参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的52 対面と贈り物(プレゼント)

「お待たせ、何話してたんだい?」

「ヴァリアーのことさ」

「ヴァリアー? …あ、そう言えば。レイさん知ってるかな、ヴァリアーのジェラルドのこと」

「いや。ジェラルド君に何かあったのか?」

 

 

 沢田君と同じ、知己の子孫。入江君の口振りからすると凶報ではなさそうだが、何があったのか。

 

 

「…驚かないで聞いて欲しいんだけど。ジェラルド、どうやら雲の波動が流れてたらしくて、ヴァリアーの雲の幹部になったんだ」

「ほぉ」

 

 

 それはめでたい。ドン・サルトーリは嵐と雷だったから無意識にそっちだろうと思っていたが、予想が外れたな。

 

 

「もっと驚くと思ってたんだけどなぁ…」

「十分驚いてるさ。しかし、それならますます安心だ」

 

 

 10年という短くはない歳月で磨かれたその槍の腕を、遺憾なく振るってくれれば。

 ミルフィオーレの雑兵なぞ、すぐ一掃できるだろう。

 

 その予想は程なくして、現実のものとなる。

 

 

〈たった今ジャンニーニからイタリア主力戦の情報が入ったぞ。XANXUS(ザンザス)が敵の大将を倒したらしい〉

「!! マジっスか!?」

 

 

 続く敵の撤退の報を聞き歓喜する入江君を微笑ましく見つめながらも、私は腰の剣に手をやった。

 

 まだ何も終わっていない…始まってすらいないことを、私は“知っている”のだから。

 

 

〈いいや、ただの小休止だよ〉

 

 

 ほら。この流れも、私が知る通り。

 冷めた目で、どこもかしこも白い男の立体映像(ホログラム)を見つめる。

 

 

〈しっかし正チャンもつくづく物好きだよね。まだケツの青いボンゴレ10代目なんかに、世界の命運を預けちゃうなんてさ〉

 

 

 咄嗟に向けられた問うような、探るような視線を努めて無視し、純白の男の、唯一色が乗る瞳をしっかりと見続ける。

 

 

〈だから、そろそろちゃんとやろーと思って。───沢田綱吉クン率いるボンゴレファミリーと、僕のミルフィオーレファミリーとの、正式な力比べをね〉

 

 

 戯言を。どうせ、勝敗も全て貴様の掌の上のくせに。

 だが、その余裕を保っているがいい。その間に、私は私で準備を進めよう。

 

 私が貴様に求めるのはただ一つ。

 

 ───来たる時、上手く私の掌の上で踊ることだ。

 

 

 思考の海に沈んでいると、何かが割れる音が響いた。

 

 入江君の手の晴のマーレリングに付いていた翼の意匠が欠け落ちた音だろう。恐らく、メローネ基地から逃れているだろうγ(ガンマ)君のものも、同様に。

 

 

〈彼らが本物のミルフィオーレファミリー6人の守護者、(リアル)6弔花♪〉

 

 

 映し出される、6人の男女。

 

 雲の桔梗、霧のトリカブト、晴のデイジー、嵐のザクロ、雨のブルーベル、そして雷のGHOST(ゴースト)

 正真正銘、私達の敵となる彼ら。

 

 破壊の限りを尽くされたザクロの故郷、そしてマグマの風呂に入るザクロを見ながら、目を細めた。

 

 

〈僕らを倒したら今度こそ君達の勝利だ。ミルフィオーレはボンゴレに全面降伏するよ〉

「白蘭サン!! 力比べって…一体何を企んでるんですか!!」

〈昔正チャンとよくやった“チョイス”って遊び、覚えてるかい? あれを現実にやるつもりだよ♪ 細かいことは10日後に発表するから楽しみにしててね♪ それまで一切手は出さないからのんびり休むといい〉

「そんなことができると思うか?」

 

 

 白蘭に問うと、彼はこちらを見て、急に真面目な顔になった。

 

 

〈レイちゃん…君は一体“何”なのかな?〉

 

 

 私が、何か。

 答えは幾つもある。

 

 自警団ボンゴレ作戦参謀。

 ボンゴレI世(プリーモ)が雪の守護者。

 そして一応は、沢田君の雪の守護者でもある。

 

 けれど、白蘭の問いの意を汲むのなら、答えはそれ以外。

 『私』の根底。抹消したくて仕方がなくて、なのに断ち切れない【私】。

 

 しかしそれを告げる訳にもいかず、ただその薄紫の瞳を見つめ返す。

 

 

〈“君”っていう存在はね、不思議なんだ。()()()()“君”はとても少ない。綱吉クンや正チャンみたいに何処にでもいる訳じゃない。それだけじゃなく、君は行動も一貫しないんだ。なのに絶対にミルフィオーレの味方になることはない。無理に引き入れようとすると必ず命を絶ってしまう…〉

 

 

 『僕が知る』というのは、彼が覗ける並行世界(パラレルワールド)のことだろう。無限に等しく存在する並行世界(パラレルワールド)の中で、私が存在するのはほんの僅か。

 更に、その“私”が取る行動もまちまちだから、白蘭は興味を唆られている、と。

 

 その疑問の答えは、酷く簡単だ。

 そもそも“私”という存在は、世界にとって()()()()()()()ではないので、数が少なく。ボンゴレを初代の頃から知るために、その変化を受け入れるか否かで行動が分かれ。

 しかし全員がミルフィオーレの、白蘭の危険性を知るが故に、彼に着くことはない…。

 

 単純明快で、面白みなんて欠片もない。

 

 

「君は何を言っているんだ?」

 

 

 並行世界(パラレルワールド)のこと、白蘭の能力のことを知らない私の最適解を、白蘭に叩き付ける。

 

