参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的51 後奏曲(ポストルーディオ)は鳴り響かず

「まさかあの幻騎士を倒すとは、想定外だった」

 

 

 本人が意図的に作っているのだろう、冷ややかな声。

 その持ち主は、チェルベッロの二人を従え、白い服に身を包んだ男…入江君だ。

 

 冷酷非情ムーヴに騙されている沢田君達の側で思うことでもないんだが、今後の流れを知っているとただの茶番だな?

 

 

「ヘタに動けば彼らは死ぬぞ。ナノコンポジットの壁でとり込み、逃げられなくなったところを睡眠ガスで眠らせてある。少しでも抵抗する素振りを見せれば毒ガスに変更する」

 

 

 そんなこと露程も考えてないくせに。(むし)ろこれ以上は本格的にまずいから保護したの君だろう。

 

 言動と心情の乖離のため本格的に茶番に見えてきて、思考をリセットするべく咳払いを一つ。

 それで私の存在を思い出したのか、入江君が視線を向けてきた。

 

 

 

「松崎レイ、白蘭サンが君の身柄を望んでいてね…悪いが、こちらに来てもらおうか」

 

 

 

「入江君、詳しく」

「ヒェッ」

 

 

 ズカズカと入江君に近付き、襟首を掴んで問い掛ける。

 

 チェルベッロなら一歩踏み出した時点で氷漬け、ついでに捕らえられた獄寺君達の入ったカプセルも脆いガス流入用ダクトから凍らせて壊したから何ら問題はない。

 え、タイムトラベルの仕組みやら(トゥリニセッテ)やらに関してはどうするかって? そんなの後でも大丈夫だろう。

 

 

「僕だって知らないよ! 白蘭サンに訊いてもマシュマロ食べながら笑うだけだし!!」

「…三枚に下ろすんじゃなくて細切れにでもするか」

「スプラッタは勘弁して欲しいかな!?」

 

 

 いや三枚に下ろす時点で十分スプラッタだろ、君本当にそんな場面見たら絶対吐くだろ。

 変なことを宣う未来の友人を、胡乱げな視線で見つめる。

 

 

「というかなんで今なの!? まだタイムトラベルのあれこれとか全然説明してないのに!!」

「そんなの全部後でもできるだろう。今更細かいことを気にするな」

「その細かいこと全部吹っ飛ばした人には言われたくないよ!!」

「耳元で叫ぶな、うるさい」

 

 

 ぺしりと額に手刀を落とし、入江君を解放する。

 シュウゥ、と音が聞こえてそちらを見ると、沢田君の額の炎が消えていた。

 

 

「え………えっと、レイちゃん入江正一と知り合いなの…?」

「未来の私の友人らしい。私も顔を合わせたのは初めてだ」

 

 

 氷漬けのチェルベッロ二人の体を包んでいる氷を操り、研究室の端に移動させつつ、沢田君の問いに答える。

 

 この時代の私は(ボックス)開発にも通じるからか理工学系に手を伸ばしていたようで、同じ分野を得手とする入江君とは意見交換もする仲らしい。

 とは言っても表社会に出しても問題ない成果を上げつつ、その裏で死ぬ気の炎絡みの技術開発やら(ボックス)の研究やらを並行して行う手広さに入江君には呆れられていたようだが。

 

 

 それはそれとして、自己紹介くらいしろよ入江君。

 守護者達は全員解放されてるから、しないと本当に始末されかねないぞ。

 

 

「あぁもう、レイさんが好き勝手してくれたお陰で色々台無しだけど! 言わせてもらうね!!」

 

 

 言いながら、ミルフィオーレのホワイトスペル所属であることを示す上着を脱いだ入江君が、それを床に叩き付ける。

 そして顔を上げ、沢田君や解放された面々を視界に収めながら、言葉を続けた。

 

 

「よくここまで来てくれたね…君達を待ってたんだ。

 

───僕は、君達の味方だよ」

 

 

 私との会話で予想はできていただろうが、改めて突き付けられると驚くのか、全員…いや、リボーン君以外が目を見張る。

 

 この時代の私達が設定したゴールに、沢田君達は見事辿り着いた。

 であるからにはこれ以上の嘘偽りは不要なもの。(むし)ろなるべく迅速且つ正確に、正しい現状を把握してもらう必要がある。

 

