなかった。

 それでも、そのままだと排斥されることはわかったから、偽った。

 

 『私』は大人びていて頭がよくて、だけど甘えたな“普通の女の子”。

 相手が望んでいて、『私』がしておかしくない反応を返せば、誰も私が異常だと気付かない。

 

 

 気付いたのは、ジョット君だけだった。

 

 ちゃんと、目を見て話してくれた。

 頭を撫でてくれた。

 ()()()()()

 

 

 そして私は、ジョット君以外にも家族(ファミリー)と関わることで様々な感情を取得していった。

 それを家族(ファミリー)以外と接する時に反映し、適応させ、模倣する(エミュレートする)ことで【私】は“人間らしい情動”というものを獲得している。

 

 普通じゃない。

 そう思う。

 

 『楽しい』も『悲しい』も『怖い』も『嬉しい』も、得たのは彼らがいたから。

 怒りを、嘆きを、感謝を、安堵を知ったのは彼らがいたから。

 

 普通じゃない。

 でも、それが私なんだ。

 

 

 あくまで模倣、中身を幾ら注ごうと偽物に過ぎないし、そもそも根底の部分で家族以外は全て同価値、どうでもいいものとしか見れない。

 

 だから躊躇いなく切り捨てられる。

 だから私は吹雪と謳われた。

 

 

 人非人(ヒトデナシ)にはなりたくないなんて、笑ってしまう。

 

 私は生まれたその時から、人非人(ヒトデナシ)怪物(バケモノ)なのに。

 ファミリーと一緒にいないと、彼らが関わる事象じゃないと、本当の意味で人で在れないのに。

 

 

 そう知っていて、今この瞬間も、私は最愛の家族に教えられた“本当”を、偽物の中に流し込み続けている。

 

 そうでもしないと取り繕うことができないと、わかっているからじゃない。

 少なくとも一年前まではそうだった。だけど、今は違う。

 

 彼らと、君達と同じでありたいと、そう思うから。

 

 

 この思いは、果たして間違っているのだろうか。

 私には、わからない。

 

 わからないけれど、間違っていないと信じていたい。

 だから私はここにいる。

 

 

 思考に終止符を打ち、沈んだ琥珀の瞳を見つめながら言葉を紡ぐ。

 

 

「そこのリーダーはな、とんでもないバカだった。その頃の私は星の成り立ちなんて知る由も無かったが、彼をこの星始まって以来のバカだと思ったさ。私だけじゃなく、他のみんなにもバカだと思われてたと思う」

「いやそんなこと言っていいの!?」

「いいんだよ、ただの事実だから。でも───あいつは、バカだけど愚かではない」

 

 

 自分でも驚く程ポンポンと飛び出す罵倒にいつもの調子でツッコんだ沢田君が、「え」と声を漏らす。

 

 

「確かに無茶振りは多いしすぐサボるしでどうしようもない奴だが、愚かしい真似はしなかった。じゃなきゃ私達はあいつの判断を信じない、そもそもあいつと一緒にいない。

ま、それでもあのバカについて行った辺り、全員がバカだけど愚かじゃない、と言ってもいいかもな」

 

 

 エレナさんは諸々から例外としても、本当にもう全員が全員どうしようもなかったからな。

 ………今となっては、別の意味でどうしようもなくなってる奴がいるけど。

 

 

「全員って…レイちゃんの他に何人いたの?」

「中心的なメンバーは私含めて8人。他にも大勢」

「…凄いね、そのひと」

 

 

 とてもそんな風には成れないと、情けない顔で沢田君が言う。

 

 対する私は渋い顔。

 婉曲的に言い過ぎた気もするが…これ通じてないな。直接的に言わないとダメか。

 

 

 溜息を吐いて、琥珀色の瞳を両手で覆う。

 

 

「え、ちょ、何!?」

 

「───沢田君。君が今いるのは、(あかり)なんて一つもない暗闇の中だ。

 

でも君が振り返ると、そこにはランボ君とクロームちゃん、笹川君がいる。

隣には獄寺君と山本君。

少し離れた場所には、十分距離を取って雲雀君と六道君がいるだろうな」

 

 

 仲間の存在に表情を緩ませた沢田君が、何かに気付いたかのようにハッとして口を開いた。

 

 

「…レイちゃんは?」

 

 

 その問いに、少しだけ考える。ジョット君の雪である私が、沢田君達にできることを。

 

 

「私は…じゃあ、沢田君の少し前。ちょっと強引に手を引いて、君を前に進ませるんだ。

 

───もうわかっただろう? 君は一人なんかじゃない。全方位に仲間がいて、寄りかかれば支えてくれるんだから」

 

「支え…」

 

 

 瞳を解放すると、自分の両の手に視線を落とした沢田の表情が、見る間に変わっていく。

 これで、もう大丈夫だろう。

 

 

「今のはほんの例えだ。君をボスとし、支えたいと思っている人間は、君が思う以上に多いことを忘れないように」

「えっちょっ、だからオレボスになる気なんてないんだって…!!」

「安心し給え、あのバカ───私達の王よりはまだ少ないさ」

 

 

 安心できないよ!! と叫ぶ沢田君の手を取って軽く引き、エレベーターへと向かう。

 ジョット君達と一緒の頃は、手を引かれるか抱き上げられるかの二択だったな、なんて、他人事のように思った。




・手を引かれるのが常だった

 仲間内での不和を原因から取り除くため、何より友人(庇護対象)を泣かせないために頑張った。自分が慕うバカの話は家庭教師に伝われば身元を特定される可能性があるとはわかっているが、今回はX世(デーチモ)を信じることにした。
 自己評価がダメな方向に振り切れてる。他者との差異が理解できている故の悲劇。

 家族以外に情動が働かず、それ故に家族以外の全ては敵も味方も等しくどうでもいい。………どうでもいい、はずだった。自身の心境の変化を少し受け入れた。亀より遅い歩みだがちゃんと進歩している。


・手を引かれた

 レイが自分の手を引く姿は安心感があるけど、同時に慣れないことをしている風でもあると思った。


・ボスの背を追う

 ボスのついで感覚で修業方法を諭された。多分この後原作よりも少し早く資料室の壁を壊す。
 様々な点が気に食わなくはあるが、雪の守護者のことを何だかんだ自分と同列と認めている。だからこそ、彼女が自分達の前で素を見せる気配がないのが気になっている。裏切る心配ではなく、純粋にこいつオレ達のことどう思って手助けしてんだ、という疑問。


・末っ子のことは手を引くか抱えるか

 色々な意味でやばかった幼女をバグらせてマトモに近づけた方々。それでもまだ違ったやばさがあるからと身内に入れた大空はファインプレー以外の何でもない。
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