参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的48 彼の想い、彼女の想い

「いよいよだな。ヒバリ! 明日は我ら年長組、いいとこ見せんとな!!」

「いやだ」

 

 

 雲雀君の言葉に殴り掛かろうとする笹川君を必死で止める草壁君を横目に見つつ、発言権を求めて挙手した。

 

 

「どうした、松崎」

「私は何故ここにいるんだ?」

 

 

 何を言っているんだと言いたげに雲雀君が首を傾げる。おい、君はもう少し周りを見ろ。君以外の全員が視線を逸らしているぞ。

 

 私の予定では今頃パーティーの準備を手伝っているはずだったのに。本当に何故こうなった。

 

 

「…君が僕の妻だから?」

「散々悩んで出す答えがそれかこの阿呆め!」

「それ以外に理由なんているかい?」

「いるな! 少なくとも毎夜私の布団に潜り込んでくるのに関してはいるな!!」

 

 

 もうこの際入れ替わる前に現状の不満全部をぶつけてやれ、と深呼吸して再び口を開けようとすると、至極冷静な声に「もりあがってるな」と言われ勢いを削がれた。

 

 

「どーなんだ草壁、明日の突入作戦のシミュレーション結果ってのは出たのか?」

「それ私が知っちゃいかんヤツだろう」

 

 

 “知って”はいたが説明はされていなかったのでツッコミを入れさせてもらう。

 苦笑した草壁君が冷静な表情を作り直し、そして口を開いた。

 

 

「明日の作戦の成功率をハイパーコンピューターで試算しました。敵施設の規模から人数を割り出し、ミルフィオーレ構成員の平均戦闘力を入力し、他の要素を掛け合わせた結果…成功率、僅か0.0024%」

 

 

 草壁君が伝えたシミュレーション結果に、笹川君とラルが視線を交わす。

 

 

「因みに、ヴァリアーは成功率が90%を超えなければミッションは行わないと聞く。尤も、ヴァリアークオリティを持つ彼らの基準ですがね」

「一流のプロってのはそういうもんだ。確実性を最優先とし無謀な賭けなどしない……」

 

 

 それなら沢田君達は(おろ)かジョット君ですらプロには入らないな。無謀なことを平気で成し遂げ、何でもないような顔をして帰って来るんだから。

 まあ、それすら織り込み済みの作戦を立てる私も私、と言えばそうなんだが。きっとこの先の未来は(おろ)か、この時代の私達の計画すら知らなかったとしても、私の脳は沢田君達が作戦を成功させる確率は途轍もなく高いと弾き出しただろう。

 ある意味退屈の原因であるモノが、こういう場合には何よりの安心材料になっているのだ。

 

 

「奇跡でも起きなければ成功しない数字か…沢田達には黙っておけ、士気に関わるぞ」

「今更ショックを与えても、他の選択肢はないのだしな…」

「ってより無意味な数字だな」

「リボーン君の意見に全面的に賛成だ」

 

 

 彼らは完成されたプロでは無い。幼く未熟で、しかし伸び盛り。

 到底数値に表せないものを強みとして持つ彼らを単純な数式に当て嵌めたところで、わかるものは何もない。本気でそんなものすら計算に入れようと言うのなら、私の頭脳と同等の代物を作ってもらわなければ。

 

 

「もう話は終わりのようだし、京子ちゃん達に合流させてもらうぞ。今夜のメニューには期待していてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食への期待が高まる捨て台詞を残して、レイが去った後。

 

 

「ヒバリ」

「何だい、赤ん坊」

「お前、倒れたレイが一度目覚めた後、薬を飲ませてただろ」

 

 

 一体、何処から見ていたのか。揺さぶりをかけるような言い方をするリボーンに、雲雀は動じることも無く。

 

 

「あれ、向精神薬の類だな」

 

 

 リボーンの言葉に、笹川とラルがバッと雲雀に視線を向けた。

 肉体面には不調がないと思っていたが、まさか精神面に爆弾が隠れているとは思いもしていなかったのだろう。

 

 視線を注がれ、鬱陶しそうに溜息を吐いた雲雀が口を開く。

 

 

「…ちょうど10年くらい前、並中の敷地内で倒れていたあの()を発見して、介抱したんだ。その時も目覚めた時、あんな風になった」

 

 

 彼にとっては遠い昔、10年前から来た彼女にとっては有り得ない未来。

 そこで起こった、小さな波乱。

 

 

「その時は殺気を当てて正気に戻したけど。倒れて目覚めたらああなるなんておかしいし、本人も薄々それには気付いてたみたいだったから、その日のうちに病院で診察させて。

 

───その時処方された薬と同じのを飲ませたんだ。症状は今くらいの時期から出始めてたし、もしかしたらと思って携帯してた」

 