 故に私は、それ以上入江君に言葉を続けさせるでも、沢田君達の驚愕の声を聞くでもなく、端的に状況を示した。

 

 

「彼とこの時代の沢田君、雲雀君、そして私。それに少しだけ六道君が関与して出来上がった計画に、私達はずっと踊らされていたんだ。入れ替わったその瞬間からな」

「え…ちょっと待って、計画? 全部この時代のオレ達の計画通りだって言うの!?」

 

 

 『ミルフィオーレの入江正一は敵であり、謎の入れ替わり現象の鍵を握っている』。

 

 その情報の断片は、沢田君がこの時代(10年後)の獄寺君と接触した時から撒かれていた。

 この時代のボンゴレリングが破壊されていること、そして戦闘に於いてリングが重要な位置を占めていることは、絶大な説得力を持つ理由付けとなる。

 そして仕上げに、ミルフィオーレ本部タワー(パフィオペディラム)に潜入した六道君がメローネ基地の設計図を流出させ、その前提を更に強固なものとしたのだ。

 

 すっかりいつもの調子で問い詰めてくる沢田君に、大きく頷く。

 

 

「そもそも、おかしいと思わなかったのかい? 入れ替わりのタイミング、守護者達の合流時期。その全てが事が上手く運ぶように計算されていたんだ」

 

 

 入れ替わるのが一日でも早ければ、私は雲雀君に同行して並盛アジトまで移動することになった。そうなれば非7³線(ノン・トゥリニセッテ)の影響を更に強く受け、この場にいることすら叶わなかったかもしれない。

 少しタイミングがズレれば、クロームちゃんは笹川君と共にアジトに来ることはなかっただろう。

 

 

「それを始めとして、入江君を標的(ターゲット)にしてこのメローネ基地に乗り込んだのも、強敵と相対したのも…全部、私達の成長のために、この時代の私達が仕組んでいたんだよ」

「…じゃあ、京子ちゃん達は……」

 

 

 さすがに気付くか。感心しながら、首肯する。

 

 

「そう。“守るものがあれば強くなれる”…バカげているが、ある意味真理だ。10年後の君は最後まで躊躇していたようだが、過去の自分のことを誰より知っていたからこそ、彼女達を巻き込むことを了承した…そう聞いた」

 

 

 別離を経て、幽明の境界に隔てられようとも家族(ファミリー)を思い続ける私に、その言葉を否定することはできなかった。

 

 けれど10年後の己の決断を聞いた沢田君は、目に見えて項垂れる。

 誰かを守るために拳を振るう彼は、その思いを利用されるなんて思ってもいない。…ましてや、未来の自分がそんな選択をしたのだ。衝撃は、計り知れない。

 

 

「待て。つーことはお前、全部知ってたのか!?」

「この時代に来てすぐに知らされたのさ」

「なんでだよ!」

「私だって望んで知った訳じゃない。一発ぶん殴りたかったが、入れ替わってしまっては無理だな」

 

 

 苛立ちを全面に出しながら雲雀君の方を見やると、それだけで私が彼の独断専行に巻き込まれたと察したのか、獄寺君は口を噤んだ。

 

 

「レイさん、となると、この白い装置は…?」

「君達が予想していた通り、入れ替わりを引き起こしている装置だ。設計には入江君だけじゃなく、この時代の私も携わっている」

 

 

 草壁君に尋ねられ、答えた私の視線を受けた入江君が手元で何やら操作し、装置を開く。

 

 そこに在るのは、この時代(10年後)の私達の姿。

 まだ入れ替わりの時間ではない笹川君以外の全員がいることを確認し、溜息を吐いた。これで生死の確認もできたら嬉しいんだが、そこまで上手くはいかないからな。

 

 

〈んじゃあ、その計画が立てられたのはなんでだ? さっきレイが言ってた、“成長のため”っつーのと関係あんのか?〉

「それに関しては、私より入江君の方が詳しい。というより私もさらりとしか聞いていないんだ。…話してくれるな、入江君」

 

 

 頷いた入江君が、口を開く。

 

 

