参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的50 彼女の灯火

「やはりこうなったか…」

 

 

 ジンジャー・ブレッドを介した復讐者(ヴィンディチェ)との情報交換後、メローネ基地に突入している味方との合流を目指してはいるのだが、上手く行かない。

 

 十中八九、我が未来の友人殿(入江君)がメローネ基地を操作し、合流を妨害しているのだろう。なんて面倒な。

 

 

 正直言って私が手を貸し過ぎるとX世(デーチモ)達の成長にならないし、ここで私が合流するのを防ぎたい気持ちもわからんでもない。ミルフィオーレの基地司令としてもその判断が正しいはずだ。

 だがそれは私が全力を振るえる状態ならばの話だ。本来の実力の5割も出せるか怪しい今の状況で、仲間と合流できないのはかなりの痛手。

 

 なので、強引に道を斬り開くことにする。

 

 

 剣を構え、それに霧の炎を纏わせる。

 超高密度エネルギーが、いつもの二倍程の大きさの刃を形成する。

 

 

「そぉっ、れぇッ!!」

 

 

 まるで内部にダイナマイトを仕掛けておいて、それを爆破させたかのように。

 いともあっさりと、壁が崩壊した。

 

 …やり過ぎたつもりはない。(むし)ろ消耗に対しての威力が少ないくらいだ。

 

 

 一息吐いてほつれてきた髪を結い直していると、視界の隅をオレンジの瞬きが横切る。

 え、X世(デーチモ)? 後ろにはスパナもいるし…もう、そんな時間なのか。

 

 床を蹴って、壁が崩壊して空いた穴からパイプが張り巡らされた部分に身を投げた。

 スネグーラチカで創った足場に着地し、滑り出す。

 

 すぐにオレンジの炎で空を飛ぶ沢田君の顔を目視できる距離まで接近した。

 

 

「やあ沢田君、無事で何よりだ。で、そちらは?」

「メカニックのスパナだ。よろしく、雪の守護者」

 

 

 スパナ君がいるということは、X(イクス) BURNER(バーナー)は無事完成したか…よかった、これで今後のことも予定通りに進みそうだ。

 後は、入江君がしくじっていないことを祈ろう。

 

 

「ミルフィオーレの技術者をどうやってタラシ込んだのかについては後で聞かせてもらおう。それより、今何処に向かっているんだ?」

「丸い装置がある、研究所に」

〈どーやらヒバリやクローム達が幻騎士って奴と戦ってるらしくてな。レイもクロームと一緒に来たんだろ?〉

「ああ、途中で別れたが」

 

 

 立体映像(ホログラム)のリボーン君の問いに当たり障りのない答えを返し、沢田君の表情を盗み見る。

 

 

 この後待ち受けている男を倒さねば、研究所には…“私達”の設定したゴールには辿り着けない。そしてゴールに辿り着けなければ、何もかもが上手く嵌らなくなる。

 

 頑張ってくれよ、X世(デーチモ)

 

 

 閉まりかける扉をギリギリで通り抜け、落ちてくる巨大な立方体を躱し。

 

 その末に道を阻む、晴の炎で巨大化した食虫植物を睨みつける彼の脳裏に浮かぶものなど、容易に想像が付く。

 私も、同じだったから。

 

 絶対に負けられない、そんな時に決まって脳裏に浮かぶのは、大切な家族の姿。

 彼らのためなら、どんな死地だろうと怖くはない。

 

 

 だから───

 

 

「───突っ切れ、沢田君!!」

 

 

 手から噴射する炎を防御にも使い、そのままの勢いで食虫植物を突き破った沢田君を、私も追い掛ける。

 

 続く死ぬ気の炎を追尾するミサイルをスパナが無力化したところで、最後の通路に入り込んだ。

 

 

〈そろそろ草壁から連絡があった地点だぞ〉

「!? 何か来る…でかいぞ!!」

 

 

 火を噴きながらまっすぐに向かって来るのは、巨大なロケット。

 

 