 その裏で情報を整理し、感じたのは一抹の諦念と、それ以上の歓喜。

 【私】と彼らは、偶然出会う運命ではなかった。

 それでも、彼らは【私】が生み出された全ての世界で、『私』を見つけてくれた。

 

 先程の白蘭の言葉は、その証明に他ならない。

 そうでなければ、私は白蘭の興味を引く程多様な道を辿れないのだから。

 

 

〈…んー、ならいいや。それはそれで興味が湧いてきたからもっと話したいんだけど、君達はもう逃げないとね。君達のいるメローネ基地は、もうすぐ消えるからさ〉

「!? 消える?」

〈正しくは基地に仕込まれた超炎リング転送システムによって移動するんだけどね〉

 

 

 楽しみだね、なんて言葉を残した白蘭の立体映像(ホログラム)が消え、目が眩む程の光が溢れる。

 それが体感したものの気配にそっくりであると理解して、唇を噛んだ。

 

 ああ、やっぱりだ。炎を大量に使ったテレポーテーション。力任せで原始的とすら言えるそれが、()()()()()()()()()()()()()()()にも行われていた。

 

 

「大丈夫だ!! 何かに掴まれ!!」

「!? 大丈夫って!?」

「ちょうど時間なんだよ!!」

 

 

 今度こそ胸の中で煮え滾り始めた、怒りと定義される激情を抑え、そうすれば安全なのだと知らせるために声を張り上げる。まあ、これで笹川君が来なかったら全部おじゃんなんだが。

 

 だが、よりにもよってこの私が計算違いなんてする訳もなく。

 

 

「極限にここは何処だー!!?」

「10年前の…お兄さん!!」

「体感気温が上がったぞ…」

 

 

 晴のボンゴレリングを持った笹川君が来たことで、私達は並盛から移動することなく済んだのだった。

 

 

「…しかし、大変なことになりましたね…あの6弔花より更に上がいるとは……この戦力で、この先一体どう戦えと……」

 

 

 見知らぬ土地へ飛ばされるという危機を脱し、落ち着いて状況を把握した草壁君が、そう零す。

 

 6弔花ですら、満身創痍でどうにか勝利をもぎ取ったのだ。それよりも格段に強い相手に、全員が入れ替わったボンゴレX世(デーチモ)ファミリーで挑む…正直言って、無謀だとしか思えないのだろう。

 

 

「そりゃ、やるっきゃないっスよ」

「や…山本!! いつから!?」

「ったく、心配かけやがって」

 

 

 意識を取り戻した山本君はそう言って場を和ませているが、スパナ君やリボーン君からすぐに現実を直視させられ、沢田君は俯いた。

 

 その心配も不安も、不要なものとは言えない。私とて最善は尽くすが、それでも取り零し得るものはある。

 でも、それでも、やり遂げなくてはならない。

 

 

「いいや、できるさ!!」

 

 

 沈んだ場の空気を壊すために敢えて声を張り上げ、入江君が言う。

 

 

「成長した君達なら、奴らと渡り合えるさ!!」

「入江君が何のために君達をイジメてきたと思っているんだい?」

「ウッ…君達を鍛えることは、この新たな戦力を解き放つことでもあったんだ!」

 

 

 私のチャチャ入れに呻いた入江君は、白い装置に近付くと何やら操作を始めた。

 

 

「君達の成長なくしては使いこなせない新たな力…今こそ託そう」

「ああ! 装置の中心が開く……!!」

 

 

 装置が開くのを見ながら、私の内心は荒れていた。

 

 

 沢田君がそれぞれに合った(ボックス)アニマルを選定し、雲雀君が収集したデータを基に入江君が改造。そしてその核となる、形態変化(カンビオ・フォルマ)のシステム構築及びデータ提供は、私。

 

 当たり前だ。形態変化(カンビオ・フォルマ)の、その大元を直に見たのは、私しかいない。無論多少なら文献にも情報が残されているだろうが、それでも私の持つ情報は重要だ。

 

 

 幾ら勝利への道筋を開くためとは言え、苦く思わないはずがない。

 けれど、この時代の私はそれを抑え込んだ。

 

 抑え込み、そして託した。

 沢田君達(X世ファミリー)に家族の武器を。そして(過去の己)には、彼らを守るための最後の一手を。

 

 

 その期待に、思いに応えるべく微笑みを浮かべ、言った。

 

 

「…この時代のボンゴレボスから、君達への贈り物(プレゼント)だ。心して受け取りなさい」

 

 

 その言葉を契機とするように、装置の中心から炎に包まれた物体がボンゴレリング保持者(ホルダー)目掛けて飛来する。

 

 

 橙、赤、青、黄、緑、藍、紫、そして白…各々の炎に対応する色に、黄金のボンゴレの紋章。

 

 外装からして特別製だと窺い知れる(ボックス)をまじまじと見つめる沢田君達に、入江君が告げる。

 

 

「この時代のボンゴレ10代目より君達に託された、“ボンゴレ(ボックス)”だ」

 

 

 対白蘭、及び(リアル)6弔花の最終兵器。

 白蘭の知るどの世界にもない、今この場にいる彼らだけの武器。

 

 大元になっているのは私の家族(ファミリー)の武器だが、そこは一旦置いておくべきだろう。

 

 そんな風に思って、私にとってはかつての武器になる(ボックス)を胸へと押し付けた。




・ボンゴレ(ボックス)開発者(10年前)

 かつての武器を再び手にした。
 ジェラルドの昇進は素直に喜んでいるが、波動の問題から自分の役割引き継いでもらえないのでは疑惑が出てきてちょっと困ってもいる。
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