「サイコロ!!」
「……違う」
「極限にこの黄色いハコは何だあ!?」
一気に騒々しくなった彼らを微笑ましく見ていると、入江君から声が掛かる。
「何だ、入江君」
「君にはボンゴレ
「……ああ、頼むよ」
〈何のことだ? レイ〉
「私は現状、霧の炎しか使えないだろ? それの改善と言ったところだよ」
実際には夜の炎も使えるのだがそれを言う訳にも行かず、内心苦笑しながら右手の人差し指を立てた。
「人間には波動が巡っていて、それが死ぬ気の炎の大きさ・バランスにも作用する───ではここで問題。もし波動自体は巡っているのに何にも分類されない、ただただ純粋な生体エネルギーとしてしか使えない者がいたとして、どうする?」
「えっ、そんな人いるの!?」
「それが君の目の前に一人、いるんだよ」
そこまで言えば、さすがの沢田君にも理解できたのだろう。
パクパクと口を開いては閉じるを繰り返す彼に、ニヤリと笑った。
「推定だけど一億分の一とか、そのくらいの確率なんだけどな。リングも適した物を薬品を使って加工するしかない。他の属性のように遺伝するのかも未知数、正直まだわからないことだらけ。でもギリギリで専用の
「10年後のレイちゃんスゴいね…?」
「本当にな」
雲雀君が
ここまでお膳立てをされた以上、何が何でも果たしてやると、決意を新たにする。
「この無色透明の波動とそれから成る白い炎を、
「他の属性と同じで天候だしな!」
〈守護者の呼び名とも一致するしな〉
そう。私が冠するものと、第七の
それしかないと思ったのだと、この時代の私は書き残していた。私も、きっと己が最初に見つけたのならそう名付けるだろう。
今も昔も、己を象徴するのならそれは『雪』がいい。
我儘かもしれないが、誰に迷惑が掛かる訳でもないのだ。見逃してもらいたい。
〈その雪の炎はどーゆー炎なんだ?〉
「無色透明、なので当然だが特性と呼べるものはない。ただ、他の大空の7属性の炎と同じように高純度のエネルギーとしても使用が可能になる。炎が冷たいのも特徴と言えば特徴か」
要は今まで霧の炎を練り込んでいた時間を短縮し、高威力の攻撃を放てるようになるということだ。タイムラグがなくなるのは戦場で致命的な隙を生み難いということでもある。歓迎する要素以外はない。
指から抜き取った雪のボンゴレリングを受け取った入江君は透明な液体の入ったビーカーを取り出し、科学の実験紛いのことをし始めた。
液体の一部はこの時代の私が自力で調合したもの。私は少しばかりヒントがあったのでそこから成分を予測しているが、他に知る者は誰もいない。今ここで仕上げを行っている入江君や、白蘭ですら例外ではない代物だ。
そうは言ってもボンゴレ
簡単にはいかない現実が嫌になりながら、入江君からリングを受け取る。
見た目にはまるで変化がないが、それでいい。そうでなくては加工の許可など出さない。
「いいかい? くれぐれも慎重に扱ってくれよ?」
「わかっているさ」
返事と共に、右手中指のリングに意識を集中させる。
大好きなひとが贈ってくれた指輪は、今こうして私を支える武器になっている。
こんな運命なら認めてもいいかな、などと、らしくもなく思う。
本当に、らしくない。
贈った当人が見たらどんな反応をするだろう。
呆れるか、鼻で笑うか。一つ頭を撫でて、それで終いか。
それでも私は、君が好きだよ。
ふう、と一つ息を吐いて。
白く透明な炎が、冷気を伴い荒れ狂う。
「わぁああ!?」
「やり過ぎだドンヨリ女!」
「早く! 早くどうにかして!!」
顔を庇いながらの沢田君達の言葉に、雪のボンゴレ
炎が吹雪に変化し、変わらずに部屋の中を蹂躙する。
「さむっ!?」
「極限に何が起こっているのだ!?」
「
〈そこまでバカじゃねーだろ〉
「そうだけど…!!」
唸る風に妨げられぬよう、大声を張り上げて会話する入江君達に、吹雪を収束させつつ言う。
「済まない、勝手がわからなくて…もう大丈夫だ」
「くぅん」
謝意を表すように、腕の中の白い塊も私に続いて一つ鳴いた。
「……犬?」
「狼だよ、子供の姿だけど。ね、ティア」
純白の毛並みに銀の目を持つ仔狼は、そろりと伸ばされたクロームちゃんの手に耳を動かすと鼻をすり付け始める。
ここだけ見れば人に懐いた仔犬にしか見えない。戦うための武器だなんて、到底思われないだろう。
兵器にしてはあまりに愛くるしい姿に少々気を抜いていると、リボーン君に名前を呼ばれた。
〈レイ…脚のそれは何だ?〉
「手にも、何かあるぜ?」
衣服に隠れた両脚の太腿半ば、そして両二の腕から絡みつく氷細工のそれは、まるで蔦のように指先にまでしっかりと絡んでいる。
確認するべく腕や足を振ってみるが、不調という不調はない。