「任せろボンゴレ、またウチが…」

「いや、それより君は下がっていろ! 恐らくアレは幻覚、チャフも火炎弾(フレア)も効かない!!」

 

 

 咄嗟に沢田君が腰の金具を外したため落下するスパナを抱え、床までの氷の道を創って滑り降りる。

 

 

〈さすがだな、超直感を持つツナより先に見破るとは〉

「…偶々さ。それより、基地に来てからは大きな戦闘こそしていないが、それなりに消耗しているんだ。助太刀はできそうにない」

 

 

 襲い掛かってきた人形に対処した沢田君が、黒い服を着た剣士と対峙している。

 

 腰の四振りの剣。一瞬で辺りを自分の空間へ変えた幻術の腕。

 そして特徴的過ぎる髪型と眉。

 

 彼こそ、入江君が用意した、ゴールへの最後の関門。

 

 

「そいつが6弔花の幻騎士だ!!」

 

 

 私以外で唯一顔を知るスパナ君が、その名を叫んだ。

 

 

「な…何故ここに…? みんなと戦っている相手のはず……」

「みんな? 貴様の守護者のことか。

 

───中々手こずったが、奴らは今頃藻屑と化しているだろう」

 

 

 それは、ジョット君と同じく仲間を大切にする沢田君を絶望に叩き落す言葉。

 グローブのクリスタルが、強く光を放つ。

 

 

「何をした!!」

 

 

 感情のままに突っ込んだ沢田君が、為す(すべ)なく追い込まれ、地面に叩き付けられた。

 いや相手は術士だぞ、真っ正面から突っ込んでどうする。六道君と戦った時のことを忘れたのか。

 

 

「幻術は無視するとしても、体術が凄まじいな…」

〈オレが見る限り、10年後のヒバリと同レベルか、いや……ともかく、今のツナじゃ歯が立たねぇ…〉

 

 

 私のファミリーでも、純粋に体術でやり合って勝てそうなのは、我らが大空(ジョット君)我が剣の師(雨月君)、それに守護者最強(アラウディ君)辺りになりそうだ。

 

 彼には更に、ヘルリングの一つ『骨幻影(オッサ・インプレッショーネ)のヘルリング』、そしてケーニッヒ設計の二つの(ボックス)を装備した大戦装備(アルマメント・ダ・グエーラ)がある。

 ……これだけ見れば、幻騎士が圧倒的に優勢なのだろう。

 

 

「白蘭様は貴様を全力で倒せと仰せられた。白蘭様の言葉は神の啓示。覆ることはない」

 

 

 実力の差は歴然。

 それでも抵抗した守護者は、無惨に散った。

 

 私はその言葉が偽りだと知っている。

 そもそも、雲雀君なら例え実力差があろうと執念で腕の一本や二本もいでしまうかもしれない。あそこで彼が雲ハリネズミ(ロール君)を暴走させ、入江君が当初の予定よりも早く守護者保護に乗り出したのは(むし)ろ彼にとって幸いだったのだ。

 

 

「貴様はそれ程愚かでもなかろう、ボンゴレX世(デーチモ)

 

 

 幻騎士。

 人と同じように感情があったのなら、私はお前に同情を向けるだろう。

 

 

 大空と共に並び立ち、歩むことの歓びを。

 

 当の大空を裏切り、そして神と仰ぐお前はきっと、一生知ることはないのだから。

 

 

「…お前の強さは…よくわかった。…だが」

 

 

 私の知る大空にそっくりな色を宿す瞳が、より一層その光を強く放つ。

 

 

「わかっていても、オレは()る!!」

 

 

 ジョット君には遠く及ばないそれが、今は酷く頼もしい。

 

 

 気を取り直してX(イクス) BURNER(バーナー)発射準備を始めた沢田君が、幻騎士の剣の一振りで壁に叩き付けられる。

 

 

