「君が随分とふざけていることはわかったよ」
そう言いながら、雲雀は瓦礫の山の中から立ち上がった。
尤も、己にも油断があったことは否定しない。
先程の一撃も、寸前で炎を使った防御が間に合ったのは幸いだった。でなければ頭蓋を割られていたかもしれない。
「貴様、この時代の戦い方を知っているか?」
奇しくもあの憎たらしい男と同じ霧の術士であるらしい剣士が、そう問いを投げてくる。
だが答えない。
雄弁は銀、沈黙は金。明確な敵に余計な情報を与えるなど、愚か者のすることだ。
あの剣士はそんな愚かさを晒してでも、雲雀がどれだけの情報を握っているか知りたいらしい。逆説的に言えば、雲雀が情報を簡単に零すと…いや、もしかすると、余計な情報を与えても雲雀を打倒できると考えているのかもしれなかった。
「では、これを見たことはあるか?」
「………オルゴールかい?」
沈黙を否定と取ったのだろう男の続けての問いに、今度は短く返す。
事実として、彼の憶えている限りの情報に、示された藍色の正六面体はなかった。
少しでも情報を零してくれれば儲け物。そんな風に考え、先程の意趣返しも込めたふざけた返答の効果は、どうやら相手に問答を打ち切らせるだけだったらしい。
「ならば、圧倒的に倒すのみ」
霧の炎を灯したリングが正六面体の穴へと嵌められ、そして開いたそれが幻覚と同時に何かを吐き出す。
数瞬後、雲雀は全方位をミサイルに囲まれていた。
「これは貴様の置かれた状況を、わかりやすく視覚化したものだ…貴様は何百という誘導弾に囲まれている。更に…」
言葉と同時、ミサイルが徐々にその姿を消す。霧の炎を練り込んだ高精度の幻覚だろう。
ならば避ける手段は、と思案している最中に、新たな情報が投下された。
「成長したお前は“経験”によりこれを退けたが、貴様にそれはない。オレと戦うには10年早い」
成る程、この剣士は想像以上に愚昧だったらしい。
『この時代』に『成長したお前』、『10年早い』。
もう確定だ、ここは雲雀の過ごす時代の10年後。
近頃並盛で頻発していた行方不明者は皆、未来に飛ばされていたようだ。そして雲雀も、また同様に。
何となくあの少女が消えた時と似通ったものを感じていたが、当たり前だった。
直前までこの剣士の相手をしていたのは、この時代の雲雀だろう。そして彼に退けられた手法で、目の前の男は雲雀を倒そうとしている。
何とも愚かと思うのは己がかなりの特殊事例だからだと、雲雀自身自覚はしている。
10年の歳月が有ろうが無かろうが、雲雀は現状に対処可能だ。
何故なら彼は知っている。あの動乱の時代、生き抜いた者の記憶を、誰より克明に刻まれている。
意識を研ぎ澄ますべく、一瞬閉ざした視界の奥。ふと過ぎった
同じようにあの時代を駆けた少女は、きっと仕掛け人側だ。全てを読んで、望む結果を手繰り寄せているに違いない。この戦いも、そうあれと彼女が仕向けただろうことは明白。
いつだってそうだった。今も変わらない。
あの、酷薄なまでに美しくて■しい、■■の瞳は、何も。
決して己のものではないその想いを断ち切るように、目を開ける。
右手のリングに灯すのは、澄んだ紫の炎。
剣士の驚愕の表情に獰猛な笑みを浮かべ、炎の揺らぎから誘導兵器の位置を把握。飛来したそれを、難なく躱す。
彼女が、雲雀恭弥ならば切り抜けられると読んで差配した。
彼女は間違わない。
彼女の予測を、己が間違いにする訳にはいかないのだ。
・入れ替わった浮雲
かつて共に過ごした記憶もレイに対しての想いも認める気はないものの、その実力は信頼しているし彼女からの信頼を裏切れない義務感も抱えている。
幻騎士を咬み殺す気満々だったが、現状の自分では勝てないと悟っていた為、このあと駆け付けた草壁の言葉もあって追加戦力として
酷いやらかしだがこれがないとツナと幻騎士が戦わないのでナイスアシスト(本人にその気は一切ない)。