 

 紬着物の袂からシンプルなデザインのピルケースを取り出し、リボーンへと放る。

 勝手にそれを開け、中身を確認したリボーンは再びそれを雲雀の手に返した。

 

 

「一般的に使われてる向精神薬だな。……過保護も程々にした方がいいぞ。レイのためにもなんねえ」

「過保護にしないといけないからやってるんだよ。あの()は、目を離すと何をするかわからないからね」

 

 

 遥か彼方、もう遠いいつかを見ながら、雲雀は呟く。

 

 

「本当、昔からそういうところは変わらないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んむ」

 

 

 何か物音がしたような気がして、眠気が重みを与える瞼をこじ開ける。

 視界に入る全ては滲んでいて、確かな姿にはならない。

 

 この辺りは私的な部屋が集まっているから、草壁君以外は基本立ち入り禁止だ。その草壁君も、こんな時間にここに足を運ぶことはあるまい。

 

 

「…Miagolare(猫の鳴き声)……?」

 

 

 細くて小さな、気を付けないと聞き逃してしまうだろう音。

 微かに耳に届いたそれは、ジョット君も好きな動物のもの。いつだったか本部にまで連れてきて、G(ジー)君が怒っていたっけ。

 

 ここはミルフィオーレに見つからないよう、出入り口も厳重に管理されている。なのに猫が迷い込んでくるなんてこと、あるだろうか。

 

 

 ふわふわ、ふわふわ、思考が一向に纏まらない。

 前にもこんなことがあったような。

 

 その時は冷たい夜風が吹いていたけれど、今は違う。夜遅いのは変わらなくて、でも私は布団に包まっている。

 手を伸ばすまでもなく触れ合う場所に、人の温もりがあるのも同じだ。

 

 すり、とその人にすり寄ると、未だ滲んでいる視界を暗闇で閉ざすように、大きな手で覆われた。

 

 

「……Gatto()…」

「僕が飼い主のところに返してくるよ。すぐ戻ってくるから、君は寝ていて」

 

 

 耳許で囁かれるのは、私がこの世界で一番好きで、安心できる声。

 吐息が擽ったくて少し笑って、言い付け通りに瞼を閉ざす。「Si.」と小さく返事をするのも忘れない。

 

 顔に触れていた手が離れて、布団の中に私一人しかいなくなっても、心細くはならなかった。

 だって彼が、私が世界で一番信じていい人が、誰よりも大好きな人が、『すぐ戻ってくる』と、そう言ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だか、酷く安心する夢を見ていたような。

 そうして重い瞼を開けると、望んでもいないのに毎晩側にあった温もりは既に無く。

 

 人の気配がないことを確認して着替え、特製の生地で作られたインバネスコートを着る。

 何もしなければ非7³線(ノン・トゥリニセッテ)に侵されるばかりのこの身を守る、最後の防壁がこのコートだ。

 

 

 ボンゴレ側のアジトを覗いて見ると、どうやら沢田君達は突入した後らしい。雲雀君が私も共に向かったという誤情報を流し、同行させないようにしたのだろう。

 

 そもそも、ミルフィオーレの強襲部隊迎撃には私も加わる予定だったのだが。何一人で勝手に迎え撃っているんだ。まあ、()()()()()だから構わんが。

 

 

 内心愚痴りながら風紀財団の出入口を使い誘き出した地点へと向かう。隠し扉を使うのに必要な指紋と虹彩の情報が破棄されていないところを見るに、アジトに軟禁する気はなさそうだな。

 

 

「派手にやったなぁ…」

 

 

 地上の様子を見ると、本当に隠蔽可能なのか問い質したいレベルで荒らされている。

 え、私が知る通りなら嵐モグラ(タルパ・テンペスタ)を使って防壁まで掘り進め、防壁を爆破して突入したんだよな? …被害大き過ぎでは? 入江君、ちゃんと調整したのか?

 

 胃痛に悩まされつつスパイしている未来の友人(らしい)に作戦放り出して尋ねたくなりながら鉄格子の上を歩き、馬鹿正直に突入した強襲部隊の様子を見る。

 …うん、予想はできていたが一方的な蹂躙だな。だがいかんせん人数が多いものだから、処理には相当な時間が掛かる。やはり私もこちらに来てよかった、ここは上手く調整しないと入れ替わりのタイミングがズレるからな。

 

 

 鉄格子の上を歩き、雲雀君を警戒して固まっている集団の真上に立つ。

 軽く手を振って創るのは、華奢な印象を与えるデザインの弓矢(アーチェリー)。片手間にとは言え教えてくれたG君(先生)には感謝だ。

 