〈バカツナめ。只でさえX(イクス) BURNER(バーナー)は発射までにスキがでかいんだ。アレを奴相手にあんなバカ正直に撃てる訳ねえ〉

「……問題はそれだけじゃない」

「私は、沢田君の炎の威力が落ちているように感じたが」

「その通りだ、雪の守護者。X(イクス) BURNER(バーナー)の炎圧の伸びも1/5以下だ…」

 

 

 連戦とそれに伴う3回の超火力を使用したX(イクス) BURNER(バーナー)が与えた疲労が、ここに来てピークに達している。

 例えX(イクス) BURNER(バーナー)を撃てたとしても、到底決め手になり得ないだろう…()()()()()()

 

 煙に紛れ、姿が見えない沢田君がリボーン君に話し掛けた。同じ無線で繋がる通信機(ヘッドホン)を使う私も、その内容を無言で聞く。

 

 

〈成る程…目には目を、か。あいつばかり凶悪な武器を使いまくってずりーからな〉

「何をしようとしているのかはわかった。念のため言っておくが、上手く行ったとして一回だけ、しかも一瞬だぞ?」

〈……一瞬、あればいい…〉

 

 

 何とも頼もしいことを言ってくれるじゃないか。この間まで情けない顔を見せていた君は何処に行ってしまったのやら。

 

 幻騎士の攻撃を喰らいながらも爆煙から飛び出した姿が、上へ上へと向かう。

 追撃を受け、斬られたその姿がかき消えた。

 

 

 これで、用意は整った。

 

 立体映像(ホログラム)という己が得手とする分野と似通ったものに騙された幻騎士は、頭に血が上っている。

 その背後から沢田君がX(イクス) BURNER(バーナー)を撃てば、その情報を事前に知り得ていることもあり、必ずその剣の太刀筋を強力かつ確実な一本に絞り、迂闊に沢田君に接近するだろう。

 

 ───それが、彼の狙いだとも知らずに。

 

 

「……あの構え」

「ああ…沢田君が生み出した、ボンゴレの奥義」

 

 

___零地点突破 改 白刃取り!!!

 

 

 幻騎士の炎が、沢田君に吸収される。相手が鎧型の(ボックス)を身に着けている分、その威力も増しているようだ。

 

 ここまで来れば一安心か。ほっと息を吐き、響いた轟音に視線をやると、沢田君が幻騎士を壁に叩き込んでいた。さすがは伸び盛り…いやそれにしたって短時間で成長し過ぎな気もするが。

 

 

 だが。相手は偽りとは言え霧のマーレリングを持つ男。そう簡単に終わってくれるはずもない。

 

 

「真の忠誠は叶わぬ!!!」

 

 

 叫んだ幻騎士の姿が、霧の炎に飲まれ消えた。

 それが晴れると、そこにいたのは異形の剣士。

 

 

〈あれも幻覚か…?〉

「いや、恐らくヘルリングに精神を喰わせ、自己の強化を図ったのだろう…ヘルリングは使用者との契約により戦力を倍加する、という話を資料で目にしたことがある」

〈精神を…(まさ)に地獄との契約だな〉

 

 

 その地獄との契約を結んでまで倒したい程に、幻騎士は沢田君に執着している。その瞳に、かつて裏切った虹の姫(大空)のそれと同じものを見出したが故に。

 

 最早剣士としての矜持を捨てた彼が次に取る手段の卑劣さを知ると、何とも言えない思いが込み上げてくる。

 素の状態、そのスペックを十全に発揮することを前提として入江君は幻騎士を沢田君に対する最後の関門にしたのだろうが、彼が知り得ない情報がその計画を邪魔した形だ。

 

 

 囚われの身となった仲間達の幻覚が、沢田君の首を締め付ける。現実の彼らと繋がっている可能性を示唆されては沢田君にはどうすることもできないことを見越しての悪辣な手法に、顔をしかめた。

 

 

「オレも殺りたかった!!! あの時殺ってみたかった!!!」

 

「…スパナ君、済まないがもう少し下がってくれ。危険かもしれない」

 

 