「白蘭サンは(トゥリニセッテ)を集め、この世界を自分のものにするためには手段を選ばない…そういう人だ…」

 

 

 “(トゥリニセッテ)ポリシー”と名付けられた意志が遂行されれば、今の比ではない地獄絵図がこの世界に現れる。

 人間や集団だけでなく、国すらも排除対象になりかねない。

 

 まるで癇癪でオモチャ箱を引っ繰り返す子供のような所業だが、それが実際に起きようとしている以上、看過はできない。ミルフィオーレに抗える存在の一人としても、ジョット君の雪としても、そして業腹だが【私】としても。

 

 

「ところでリボーン君。何か連絡が来たりはしていないか?」

〈特にねーな〉

 

 

 やはりまだか。

 今の遣り取りで私が何を気にしているのか気付いたのだろう、入江君の顔色が一層悪くなった。

 

 

「あっ、第二段階…!!」

「え!? まだ戦うの?」

 

 

 気付くのが遅いぞ、入江君。

 呆れつつ、沢田君の言葉に答える。

 

 

「いや、君達にはしばらく傷を癒してもらうつもりだ。尤も、それができるかどうかは第二段階に懸かっているが」

「聞いてるだろ? ボンゴレは今日、全世界のミルフィオーレに総攻撃を仕掛ける大作戦に出るって。その作戦が失敗すると全ては一気に難しくなる…一番のカギとなるのは…」

「イタリアの、主力戦だ」

 

 

 入江君の言葉を継ぎ、力強く言い切る。

 

 尤も、それは白蘭が仕切り直しと、チョイスの開催を目論んでいると知らないからこそ出る言葉だ。

 戦況が現状から継続しない以上、主力戦での結果がどうなっても実質関係がない。いや、チョイス後のことも考えると、少なくともヴァリアーには無事でいてもらいたいところなのだが。

 

 

「だが、私達にできることはない。こればっかりは運に任せるしかないんだ。取り敢えず、君達は休め。入江君、緊急用ベッドは?」

「こっちだ、今出して来る!」

 

 

 怪我人を寝かせるベッドを取りに入江君が向かい、草壁君もそれを手伝いに行った後。

 不安げに視線を落とす沢田君の顔を覗き込む。

 

 

「心配かい?」

「…うん」

「そうか。だが、今回に限っては安心してもいいと思うぞ」

 

 

 話を聞いていたのか、周囲からも突き刺さる訝しげな視線を受け流し、ニヤリと笑った。

 

 

「イタリアにはボンゴレファミリーのほとんどがいる。そして現地は今、夜だ。…私の言いたいこと、わかるかい?」

 

 

 ハッと、獄寺君が息を飲んだ。

 

 

「ヴァリアーか…!!」

「正解だ。正直暗殺の定義を問いたくなるような戦い方をする彼らだが、暗殺部隊の名を冠す以上、夜戦は得意だろう」

 

 

 だから、心配なんて必要ない。

 

 敢えて言い切る形にすると、沢田君の表情が緩んだ。

 彼らにとっては新たな情報のオンパレードで、精神的にも休まらなかったんだろう。

 

 

 そんな様子に微笑んで、彼らに更なる負担を強いる未来から、今だけ目を背けた。




・シリアスブレイカー

 説明も騙したままやると結果的に時間の無駄になるのでは、と思い至ったのでゴタゴタを省いた。効率主義な面がよく出ている。
 白蘭に捕捉されている可能性も視野に入れてはいたが、何処まで情報を握られているかは並行世界(パラレルワールド)の自分を信じるしかないのが嫌なところ。ボンゴレI世(プリーモ)のファミリーだと知られていませんように、と祈っている。


・脅された

 得意分野が被ってたりはするが、その分レイの様々な面を見てきたために共感よりは畏怖の方が強い。それでも距離が近いのは、彼女の思考に親友(白蘭)と似たものを感じているから。
 補足すると白蘭からのレイの身柄要求は「生け捕りにできそうならお願いね♪」という感じだったのでチェルベッロの手前一応言っただけ。親友としての勘で、レイに興味を唆られてはいるものの、(トゥリニセッテ)ポリシーがそれを大きく上回っていると察している。今後どうなるにせよ、レイの身柄が交換条件に出されることはなさそうで安心。
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