参謀殿は子供扱いがお嫌い。   作:鏡鈴抄

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標的56 前進と恋語り

「お兄ちゃん達、昨日はカップ麺みたいだったけど…今日は栄養のあるもの食べてるかなぁ…?」

「ツナさん達が本当のことさえ教えてくれれば、飛んでいってご飯作るんですけど…」

 

 

 女性陣揃ってお風呂に入ることになり、クロームちゃんの横でくつろいでいると、京子ちゃんとハルちゃんのそんなボヤキが聞こえた。

 私と同じくそれを聞いたビアンキさんが、石鹸の泡を流して口を開く。

 

 

「貴女達はツナ達がすぐに降参すると思っていたみたいね。私はそう簡単には行かないと思うけど…………」

 

 

 二人は事の大きさと、沢田君達が背負っているものを測り切れてはいない。

 逆にそれを知る私やビアンキさんは、沢田君が早々折れることはないと予想できた。

 

 この辺りは情報量の差だと思っていたのだが、ビアンキさんが言うにはそうではないらしい。

 

 

「理由は二つね。一つは、貴女達に変わって欲しくないのよ」

 

 

 成る程、ビアンキさんは理屈ではなく、感情の方面から見ているのか。

 リボーン君への愛を貫いている彼女らしい見方だ。

 

 

「秘密を知れば、貴女達は今までの貴女達とは違う人間になるわ。それを恐れてるの。気になる相手なら尚更ね」

 

 

 昨日は彼らの判断材料を増やそうと、京子ちゃん達の後押しをするような情報を幾らか与えた。

 

 だが、確かに彼らが隠しているのは重たいものだ。

 最早事態は私達だけの問題ではなく、世界すら背負わないといけない。

 

 そんなもの、知らずに済むならそれがいいと考えるのが普通なのだ。

 

 知れば、変わってしまうとわかっているから。

 人間とは変化を恐怖する生き物であり、現状を維持できるのならそうすべきと考える生き物なのだから。

 

 

 私だって、変わりたくはない。

 

 私にとって、変わることはかつての私を失うこと。

 彼らと共にいた私が消えてしまうこと。

 

 だから、雪の在り方は譲らない。

 だけど、沢田君達のことも大切。

 

 

「気になるひとがいつまでも変わらないなんて、男の幻想に過ぎないんだけどね」

 

 

 呆れたように、ビアンキさんが言う。

 そう。変化とは、抗おうとして抗えるものではないのだ。

 

 ボンゴレが、あの頃とは全くの別物になってしまったように。

 私が今、こんなことを思っているように。

 

 

 ふと、閉じた瞼の裏に白金色(プラチナ・ブロンド)とアイスブルーが過ぎった。

 

 

(アラウディ君は、どう思うのでしょう)

 

 

 少しずつ、けれど確かに変わりつつある私は、彼の目にはどう映るのだろうか。

 いい変化として見てくれるのなら、幸いなことこの上ないのだけれど。

 

 そんな風に思っていると、ビアンキさんが再び口を開いた。

 

 

「もう一つは意地ね。あの子達は女は男が守るものだと思っているの…貴女達に禍々しい世界を見せないことに男のプライドを懸けてるわ」

「気持ちは嬉しいですけど…ハル達だって力になりたいんです。それを一方的に決める権利はツナさん達にはないと思います」

 

 

 目を逸らしながらもハルちゃんが言った言葉に、思わず笑う。

 

 

「ハルちゃんの意見には同意しかないが…(私達)の想像以上に、(彼ら)はプライドに命を懸けるものなのさ」

 

 

 アラウディ君が筆頭だが、他のみんなもそりゃ凄かった。男なんてそういう生き物なのよ、とエレナさんが笑っていたのも、よく覚えている。

 斯く言う私も彼らの同類、己の誇りは絶対に譲れないが。…いや、これは逆だった。

 

 誇りだから譲らないのではなく───譲れないから、誇りなんだと。

 

 そう、私は教えられた。

 

 

(むし)ろプライドに命を懸けられない男は男じゃないわ。あの人だってそう…」

 

 

 ビアンキさんの熱っぽく潤んだ瞳が、虚空を見つめる。

 その表情をよく知っていた私は、一人息を詰めた。

 

 エレナさんが、D(デイモン)君のことを話している時と、同じ顔。

 

 

 熱い湯に胸まで浸かっているというのに、震えが全身に伝播していく

 

 落ち着け私。

 今は、今だけは、そんなことを思ってはいけないんだ。

 

 

 震えをどうにか治めた頃には、京子ちゃんとハルちゃんは、一時休戦を決めていた。

 

 

「ごめんね、レイちゃん。私達のワガママに付き合わせちゃって…」

「そんなことないさ。…二人の好きなように、すればいい」

 

 

 これで、ようやく一歩前進だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イーピンちゃんも出るのかい?」

 

 

 コクンと頷いたイーピンちゃんに滑って怪我しないようにね、と注意した後で、先に上がるというハルちゃんと京子ちゃんに預ける。

 二人きりになった浴場で、ビアンキさんが私の様子を横目で窺いながら尋ねてきた。

 

 

「…レイ。脚と手は、大丈夫なの?」

「今のところ問題はない。特に痛みがある訳でもないし」

 

 