 金髪の彼がしっかりとパソコンを抱えて背後ににじり下がったのを確認して、弓矢を創る。

 それを構え、叫んだ。

 

 

「沢田君! 例え彼らの精神がそこにあるのだとしても、その器は霧の炎で創られた幻覚だ!! ここまで言えば対処法はわかるな!!」

 

 

 ハッとこちらに視線を向けた沢田君に強く頷き、幻騎士に狙いを定める。

 

 屋内で風がない分、狙った場所に届かせるのは易しいだろう。しかもあれだけ大きな的だ、外してはG(ジー)君に怒られてしまう。

 

 

「…幻騎士! 私の命を賭けてもいいが、お前には真の忠誠など叶わない。絶対にだ!!」

「何だとぉ!!」

 

 

 ヘルリングに精神を喰わせ、理性を失った幻騎士は、簡単に挑発に引っかかった。

 巨躯を曲げ、こちらへと接近する髑髏の化物に狙いを定めて弓を引き絞り、番えた矢に霧の炎を練り込む。

 

 憐れな程人から離れてしまったその姿をまっすぐ見据えながら、誰に聞かせる訳でもなく独りごちた。

 

 

「私は自分を幸福だと思うよ。たった一人にこの身と忠誠を捧げ、そしてそのたった一人に…家族を、心の拠り所とすることを許されたのだから」

 

 

 もう遠い日のことだが、今でも鮮明に覚えている。

 

 

 『雪』という、第七の天候を司る守護者として。

 

 愛しい家族のため、この力を振るうと改めて誓った日のことを。

 

 

「私は、お前よりずっと恵まれている」

 

 

 大切で、大好きな家族(ファミリー)

 【私】に今の私になるための全てを与えてくれたひと達。

 

 楽しいことばかりじゃなかった。

 辛いことの方が多かったかもしれない。

 

 それでも、尚。

 煌めいていて、綺麗で、背を向けるなんて考えられない───そんな灯火を見たのだから。

 

 

 空気を切り裂き、化物に矢が迫る。

 

 相当の威力を持っていたのだろうそれを避けることもできず、胸を射抜いた矢によって幻騎士は無様にも壁に叩き付けられた。

 

 

 それを待っていたかのように、零地点突破 初代(ファースト)エディションを使ってみんなの幻覚の手を凍らせ、窮地を脱した沢田君が柔の炎を逆噴射する。

 

 

「お前も全力で来い、幻騎士!!」

「何を!! 青二才が生意気な!!」

 

 

 噴射される炎により、強風が吹き荒れる。

 

 一気に解放された一際鮮やかな炎が、爆発的な勢いで幻騎士を押し流す。

 

 

 そして。大きく破壊された壁の、その先に。

 

 白く、丸い装置が鎮座していた。




・今も昔も、ただ一人の大空に忠誠を捧ぐ少女

 ユニやγ(ガンマ)を裏切り、白蘭を神と仰ぐ幻騎士とは絶対的に相容れない。例によって生きてようが死んでようがどうでもいいので見逃したが、できれば死んでて欲しい枠に入っている。
 雲雀に対する認識が若干おかしいのは家族と無意識に重ねているためか、それとも…?


・やがて割られる運命にある小さな器の男

 自分に狙いを定める海色の瞳が、色もあってこれ以上なくユニに似て見えた。幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)に紛れて離脱したが、ダメージは原作より多かった模様。


・代替わりしているが、どの大空のことも大切にしているだろう家庭教師

 レイの独り言はバッチリ聞いてしまったが、生徒から初代雪のことを聞いていないのでまだ正体には辿り着かない。ただ、彼女にそこまで言わせる人物達に俄然興味が湧いた。
 彼が見た10年後雲雀の戦闘はまだ未熟なツナ相手であり、彼も遊んでいるような対応であったために正確なことは言えなかったものの、彼の見立てでは10年後の雲雀は(装備が万全であれば)幻騎士よりも強い模様。精神的な葛藤も肉体的な齟齬もなくなってるからね、仕方ないね。
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