「…痛みがある訳でもないな。
「よくねーよ!! おい入江、どうなってやがる!!」
「ボンゴレ
「極限に原因がわからないのだな!!」
「うるさい」
私の言葉に獄寺君が怒鳴り、入江君は悲鳴を上げる。そして笹川君の大声が我慢ならなかったのだろう雲雀君が距離を取りつつ零した。
成る程これがカオスか、と思っていると、
「んなっ!?」
〈ヴァリアーから通信を繋げとの要請です…ミルフィオーレに盗聴される恐れがありますが…〉
〈いいから繋げぇ!!〉
〈怖いから繋ぎますよ! ヘッドホンの音量に気を付けてください〉
ジャンニーニの忠告に従い音量を最小に設定し直した直後、明らかに相手が耳元で聞くことを想定していない大音量が他の
「スクアーロ!!」
「っるせーぞ!!」
〈いいかぁ!! こうなっちまった以上ボンゴレは一蓮托生だ。てめーらがガキだろーと……………〉
スクアーロ君の言葉が途切れる瞬間を狙ったように、何かが投擲される音とそれが頭部にでもクリーンヒットしたのだろう音が
音量を通常まで戻すと、タイミングよく
〈10日後にボンゴレが最強だと証明してみせろ〉
「えっ…?」
「…切れちまったな…」
「あんにゃろう、好きなことだけ言いやがって!!」
今後のアレコレからして、彼の要望には応えられそうにない。だが最終的に笑うのは
そんな風に考えていると、クロームちゃんが入江君の方へと進み出た。
「骸様は…六道骸は、今…どうなっているんですか…?」
「え」
問われたのが不思議なのか思わずと言った様子で零した入江君を、さっさと答えろという思いを込めて睨み付ける。
そっぽを向いていた雲雀君もこちらに視線を向ける中、入江君が口を開いた。
「……………白蘭サンの話では、骸はミルフィオーレの兵士に憑依していたところを白蘭サンの手で殺されたらしい」
白蘭と戦った当時、六道君が憑依していたのはこの時代のクロームちゃんとも接触していた男だろう。風紀財団の調べによると、一年前に脱獄した凶悪犯だとか。
彼をミルフィオーレに潜り込ませて白蘭との接触を図り、戦闘データを持ち帰ろうと目論んだものの…というのが事の経緯だ。
さすがに思念まで遮断する結界なんて、想定外でも仕方があるまい。私も
「だが僕はそう思っていない。何故なら
「………ってことは…」
「生きてるよ、それは間違いない…」
入江君の言葉に緊張の糸が切れたのだろう、倒れ込んだクロームちゃんを支える。
「よかったな、クロームちゃん」
「…うん……」
この時ばかりは、六道君が
「ところで、一つ気になっていたのですが、入江さん」
「はい?」
「あの装置の中にいるこの時代のボンゴレファミリーを出すことはできないのですか? 彼らが加われば凄い戦力になるはずです!」
「残念だけど、それは絶対にあってはならないんだ」
完璧な同一人物が二人存在するという矛盾は、時空の崩壊原因になりかねない。時空が壊れれば、そのまま世界も消えてしまう。
この装置はこの時代の私達を分子レベルにまで分解し、更に外界と隔絶した空間に収めることで『この時代の私達は存在しない』という言い訳を成り立たせているのだ。
まあ、もしも崩壊要因云々がどうにかなって出られたとしても、戦力外になりそうだったり、そもそも戦えない状態にまでなっていそうなのがいるのだが、それは言わなくてもいいだろう。
腕に絡み付いた氷を袖の上から撫でて、息を一つ吐く。
大丈夫。
積み上げてきた負債をチャラにする方法も、私はわかっているから。
・雪の守護者
ようやく自分の天候の属性が使えるようになった。
修業をする必要がない自分が割と早く入れ替わったのは、この時代の自分がそれだけ危険な状態だったからだと察している。
・雪のボンゴレ
開発者でもある主人だけでなく、彼女の大切な者達にも懐いている。戦闘には向かない子供の姿なのは、とある理由により燃費を抑えなければいけないため。
・雪属性について
レイが言っていた通りに希少ではあるものの、絶対数が少ない、リングの加工手段が(レイ以外には)わからない、特性がない、と狙う要素が希少価値以外にない属性。
そこから派生するスネグーラチカは強力でこそあれ、そもそもレイが死ぬ気弾やリングを使わず、肉体から直に波動を外界に放出できる特異な体質だったために生まれたもの(炎レーダーに引っかからないのもこれが原因)。
そしてもう一つ言うなら霧の波動も流れているからこその能力なので、雪の波動の持ち主=スネグーラチカが使える、という訳ではなく、おまけに術士としての才能や技術がなければ十全には使いこなせない…と言う。ないない尽くしにも程がある。
正直なところ、スネグーラチカと純度の低い霧の炎で何とか