 スッと片脚を湯の上に伸ばし、それと両腕に掛けている幻術を解く。

 露わになるのは、精緻な彫刻を思わせる蔦。

 

 

「それなら、いいの」

 

 

 何処となく不吉なものを感じているのだろう、不安げな表情でビアンキさんはそれだけ言った。

 

 彼女にこんな顔をさせるのは私としても本意ではないのだが、こればかりは素直に言うと面倒なことになる上、この時代の私に託された目的の達成も危うくなる。

 そんな訳で黙り込んでいると、再びビアンキさんから問いが投げられた。

 

 

「そう言えば、ヒバリとはどうなの?」

「どう、とは」

「10年前の彼が来てから、会ったりはした?」

「いや、メローネ基地を出てからは一度も。草壁君の話では一度風紀財団アジトに来たらしいんだが、すれ違ったのか顔は合わせていない」

 

 

 未だに風紀財団アジトの私室を使わせてもらっているので、いつかは顔を合わせるだろうと思っていたのだが、その予想が外れた形だ。まあ予測ではないので外れても問題はない。

 正確には並中の屋上で遠目に姿を見ているが、さすがにそれはカウントしなくてもいいだろう。

 

 何故そんなことを訊くのか、不思議に思ってビアンキさんを見ると、何が言いたいのかわかったのだろう彼女が口を開いた。

 

 

「この時代の貴女達は今頃から親密な仲になっていたから、何かあるかと思ったのよ」

 

 

 ビアンキさんのその言葉に、顔から意図して作っていた表情が抜け落ちたのを自覚する。

 

 

 この時代の私も当然のことながらリング争奪戦を経験し、その果てに再び雪のボンゴレリングを得ている。

 

 つまり、アラウディ君の想いを知り、また己が彼に向ける想いを自覚して間もなく、雲雀君とそう言った関係になったと?

 ダメだ脳が理解を拒む。頭が痛くなってきた。

 

 

「納得いかなそうな顔ね?」

「……」

 

 

 少しの間を置いて、私は口を開いた。

 

 ───好きなひとがいるんだ、と。

 

 

「もう会うことも、話すこともないだろうけど」

 

 

 言いながら、正反対のことを思う。

 

 会いたい。声が聞きたい、話がしたい。

 もう一度だけで、構わないから。子供扱いされたって、いいから。

 

 

 私が抱くこの想いは、家族(ファミリー)としての信頼の延長線上に存在している。

 

 そこに、ビアンキさんがリボーン君に向けるような激しさはなく。

 今となっては、愛しさと切なさだけが降り積もっている。

 

 だけどその分、ぐちゃぐちゃしていると、そう思う。

 まるで、雪解けの後の道みたいだ。私には、春どころか夜明けすら来てくれないけれど。

 

 

「もしかして、貴女の好きな人って」

「ああ、もうこの世の者ではないよ」

 

 

 百年以上も前からな、と心の中で続ける。

 

 

「私は、生きている彼に自分の想いを伝えられなかった。まあ、彼も生きてるうちは『好きだ』の一言もくれなかったがな」

 

 

 本当に、どうしようもない。

 

 彼は私の想いを知らず、だからこそ己の想いを指輪に遺し。

 私は彼の想いを知り、けれど己の想いは告げられず。

 

 でもきっと、同じように胸の痛みを抱えて生きていた。

 

 

 数少ない彼との繋がりである痛みを愛おしく思う私の横で、ビアンキさんが慌てたように声を上げる。

 

 

「生きているうちは? 待ってレイ、貴女どうやってその男の気持ちを知ったの?」

「遺品に、私に対してのメッセージがあってな」

「…遺品に」

 

 

 おうむ返しに呟いたビアンキさんの声はいつもより低い。

 それが不思議で視線を彼女に向けた私は、般若の如き形相のビアンキさんを見て情けない声を上げた。

 

 済まないアラウディ君、盛大にミスをした。ヤバイ女性に捕捉されたのでジョット君のように化けて出て来ないことをお勧めする。




・雪花

 ビアンキとエレナは性格や立場が違い過ぎるので今まで重ねたことはなかったが、彼女の恋する乙女な部分がどうしようもなくエレナと重なった。
 ファミリーの影響でフェミニストのケがあるので、本人も気付いていないがエレナに限らず親しい女性の怒りへの対応が苦手。対処法があわあわおろおろしつつひたすら宥めるしかない。


・毒蠍

 裏社会で生きている上に一度愛する人を亡くしているため、そういう想いは伝えられるうちに全身全霊を以て伝えるべきだと思っている。なのでレイが好きな男の想いを遺品から知ったと聞き激怒。会ったらポイズンクッキングを叩き込む気満々。何かの間違いで実行されれば多分初代ボンゴレの面々が援護に回るんじゃないかな。



おまけ

・同時刻、並中屋上にて


(何だか寒気が…いや、これは殺気? 一体誰が?)
「どうした恭弥、足元がお留守だぜ?」
「うるさいよ。ロール、形態変化(カンビオ・フォルマ)
「おっ、それが初代雲の守護者の武器か!! じゃあ次はその手錠を使いこなして…って危ねぇ!! もう普通に使えんのかよ!!」
(本当に、嫌になる程手に馴染む。……棘が出てくるようになってる。これが低い殺傷性を補ってくれるって訳か…あの()らしい気遣いだね)
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