 彼がやっていたように矢筒を腰に携え、弓を構える。

 狙うのは…脚か腕にしておこう。

 

 

 一本の矢を番え、放つ。

 スネグーラチカを使い矢の数を増やせば、それだけで一集団を一網打尽にできる。コストに見合ったリターンが返ってくるし、何よりラクチンだ。

 

 苦悶の声をBGMにこんなことを考えられる私は相当におかしいのだろう。自嘲気味に笑いながら、檻の中に降り立つ。

 

 

「早かったね。もう少し寝ててもよかったのに」

「そういう訳にもいくまい。“スケジュール”が狂うぞ」

 

 

 念押しをしつつ、襲い掛かって来る敵を斬り伏せる。互いを庇いながら戦ううち、自然と背中を合わせていた。

 もっと正確に言うならば雲雀君が寄ってきてくれた形だが、私としても有り難い。何分、大人数を相手取るのは少々不得手なもので。

 

 いつ、どこから、どのような攻撃が加えられるかを相手の情報から予測、半ばタイムスケジュール化したそれに沿って動く私は、だからこそ不測の事態に弱い。対多数の戦闘は未来の幅の広がり故、それが多く起きる。とは言っても稀な事態だが。

 その稀な事態も、培ってきた戦闘のセンスで対応、タイムスケジュールの修正までを一息に行える自信はあるし、それができるからこそ私はジョット君の守護者を名乗れた。それでも現状を考えると、予定外の負傷や疲弊の可能性は少なければ少ない程いい。

 

 

「にしても、こんなに上手く行くとはね」

「どんな組織にだってああ言った手合いは存在するものさ。まあ、今回は六道君の協力がなければこの状況に落とし込むのは困難だっただろうが」

 

 

 グロ・キシニアによってクロームちゃんの鞄に発信機が仕込まれることを計画に入れられたのは、未来の私が貸しを作っていた六道君の働きのお陰だ。感謝しなくては。

 

 突入してからのことも、予測はできている。入江君がタイミングを誤らなければ、万事私の予測通りに進むだろう。

 それでも、沢田君達や今背を預ける雲雀君に万一のことがないとは、言い切れない。関わる人員の多さや施設の広大さが主な原因だが、今回の作戦はあまりにも分岐点が多過ぎる。

 

 今この瞬間も枝分かれを繰り返し、広がり続ける未来の可能性は私でも到底全ては見れなくて、見えなかった極々僅かな未来が最悪のものでない保証など、誰もしてくれない。

 本当に何も傷付けられたくないのなら、全部操って、誘導して、私の思い描く通りのお芝居を演じてもらう以外の選択肢はなかったのに。

 

 まさか私が、家族に関わる事象以外でこんなことを思うだなんて。想像したこともない事態に溜息を吐いて、口を開く。

 

 

「…雲雀君」

「何だい?」

「…互いに、最善を尽くそう」

 

 

 無言で強襲部隊の隊員を殴り飛ばした彼の背は、当然だが10年前よりもずっと、それこそジョット君の正義と自身の正義が重なった時のアラウディ君のように頼もしく見えた。




・最終的に蚊帳の外な人

 実は情報交換という意味ではマトモに会議ができて感動していた。だって居眠り始める雷とか笛吹き始める雨とか夕食のことしか考えてない大空とかそれ見て帰ろうとする雲とかしかいなかったから…。
 寝惚けると母国語が出る。そしてその状態だとどんな言語で話し掛けられても脳内で自動変換されるので本人は違和感に気付かない。もう一個言うと思考回路がふわふわになるので甘えた末っ子モードになるし多少の矛盾はスルーする。


・(他の家族の分まで)過保護してる人

 薬に関するアレコレはレイには伝わらないようにしている。小動物? (むし)ろ早く忘れたがってるでしょ?
 極力無茶はさせたくない。だから手許に置いている。
 朝はスッキリ起きるタイプ故に夜中に起こされた場合にしか見られない激レア状態のレイを見れたので、上機嫌で瓜を返却しに行った。何かを察したのか熱を持ち始めた大空のボンゴレリングに内心大慌てで踵を返す。


・本当なら終わるはずの場面で爆弾投げ込んだ人

 何処から見てたんだろうね? 少なくとも彼女の正体には辿り着いていない。



おまけ


・真夜中に遭遇した人達

「まあいいや。今回は見逃してあげる」
「(ヒバリさんなんか機嫌いい…?)って熱!! えっ何コレ!?」
「どうした、ツナ」
「ボンゴレリングがすごい熱くなってる…!!」
「……それじゃあね。おやすみ」
「あ、収まった」
「どうしたんだろうな?」
「ヒバリにイラついたとかじゃないっスか?」←大正解
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